就活における「学歴フィルター」は本当に存在するのか。千葉商科大学准教授で評論家の常見陽平さんは「企業は複数の採用ルートを使い分けており、意図的に差別や区別をしていなくても、結果的にトップ校の学生に内定が集中してしまう」という――。

※本稿は、常見陽平『日本の就活』(岩波新書)の一部を再編集したものです。
■就職における「学歴差別」は存在するか
大学も大学生も絶対数が増え、進学率も増え、レベル感が多様化したことが、「学歴フィルター」と呼ばれる、学校名による差別、区別につながっている。
より具体的な現象で言うならば、大学名などにより選別され、受付開始時間と同時に申し込んだのに、決められた大学名の人しか企業説明会の予約が取れない、選考において力作のエントリーシートが大学名で落とされるなどである。
学歴差別、区別があるのかは一部、都市伝説的に語られる。実際、「学歴差別をしています」「偏差値60以上の大学の学生しか採りません」などと宣言して採用活動を行う企業は見たことがない。
各社がどのような大学群から採用しているかは、各社の採用ホームページ、就職ナビサイト、大学の進路実績ページ、東洋経済新報社が発行する「就職四季報」、各種ビジネス雑誌の特集などで確認できる。
これについて、データをもとに集計した調査も積み重ねられてきた。学校名、学校群と就職先についての研究は多数存在する。大手企業は選抜度の高い大学の合格者が多いことは明らかである。
■「学歴に無頓着な企業」も存在している
ただ、この検証が「学歴フィルター」によるものと断定できるかどうかは本来、困難である。学歴差別・区別の結果とみるべきか、実力とみるべきかの検証は困難である。
また、一見すると多様な大学から採用しているようで、総合職なのか地域や職務を限定した特定総合職やエリア職なのか、一般職なのかの分類がされないまま議論されていることもある。
特に理系の大学・学部の場合、その大学の文系よりも、技術職で大手企業に内定しやすいこともある。
「大手企業」と「学歴」を単純に論じることはできない。業界ごとの特徴がある。たとえば、流通業などの大手企業は幅広い大学から採用する。また、同じ業界においても、採用活動のクセはある。「学歴無頓着企業」が存在する例もある。
■「偏差値40台の大学」就活のリアル
鶏が先か、卵が先かという話であるが、中堅以下の大学は、大手企業との接点はそもそも少なく、応募する学生も少なくなるということがある。
これは、採用広報活動などにおいて、学内企業説明会などへのアプローチがない、学生が情報源となるものへのアクセスが少ないなどにより、大手企業の存在を知らない上、自分の大学から内定するイメージもわかず、応募しないことも大きい。
実際、偏差値40台の大学で教員をしていると、中堅・中小企業が早期から学生にアプローチし、大手企業にチャレンジする前に就活を終えてしまう学生が散見される。大手企業に挑戦するように促すと、IT企業、流通業、大手旅行代理店、ホテルなどを中心に、内定者は出る。
■結果的にトップ校の内定者が多くなる
なお、企業の採用活動において、学歴差別や区別は単純に「ある」「ない」で語れるものではない。実際には、企業は複数の採用ルートを使い分けているのだ。

多くの企業は、就職情報サイトを通じて応募を受け付け、どの大学の学生に対しても対等に選考を行う一方で、特定の上位校の学生に対しては、リクルーターを派遣したり、特別にインターンシップに参加させたり、あるいは選考時期を早めるといった優遇措置を講じている。
さらに、一部の非常に優秀な学生に対しては、通常の選考とは別に、スカウトのように直接アプローチして採用する「一本釣り」のような方法も存在する。つまり、学生が一般的に認識しているものとは異なる、いくつかの採用ルートが存在するのが実情なのである。
企業が意図的に差別や区別をしていなくても、結果として内定者の大半が特定のトップ校の学生で占められるというケースも少なくない。
■2段階の理論による採用のメカニズム
竹内洋の「日本のメリトクラシー」の理論をもとに考える。竹内は採用は2段階の原理によって行われるとしている。
補充原理と選抜原理である。補充原理は、選抜に先立っての候補者の境界設定である。選抜原理は補充原理で境界設定されたあとの選抜方法である。
補充原理は開放性と閉鎖性に分けられる。開放性は、4年制大卒者ならどの大学出身者でも候補になることができる方式である。閉鎖性は、ある種の集団成員であることによってまず境界が設定される。

選抜原理は普遍主義と分断主義に分けられる。普遍主義とは、補充原理の枠内に入っていれば、非分断的に選抜されることを指す。すなわち、枠内に入ったうえで、その中での競争が始まることを示している。分断主義とは、枠内に入った上で、さらに分断的に競争をすることを指す。
■1万人の応募者から100人を選抜する場合
理論をもとに、現在の選抜モデルを分類すると、次のように分類される。仮に1万人の応募者から100人を選抜するとしよう。次の類型が考えられる。
【パターン1】完全自由競争タイプ
応募者の中から特に区別なく選ぶ。この場合、1万人の中から、9900人を蹴落とし、100人の中に入る競争となる。
【パターン2】自由競争学歴重視タイプ
応募自体はオープンだが、大学ごとに枠の人数があるタイプ。誰でも選考に参加することができるものの、大学の枠が設定されている大学は有利になる。ライバルは、同じ大学(あるいは同じクラスの大学)の学生ということになる。

■学歴フィルターは「ある」「ない」ではない
【パターン3】学歴バーあり自由競争タイプ
偏差値○○以上に絞る、大学名を限定するなど最初のバーを設け、絞り込む。ただし、そのバーを通過した後は、自由競争である。仮に1万人中、対象となる大学の学生が2500人いたとしたら、2400人を蹴落とし、100人に入る競争になる。
【パターン4】学歴のバーも枠もあるタイプ
パターン3のように絞り込んだ上で、さらに、大学ごとに枠があるパターン。この場合、ライバルは、パターン2と同様、同じ大学(あるいは同じクラスの大学)の学生ということになる。
学歴フィルターはいつも話題となるが、「ある」「ない」という話ではない。使い分けが行われているのだ。

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常見 陽平(つねみ・ようへい)

千葉商科大学基盤教育機構准教授、働き方評論家

1974年札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学専任講師。2020年4月より准教授。著書に『50代上等!』『僕たちはガンダムのジムである』『「就活」と日本社会』『なぜ、残業はなくならないのか』『』ほか。
1児の父。

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(千葉商科大学基盤教育機構准教授、働き方評論家 常見 陽平)
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