人を動かすプレゼンの秘訣は何か。著書『うまく話さなくていい』が話題の“プレゼンの神”こと澤円さんと、『話し方の戦略』がロングヒット中のスピーチライター・千葉佳織さんの対談からお届けする――。

※本稿は、カエカ主催イベント「kaeka base」内の対談コンテンツ「令和の話し方論。『うまく話す』を問い直す」の一部を内容を抜粋・再構成したものです。
■方法論よりも「誰を喜ばせたいか」
【千葉】澤さんはプレゼンの指導の際、「こういうふうにやったほうがいいよ」と明確なテクニックのようなものは示さないそうですね。
【澤】はっきり言えば、方法論はどうでもいいんです。それよりも、「何を語りたいか?」、そして「誰を喜ばせたいか?」なんですよ。
presentation(プレゼンテーション)のationを取ったらpresent(プレゼント)。日本だと贈り物ってプレゼントって言うじゃないですか。だとすれば、プレゼンも、プレゼントを贈るときのマインドセットになればいい。
プレゼントをあげるとき、相手に「迷惑そうな顔をされる」「嫌な表情をされる」ことを目的にする人はいないですよね。喜んでほしいから、「あの人は何が好きかな?」と考えます。
そのためには大事なことは何かというと、「観察」です。千葉さんはデッサンってやったことありますか?
【千葉】はい、高校の授業かなにかで人を描いた記憶があります。

【澤】僕のかみさんが美大出身で彼女にいろいろ習ってるんですけど、デッサンをする時に心掛けなきゃいけないことのひとつが「手元を見るな」だって言うんですよ。では、どこを見るか?
■目の前の対象をしっかり観察する
【千葉】そうか……モノを見るんだ。
【澤】そう。例えばベートーヴェンの胸像を描いたりするじゃないですか。でも、白い胸像を黒い鉛筆で描くってちょっと矛盾してません? つまり正確に言えば、デッサンではモノそのものを描いているわけじゃない。モノの「影」を描いてるんです。
だから、その影をきちんと見て描くことができれば、うまくデッサンできるはずなのですが――手元を見ていると、どうなるか。「こんな感じだよな……」と、キャンバスに向かって、「自分の記憶の中にあるベートーヴェンの胸像」を描き始めてしまう。
そうではなく、目の前の影をきちんと見なければいけないんです。顔を上げて、とにかく対象を観察しないといけない。
プレゼンも同じです。対象をよーく観察して、そこから逆算して、相手にプラスの影響を与えるにはどうすればいいかを考えていくのです。

■プロのプレゼンターが「使わない」言葉
【千葉】相手を観察して、相手のことを考えて、アウトプットをする。このとき、注意点はありますか?
【澤】僕がふだん使わないようにしている言葉がいくつかあるのですが、そのひとつが「べき」なんです。
【千葉】ほうほう。
【澤】「こうあるべきだ」とか言いますよね。この“べき論”から離れること。人は誰でも偏見を持っているものですが、その究極の形がべき論です。
例えば「男はこうあるべき」「女はこう振る舞うべき」というのは、まさに“偏”って世界を“見”ている状態。先ほどのデッサンの例でいえば、「手元」ばかりを見ているわけです。
誰でも、自分のべきがあるのは当たり前なんです。だけれども、それをトップオブトップに持ってきて他者にアプローチしても、反発を食らうだけ。なぜなら相手にもべきがあるからです。
【千葉】そうですよね。

【澤】ですから、「すべてを受け入れる準備がある。だけど“私は”この立場なんだ」という言い方をしましょう。主語は「私」にする。「私はこう思います」と、「私の意見」としてロジックを組み立てるのはおおいに結構。だけど、べき論でまとめない。
それを常に意識した状態で観察をし、目の前の人たちにアプローチをしましょう。「世の中の絶対的な正論を自分が語るのだ」とは思わない。そんなものはないので。
■コンビニでの買い物もプレゼン
【千葉】おっしゃる通りですね。ところで、澤さんはプレゼンの「練習」ってどんなふうにされているのでしょうか。
【澤】これ、プレゼンの指導をする際に「プレゼンテーションは生き様ですよ」という言い方をよくするんですよ。冗談に聞こえるかもしれませんけど。

【千葉】良い言葉です。
【澤】プレゼンテーションは、その人がどう生きてきたかということの最終形としてアウトプットするものなんです。これは、「いかなる場合にも」です。
多くの人は「プレゼン」と聞くと「講演(ステージと聴衆)」の形式をイメージしますよね。でも僕は、「人に何かを伝えることはすべてプレゼンテーションだ」と定義しています。
そういう意味では、コンビニでの買い物もプレゼンテーションです。レジの人とやり取りする一瞬もプレゼンだと思って、ちゃんと自分の意図を伝えよう、立ち居振る舞いを美しくしようと考えるわけです。
もちろん、「こんにちは! 澤と申しまして……」とやるわけではない(笑)。相手がオペレーションしやすくなるにはどうすればいいかを考えたり、相手がちょっとでも良い気分で仕事に打ち込めるようにと思って、「ありがとうございます」とニコッとしながら店を出たりすることを、自分の中の決め事としてやっています。
そうすると、いつでも自然とそれができるようになる。一瞬一瞬がすべて練習なんですね。「澤さんっていつプレゼンの練習をしているんですか?」と聞かれたら、「目が開いているあいだずっとです」という答えになるわけです。

■殺人事件の半数は親族間で起きている
【千葉】このマインドセット、つまりいつでも相手のことを考えるマインドってどう身につければいいのでしょうか。
【澤】特別なところに答えはないんです。いまコンビニの例を出しましたけれども、「常日頃、ちょっとしたことに気を抜かない」。これに尽きます。
【千葉】「ちょっとしたことに気を抜かない」。
【澤】どういうことかというと……千葉さん、会話で一番「油断」する相手って誰ですか。油断して話す相手。
【千葉】家族ですかね。
【澤】そうなりますよね。すごく極端な例を出しますね。殺人事件の約半数は親族間で起きてるんですよ。
あくまで極端な例ですけどね。
これって、わかりあえていればそんなこと起きないはずじゃないですか。わかりあえる対象として親族ってあるはずなのに、殺人にまで発展するって、深刻な話ですよね。つまり、親しければ親しいほど、コミュニケーションに油断しちゃダメなんです。
【千葉】いや、本当ですね。
■自らの「コミュニケーションのありよう」を定義する
【澤】そういった日々のコミュニケーションに手を抜かないということが、実はトレーニングとして一番効きます。特別な何かというのではなく、一番培えるのはちょっとした生活の中なんですよ。そこでの言葉遣いや話し方、声のトーンといったところで、どれだけ気を使ってちゃんと調整ができるようになるかということが大事です。
例えば、僕はかみさんのことを絶対「お前」とは呼びません。基本的には「さん」付けです。
【千葉】そうなんですか!
【澤】「バカ」とか「やってんじゃねえよ」みたいな汚い言葉も使いません。そういうのって、プラスにならないのがわかりきっていても、反射的に言ってしまう人もいると思うんですよ。
すごく丁寧な物言いをしようとまでは言いませんが、ちょっとした言葉遣いにお互いに対するリスペクトの有無が出るので。常日頃のコミュニケーション、言葉選びを丁寧に丁寧にするくせをつけていると、いざというときの振る舞いがまったく変わってきます。
【千葉】私も意識しているのが、「コミュニケーションのステートメントを決めておく」ことなんですよ。「私は強くて優しい人間でありたい」「私は人の成長を心底から願える人でありたい」という。
【澤】あぁ、いいですね。
【千葉】そういうステートメントがいくつかあるんですよね。そういう状態で家族や顧客と話すことも、一つのやり方ですよね。
【澤】まったく同じマインドですね。主語が「私」なのがすごくいいですね。

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澤 円(さわ・まどか)

圓窓 代表取締役

1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。

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千葉 佳織(ちば・かおり)

株式会社カエカ代表、スピーチライター

1994年生まれ、北海道札幌市出身。15歳から日本語のスピーチ競技である「弁論」を始め、2011年から2014年までに内閣総理大臣賞椎尾弁匡記念杯全国高等学校弁論大会など3度の優勝経験を持つ。慶應義塾大学卒業後、新卒でDeNAに入社。人事部にてスピーチライティング・トレーニング業務を立ち上げ、代表取締役のスピーチ執筆や登壇者の育成に携わる。2019年、カエカを設立。AIによる話し方の課題分析とトレーナーによる指導を組み合わせた話し方トレーニングサービス「kaeka」の運営を行う。経営者や政治家、ビジネスパーソンを対象としてこれまで5000名以上にトレーニングを提供している。2023年、週刊東洋経済「すごいベンチャー100」、Forbes「2024年注目の日本発スタートアップ100選」選出。著書に『話し方の戦略 「結果を出せる人」が身につけている一生ものの思考と技術』(プレジデント社)がある。

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(圓窓 代表取締役 澤 円、株式会社カエカ代表、スピーチライター 千葉 佳織)
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