パワハラにならず、部下がやる気を失わない、上手な叱り方はあるのか。人材育成コンサルタントの吉田幸弘さんは「部下が『責められている』と感じて回答ができなくなってしまう言葉は、叱るときに使うべきではない」という――。

※本稿は、吉田幸弘『「また今日も、部下が浮かない顔してる…」 これからのリーダー必修「サーバント・リーダーシップ」入門』(きずな出版)の一部を再編集したものです。
■「やる気」によって仕事の品質に差がでる
モチベーションに頼っていてはいけない、仕組み化して、とにかくやらないといけないようにしたほうがいい、という意見が最近、リーダーの中で出ています。たしかにモチベーションを「やらない理由」にしてしまうのはよくない。
私自身営業をしていた頃、「今日はモチベーションが上がらなかったら訪問件数は少なくていいや」などと手を抜いたことがありました。もちろん「やらざるを得ない仕組み」をつくることもできますが、そうはいっても人間のやることです。
モチベーションによって仕事の品質は出てしまうものです。それに部下のモチベーションは高いほうがいいに決まっています。お客様にきめ細かいサービスをしたり、新たなアイデアを出したりなどいつもより勢いよく仕事をしたという経験は誰しもあるのではないでしょうか。
■モチベーションが上がらない3つの理由
ただ、部下のモチベーションを上げるのはそんなに簡単ではありません。理由は3つあります。
1つ目として、モチベーションの源泉は皆違っています。以前私は部下Aさんに、「この成績を上げ続けていれば営業マネジャーに推薦できるよ」と言ったことがあります。
すると、「いや、私は現場でお客さんと話すのが楽しいから営業をやっているんですよ。マネジャーはいいですよ」と言い返されました。
逆に私は営業時代新規開拓が楽しかったので、「お客さんが取れるとうれしいだろ」と同行した部下に言ったものの、キョトンとしていました。別の部下から聞くと「彼は企画書作成とかがしたいようで、開発部に行きたいみたいですよ」という答えが返ってきました。
こちらがモチベーションを上げられるのではないかと思ってやっていることがまったく通じなかったのです。こういったケースは少なくありません。部下ごとにモチベーションの源泉を把握していく必要があります。
■デキる営業マンのモチベが下がる瞬間
また2つ目としてモチベーションには「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」があります。外発的動機づけにはインセンティブや賞与、昇給などの金銭によるもの、昇格などがありますが、実はこれらは経営者以外の中間管理職などは権限を持っていないことも多く、使うのが難しいものです。
さらに3つ目としてどんなにモチベーションを高めようとしても不可抗力で「モチベーション低下の要因」があると、ネガティブ要因のほうが強く影響するということです。
以前、私がプレイヤーだった頃、必要以上に細かく管理をし、ほとんど使わない項目が多数の日報を課していた上司がいました。「正直、モチベーション下がるな」と思ったことがありました。

また営業マネジャーで何カ月も目標達成を続けて年間MVPを獲得していた折、1日だけもう帰宅して寝たくなったことがありました。
■部下はこんなことでもモチベを下げている
ちなみにそれは朝の時間帯でした。千葉県の浦安駅で降り、部下を待っていたときのことです。何と肩に鳥がフンをかけてきたのです。しかも買ったばかりのコートに。実はモチベーションって組織内部以外のちょっとした出来事で下がるのです。
・朝出る前に家族と喧嘩した

・傘を持たないで外出したらゲリラ的大豪雨に遭った

・電車の中で足を踏まれた

・汗びっしょりの清潔感のない中年男性が満員電車でくっついてきた

・電車が遅れて、猛暑なのに駅からダッシュしなくてはならなくなった
他にも仕事上で難題ばかり言って契約金額の少ない取引先に行くときや、契約すると言いながら他社と契約してしまったお客様がいたなど、モチベーションが下がる場面はあるでしょう。これらはリーダーにとっては不可抗力です。
■褒めることが逆効果になるケース
ではどうしたらいいのでしょうか。まずはモチベーションを下げなければいいと考えることです。
今まで組織外の出来事がモチベーションに影響すると書いてきましたが、それ以上に大きく影響するのは「リーダーとの関係」です。
部下のモチベーションを下げてしまうのは「間違ったフィードバック」と「心理的安全性の阻害」です。
フィードバックは「組織のため」「リーダーのため」「部下のため」の3方向で大切なものです。
一時、褒めればいいという風潮がありましたが、褒めることが逆効果になるケースもたくさんあります。例えば「最近頑張っているね」「3カ月連続営業成績トップなんてすごいね」と言われても響かず、逆に「細かい努力しているのに気づかないのかよ」「目標達成するなんて当たり前だろう」と思って気分を悪くする部下もいます。
■叱り方を誤ると部下は簡単にやる気を失う
そして何より難しいのは「ネガティブなフィードバック」、いわゆる「叱り方」です。
叱るという「行動改善」を指摘するときは、何らか部下の行動がリーダーの基準に足りていない、ミスが起きた、クレームがあったなどネガティブな出来事があったというケースが多いでしょう。
だからわかっていても、つい強く指摘してしまった、前のことを持ち出して嫌味を言ってしまったなんてこともあります。すると、部下のモチベーションは下がってしまいます。
ですから叱り方に注意する必要があります。ここではやってはいけない叱り方をいくつか挙げていきます。
■ダメな叱り方1「みんなの前で叱る」
最近は叱るときは1対1と心がけているリーダーも多いでしょう。特にチームでエース級の活躍をしているナンバー2のような部下を叱ることで、チーム全体に伝えようとしている人がいたら注意が必要です。
ナンバー2の部下と合意がとれていないと反発を招く可能性がありますし、何より最近「管理職は罰ゲーム」なんて言っている若手メンバーもいます。
「業績を上げて役職が上がったら叱られ役になるのかよ。たまらないな」とそれこそ管理職になりたがらないメンバーが増えていきます。
■ダメな叱り方2「一度に多くのことを叱る」
人はポジティブなものよりもネガティブなものに目が行きがちです。だからつい怒りたくなってしまいます。またミスをした部下を叱っていると、改善したい部分がたくさん見えてきてしまいます。
1つの失敗にはネガティブな要素がいくつも隠れています。営業や販売の仕事をされている方は、新人時代にロールプレイングなどをしたことがあるのではないでしょうか。そのロールプレイングでかなりの数の指摘を受けて、混乱したという経験が私はあります。そもそも人間は、一度に多くのことを言われてもどれから直したらいいかわかりません。
例えば、5点の改善ポイントをリーダーのあなたが部下Aさんに伝えたとしましょう。Aさんは直せないでしょう。そして高い確率で指摘した内容が要因の同じ間違いをするでしょう。
一度に多くのことを叱るのはリーダー自身のイライラにもなりうるのです。
叱るときは1点に絞りましょう。しかしどうしてもこれは伝えたいときは3つ伝えて、その中で「まずはここを直してほしい」と1点に絞るようにしましょう。
■ダメな叱り方3「強い口調で叱る」
いくら強い口調で叱っても、部下が行動改善できなければ、その叱り方はよくなかったということです。それに強い叱り方はハラスメントと認定されがちです。不要に圧迫感を与えても意味がありません。
むしろこの場を上手くやり過ごそうとして部下は半分うわの空で聞きます。だからまた失敗と繰り返すことになるのです。
ちなみにやるといいのはクッションワードを使うことです。例えば私がよく使っていたのが「これからちょっと言いにくいことを伝えるよ」と予告したり、100%相手を悪いと決めつけないやり方で「私の間違いかもしれないけど」「私の伝え方がよくなかったのだと思うけど」とリーダーにも非があったという言い方をするといいでしょう。
リーダーが「自分に要因があったかも」という言い方で始めるとたいてい部下も「いや、私こそ至らず申し訳ございませんでした」となることがほとんどです。
■ダメな叱り方4「『なぜ』を使う」
「なぜできなかったの」「なぜ遅れたの」といった要因を聞く際に「なぜ」という言葉を使う人は少なくないでしょう。
しかし、この「なぜ」は対象が人であるので、言われる側からすると「責められているな」と感じて回答ができなくなってしまいます。
「なぜ」を言い換えて「何が要因でできなかったの」「どの部分に時間がかかって遅れたの?」と対象をモノやタスクにしましょう。前者の「なぜ」ですと、部下は責められている感じがして何も言えなくなってしまうのに対し、後者の「何・どの部分」という言い方の場合は責められている感じがしないので、部下も落ち着いて要因を考え、答えられるでしょう。
このように、叱られ方次第で部下はモチベーションを低下させてしまいます。そしてさらによくないのが「叱られないように余計なことはしない」「報告しない」といった状態です。これらは「心理的安全性」が担保されていないことに起因しています。

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吉田 幸弘(よしだ・ゆきひろ)

人材育成コンサルタント・コミュニケーションデザイナー

1970年生まれ。大学卒業後、大手旅行会社、有名学校法人を経て外資系企業へ転職。そこで周囲のメンバーとうまくコミュニケーションが取れず、降格人事を経験する。その後、異動先で出会った上司より「伝え方」の大切さを教わり、「ポイントを絞ってわかりやすく伝える方法」を駆使して、劇的に営業成績を改善。社外でも営業コンサルタント・人材育成コンサルタント・コーチとして活動し、2011年1月より独立。現在はさまざまな業種のビジネスパーソン向けに、人材育成、チームビルディング、生産性向上、コミュニケーション術の方法を中心としたコンサルティング活動及び1on1コーチング、講演、研修等を実施している。累計の受講者数は3万人を超えている。

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(人材育成コンサルタント・コミュニケーションデザイナー 吉田 幸弘)
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