部下と良好な関係を築く秘訣は何か。戸板女子短期大学服飾芸術科の安東徳子教授は「距離を縮めようと、自虐ネタを披露したり、若者言葉を取り入れたりする人がいる。
良かれと思って発した言葉が、残念ながら逆効果になるケースがある」という――。
■薄毛自虐に部下が密かに思っていること
「一言で言うと、面倒くさいです。ああいうことを言ってくる上司って」
そう淡々と言うのは20代の女性Aさん。短大の教え子で、都内のホテル関連会社に勤務して5年目になります。
上司というのは、40代後半の男性B課長。明るい人ですが、何かにつけて自身の「薄毛」をネタにしてくるそうです。ホテルのアメニティに関連してシャンプーの話題が出れば、「ほら、オレはシャンプー使わなくていいから分からないんだよね」。社内イベントの後、「B課長と、C課長って同期だったんですね」と聞いただけなのに、「Cさんは髪ふさふさだから、同期に見えなかった?」といった具合だそうです。
私は本業の傍ら大学や専門学校で指導をしており、学生たちとの関わりは30年近くになります。ホテルやウエディングをはじめ、私が専門にしているホスピタリティ業界に進む学生が多いこともあって、卒業生と食事をする機会も多いです。そんな時、「上司の発言」は盛り上がるテーマであり、日々、Z世代(1995年~2010年頃生まれ)の学生と接している私にとっても気づきのある話題です。
B課長のような薄毛を自虐ネタにする上司は昭和、平成の頃もいましたが、社会人になった教え子たちの話を聞いていると今も一定数いることが分かります。

ただ、昭和、平成と大きく違うのは、部下側の反応です。
おそらく現在の40代以上が若手だった頃、B課長のような上司がいたら、特に女性社員は「そんなことないですよ」「全然気にならないです」などと笑顔で一生懸命フォローしていたのではないでしょうか。
■「承認欲求」は見抜かれている
一方で今の若手社員、特にZ世代は、適当に流すか曖昧に笑うなどして「スルー」します。Z世代の言葉を借りれば、そんな上司は「面倒くさいし、あきれる」存在でしかない。怒る対象ですらないそうです。
なぜZ世代は薄毛自虐に冷ややかなのか。
それは自虐の根底にある「承認欲求」を見抜いているからです。
まず、わざわざ薄毛ネタを持ち出し、部下の反応を見ることで、「(薄毛だけれど)自分はまだイケてるはず」「(薄毛だけれど)他の薄毛の人とは違う」と確認したい、伝えたい。そうやって承認欲求を満たしたいという気持ちが「面倒くさい」というわけです。
さらに部下に答えさせるという「アナログな手段」で人を巻き込んでまで、自身の承認欲求を満たそうとしていることにもうんざりするのです。Z世代が承認欲求を満たすのは主にSNSであり、自分自身で完結させているからです。
また、こういう会話が行われるのが職場であることも、嫌悪される大きな理由です。

Z世代にとって会社はあくまでも「仕事する場」。そんな場所で外見や若さに固執する上司は「仕事とは関係ないことに気を取られている人」となります。
■「正直」「本質」がキーワード
以前、上司の自虐ネタが話題になった時に、別の教え子が「心の中では“ここは夜のお店じゃないんだよ”って呟いてました」と言っていたのが印象的でした。
職場でも優しくフォローされたいと考えていることに加え、「どう返事すればいいのか」と自分がモヤモヤさせられることにもうんざりする。職場で仕事以外のことに気を使わせないでほしいというわけです。
薄毛ネタといえば孫正義さんが有名ですが、Z世代の受け止めは「なぜ、あんなにすごい人が、わざわざ自虐する必要があるの?」です。
彼らはよく言っています。「仕事ができる上司はそれだけで尊敬できるのだから、媚びずに堂々としていてほしい」「そもそも若く見えたとしても、実年齢が変わるわけではない。別におじさんはおじさんのままでいいじゃない」と。
私はZ世代を理解するキーワードとして「正直」「本質」を挙げています。
自分や上司に対しても正直であることを重視し、本質的な面を見ているからこそ、「なぜ、等身大以上に見せる必要があるのか」という発想になるのでしょう。
■「パワハラにならないよね?」も理由は同じ
職場で部下を相手に承認欲求を満たそうとする“アナログ承認上司”が言いがちな発言は、自虐以外にもあります。
例えば次の5つです。
1 「これはパワハラじゃないよね?」

2 「何歳に見える?」

3 ちゃん付け、ニックネーム呼び

4 「JK」など、略語や流行り言葉を使う

5 「クリスマスディズニー行ったの?」
1つずつ見ていきましょう。
「これはパワハラじゃないよね?」は、「新年会やるから、参加してくれる? あっ、これはパワハラにならないよね?」のような形で使われることが多いです。
その裏に「今どきはパワハラになってしまう発言かもしれないが、自分が言うなら問題ないと確認したい」「他の上司が言ったらNGかもしれないが、自分は特別なので大丈夫だと他の上司や部下にも伝えたい」という気持ちが見えていることが、嫌がられる理由です。
前述したようにZ世代は正直さを大切にしています。さらに同調圧力を嫌うため、上司を尊敬し、立てることはあっても忖度することはありません。だから、出席できない、したくない忘年会であれば、相手が上司であってもはっきり断れるのです。それだけに「○○課長の誘いだから断れないでしょう?」という発想自体にも嫌悪感があるのだと思います。
■「何歳に見える?」Z世代の驚きの反応
2つ目の「何歳に見える?」は、ある冠婚葬祭業の企業で働く女性スタッフDさんが話してくれたエピソードです。
40~60代を対象にしたマーケティングの資料をまとめていた時のこと。顧客の回答を見ながら「50代とか60代になるとこんなふうに思うものなんですかね。分かんないですよね」と問いかけたところ、一緒に作業をしていたE部長が「オレはその年代だから分かるけどな。
えっ、もしかしてオレの年齢知らないんだっけ? ちなみにいくつに見える?」とちょっとうれしそうに聞いてきたということです。
この「何歳に見える?」は、学生からも「バイト先の店長やマネージャーが言いがちなこと」としてよく聞きます。この根底にあるのも「若く見られていることを確認して安心したい」「自分はきっとイケているはずだが、実際にどう見られているか知りたい」という承認欲求です。
DさんはE部長の年齢は知らなかったものの、それを聞いて「ああ、きっと自分は年齢より若く見えるという自負があるんだな」と理解したそうです。ただ、「面倒だったから、適当に話題を変えちゃいました」と言ったのを聞いて、「自分が会社員だった頃は、見た目の印象より10%ぐらい若く言うようにしていたのに」と驚いたものです。
■「ちゃん付け」NGの意外な理由
3つ目は部下の苗字や名前に「ちゃん付け」をしたり、部下同士が使っているニックネームで呼んだりすることです。
これも「他のおじさんに言われたら嫌かもしれないけれど、自分たちは仲がいいから大丈夫だよね」「こんなふうに呼んでも嫌がられないぐらい慕われているよね」と確認したいという承認欲求の表れです。
NGになる理由はそれだけではありません。
上司の「えこひいき」はいつの時代も嫌がられますが、目立つことを嫌うZ世代の場合、他の人がひいきされていることよりも、自分がひいきされて目立つことのほうが嫌なのです。だから、他の部下にはしない「ちゃん付け」や「ニックネーム呼び」を自分がされている状況は絶対に避けたいと考えます。
また「ちゃん付け」や「ニックネーム呼び」をする上司のことを、あるZ世代の教え子は「飛び越えすぎ」と評していました。そもそも上司はあくまでも学びを得たり、尊敬したりするべき存在だという感覚が前提にあります。
自分の時間や心理的、物理的なスペースを大切にするZ世代にとっては、仲間ではない存在が踏み込んできた感覚なのでしょう。
■「飛び越えすぎ」ワードは呼び方以外にも…
また「ちゃん付け」や「ニックネーム呼び」はしない上司でも、無意識に使ってしまいがちな言葉があります。それが4つ目のJK(女子高生)、KP(乾杯)、ぴえん(悲しい時や情けない気持ちなどを表現する)などの略語や若者言葉です。実はこれが嫌がられるのも、「ちゃん付け」や「ニックネーム呼び」と同じ理由です。
まず「こんな言葉を知っている、使いこなせる自分って若いでしょう?」「おじさんだけど、同じ感覚で話せる存在だよね」という承認欲求、そして、若者と同じ言葉を使うことで、上司でありながら自分たちのスペースに踏み込まれている感覚が敬遠されるというわけです。
私は2人の娘や孫がいることもあり、大学以外でも略語や若者言葉に触れる機会が多い環境にいます。しかし、授業はもちろんそれ以外の場面でも、学生の前ではこうした言葉を絶対に使いません。例えばスマホ、スタバ、インスタなども必ず「スマートフォン」「スターバックス」「インスタグラム」と言うように心がけています。
これはホスピタリティの指導の際、略語を禁止していることも大きいですが、年齢や立場にふさわしい言葉遣いをするほうが信頼関係を築くことにつながると考えているからです。
■「クリスマスディズニー行った?」がNGな理由
最後の「クリスマスディズニー行ったの?」は、言葉の裏に「若い人は(やっぱり)ディスニーが好きなんでしょう」というニュアンスが感じられるところがNGな理由です。
では、どこが承認欲求なのかいうと、言葉の裏に「流行りを分かっている自分は、こういう話題も一緒に話せる相手だよね」「若い感覚を理解できている自分は、君たちと近い存在だよね」と確認したいという心理が見え隠れする点です。「クリスマスディズニー」という“分かってる風な言い方”にもそれが感じられます。

さらにZ世代が非常に大切にしているのが、「自分らしさ」だということも影響しています。そんな彼らにとって「若い人はみんな好きでしょう」と一括りにされ、決めつけられるのは許せないことです。
特に「ディズニー」「推し活」「K-POP」など、すでにマジョリティに支持されているものであればあるほど、嫌悪感が強くなります。
ただ、1~4つ目まではやめるべき発言でしたが、「ディズニーの話題」などは会話が盛り上がるテーマにもなり得ます。
ポイントは「問いかけ」です。
■問いかけ+役に立つ情報
例えば「自分が20代の頃はクリスマスといえばディズニーが人気だったけど、今も人気なの?」と聞けば、「いや、最近は行かないですね」とか、「私はディズニー好きだから行きました」と、自分のこととして答えやすくなります。決めつけるのではなく、分からないから率直に知りたい、教えてもらいたいという姿勢です。
実際に学生たちとディズニーランドの話題で盛り上がったのは、「ディズニーランドに行くと、ついポップコーン買っちゃうよね。あのケースって、どうしてる?」という私の問いかけがきっかけでした。そこで「毎回、持っていっていて、もう何年も使っている」という学生もいれば、「あれはシーズン中にフリマアプリに出品すると、意外に売れるんです」と教えてくれる学生もいたりして、かなり話が広がりました。
さらに「問いかけ」に加え、「相手に役立つ話題、新しい話題」を入れると、お互いに有意義な会話になります。
例えばディズニーランドを話題にするなら「久しぶりにディズニーランドに行ったら、男の子同士のカップルやグループが多いと思いました。最近、増えているんですか?」といった具合です。
相手は答えやすいだけでなく、新しい情報を得ることができます。これは相手がZ世代に限らず、私が営業職員を対象にしたセミナーなどでもお伝えしていることです。
■無理にギャップを埋めようとしなくていい
Z世代をはじめ、若い部下との雑談について感じるのは、ジェネレーションギャップを過剰に意識しすぎるあまり、特別なことを言おうとしている方が多いということです。その背景にはZ世代の言動が面白おかしく書かれたネットの情報も影響しているように思います。
例えば「Z世代あるある」として、「名刺交換はただの紙切れ」「スーツはコスプレ」と書かれたものをSNSで見かけました。しかし、多くの学生たちを見ている限り、仕事に対してとても真剣で、会社の一員としての振る舞いをとても気にしています。新しい世代の言動というのは面白おかしく言われがちですが、Z世代はとても真面目です。
だから、私が考える職場での雑談の正解は「余計なことを考えない」です。仕事に真剣に向き合う上司として、「ありのまま」で接することが部下からの信頼につながるはずです。

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安東 徳子(あんどう・のりこ)

ウエディング研究家、戸板女子短期大学服飾芸術科教授

一般社団法人日本ホスピタリエ協会代表理事、株式会社エスプレシーボ・コム代表取締役、NPO法人TOKYOウエディングフォーラム理事、日本社会学会正会員。著書に『誰も書かなかった ハネムーンでしかできない10のこと』(コスモトゥーワン)、監修に『世界・ブライダルの基本』(日本ホテル教育センター)など。

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(ウエディング研究家、戸板女子短期大学服飾芸術科教授 安東 徳子)
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