■正月に注意すべき「トリプルリスク」
正月にもっとも警戒したいのは、血糖・血圧・脂質――この三つが同時に乱れることです。私はこれを、ABCトリプルリスク(A1c=血糖、Blood pressure=血圧、Cholesterol=脂質)と呼んでいます。
それぞれ一つずつでも体には負担ですが、三つが重なった瞬間、影響は足し算ではなく、掛け算になります。さらに肥満が加わると、心臓や血管のトラブルのリスクが大きく跳ね上がることも、日本糖尿病データマネジメント研究会のABC Study(JDDM49)で示されています。
では、なぜ冬にこのトリプルリスクが重なりやすいのでしょうか。理由は単純で、冬の生活環境そのものが体に負荷をかけるからです。
寒さで血管は縮み、外に出る機会は減り、睡眠は浅くなり、自律神経は乱れやすくなる。一つひとつは小さな変化でも、重なることで体の調整機能は確実に弱っていきます。
こうして、体重増加や肥満をきっかけに、不調が次々と連鎖していく――これが、いわゆる「メタボリックドミノ」です。
厄介なのは、このドミノ倒しが目立たないまま進むこと。春の健診では問題がなくても、夏の運動不足、秋の食べ過ぎ、冬の代謝低下が少しずつ積み重なり、ある年になって初めて、「血糖・血圧・脂質がまとめて異常」という形で表に出てきます。
本人には「急に悪くなった」ように見えても、体の中では、時間をかけた準備が静かに進んでいた――それが、冬のトリプルリスクの本当の怖さです。
■暴飲暴食しなくても血糖値が高くなりやすい
冬は、体の弱い部分が表に出やすい季節です。血糖・血圧・脂質が同時に動き始めているなら、それは不調ではなく、体からのサインです。まずは、多くの方が最初に変化を感じやすい血糖から見ていきましょう。
「甘いものを食べたから」「運動不足だから」そう思われがちですが、実際には体の内側で、複数の変化が同時に進んでいます。
まず起こりやすいのが、体重の増加です。冬は体重が増えやすく、その影響は真っ先に肝臓に及びます。肝臓は糖の出し入れを担う臓器で、ここが疲れると血糖の調整がうまくいきません。私の研究でも、肝機能の数値が季節で揺れやすい方ほど、将来的に血糖が上がりやすい傾向が確認されています。
もう一つ重要なのが、自律神経です。寒さによって交感神経が優位になると、体は緊張状態に傾き、インスリンの効きが悪くなります。その結果、「あまり食べていないのに血糖が高い」という状態が起こりやすくなります。
つまり冬は、体重・肝臓・自律神経が同時に揺れ、血糖が不安定になりやすい季節です。逆に言えば、この三つを意識して整えるだけで、冬場の血糖は穏やかに保てる可能性があります。
さらに、体重の増減が大きい方ほど、将来的な血糖悪化や糖尿病リスクが高まることも分かっています。若い頃より10kg以上体重が増えている場合は、特に注意が必要です。
一時期でも血糖を良い状態に保てれば、その効果が後々まで残るレガシー・エフェクト(遺産効果)も期待できます。冬は、血糖を立て直すための準備期間なのです。
■「寒さ×ストレス×睡眠不足」の三重苦
血圧は、三つの指標の中でも冬の影響を最も受けやすい項目です。「冬になると急に血圧が上がる」「薬の効きに日による差が出る」といった相談は、他の季節より明らかに増えます。
背景にあるのは、冬特有の寒さ・ストレス・睡眠不足の重なりです。一つひとつは小さな変化でも、同時に起こることで血圧のコントロールは一気に難しくなります。私は冬を“血圧が本性を見せる季節”だと感じています。
●要因①:寒さによる血管収縮
まず影響が大きいのが、寒さによる血管収縮です。
とくに朝の冷え込みが強い日は、心筋梗塞や脳梗塞が起こりやすいことが知られています。寒さと精神的緊張が重なることで、血圧が一気に跳ね上がるためです。
●要因②:日常ストレスと交感神経の過活動
次に見逃せないのが、日常ストレスと交感神経の過活動です。
現代は情報過多で、季節を問わず交感神経が刺激されやすい生活です。その状態で冬を迎え、寒さが加わると交感神経はさらに優位になります。交感神経が過度に働けば、血管は収縮し、心拍数も上がり、血圧は不安定になります。
●要因③:睡眠の質が落ちやすい
さらに、睡眠の質の低下も大きく影響します。冬は夜間のトイレや寒さで眠りが浅くなりがちです。深い眠りが取れないと、副交感神経が十分に働かず、交感神経の緊張が続いたまま朝を迎えます。その結果、血圧が下がりにくくなり、朝の数値が高く出やすくなるのです。
寒さ、ストレス、睡眠不足――冬はこの三つが同時に重なりやすい季節です。だからこそ、冬の血圧変動は「一時的」と軽く考えず、体からのサインとして受け止めることが大切になります。
■「冬太り」は肝臓からのSOSサイン
脂質の値は、自覚症状がほとんどありません。そのため、冬に少しずつ悪化していても気づかないまま過ごしてしまう方が少なくありません。この「気づきにくさ」こそが、脂質の怖さです。
冬は体重が増えやすく、食事は脂質が多くなり、運動量は減りがちです。こうした変化が、肝臓に静かに負担をかけます。肝臓は脂質代謝の中心となる臓器で、ここが疲れるとLDLコレステロールはじわじわと上がりやすくなります。
私の臨床データでも、冬に肝機能の数値が揺れやすい方ほど、翌年に血糖が悪化しやすい傾向が見られます。脂質の乱れは単独で終わらず、時間をかけて血糖や全身の代謝に影響していきます。
体重の増減が大きい方ほど、生活習慣病リスクが高まることも分かっています。「少し高いだけ」「症状がないから大丈夫」と放置しないでください。
冬は、脂質が目立たない形で悪化しやすい季節です。脂質の変動は、単なる数値ではなく肝臓からのサインとして受け止めることが、血糖や血圧の悪化を防ぐ近道になります。
■自律神経が乱れ、体の不調が起きる
トリプルリスクの背景には、共通する原因があります。自律神経の乱れです。
自律神経は、体温調整や血管の収縮、血糖や脂質の代謝まで幅広く司っています。冬は寒さや日照不足、睡眠の質の低下、生活リズムの乱れが重なり、この調整機能が最も揺らぎやすい季節です。
寒さは交感神経を刺激し、血管が縮んで血圧が上がりやすくなります。同時に、肝臓から糖が放出され血糖値も上昇しやすくなります。脂質代謝も影響を受け、LDLコレステロールがわずかに上がる方も少なくありません。
さらに日照不足はホルモン分泌を乱し、睡眠が浅くなることで翌日の自律神経が十分に回復できません。年末の忙しさが重なると、体は「休まらないまま走り続ける」状態になっていきます。
私は患者さんに、「冬は身体があなたに逆らっているのではなく、守ろうとして働きすぎている季節です」とお伝えしています。
こうした自律神経の乱れが重なることで、血糖・血圧・脂質は同時に動きやすくなります。実際、これら三つが重なった状態では、心臓や血管のトラブルのリスクが大きく高まることが、国内データからも確認されています。
冬が“見逃してはいけない季節”と言われるのはこのためです。とはいえ、過度に恐れる必要はありません。冬の自律神経の乱れは、生活を少し整えるだけで改善する方が多いのです。冬の体がどう反応しているかを知ることが、最初の一歩になります。
■「食事・睡眠・運動」のどれか二つを少し整える
冬はトリプルリスクが高まりやすい季節ですが、だからといって大きな生活改革をする必要はありません。むしろこの時期は、無理のない範囲で「少し整える」ことを重ねる練習期間と考えてください。食事、睡眠、運動の中から、できそうなことを2つほど選ぶだけでも十分です。
水分をこまめにとる、正月だけ減塩を意識する、夕食の量を少し控える。晩酌をだらだら続けない、夜はカフェインを避ける、外に出る回数を増やす、就寝時間を15分早める――いずれも大きな努力ではありませんが、こうした小さな工夫が自律神経の緊張を和らげ、血糖・血圧・脂質を静かに安定させていきます。
もし自分ひとりでは調整が難しいと感じたら、専門家と一緒に生活のクセを整理することも有効です。相談することは、弱さではなく、健康を守るための前向きな選択です。
冬に体調を崩す方は、毎年似たパターンを繰り返すことが少なくありません。これは体からのサインです。そのまま春を迎えると立て直しに時間がかかり、気づかないうちに健康の貯金が減っていきます。
「暖かくなってから始めよう」と思いがちですが、実は冬こそ差がつく季節です。私の患者さんを見ていても、数年から十数年にわたる小さな行動の積み重ねが、検診結果や将来の病気リスクを大きく左右しています。体重が若い頃より10kg以上増えている方は、早めに立て直す意識が必要です。
冬を穏やかに乗り切り、年間を通して数値を安定させる。その積み重ねが、健やかな春、そしてその先の人生を支えてくれます。正月が「体に厳しい季節」にならないように――それが私の願いです。
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坂本 昌也(さかもと・まさや)
国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長
国際医療福祉大学 医学部教授。国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長。東京都出身。東京慈恵会医科大学医学部卒。東京大学・千葉大学大学院時代より、糖尿病、心臓病、特に高血圧に関する基礎から臨床研究に渡るまで多くの研究論文を発表。日本糖尿病学会認定指導医・糖尿病専門医、日本内分泌学会認定指導医・内分泌代謝専門医、日本高血圧学会認定指導医・高血圧専門医、日本内科学会認定指導医・総合内科専門医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本医師会認定産業医、厚生労働省指定オンライン診療研修、臨床研究協議会プログラム責任者養成講習会を修了。現在も研究を続けながら若手医師や医学部生の指導も担当している。
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高橋 誠(たかはし・まこと)
医療・健康コミュニケーター 病院広報コンサルタント
1963年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。ミズノスポーツ広報宣伝部、リクルート宣伝企画部、米国西海岸最大の製函会社でのパッケージ・デザイン営業・マーケティング(LA12年)、ゴルフ場経営(山梨2年)、学校法人慈恵大学広報推進室長(東京16年)を経て、2020年より現職。日米複数法人通算40年の広報宣伝業務を通じ、メディア・医療関係者と幅広い交流網を構築。現職にてメディアと医師をつなぐ。プレジデントオンライン「ドクターに聞く“健康長寿の秘訣”」、月刊美楽「幸せなおじいちゃん、おばあちゃんになろう」、月刊源喜通信「食と健康」で医療・健康コラムを連載中。主な出版プロデュースは『世界一の心臓血管外科医が教える 善玉血液のつくり方』(2025年、渡邊剛著、坂本昌也監修、あさ出版)、『心を安定させる方法』(2024年、渡邊剛著、アスコム)、『人は背中から老いていく 丸まった背中の改善が、「動ける体」のはじまり』(2025年、野尻英俊著、岡田あやこ体操監修)。趣味はゴルフ、ワイン(日本ソムリエ協会ワインエキスパート#58)。
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(国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 部長 坂本 昌也、医療・健康コミュニケーター 病院広報コンサルタント 高橋 誠)

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