■「いつまでも親は元気」と思い込んでいたが…
2017年、当時52歳の私が親の介護という現実に直面したのは、一本の電話がきっかけでした。山口県でイラストレーターとして活動する私は、横浜の実家で暮らす両親がいつまでも元気なものだと、根拠もなく思い込んでいたのです。
当時はすでに父親は84歳、母親は80歳と高齢でした。毎月のように仕事で東京へ行きながらも、母親の「二人でしっかり生活できている」という言葉を鵜呑みにし、両親に気をかけない日々を送っていました。だからこそ、それまで両親に起きていた細かい変化にまったく気づくことができなかったのです。
それどころか、両親が旅行で訪れた場所や最近楽しかったこと、ちょっとした困りごとなどについてもきちんと聞いていませんでした。もちろん、両親の話を無視するわけではないのですが、自分の中に「親は元気だ」というフィルターがかかっており、聞いた話を真剣に受け止めずに聞き流しているような状態でした。
しかし、「お母さんが歩けなくなった」という連絡を受け、慌てて帰省した先で目にしたのは、脊柱管狭窄症を患い、私の想像をはるかに超えて“小さく老いてしまった”母の姿でした。
いま考えれば、家族から電話を受ける前から両親はすでに老化が深刻化しており、周囲から見れば完全に介護が必要な状態でした。
2022年10月に、両親ともに老人ホームに入居したことで約3年間に渡る遠距離介護が終わり、入居してから4カ月後に父は亡くなり、母は2024年10月に亡くなったのですが、このときの衝撃と、「これからどうすればいいのか」という切実な不安がきっかけで、私が2019年から介護漫画を描き始めたのです。
■定期預金は早めに解約するべき
急な親の介護で困るのは、やはり「お金」の問題です。
多くの親世代は資産を分散させるために複数の口座に定期預金を作っていますが、認知症が始まるとこれが大きな障壁になります。定期預金の解約は原則として本人の厳格な意思確認が必要であり、判断能力が低下すると家族であっても手続きが極めて困難になります。
私の父の場合、家を出る前は解約に同意していても、いざ銀行員からの口座解約の確認電話が入ると「そんなことは言っていない、嫌だ」と拒絶したことがありました。環境の変化や内容への理解が追いつかない不安が「自分のお金を取られる」という恐怖に繋がり、頑なな拒否反応を引き起こすのです。
幸い、母の口座と合わせて一本化できましたが、一歩間違えれば多額の資金が凍結され、介護費用に充てることができなくなるところでした。
介護には施設入居の一時金など、まとまったお金が必要になる場面が必ず訪れます。親がまだしっかりしているうちに、複雑な定期預金はすべて普通預金に移し、口座を整理しておくことが、後々のトラブルを防ぐ唯一の近道です。
■総資産を把握するのもひと苦労
金融機関を複数分けている高齢者の方は非常に多く、実際に取材やアンケートでも、実家を整理したら見たこともない銀行の通帳が次々と出てきて、家族が混乱したというエピソードを何度も耳にしました。
本人が元気なうちは「管理できている」つもりでも、認知機能が低下すれば、どこの銀行にいくら預けているのか本人すら把握できなくなります。特に、休眠口座になってしまったり、通帳を紛失したりすれば、その存在を突き止めるだけで膨大な時間を費やすことになります。
さらに深刻なのが「印鑑」の問題です。複数の口座があれば、それぞれに使っている印鑑が異なることも珍しくありません。認知症が進んでから「どの通帳にどの印鑑を使っていたか」を確認するのは、もはや不可能に近い作業です。印鑑の照合ができないだけで、窓口での手続きはストップしてしまいます。
こうした事態を防ぐためには、親が「自分はまだ大丈夫だ」と思っているうちに、預金を一つの金融機関にまとめるよう促し、印鑑も整理しておくべきです。
通帳や実印、さらには貸金庫の場所などを一冊のノートにまとめて共有してもらうことが理想ですが、それが難しい場合でも、少なくとも「どの銀行と付き合いがあるか」というリストだけでも作成しておくことが、将来の自分を救うことにつながります。
「通帳・印鑑・金庫」の3つのポイントについては、親が元気なうちに必ず場所や種類について確認しておきましょう。
■「親の資産」を聞き出す“神フレーズ”
こうした状況にならないためにも、親が元気なうちに資産の保有方法や総額を確認しておくことは非常に重要です。
ただその一方で、親に資産額を聞き出すのは、多くの子供にとって心理的ハードルが高い作業です。いきなり「いくら持っているの」と聞けば、親は「財産を狙っているのか」と身構えてしまいます。
このやり取りを円満に進めるには、入院や75歳という年齢の節目を利用して、「あなたのことが心配だから」という姿勢を伝えることが重要です。親の心身が弱っているタイミングや、後期高齢者医療制度への切り替わりといった客観的なきっかけがあれば、お金の話も切り出しやすくなります。
私が最も効果的だと実感したのは、「お父さんたちが頑張って貯めてきた大切なお金なんだから、最後まで自分たちのために100パーセント使い切ってほしい。国に取られるのは絶対に嫌だよね」と伝える方法でした。
この言葉は、親のこれまでの努力を肯定しつつ、共通の「敵」として税金や国を設定することで、子供を「味方」として認識させることができます。
親自身の人生を豊かにするために情報を共有してほしい、と寄り添う姿勢を見せれば、頑なな親の心も解きほぐれます。この「国に取られたくない」というフレーズは、お金の話をタブー視する空気感を一気に変える、まさに神フレーズと言えるでしょう。
■「お金の話」は大変だからこそ早めに進めるべき
介護の問題は、火事と同じです。初期消火が早ければ早いほど被害を最小限に食い止められますが、対応が遅れれば自分の生活にまで飛び火してきます。
親とお金の話をすることは、単なる事務手続きではなく、親の人生を総決算し、これからの時間をどう彩るかを決める大切なコミュニケーションです。何も起きていないうちから話し合うのは現実味がないかもしれませんが、避難訓練を怠っていては本番の大災害には立ち向かえません。
金融機関の手続きが平日の日中にしかできないことや、親の判断能力がいつ失われるかわからないリスクを考えれば、先延ばしにすることにメリットは一つもありません。
面倒で耳の痛い話を早めに片付けておくことで、いざという時に慌てず、親とお茶を飲んだり手をマッサージしたりする優しい時間を過ごす余裕が生まれます。今年の年末年始こそ、勇気を持って親の資産状況に一歩踏み込んでみてもいいかもしれません。
それが、結果的に親にとってもあなたにとっても、最良の親孝行になるはずです。
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上大岡 トメ(かみおおおか・とめ)
イラストレーター
東京生まれ、横浜(上大岡周辺)育ち。現在は山口県在住。1級建築士、ヨガインストラクターでもある。世の中の難しいことを、わかりやすくマンガとイラストで描くことが仕事。著書『キッパリ!たった5分間で自分を変える方法』は、130万部超のミリオンセラー。『老いる自分をゆるしてあげる。』『遺伝子が私の才能も病気も決めているの?』(ともに幻冬舎)など著書多数。『マンガで解決 親の介護とお金が不安です』『マンガで解決 親の認知症とお金が不安です』『マンガで解決 老人ホームは親不孝?』(主婦の友社)など介護をテーマにした著書も多数ある。
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(イラストレーター 上大岡 トメ)

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