■2025年、気象予報士が驚いた出来事
2025年の天気を一言で表すなら「想定外」だ。
気象予報士の資格を取得して10年近く経つが、経験を積めば驚きは減ると思っていた。しかし現実は逆だ。詳しくなるからこそ、最近の気象の異常さに気づいてしまう。
本稿では、そんな私が今年衝撃を受けた出来事を、ランキング形式で振り返りたい。そして後半では、12月の青森の大地震を受け、年末年始のいまこそ考えたい「見落とされがちな災害への備え」について、被災地取材や防災士としての経験からお伝えしたい。
第1位:気象庁も予想外の史上最も暑い夏
気象庁は今年2月、2025年夏の天候の見通しを発表した。「今年の夏も平年より気温が高くなる見込み」と猛暑への注意を呼び掛けた。
しかし、その暑さのレベルについて「去年、おととしほどの記録的な猛暑にはならない見込み」とも伝えていた。
私も気象庁の言葉を簡単に受け入れた。2023年と2024年の夏は観測史上1位の高温を記録する異常事態だ。
しかし、蓋を開けてみれば、今年の日本の夏の平均気温は過去最高を更新。平均気温偏差は+2.36℃。去年、おととしの+1.76℃という記録が霞むほどの暑さだったのだ。
なぜ予測が外れたのか。異常気象をもたらすエルニーニョ現象が収束するなど、猛暑の要素が若干減ったことで、記録的にはならない予想になったとみられる。しかし、想定を上回るということはまだ把握できていない猛暑の要因があるのだ。
最近では、世界各地で大気汚染の悪化ではなく、“改善”されていることが猛暑の一因と指摘する専門家もいる。空気がきれいになるということは、大気中の微粒子が減り、日差しが直接地表に届きやすくなる。皮肉にも、空気の浄化が猛暑を加速させている可能性があるのだ。
猛暑の原因は複合的で、ここ数年の記録的な高温は温暖化だけが原因ではない。大気や海の状況など偶然が重なってしまっている影響も大きいとみられる。
■気象災害は不意を突くようにやってくる
第2位:国内最大級の竜巻
9月5日、台風15号が高知県に上陸した。台風本体がもたらす被害といえば大雨や暴風だが、今回最も甚大な被害をもたらしたのは、台風から離れた場所で発生した竜巻だった。静岡県牧之原市などで発生した竜巻は、推定風速75メートル。国内最大級の強さとされた。
実は、竜巻の発生原因として2番目に多いのが台風である。台風から送り込まれる暖かく湿った空気が大気の状態を不安定にし、竜巻などの突風が発生しやすくなるのだ。
もちろん、台風により竜巻が発生することを知識としては知っていた。とはいえ正直なところ、台風接近時に竜巻への注意を呼びかけることは、確率的に低いこともあり、テレビの気象情報ではコメントで一言触れる程度になりがちだった。気象災害は私たちの不意を突くようにやってくる。台風による日本最大級の竜巻は、大きな教訓となった。
第3位:「二季」が流行語大賞トップ10入り
2025年新語・流行語大賞のトップ10に「二季」が選ばれた。記録的な猛暑が話題になるのはわかる。しかし「二季」という言葉がここまで浸透していたことに驚いた。
「二季」とは、三重大学大学院の立花義裕教授が提唱した概念だ。地球温暖化が進むと春と秋が短くなり、四季ではなく夏と冬の「二季」になってしまう――という考え方である。
正直にいえば、私の周りの気象予報士の中には、この言葉に違和感を覚える人もいる。「四季はなくならない。春には桜が咲き、秋には紅葉が見られるじゃないか」と。確かにそうだ。しかし立花教授は、あえてキャッチーな言葉を使って地球温暖化に警鐘を鳴らしているのだと思う。
温暖化で日本の美しい四季が変わってしまうかもしれない――そんな危機感が多くの人に浸透しているから、流行語へ選出されたのであろう。
そして今年は「二季」という言葉も納得の秋の短さだった。10月下旬に一気に寒気が流れ込み、過ごしやすい季節は瞬く間に終わった。冬の始まりにいきなり、この時期としては記録的な大雪や暴風が観測され「冬の嵐」に見舞われた地域もあった。
2026年も、きっと気象は驚くことがたくさんあるだろう。この異常が「当たり前」にならないことを願うばかりだ。過ごしやすい環境のために、私たちに何ができるのかを考えていかなければならない。
■年末の地震が突きつけた「備え」の重要性
気象の話題がすっかり大雪や寒さに移った12月上旬、青森県で最大震度6強の地震が発生し、岩手県では津波も観測された。
台風や大雪といった気象災害はある程度事前に備えることができる。でも、地震は突然襲ってくる。年末年始と言えば2024年の元日に発生した能登半島地震も記憶に新しい。この機会に、改めて災害への備えについて考えたい。私自身が被災地の取材や防災士としての学びを通じて感じてきた「見落とされがちな3つの備え」を紹介したいと思う。
① 「頑丈な家に住む」
古い木造家屋が崩れ、比較的新しい建物は無事――。そんな光景を何度も見てきた。いくら家具を固定しても、家そのものが崩れてしまったらひとたまりもない。地震や台風の被災地を取材して強く思うのは「頑丈な建物に住むことが最も大切な防災」だということだ。
しかし、引っ越しや耐震補強には大きなお金がかかる以上、テレビなどで簡単に「頑丈な建物に住んでください」と呼びかけることは、なかなかできない。それでも、自宅が崩れてしまった被災者に話を聞くと、「お金をかけてでも頑丈な家に住めばよかった」という声が多く聞かれるのだ。
今一度、この被災者の声に耳を傾けてほしい。
国土交通省も、昭和56年(1981年)以前に建築された建物について耐震診断・耐震改修を呼びかけている。昭和56年以前の建物は、いわゆる「旧耐震基準」で建てられており、耐震性が不十分なものが多い。まずは自宅の建築年を確認することから始めてみてはどうだろうか。
■未知のストレス…ブラックアウトと避難所生活
② 「停電への備え」
2018年の北海道胆振東部地震を取材したとき、北海道全域が停電する「ブラックアウト」を目の当たりにした。そこで痛感したのは、停電は一軒の家だけでなく、地域全体を襲うということだ。
外に出ても街灯は消え、信号機もつかない。コンビニは営業できず、ガソリンスタンドも使えない。「外に出れば何とかなる」が通用しないのだ。
非常食の備えはあっても、停電への備えまでしている人はまだ少ないのが現状だ。
発災後の真っ暗な建物の中は、想像以上の恐怖に襲われる。電気がなければ夏は熱中症、冬は低体温症で命を落とす恐れがある。数万円で買えるポータブル電源があれば、明かりはもちろん、扇風機や暖房を動かすことができる。スマホの充電で情報収集や連絡手段を確保できることも大きい。
命を守るインフラを、自分で準備できる時代なのだ。一度購入して、何がどこまで動かせるのか試しておくことをお勧めしたい。
③ 「2日目以降の避難所生活への備え」
大きな災害では、避難所生活が長引くことがある。発災直後は命を守ることに必死だが、避難生活が続くと、別のストレスが襲いかかってくる。
避難所に身を寄せる人から思いもよらない困りごとを聞いたことがある。それは、受験生の「勉強道具がない」という声だ。スマホも使えない状況で、「小さな参考書をひとつでも防災バッグに入れておけばよかった」と話していた。子どもがいる家庭では「トランプが欲しい」という声も聞いた。
ほかにも「眼鏡がない」「おむつが足りない」「常備薬がない」――避難所で困ることは人それぞれだ。
家族構成や住む場所によって、必要な備えは変わってくる。もし災害が起きたら、停電や断水が長引いたら、そのとき自分や家族には何が必要か。
ぜひ年末年始のこの機会に考え、話し合っていただきたい。
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佐藤 圭一(さとう・けいいち)
気象キャスター、リポーター
長野県岡谷市出身。学生時代、アナウンサーを志すも100社以上から不採用通知を受け取る。それでも粘り強く挑戦を続け、ローカル局でキャリアをスタート。その後、文化放送の報道記者・リポーターとして国会や首相官邸、災害現場など幅広い取材を経験。現在は気象予報士としての資格を生かし全国ネットのテレビ局やラジオ局で気象キャスターとして活動している。
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(気象キャスター、リポーター 佐藤 圭一)

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