就活現場における「セクハラ」に対し、企業は防止策を取っているのか。千葉商科大学准教授で評論家の常見陽平さんは「個室でのOB・OG訪問を禁止するなど、就活セクハラ対策に取り組む企業は一定数みられる。
しかし、企業の全体数から見れば十分とは言えない」という――。
※本稿は、常見陽平『日本の就活』(岩波新書)の一部を再編集したものです。
■言ったらアウト!「セクハラ」認定される言葉
就活におけるセクハラの実態について考えよう。就活セクハラとは、たとえば、選考などにおいて恋愛や性に関する質問をする、性的な冗談やからかい、容姿についてコメントする、個別に食事に誘う、身体にふれる、恋愛や性的な関係を求めるなどを指す。
他にも「もっと女の子らしくしなさい」など女性性を強要する行為、男女の役割分担を固定化するような発言もセクハラにあたる。「男らしくしろ」はもちろん、「女性らしさが活きる職場だよ」などというのも立派なセクハラだ。
さらに、インターンシップにおいて男女でプログラムの難易度を変えるなども、セクハラとされる可能性はある。「才色兼備」などの言葉も女性を褒めているようで、見た目は能力とは関係ないし、もともと相手を低くみていないかという価値観が背景にあり、駄言とされる。
なお、性暴力、性加害などはセクハラではない。犯罪である。ただ、実際に、社会人訪問で出会った人、社会人訪問を実現する就活マッチングアプリ経由で出会った人から就活生が性暴力、性加害を受け刑事事件化した例も報じられている。就活生が弱い立場にあることが確認できる事例である。

■インターン中にセクハラを経験した人は30.1%
厚生労働省が2024年に労働政策審議会の中で提出した資料(女性活躍推進及び職場におけるハラスメント対策についての参考資料)などから、就活セクハラの実態が浮かび上がった。
この資料は女性活躍の実態と今後の取り組みについて、まとめたものである。就活セクハラ「だけ」を論じたものではない。ただ、ハラスメントについてはかなりのページが割かれている。
この資料により、インターンシップ中にセクハラを経験した者は30.1%、インターンシップ中以外の就職活動中にセクハラを経験した者は31.9%にのぼるなどの実態が明らかとなった。
■「通院したり服薬をした」という学生が約2割
過去3年間に就活等セクハラを受けた経験があると回答した労働者の心身への影響について、インターンシップ中とインターン以外の就職活動の両場面で「怒りや不満、不安などを感じた」(インターンシップ中30.3%、インターン以外33.6%)、「就職活動に対する意欲が減退した」(インターンシップ中34.6%、インターン以外40.0%)、「眠れなくなった」(インターンシップ中32.5%、インターン以外31.5%)が上位3つを占めた。
「学校を休むことが増えた」「通院したり服薬をした」という学生もそれぞれ約2割いた。怒りや不満は当然だが、意欲の減退、就活だけでなく生活上も影響がある被害を受けていることが明らかになっている。
サンプル数が200人程度の調査ではあるが、約3分の1の学生が就活セクハラを経験している実態を直視したい。
■企業のセクハラ対策「特にない」が半数近く
これに対して企業側の対策はどうか。結論から言うと、十分とは言えない。
企業における就活等セクハラに関する取組状況については、就活生等からの相談への適切な対応等に取り組む企業は一定数みられるものの、「特にない」としている企業も従業員規模1000人以上の企業において42.1%、300~999人規模企業において48.0%、100~299人規模企業において55.7%、99人以下規模企業において65.6%である。

対策については、「『公正な採用選考』に基づいた面接実施の周知」(27.3%)、「応募者の個人情報の限定利用の徹底」(23.7%)、「就活生等に対するセクハラを行ってはならない旨の方針の明確化・周知」(13.1%)などが多く、「就活生等からの相談への適切な対応」「社員に対する研修の実施」「リクルーターの行動指針やマニュアルの策定・周知」の順に続くが、従業員数が多い企業ほど対策を行っている率は高いものの、十分とは言えない。
■キリンは個室でのOB・OG訪問を禁じている
厚労省の資料には、就活セクハラを予防するための企業の取り組み事例も紹介されている。
たとえばキリンホールディングスは、OB・OG訪問などの面会についてオンラインや電話での実施を推奨し、対面で面会する場合は企業の施設内や大学施設内とし、やむを得ず社外・大学外で面会する場合は、カフェなどのオープンスペースを活用し、個室で面会することを禁止した。また、午後7時以降の面会や、面会時の飲酒も禁止としている。
大林組のように、採用活動のハラスメント相談窓口を社内外に設置し、OB・OG訪問前に案内するアクションを行っている企業もある。
■学生は社員から直接情報を収集したい
民間の就職情報会社による調査も見てみよう。
キャリタスが2025年1月に発表した「26卒学生の1月時点の就職意識調査 ~キャリタス就活学生モニター2026(2025年1月発行)」は就活生の価値観、アクションについてモニター調査したものだが、そこで就活セクハラに関する質問を設けている。企業の具体的な対策についての評価を聞いている。
企業の就活セクハラ防止策として学生から見て評価できると思うもので最も多いのは「夜間の面会禁止」(60.2%)だった。「面会時の飲酒禁止」(56.5%)が続く。「私的な連絡先の交換を禁じる」も約半数の49.4%となった。
一定のルールを設け、セクハラが起きやすい環境を作らないこと、プライベートとの境界線を曖昧にしないことなどが支持されている。
もっとも、「OB・OG訪問はオンラインで」を選んだ学生は28.0%にとどまった。社員から直接情報収集をしたいというニーズが存在することが確認できる。
■学生の間でも問題意識は高まっている
この問題に関しては、厚生労働省が就職活動中の学生に対するセクハラ防止を企業に求め、法律を改正し、学生と社員が面談する際のルールの策定や相談窓口の設置の義務化などを検討している。
企業の自主的な取り組みに任せている現状から義務に格上げし、企業の採用活動の透明性を高める動きがある。就職活動中の学生についても、「雇用管理の延長」と捉えた上で義務化の対象を広げる方向で検討されており、今後の動向に注視する必要がある。
実際、キャリタス社の調査でも、就職活動中の学生に対するセクハラの防止策を企業に義務付ける法改正の準備が進んでいることの認知度を尋ねたところ、「法改正検討の動きを知っている」と回答した学生は約3割(30.3%)に上った。
就活関連のモニター調査に応じる学生は情報感度が高いことが考えられるが、一定数の認知度があること、問題意識の高さを確認できる。
■学生と企業は対等な関係であるべきだ
就活セクハラ、それに限らず就活に関連したハラスメントは学生が弱い立場であるがゆえに起こる。いや、学生と企業は対等な関係であるべきだ。また、どのような場合であれ、ハラスメントは許されない。
一方、就活生は内定がほしい、今後、入社する可能性があるので問題を表面化させたくないという気持ちにもなることだろう。
もっとも、企業の従業員が起こす就活セクハラは、相手が就活生だから起こる問題と、誰に対してでも起こりうる問題だろうという2つの視点が必要だ。
そもそも人権意識が希薄であること、価値観のアップデートがされていないから起こり得ることである。
個別に会う、メールやメッセージのやり取りをするなどは、相手の役にたちたい、親密な関係性を構築したい、相談にのってあげたいという意図もあるのだろう。ただ、明確な指針を設けなくては、トラブルにつながる。
■学生が傷つかない体制をいかにつくるか
企業によってコントロールがしにくい部分もある。企業説明会や、選考などに関わる社員には事前に研修などを実施しやすい。しかし、社会人訪問などは人事などを介在せずに行われることもある。
なかには、就活マッチングアプリなど、企業が介在せずに社会人と学生の出会いの場をつくるツールもある。大学や企業が、その業界・企業で働く人を紹介してくれないがゆえに、これらのツールにも意義はある。
しかし、企業の側ではいかなる場合であれ、学生との接点に関する注意喚起は行われる一方で、それが浸透しているとは言い難い。
社会の入口で学生を絶望させてはいけない。学生が傷つかない体制をつくらなくてはならない。

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常見 陽平(つねみ・ようへい)

千葉商科大学基盤教育機構准教授、働き方評論家

1974年札幌市出身。
一橋大学商学部卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学専任講師。2020年4月より准教授。著書に『50代上等!』『僕たちはガンダムのジムである』『「就活」と日本社会』『なぜ、残業はなくならないのか』『』ほか。1児の父。

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(千葉商科大学基盤教育機構准教授、働き方評論家 常見 陽平)
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