もし一家の大黒柱が倒れたら、どうしたらよいのか。家計再生コンサルタントでFPの横山光昭さんは「どんなに緻密なライフプランを立てても、その通りに進まないのが人生。
実際、ご家族の身に何かが起きて、ライフプラン表を一から立て直すケースは少なくない」という。実際のケースを紹介しよう――。
■突然の大病で一家の大黒柱が失業
今回は、想定外の出来事で収入が半減し、ライフプランを大きく変えざるを得なくなったケースをご紹介します。
寺西悟(仮名・57歳)さんが初回相談に来られたのは6年前、51歳の頃でした。大企業の営業マンとしてバリバリ働きながら、妻(当時48歳)と3人のお子さん(当時:長女12歳・次女9歳・長男4歳)を育て、資産形成も順調そのもの。
月手取り58万円の世帯収入で、支出は14万円の住宅ローン返済を含む48万円、月10万円の黒字が出ていましたし、ある程度まとまった生活防衛資金(貯金1000万円)もありました。
「雇用延長を希望すれば65歳まで働けるから、それまでの15年間で投資をして教育資金と老後資金をどんどん増やしていきたい」
とのことで、ならばこの黒字額や貯蓄の一部を投資に回していこうと、NISAをスタート。将来の退職金も見込めばライフプランもある程度余裕があり、我々も「この家計なら老後は安泰だろう」と、明るい展望を持っていました。
ところが3年後、我々のプログラムに通われている最中、悟さんが脳梗塞で倒れてしまったのです。幸い一命をとりとめるも、後遺症で高次脳機能障害が残りました。悟さんは営業マンとして以前のように働く気力が持てず、早期退職を選択。現在は自宅療養しながらリハビリを受けています。

こうしたケースは決して珍しくありません。最近、悟さんと同年代のお客様で、配偶者が突然の病気や死亡で、ライフプランを変更するケースが増えているように思います。年齢的にも仕方がないことかもしれませんが。ですから、本記事を読むみなさんも決してひとごとだと思わず読み進めていただきたいです。
■20年以上厚生年金を納めてきた
寺西さんは会社を辞め、今は障害年金(2級)で受給する約26万円と、パートを増やした妻の収入(手取り月収7万円)の合計月33万円ほどで切り盛りしています。
寺西さんは22歳から社会保険に入っていたため、厚生年金がもらえます。そのため、ベースの「障害基礎年金(2級)」に加えて「障害厚生年金(2級)」、そして「配偶者加給年金」と3人分の「子の加算額」でトータル月26万円程度を受給できています。
比較的収入が高く、かつ20年以上厚生年金を納めてきたからこそ、配偶者の加給年金(年23万9300円)、子の加給年金(1人目・2人目は年額各23万9300円、3人目は7万9800円)がもらえているわけですが、これが家計の大きな助けになりました。
■収入が半減し、資産形成プランをどう切り替えたか
とはいえ、年金をもらえれば安心というわけではありません。月48万円の家計支出は33万円では到底賄えませんから。悟さんの状態が落ち着いた頃、我々はリモート相談で資産形成プランの見直しを提案しました。
▼退職金で住宅ローンを完済
まずは、月々の固定費を削減しなければなりません。
もっとも大きく削れるのは住宅費です。
悟さんは退職後、①貯金1000万円、②3年間で増やしたNISAの運用資産380万円(月10万円×3年間、利回り3%)、③早期退職金1500万円、合計2880万円の資産がありました。
その中から1000万円を住宅ローンの残債に充て、ローンを完済して月々の住宅費を管理費・修繕積立金(計3万円)に絞りました。「団信保険があれば住宅ローンはチャラになるのでは?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、寺西さんは「死亡・高度障害」で保険が下りるプランに入っていたものの、発症直後の団信保険の基準の障害等級は比較的軽度な3級だったため、残念ながら保険が適用されなかったのです。
▼教育費は3人で月10万円以下に
次に大きな固定費は、3人のお子さんの教育費です。ここは奇跡的に月5万円に収めることができました。
まず長女の大学費用は、18歳で300万円をもらえる学資保険を払い込み完了していたため、学資保険で一部賄いつつ、不足分は貯金を崩して支払うことが可能に。
次女は、もともと優秀だったため特待生枠で私立の学校に入り、入学金・学費・施設費が全額免除になりました。これも不幸中の幸いです。ただ、仮に特待生枠で入れなかったとしても、悟さんが退職して非課税世帯になったことで家計急変制度が適用され、学費の一部は免除になっていたでしょう。
長男は小学生ですが、次女、長男ともに今後は障害前と同じ月5万円で学業にかかる費用を出し、足りない分は貯金から補うことに。
ただ、私大に進学するなら特待生枠で入学し給付金獲得を狙うか、奨学金を検討する予定だそう。
▼車を手放し小遣いも削減
さらに車も手放し、自動車関連費は0円に。子供たちが遊びに行くときに渡していた交通費やお小遣いも抑え気味にして、長女に関しては足りない分はアルバイトをして補ってもらうことにしました。
悟さん自身の交際費、娯楽費は、外出が難しいことから大きく減少。今は自宅でネット配信を見たり読書したりして穏やかに過ごしています。ただ一方で、悟さんの在宅が増えたことと昨今の物価高騰により食費と水道光熱費が上がっています。
■将来の窮地を救うのは、今の備え
それでも他を大きく削れたことで月の収入に生活費が収まり、見事、月の収支は黒字になりました。収入33万円のうち、支出は32万4000円。収支の差額は6000円です。
寺西さんにはもともと生活防衛資金があるので、今後は教育費や老後の生活費が不足したら貯金から切り崩し、相場が下がったらETFを買い足す形で細々と投資を続けていく方針です。
寺西さん一家が路頭に迷わなかったのは、障害年金や私学の教育費制度をフル活用できたことも大きいですが、これまでコツコツと蓄えてきた貯金(生活防衛資金)、投資、学資保険も強力な支えとなりました。
もしいずれか1つでも欠けていたら、奥様がさらに夫のサポートをしながらパートを増やさざるを得ず、今度は奥様が倒れてしまっていたかもしれません。

読者の皆様も、今の状況がずっと続くと思わず、いくつもの“網”を用意しておいてほしい。将来の窮地を救うのは、今の備えです。

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横山 光昭(よこやま・みつあき)

家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表

お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万6000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は90万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は171冊、累計380万部となる。

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桜田 容子
ライター

明治学院大学法学部を卒業後、男性向け週刊誌、女性向け週刊誌などで取材執筆活動を続け、気付けばライター歴十数年目に突入。にもかかわらず、外見は全然ライターっぽく見られない。趣味はエアロビとロックンロールと花見など。

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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭、ライター 桜田 容子)
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