■Pornhubをビッグデータ解析した結果
性的な想像については、以前よりもはるかに理解が進んだ。それはビッグ・データのおかげでもある。特に、ポルノグラフィックなウェブサイトで人がどのような検索をするか、ということについて大規模な分析調査が行われたことが重要だ(※1)。こういうことはアンケート調査をするわけにもいかない。仮にアンケートをしたとしても、恥ずかしいので正直には答えず、嘘を答える人が多いはずだ。だが、皆がどういうポルノグラフィーを選んで見ているかがわかれば、どういうもので興奮する人が多いかをかなり正確に知ることができるだろう。
利用できるデータ・ソースはいくつもあるが、最大なのは、ポルノグラフィー・サイト“Pornhub”の何十億件という検索記録である。それを見れば、人々が何を好んで見ているのかだけでなく、若年層、中高年層の違い、ゲイとストレートの違い、男性と女性の違いなどもわかる(この種のサイトは、グーグル・アナリティクスを利用して、訪問者一人一人の人格特性を非常に正確に把握しているのだ――そう知ると驚く人もいるだろう)。
検索上位の語句を見てみると、だいたいは多くの人の予想通りである。ほとんどは、その人たちが現実の生活でも見たい、あるいは体験したいであろう身体的特徴、身体の部位、性的な行為の名前である。想像の世界は「簡易版の現実世界」であるとする説を裏づけるようなデータと言えるだろう。想像を現実の代替物にしているわけだ。
■検索上位の「意外なキーワード」
だがよくわからないこともある。たとえば、アニメのポルノグラフィーの人気が非常に高いということだ(※2)。セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツは、フロイト的に子供時代に抱えた強迫観念のせいではないか、と推測している。男性の間で「ベビーシッター」が人気のキーワードになっているのもその証拠ではないかという(だがこれは、単にポルノグラフィーを見る男性の一部にとって、身近によく接する若い女性がベビーシッターなだけ、という可能性もある。よく接するから妄想の対象になりやすいということだ)。
近親姦に関するキーワードもある。スティーヴンズ=ダヴィドウィッツが調査した時、Pornhubの検索キーワードのトップ100のうち、16は近親姦に関するものだった。特に多く検索されたトピックは母と息子の近親姦に関わるものだった。女性の場合は、検索キーワードのトップ100のうち9つまでが近親姦関係で、最も多く検索されたトピックは父と娘の近親姦に関わるものだった。
※1: 『性欲の科学:なぜ男は素人に興奮し女は「男同士」に萌えるのか(坂東智子訳、CCCメディアハウス、2012年)』Ogi Ogas, Sai Gaddam, and Andrew J. Garman, A Billion Wicked Thoughts(Penguin,2011),『誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性(酒井泰介訳、光文社、2018年)』Seth Stephens- Davidowitz and Andres Pabon, Everybody Lies: Big Data, New Data, and What the Internet Can Tell Us About Who We Really Are(Dey Street, 2017).
※2: 『誰もが嘘をついている』Stephens-Davidowitz and Pabon, Everybody Lies.
■映画の暴力は過激になりやすい
現実に近親姦を望む人がそれだけ多いということなのだろうか。おそらくそうではない。高齢の男性が無理矢理に、ということはあるが(その多くは継父で、実子ではない子を襲う)、親や兄弟姉妹、息子娘に性的魅力を感じる人が多い、という証拠はほとんどない。
どうやら現実にほしいものの代替物を求めている、というだけではないらしい。想像上の喜びは安全だが、安全なものは退屈になってしまうことがある。誰かが私のオフィスに来て、目の前で拳銃を振り回したとしたら、それはあまりに恐ろしいことだ。しかし、映画の中で誰かが拳銃を振り回したとしても、それだけでは退屈かもしれない。慣れてしまっているからだ。退屈にならないよう、映画の暴力は非常に激しいものになりやすい。
同じような「慣れ」はポルノグラフィーにもある。まだ性的経験もないティーンエイジャーであれば、魅力的な人が口にキスをしてくる、というだけでも興奮するだろうが、ポルノグラフィーを見すぎている人は、過激な描写を求めることがある。この本を家族で読む人もいると思うので、「過激な描写」が具体的にどのようなものかはあえて書かない。
■なぜ「近親姦ポルノ」は人気なのか
近親姦ポルノはおそらく、それがタブーであり、不穏当で衝撃的だからこそ人気があるのだと思う。ありきたりなポルノに飽きた人たちがより強い刺激を求めて興味を持つのだろう(実際に見られているものの多くは、家族とはいえ血のつながりのない人どうしのポルノであることにも注目すべきだ。確かにそれもタブーかもしれないが、血のつながった人どうしよりは自然だろう)。
同様のことは、流出映像、リベンジ・ポルノ、隠しカメラによる映像などにも言える――いずれも、映っている本人が撮影や公開に同意していないか、撮られていることを知らない映像だ。こうした映像を不道徳という理由で見ない人がいる一方、不道徳だから、禁じられたものだからという理由で興味を持つ人もいるのだ。
※3: 『心の仕組み(椋田直子、山下篤子訳、筑摩書房、2013年)』Steven Pinker, How the Mind Works(Penguin UK, 2003), 455.
■女性による検索の「4分の1」に共通点
他にも不穏なポルノはある。スティーヴンズ=ダヴィドウィッツの調査では、女性によるストレート・ポルノ(異性愛者向けのポルノ)の検索の実に4分の1が、苦痛――身体的苦痛と精神的苦痛――に関わるものだとわかった(※4)。
“brutal(残忍な)”、“painful(痛い)”といったキーワードで検索するものだ(5パーセントは“rape(レイプ)”、“forcedsex(強制性交)”といったキーワードで検索されていた。Pornhubではどちらも禁止となっているにもかかわらず検索する人がいる)。現実世界の方が男性の方がはるかに暴力的で、性的暴行も多くは男性によるものなのだが、このような検索をする頻度は女性の方が男性より2倍も高くなっている。
これはPornhubだけの話ではない。人がどのような空想を抱くかについては、様々なかたちで調査が行われている。
■「現実のための練習」説の真偽
では、なぜ空想なのだろうか。空想であれば、セックスすることによる不名誉を被ることも罪の意識を感じることもなしに楽しさだけを享受できるからではないか、という考えはある。だが、その論理でいけば、セックスの空想をする女性たちほど、そうでない女性たちよりも、セックスを恥じ、セックスに関することを口外しない傾向にあるはずである。だが実際にはその逆のことが起きている――セックスの空想をする女性ほど、多様なセックスを経験しており、幅広い種類の性的な空想もしているのだ。
では、この空想は現実のための練習である、という考えはどうだろうか。女性は男性に比べて性的暴行に遭いやすく――これは対処すべき非常に深刻な問題である――そのため、空想を通じて、実際に襲われた場合に備えていると考えることもできる。
※4: 『誰もが嘘をついている』Stephens- Davidowitz and Pabon, Everybody Lies.
※5: Joseph W. Critelli and Jenny M. Bivona, “Women’s Erotic Rape Fantasies: An Evaluation of Theory and Research,” Journal of Sex Research 45(2008): 57-70. For discussion, see Matthew Hudson, “Why Do Women Have Erotic Rape Fantasies?” Psychology Today, May 29, 2008, https://www.psychologytoday.com/us/blog/psyched/200805/why-do-women-have-erotic-rape-fantasies.
■性暴力を「空想」する人の心理
だが、この理論では、自ら進んでレイプの空想をする女性が多くいる理由を説明しきれない。女性たちは確かに普段から性的暴行についてよく考えている。
そうした犯罪のシナリオについて考えて性的快感を得る人はあまりいないだろう。クレジットカードが盗まれたらどうしようと考えて興奮する人などいない。レイプの空想は違う。それに興奮し、快感を覚える人がいるのだ。つまり空想は練習という理論は成り立たないことになる。
本当の理由を知っている人はおそらくいないだろう。私の推測を言えば、レイプの空想は文字通り、「空想」でしかないのではないか、ということだ。詳しく調べてみると、この空想は、実際の性的暴行とのつながりが乏しいものだとわかる。空想をした本人に説明してもらうと、空想の中のレイプはだいたいどれも同じパターンで、非現実的なものである(※6)。
襲って来る人物の多くは非常に魅力的であることが多く、身体的な苦痛も恐怖もなく、嫌悪感を覚えることもない。
※6: Cri telli and Bivona, “Women’s Erotic Rape Fantasies.”
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ポール・ブルーム
トロント大学心理学教授、イェール大学心理学名誉教授
道徳、アイデンティティ、快楽の心理学を探求している。学術誌『ネイチャー』や『サイエンス』のほか、『ニューヨーク・タイムズ』『ニューヨーカー』『アトランティック・マンスリー』にも寄稿している。著書に『ジャスト・ベイビー―赤ちゃんが教えてくれる善悪の起源』(NTT出版)、『喜びはどれほど深い?―心の根源にあるもの』(インターシフト)、『反共感論』(白揚社)などがある。
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(トロント大学心理学教授、イェール大学心理学名誉教授 ポール・ブルーム)

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