■世界で急加速する「少子化ドミノ」の衝撃
少子化は日本に限らず全世界で進行しています。それも急激に。
日本の合計特殊出生率(以下、「出生率」)は2015年の1.45から2024年1.15に減少し、▲0.3となりましたが、この減少幅は世界的に見ればまだマシなほうです。
アフリカを除く主要31カ国を抜粋して、各国の2015~2024年の出生率およびその減少幅を一覧にしたものが図表1です(一部、速報値・推計値)。ほぼほとんどの国が1.5を切る状態で、1.0以下の国も決して少なくありません。
欧州では、戦争の影響でウクライナが1.0を切っていますが、フランス以外はすべて1.5以下です。そのフランスも期間減少幅は▲0.34です。少子化対策でよく引き合いに出される北欧諸国にしても、減少幅はフィンランド▲0.40、スウェーデン▲0.42と、むしろ日本より近年は減少率が著しい。
意外なところでは、中南米の出生率が近年急激に減少していることです。
たとえば、チリの出生率は1.03(▲0.75)、コスタリカは1.12(▲0.64)、プエルトリコは0.87(▲0.47)と出生率および減少幅ともに日本より落ちています。アルゼンチンに至っては、▲1.0と急降下しています。
出生率が高いイメージのある中東でも、トルコ1.45(▲0.68)、イラン1.56(▲0.6)と大幅に減少。イスラエルだけが先進国の中では異例ともいうべき2.87という高い出生率を誇っていますが、それでも▲0.22の減少です。
■背景に「乳幼児死亡率」の低下
アジアに目を向ければ、いつの間にか日本より低出生率となった中国をはじめ、韓国、台湾、シンガポールも1.0を割り込んでいます。あまり知られていないところではタイも大きく落とし、0.95(▲0.59)と1.0を割り込みました。マレーシア、フィリピンなどは出生率1.5以上ですが、近年大きく減少しています。
「経済成長して国が豊かになれば少子化になる」と言われますが、そういう因果ではなく、経済成長していく過程における環境変化によります。国が豊かになれば、医療の発達や公衆衛生の改善がなされ、それによって乳幼児死亡率が下がることに起因します。ざっくり言えば、乳幼児死亡率(人口千対)が10を切るとほぼすべての国が出生率2.0を切ります(イスラエルだけ例外)。
これは、産んだ子が乳幼児の段階で死ななくなれば、多産する必要性がなくなるからです。逆に言えば、産んだ子が多数死んでしまうリスクがある国では多産する必要があるわけです。今のアフリカはこの「多産多死」の段階ですが、いずれ乳幼児死亡率の低下とともに必ず出生率は下がります。
■高所得国の出生率は1.5以下に収束
確かに、国の豊かさを1人当たり購買力平価GNI(国民総所得)で見るとすると、GNIが上がれば上がるほど出生率は低下する極めて強い負の相関はあります。
高所得グループ以上はどれだけ所得が増えても出生率は上がりませんが、大きく減りもしません。つまり、ある程度の基準を超えると必ず出生率は1.5以下に収束するということでもあります。
むしろ、中南米のコスタリカやアジアの中国やタイなど、GNIがまだそれほど高くなっていないにもかかわらず、急激な少子化が進んでいる最近の現象は、「豊かになる前に少子化が進んでいる」と見たほうがよく、この背景には、かつて出生を支えていた中間層の出生減があります。
■「大企業・官公庁勤務」の子供数は減っていない
日本ではそれが顕著ですが、所得五分位階級別に子どもの数の推移を比較すると、少子化とはいえ、第五階級(上位20%)の子ども数は減っていません。減少しているのは、第一階級(下位20%)から第三階級(中間層)まで。
勤務している企業規模別に見ても、大企業や官公庁勤務の上位層の子ども数は減っていないのに、中小企業勤務だけが減っています。各都道府県別にみても、それぞれの中央値年収での未婚率が上昇しています(参照〈地方の中小企業勤務の男性では結婚できない…この10年間で起きた「結婚可能年収のインフレ」という大問題〉)。これは、以前は中央値の年収があれば普通に結婚できていたものが、できなくなっていることを意味します。
若者が「結婚離れ」したからでも価値観の変化があったからでもなく、経済成長後の国において「子どもを育てることの高コスト化」が進むためです。一人の子に対する投資選好意識が高まれば当然子育てコストは増え、結果として経済的に余裕がそれほどない中間層が、出産はおろか結婚すらできなくなるという皮肉な状態に陥ります。
中央値で結婚できないなら、それは半分が結婚できないということです。
■教育が充実するほど出生率は下がる
加えて、もうひとつ世界の少子化を進行させる要因があります。
これも「国が豊かになる」過程における環境変化ですが、教育制度の充実化や学校の整備などが進み、それによって子どもたちの平均就学年数が増えます。良いことのように思えますが、これが少子化と密接に関係します。
2023年の国連データから計算すると、平均就学年数が6年未満の国の出生率は4.01、6~9年で2.89、9~12年で1.99、12年以上の場合で1.48となり、完全に就学年数と出生率は相関します。ちなみに、日本場合は平均12.7年ですが、大学4年まで行けば16年の年数がかかることになります。
就学年数の多い国ほど出生率が下がるのは、第一子出産年齢が遅くなりがちだからです。2021年OECD統計によれば、第一子出産年齢がもっとも遅いのは韓国で32.6歳でした。続いてイタリアとスペインが31.6歳で続きますが、イタリアもスペインも欧州の中では出生率が低い部類で日本とほぼ同等です。
■高学歴化と「上方婚」のジレンマ
「教育を受けると子どもを産まなくなる」と言いたいわけではありません。が、少なくとも就学期間が長ければそれだけ社会に出る時期も後ろ倒しになります。特に、女性の場合、進学率の増加とそれに伴うその後のキャリア形成意欲、さらにはキャリア形成の結果としての経済的自立というものが、企図せず結婚・出産を縁遠くする可能性は否定できません。
加えて、女性は自分より経済力の高い相手を求める上方婚志向があります。2022年就業構造基本調査によれば、実際に結婚した夫婦(妻29歳以下でまだ子のない夫婦のみ)のうち7割が妻の上方婚(夫の方が高年収)で、2割が同類婚、妻の方が夫より年収が高い夫婦はわずか1割しかいません。
女性がキャリアを積んで経済力を高めることはよいことですが、その結果、婚活で自分より稼ぐ相手を見つけようと思っても見つからない、見つかってもおじさんばかりという状態が発生します。男性の側からすれば、求められる年収を稼ごうとしているうちに40歳を過ぎてしまったということもあります。男性が中央値の年収では結婚相手として認められなくなっている事実もそれを裏付けするものです。
■バラまくほど「結婚・出産コスト」が高騰
最後に、子育て支援もまた企図しない副作用を及ぼします。
日本だけでなく、少子化に悩む各国はどこも子育て支援政策を実施しています。具体的には生まれた子に対する児童手当等の給付、保育園・育休などの福祉サービスの充実化などです。
これらをまとめたものが、家族関係政府支出と言われるもので、「この予算を増大させれば少子化は解決する」などと言う有識者もいますが、日本に限らずどの国もこの予算を増やしても少子化は止められていません。それどころか予算を増やすほど出生率が下がるという逆効果にすらなっています。ちなみに、日本の場合、2007年対比で予算3倍増なのに出生数は3割減です。
なぜ子育て支援をしても効果がないか。
■「良き支援」が招く最悪の結末
「控除から給付へ」などと掲げた政党がありましたが、むしろ今後は「給付から控除へ」の回帰や、無償化といいつつ税負担増のようなマヤカシの見直しが必要でしょう。
このように、乳幼児死亡率の改善や就学年数の増加といった、一見少子化とは関係なさそうな環境変化が結果としてさまざまな副作用をもたらし、出生率の低下にバタフライエフェクトを起こします。
「子どもが死ななくなる」「子どもの教育環境が整う」「子育てを支援する」ことは個別にみれば喜ばしいことで、これを推進していくことに誰も反対しません。が、個別最適が必ずしも全体最適にならないばかりか、子どものためにと思ってやったことの結末が、「そして、子どもはいなくなった」というバッドエンドになるのだとしたら、なんという救いのない物語を私たちは今無意識につむいでいるのでしょう。
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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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