※本稿は、吉田幸弘『「また今日も、部下が浮かない顔してる…」 これからのリーダー必修「サーバント・リーダーシップ」入門』(きずな出版)の一部を再編集したものです。
■ただ「頑張っているね」だけじゃダメ
部下への「褒め方」「叱り方」で苦労しているリーダーの方は少なくないと思います。
私が研修した会社の中に「部下を1日1回褒めよう」というスローガンで、リーダーが褒め言葉をかけようと取り組んでいる会社がありました。その会社は、褒めてはいるものの形式上で、「部下に気分よくなってもらおう」という褒め方になっていました。いわゆる、部下に響いていなかったのです。
ある時、企業の講演でリーダーと話していて、目的がブレているから上手い褒め方ができていないということに気づきました。
部下に気分よくなってもらおうという点が理由だと「頑張っているね」「今日も元気いい挨拶だね」「持っている鞄オシャレだね」などと声をかけてしまいがちです。特に3番目の褒め方は一歩間違えるとセクハラにもなりかねません。このような褒め方になってしまうのは目的がブレているのです。
■「プレゼンよかった」だけでは部下に響かない
そもそも褒める目的って何でしょうか。私の中では2点あります。
1つ目は「行動の再現性を高めるため」、2点目は「自己有用感を高めるため」です。この2点に絞ることで、褒めるポイントがかなり具体的なものに変わります。
例えば、会議で部下Aさんのプレゼンがわかりやすかったとします。この場合、「今日のプレゼンわかりやすかったね」では三流の褒め方です。なぜなら、部下にとってどの部分がよかったかわからない、再現できないからです。
次に「今日のプレゼンの資料はわかりやすかった」と伝えたとします。これでもまだまだ二流です。資料ということで褒めるポイントがまだ広すぎるのです。
「資料作成の講評の部分がよかった」「棒グラフと折れ線グラフが両方入っていて、推移が明確だった」というようにポイントを絞るべきなのです。
■上手な「叱り方」はヒントを与えること
叱る場合の目的は「行動改善」です。ですから、伝えた言葉をもとに行動が改善できなくてはなりません。ミスした部下に対して「緊張感を持ってやったほうがいい」「心を落ち着けたほうがいい」なんて言い方をしていませんか。
仮に部下が請求書の桁を間違えている、とお客様からクレームが入った際に焦って返信したために、担当者の名前の漢字の変換が間違っていて、よりお客様を怒らせてしまったとします。
そんな時は「注意が足りないからだ」と曖昧な行動改善を促す言葉ではなく、「クレームに返事をするときは焦って二次被害を起こしてしまいがちなんだ。だから送付前に一度紙に印刷して落ち着いて水を飲んで確認したほうがいい」と具体的な行動改善のヒントを出すのです。
■具体的な行動に移れるようサポートする
他にも「会議に無関係の人を多く呼び時間を取られる」とのクレームが入ったなら、「もっと呼ぶ人を限定しろよ」ではなく、「『この人がいなかったら適切な意思決定はできないか』と自分に問いかけてみよう。大丈夫だったら呼ばずに議事録を送付するという形式で報告するようにしよう」と伝えれば具体的に行動に移しやすくなるのです。
思いを伝えることで、部下を動かそうとするのではなく、リーダーは実際に部下が動けるようにする、これを意識するようにしましょう。
■リーダーは過去の成功体験を忘れるべき
ここまで「再現性を高めましょう」と伝えてきましたが、ここで注意したいのは、リーダーは「過去の成功体験を引きずってはいけない」ということです。成功要因を分析し、再現性のポイントを掴んだら、「成功した喜び」は捨ててしまおうということです。
私は自分に課しているルールとして、会社員の頃から「大口顧客が獲得できた」「チームの月次の売上が社内でトップになった」場合でも、喜ぶのはその日の夜だけにしていました。
今でも「大口の研修が受注できた」「書店でランキングに入った」といった自分自身の喜びはその日限りで終わりにしています。理由は引きずると「慢心」に陥ってしまうからです。
現在は外部環境の変化のスピードが増していますから、自分が慢心に陥って現状維持しようとするのは「衰退」につながります。今は再現できない成功体験は、百害あって一利なしです。「ガラパゴスリーダー」と呼ばれる人がいます。
■成功を引きずってアドバイスが時代遅れに
実はかつての私がそうでした。私は2011年から研修講師をしていますが、実は営業研修の講師はもう5年以上しておりません。昨年くらいまでは依頼がきていましたが、断っています。
会社員の時に16年営業をやっていましたが、今主流の「インサイドセールス」などの経験はありませんし、テレアポや飛び込みを手段とした営業であり、時代にそぐわないからです。
ここで成功を引きずって教えていたら効果が出ないばかりかダメな営業メソッドを教えてしまい、研修を発注するクライアントさんに迷惑をかけてしまうからです。
また成功した部下に対して「彼はオレが育てた」と過去の成功体験を語るリーダーもいます。これもリーダーの自己本位な考えが生まれてしまうという問題点があります。そもそも「部下が育った」のであり、関与したリーダーの影響はごく一部です。何より部下の数だけコミュニケーション方法があります。
Aさんに上手くいった技がBさんに上手くいくとは限りません。だから成功体験を引きずって決めつけることは部下育成のうえでも危険なのです。
成功体験はその日1日、存分に味わったら捨ててしまいましょう。
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吉田 幸弘(よしだ・ゆきひろ)
人材育成コンサルタント・コミュニケーションデザイナー
1970年生まれ。大学卒業後、大手旅行会社、有名学校法人を経て外資系企業へ転職。そこで周囲のメンバーとうまくコミュニケーションが取れず、降格人事を経験する。その後、異動先で出会った上司より「伝え方」の大切さを教わり、「ポイントを絞ってわかりやすく伝える方法」を駆使して、劇的に営業成績を改善。社外でも営業コンサルタント・人材育成コンサルタント・コーチとして活動し、2011年1月より独立。現在はさまざまな業種のビジネスパーソン向けに、人材育成、チームビルディング、生産性向上、コミュニケーション術の方法を中心としたコンサルティング活動及び1on1コーチング、講演、研修等を実施している。累計の受講者数は3万人を超えている。
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(人材育成コンサルタント・コミュニケーションデザイナー 吉田 幸弘)

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