■大失敗の月9があっても今年の森七菜はよかった
超主観&偏向的「ベスト俳優ランキング2025」、女性編をお送りする。男性編は「意外性」がキーワードになったが、女性編は「説得力」で選んだ印象もある。出ずっぱりの人も、寡作の人も、来年さらなる飛躍を期待してベスト5にしてみた。
5位 森七菜 31点
たった1作のエントリーだが高評価に値する「自然体」
森七菜はしっかり者じゃないほうが俄然活きる。ジャージでダラダラして、家族に当たり散らして、文句と愚痴を言いながらもメシだけはよく食う。そんな気質をごく自然に演じていたのが『ひらやすみ』(NHK)。男性編の岡山天音といい、どんだけ『ひらやすみ』好きなんだと思うが、七菜の名演に触れずにはいられない。
七菜演じるなつみは東京の美大に合格し、山形から上京。従兄(岡山天音が演じるヒロト)の家に居候させてもらう割に、最初っから文句たらたら。タワマンがよかっただの、肉食べたいだのと一切遠慮しないモンスターっぷり炸裂なのだが、そのふるまいこそが親戚ならではの近しい距離感だと伝わる。
好物が食べられるとわかって小躍りしたり、絵に描いたようにぶんむくれたり、子供のような幼さも芝居じみていなかった(大人が幼さを演じるって結構難しい)。
今年は映画での活躍も高評価と聞く(観てないんだけど)。悪夢のような月9失敗作はきれいさっぱり忘れて、「自然体」の高みをめざしてほしい。
■地上波では絶対できないドラマ
4位 茅島みずき 32点
戦慄のサイコホラーに釘付け、性加害被害者の苦悩も
ホラー系は得意ではないが、ゴミ屋敷に住む邪悪な女子高生が男性教師に好意を寄せて蛮行をしでかす『エリカ』(FOD)は凄かった。
なんというか、目が離せなくなったのは茅島の怪演のせいだ。美人だが何とも言えない悪臭と邪気を体から放ち、執拗に教師(渡辺大知)に迫っていく役どころ。虐待と愛着障害に起因する狂気を、据わった目とも虚ろな目とも異なる「恍惚」で演じた茅島。夢にまで出てきそうなラスト、後味の悪さも含めて強烈な印象を残したことを評価したい。
また、『スキャンダルイブ』(ABEMA)は、所属俳優の醜聞をもみ消せる大手事務所、そこに忖度する出版社を巨悪として、芸能界の因習に立ち向かう女性たちを描くドラマだ。
主演の柴咲コウは大手事務所から独立して目の敵にされる社長役、川口春奈は醜聞を徹底的に取材する週刊誌記者役。茅島は川口の妹で、家出同然で芸能界を目指したものの、大物俳優の性欲の捌け口にされる。
性加害を受けた後、防衛反応としての解離→自責の念→怒りと複雑な心理状態を経て、心を失ってしまう役だった。
■なんだか憎めない「野呂マジック」
ベスト3の前に、次点(6位~7位)となった5人の功績にも触れておこう。
6位は25点の同点ふたり、尾野真千子と野呂佳代だ。
尾野真千子は個人的に好きすぎて、点数を下方修正してしまったが、『阿修羅のごとく』(Netflix)と『まぐだら屋のマリア』(NHK BSP4K)は表情といい、手元の細部に宿る技といい、名演としか言いようがない。
そして野呂佳代の暗躍も称えておこう。しれっと備品を盗んだり、人の夫を寝取るなど手癖の悪い女や、因習を重んじる保護者会のボスママも、野呂佳代が演じるとどうしてこうも憎めなくなるのか。野呂マジック、無双。
■元アイドルのサイコパス役が◎
7位は3人の俳優が同点でエントリー。
『彼女がそれも愛と呼ぶなら』(読売テレビ制作、日テレ系)では横暴な夫から逃れるように恋に走ったものの、自ら抑制してしまう母親役を演じた徳永えり。恋にときめくも苦しい胸の内を繊細に体現し、改めてうまいなと思った。禁断の恋でも繊細な心情描写で共感を呼べる、数少ない名手である。
NHK朝ドラ『あんぱん』で厳格な女教師を演じた瀧内公美は、『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS)でも冷徹な検事役だったが、他作品では抜け目ない女や犯人を匿う女などで好演。冷静も情熱も理不尽さも罪深さも自在に演じ分けていたことを評価したい。
濃い目キャラで席巻したのは渋谷凪咲。『地獄の果てまで連れていく』(TBS)で演じたサイコパスは目の奥に残像が残るほど凶悪だったし、『ぼくたちん家』(日テレ)で演じた名言(迷言)カウンセラーは頼りになるんだかならないんだかという存在自体が面白かった。ということで、ベスト3に戻ろう。
■弱さにも強さにも魅了された
3位 桜井ユキ 32点
慢性疾患で虚弱体質のヒロインにリアリティをもたらす
姿を観ないクールはないほど、馬車馬のように働く印象がある桜井ユキ。
なんといっても『しあわせは食べて寝て待て』(NHK)で演じた麦巻さとこには、体の弱い人のリアリティが滲み出ていた。膠原病を患って体力が低下、フルタイムで働けなくなって生活が苦しくなる。独身女性の先行き不安はひしひしと伝わってきたし、体調悪化のしんどそうな表情は真に迫っていた。
命にかかわる病気ではなく、体が弱くて日常に支障をきたす状態は周囲の理解も得にくい。そんな女性が薬膳と団地コミュニティと出会って、自分にできることを見つけて自立を目指していく姿は、微笑ましくも頼もしくもあり。派手な顔立ちからエキセントリックな役も多かった桜井だが、この作品で得た手ごたえは大きかったに違いない。
もう1作、『シャドウワーク』(WOWOW)でも物語を牽引する仕事っぷりでね。夫のDVに苦しんできた被害者たちが持ち回りでDV夫たちに天誅をくだす物語なのだが、その密かな所業に気がついたのが、桜井が演じる刑事。
自身も夫(竹財輝之助)からDVを受け続けて訴えたものの、警察組織内では厄介者扱いで左遷されてしまう。影響力をもつエリート夫に忖度する男社会で孤立する役どころだ。理不尽な暴力に屈せず、毅然と立ち向かう芯の強さ、自分のようなDV被害者をなくしたいという強い正義感を見事に体現。彼女が演じた弱さにも強さにも魅了された。
■「中村アン=シゴデキ刑事」
2位 中村アン 34点
ああ言えばこう言う、弁の立つ(口が悪い)妻を熱演
相手に反論する余地も与えず、的確に痛いところを突き、ああ言えばこう言う女がドラマに出てくると、世間は敬遠しがちだが、私は大好物。中村アンが『こんばんは、朝山家です。』(朝日放送テレビ制作、テレ朝系)で演じた妻がまさにこれ。
ほぼすっぴんで演じた芸能事務所社長は、脚本家で怠け者の夫(小澤征悦)を詰り倒す妻であり、反抗期の娘(渡邉心結)と自閉スペクトラム症の息子(嶋田鉄太)の尻を叩く母であり。悪口も文句も容赦なくて痛快。「良妻賢母だの糟糠の妻だのと、いつまでも女が黙って支えると思ったら大間違いだぞ!」というメッセージを届けてくれた。
もう1作、香川照之主演で世間は微妙な反応だったが、救いのなさと後味の悪さが秀逸な『災』(WOWOW)で、アンは刑事役を演じた。限りなくホラーに近いサイコサスペンスは、薄気味悪さと謎を紡ぐオムニバスで描かれた。
一見、無関係に見える全国各地の死亡事故で、ある男(何役もこなす香川照之)の存在が浮上。家にも帰らず風呂にも入らず、捜査に没頭していくのがアンの役どころ。刑事としての勘と執念と粘り強さを表現。先輩刑事(竹原ピストル)が殺されて自責の念に駆られるも、確証を掴めないまま物語は終わる(しかもすぐそばに香川がいたことに気付かず)。
刑事ドラマは星の数ほどあるが、刑事役にここまで犯人確保を切望した作品は珍しい。主演作『約束』(日テレ系)でも複雑な過去を背負った刑事を好演していたっけ。「中村アン=シゴデキ刑事」は定番になりそうな気もする。
■すごいのは朝ドラのトキだけじゃない
1位 髙石あかり 34点
初々しさは皆無、もうすでに手練れ感がハンパない
朝ドラ『ばけばけ』がめちゃくちゃ面白い。毎日失笑。武士の世が終わって赤貧にあえぐ一家が世知辛くて切なくて、でも笑える。
学園ドラマにしては容赦なく鋭角に教育現場の闇に斬りこんで、話題を呼んだ『御上先生』(TBS)にも出演。勢いのある若手俳優が揃いも揃ってクセの強い生徒を演じていた中、あかりはやや控えめな生徒の役だった。
そもそも映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズの殺し屋女子高生役が秀逸だったから。武闘派俳優・伊澤彩織とのコンビも絶妙でね。つい、あかりには業の深い役を期待しちゃうのよ。
■女子高生から残虐な女王まで
そう思っていた矢先、手塚治虫原作『アポロの歌』(MBS製作、TBS系)でヒロインを演じ、パラレルワールドの階層ごとに異なる風味をもたらした。主人公(佐藤勝利)が「生まれ変わるたびに同じ女性を愛する運命」に翻弄されるという奇抜な設定。
思いを寄せてくれた女子に始まり、わがままな人気歌手、人間が作り出した合成人が支配する世界の残虐な女王と、姿かたちも性質も変わる三役をこなした(歌声も披露)。トリッキー&アーティスティックな役が無理なく似合うというのも、役者としてはかなり有利である。
その特性が存分に活かされたのは『グラスハート』(Netflix)で演じた歌姫・櫻井ユキノ役だ。歌声はaoが吹替で担当し、ムーディーな雰囲気を強調したのだが、あかり本人も歌はすこぶるうまい。
ディーバとしてちやほやされていたが、実際は我が物顔で業界に幅を利かせる音楽プロデューサー・井鷺(藤木直人)の後ろ盾が大きく、井鷺に歯向かったがために干されてしまうという哀しい役だった。
若くして幅の広い多彩な役をさらっとこなしてきた2025年、仕上げに朝ドラでその才能と実力を全国区に拡張したあかり。場面の空気を掌握できる手練れ感はなんとも頼もしい。今後も良作に恵まれるよう祈るだけである。
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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。
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(ライター 吉田 潮)

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