■国立大学附属小学校で伸びる子、伸びない子
「入れてしまえば、あとは安心」
「偏差値の高い子が集まる学校」
多くの国立・私立小学校の受験シーズン(主に秋)になると、国立大学附属小学校(以下、附属小)についての「噂」が飛び交います。私はかつて7年間、首都圏のある附属小の教壇に立った経験があります。そこで感じたのは以下の一言に凝縮されます。
〈附属小は、すべての家庭にとって安心な学校というわけではない〉
昔も今も、附属小人気はすさまじいものがあります。保護者の中にも、「ぜひともわが子を附属小へ」と願う人が増えていますが、大事なのは、受験する家庭が「主体をどこに置くのか」という問題を本稿で述べたいと思います。
■家庭が主体で関わる家庭は、見ている世界が違う
国立大学の附属小の環境を、見事に活かしている家庭・保護者にはある共通点があります。例えば、授業参観後の面談で、こんな言葉をかけてくださる保護者は1人や2人ではありません。
「あの引っ込み思案だった○○ちゃんや、やんちゃだった○○君が、こんなに育ってきた姿を見られて、本当にうれしいです。ありがとうございます」
驚くのは、視線の先にあるのがわが子ではなく、他の子たちに向けられているという点です。わが子の出来・不出来ではありません。クラスという集団の中で、他の子どもたちが育っていくことに目が注がれ、小さなプラスの変化を見逃さないのです。
こうした保護者は、人間は集団の中でこそ育つという事実を、知識ではなく実感として理解しています。なぜなら、ご自身がまさにそうした立場で、社会の中で他者と協働しながら活躍されてきた方々だからではないかと推察します。
だからこそ、「わが子が、そんな環境の一員として育っていること」それ自体が、何よりも価値あることだと考えているのです。教員としてという以前に、一人の人間として、私は何度も頭が下がる思いになりました。
■「学校が何とかしてくれる」と期待する家庭の言葉
その一方で、附属小に入学(合格)できたものの、その後、親子ともに苦しくなっていく家庭にもはっきりした共通点がありました。
典型的なのは、子ども同士のトラブルが起きたとき、対応する教員に対して、
「学校として、どう指導してくれますか」
という言葉を真っ先に発する傾向があります。
わが子の学習や生活につまずきが見えると、
「指導力不足ではないですか」
「学級の雰囲気が合っていないのでは」
と、原因を学校側に探し続ける。
さらには進路や将来の話になると、
「附属に入ったのに、このままで大丈夫でしょうか」
「学校として、どうにかできませんか」
と、不安そのものを学校に預けようとする。
どれも一見すると、「熱心で、わが子思いの親」の言葉ですが、ここには明確な共通点があります。
〈判断と引き受けの主体が、家庭ではなく学校に置かれている〉
という点です。自責よりも、他責というニュアンスが多分に含まれています。
■善意が暴走する瞬間…現場で繰り返し見てきたこと
誤解してほしくないのは、こうした保護者が「悪意のある親」ではない、ということです。
作品展に出品していないにもかかわらず、「うちの子の作品は最優秀賞で展示されたはずだ」と本気で信じ、展示されていないことに強く抗議してきた保護者がいました。
子どもが周囲に迷惑をかけている事実があっても、
「指導力不足ではないでしょうか」
「天使のようなうちの子がそうなるのは学級の影響がありませんか」
と、何時間も、何日も訴え続けるケースもありました。
発達特性への配慮と区別されるべき行為まで「すべて個性だ」と主張し、周囲や環境に変化を求めるケースもありました。
附属小に入ったのだから、「ハイレベルな指導で、勉強が苦手なわが子をできるようにするのは学校の義務だ」と本気で信じている保護者もいました。
学校に対し、常識を超えた自己中心的で理不尽な要求を繰り返し行い、教育現場の業務に支障をきたすいわゆる「モンスターペアレント」というわけではありません。
基本的にはわが子を守りたいという親心から出た言葉ですが、同時に、子どもの人生を預かる主体が「家庭」であったものがいつの間にか「学校」へと移ってしまうのです。
■境界線の勘違いが、摩擦を生む
私が教員としてというより、「生き方」として大切にしている考え方があります。それは、境界線です。国と国との関係を見ても分かるように、境界線が曖昧になると、そこには争いや恨み、悲しみが生まれます。どこまでが自分の責任で、どこからが相手の責任なのか。
この線引きが曖昧になるほど、人は相手に期待し、失望し、怒りを募らせていきます。
境界線とは、突き放すための線ではありません。信頼を成立させるための線です。私が附属小の現場で見てきた摩擦の多くは、人格の問題でも、教育熱心さの問題でもありません。
境界線の勘違い。ただ、それだけでした。
■「任せる」とは、丸投げではない
附属小で、うまくいっている家庭に共通するもう一つの特徴があります。それは、「任せる」という言葉の意味を、正しく理解しているという点です。
附属小のよき保護者は、「学校に任せています」と言いながら、決して丸投げはしていません。学力が思うように伸びなかったとしても、体験が期待通りでなかったとしても、人間関係で遠回りする時間があったとしても、その結果を、家庭が引き受けるという覚悟があります。
単刀直入な言い方をすれば、学校に「学力・体験・成功の保証」を求めていないのです。だからこそ、学校に過剰な要求をせず、教師の判断を尊重し、うまくいかなかった時間さえも「学びの一部」として受け止めることができます。
任せるとは、責任を手放すことではありません。責任を自分の側に残したまま、裁量を委ねること。この感覚が共有されているとき、学校と家庭の間には、健全な境界線が引かれます。
■国立大学附属学校の本当の使命
ここで、国立大学附属学校の本来の使命について、正確に伝えておきたいと思います。意外に思うかもしれませんが、国立大学附属学校は、「手厚い教育を提供するための学校」ではありません。
第1に、実験的・先導的な学校教育を行う場です。完成された正解を教える場所ではなく、新しい教育の在り方を試し、検証する場です。
第2に、教育実習の場です。未来の教師を育てるため、多くの教育実習生を受け入れます。そこには、当然、未熟な授業も含まれます。
第3に、大学の研究機関としての役割。
そして第4に、地域の学校へ成果を還元する存在であること。
■附属学校は「先進医療」である
国立大学附属学校を医療にたとえるなら、私は先進医療だと思っています。先進医療とは、エビデンス豊富な「優れた医療」としてはまだ確立されていません。まだ十分に検証されていない、実験段階の医療です。
効果があるかもしれない。しかし、思うような結果が出ないこともある。副作用が見つかることもあります。それでも、医学を前に進めるために、患者の理解と同意のもとで行われる。
附属小学校も同じです。最善が保証された教育の場ではありません。試行錯誤と検証の只中にあり、遠回りや失敗も含まれます。だからこそ、「入れば安心」「必ずうまくいく」という期待とは、根本的に相容れません。
■有名私立附属校とは、まったく違う
国立大学附属学校は、エスカレーター式の有名私立附属校と同じだと思われがちですが、国立と私立ではまったく違います。有名私立附属校の多くは、大学までの一貫教育と、豊富な寄付金を背景に、整った設備と安定した環境を提供しています。
国立大学附属学校は、決して至れり尽くせりの学校ではありません。設備も、文部科学省の予算不足で、正直言って校舎や備品もだいぶ古い。それでも、保護者としては、国立大学附属小学校に入れてしまえば、わが子はエリートコースに乗って、いい大学、いい会社に入ってくれるはずで、子育ては一丁上がりという感覚の保護者もいるかもしれません。でも、それは間違いです。
なぜなら、前述したように、ここは完成された教育を提供する場ではなく、研究と実験の機関だからです。国立附属学校を選ぶということは、エスカレーターに乗ることではありません。教育の未完成さを、引き受ける選択です。
都内には、筑波大付属やお茶の水女子大附属、東京学芸大付属などの小学校があり、慶應幼稚舎や早稲田実業初等部、青山学院初等部、学習院初等部などの私立と併願する家庭も多いです。毎年各校で数回実施される選抜テスト(抽選や学力試験、親子面接など)の倍率は何十倍になるほどの人気です。
しかし、国立大学附属学校は「ブランド」ではありませんし、教育機関としてはその後の児童の「進学」に必ずしも熱心というわけではありません。そうした価値観がわが子に本当に合うのか。そして、うまくいかなくても引き受ける覚悟があるのか。
中学受験とともにヒートアップしている国立大学附属小の受験に際して保護者にはそうした包容力が求められているのかもしれません。
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松尾 英明(まつお・ひであき)
公立小学校教員
「自治的学級づくり」を中心テーマに千葉大附属小等を経て研究し、現職。単行本や雑誌の執筆の他、全国で教員や保護者に向けたセミナーや研修会講師、講話等を行っている。学級づくり修養会「HOPE」主宰。『プレジデントオンライン』『みんなの教育技術』『こどもまなびラボ』等でも執筆。メルマガ「二十代で身に付けたい!教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門大賞受賞。2021年まで部門連続受賞。ブログ「教師の寺子屋」主催。
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(公立小学校教員 松尾 英明)

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