“実家じまい”をうまく進めるには、どうすればよいのか。自身の経験をきっかけに、実家にまつわる課題について発信を続ける大井あゆみ氏は「親が亡くなってから実家じまいしようと考える人は少なくない。
しかし“まだ早い”くらいがベストタイミングだ」という――。
■実家じまいは“まだ早い”タイミングから
「いつかは実家をどうにかしなければ」と思いながら、何から手をつけていいか分からず、行動に移せない方は多いのではないでしょうか。
私は2017年、両親が62歳のときに「実家じまい」をしました。「子どもたちの近くで暮らしたい」という両親の思いを実現するために、大分の一軒家を売却したのです。
「62歳で実家じまいなんて、早すぎない?」と驚かれることもあります。確かに、両親はまだまだ元気でした。ふたりとも仕事もしていましたし、大病を患った経験もありません。でも、だからこそ決断できたのです。
実家じまいは、家具や荷物の整理、売却先探し、親の住まい探しまで含めると、数日で終わるものではありません。場合によっては買い手が見つかるまで時間がかかり、住み替え先もすぐに決まるとは限りない。実家じまいにどのくらいの時間を要するか分からないからこそ、早めに取りかかる必要があります。
なかには、「親が亡くなってから実家じまいしよう」と考えている人も少なくないでしょう。
でも、そのときには自分も年齢を重ねて体力的にキツくなっているかもしれません。さらに実家が遠方だと足が遠のいて空き家化が進み、維持費ばかりがかさんでいく可能性もあります。
だからこそ、親も子も体力と気力があるうちに動くことが、結果的にいちばん現実的なのです。
私の経験からしても、実家じまいはまだまだ先の話ではなく、「ちょっと早いかも」というくらいから着手しはじめることをおすすめしたいです。今回は、私がこれまでお話をうかがった方のエピソードや私自身の体験をもとに、実家じまいのタイミングとその進め方についてお伝えします。
注:事例はプライバシー保護のため一部設定を変えています。
■例①父親が認知症になり意思が確認できない
最初にご紹介するのは、関東在住のAさん(50代)のケースです。
Aさんの父親(75歳)は、先祖代々受け継いできた長崎の実家で一人暮らしをしていました。公共交通機関がほとんどなく、買い物も通院も車が頼り。ところがだんだんと認知機能の低下が見られるようになり、車の運転はおろか、一人での日常生活すら危うくなってきました。
家族やケアマネージャーさんと話し合った結果、父親は施設に入所することに。父親の生活はなんとか安定しましたが、問題はその後でした。

「実家をどうするか」を決めなければなりません。でも、肝心の父親の意思がはっきりと確認できないのです。遺言書もなければ、父親の意思がわかるようなエンディングノートもない。「この家と土地をどうしたいのか」「何を残して、何を処分していいのか」。父親がしっかりしていたときに、きちんと話し合っておけばよかった――Aさんは何度もそう後悔したそうです。
先祖代々の土地となると、親戚との調整も必要です。父親本人の意思が確認できないまま、Aさんは今まさに難しい判断を迫られているところです。
■認知症は“8人に1人”元気なうちに話し合う
認知症は、誰にでも起こりうることです。内閣府「令和6年版高齢社会白書」によると、65歳以上の認知症有病率は12.3%と推計されています。これは、65歳以上の高齢者のおよそ8人に1人にあたる計算です。
「まだ元気だから大丈夫」と思っているうちに、親の判断能力が低下してしまうと、不動産の売却や相続の手続きが非常に複雑になります。
大切なのは、親御さんがしっかり判断できるうちに、実家をどうしたいのか確認しておくこと。
形式ばったものでなくても構いません。「この家はどうしてほしい?」「残しておきたいものはある?」そんな会話を少しずつ重ねておくだけでも違います。
もちろん、親御さんが元気なうちに実家じまいまで済ましておけるとベストですが、それが難しい場合でも「実家をこれから先どうしていきたいのか」ということを早めに家族で話し合っておくとよいでしょう。
■例②:空き家の維持費と片づけが想定以上に
次にご紹介するのは、都内在住のBさん(50代)のケースです。
Bさんの両親(70代)は、定年を機に「夢だった東京生活を経験したい」と、65歳のときに広島の実家を離れて東京へ引っ越しました。ただ、「最期は地元に戻って暮らしたい」という思いもあったため、実家はそのまま残すことに。Bさんたちきょうだいの荷物や家財道具も置いたまま、空き家状態が続きました。
ところが、築30年以上の実家はメンテナンスが必要になり、維持費は年間50万円近くに膨らんでいきました。固定資産税、火災保険、定期的な換気や草むしりの管理費、老朽化した設備の修繕費……「いつか戻る」と思って残していた実家が、家計の重荷になっていったのです。
家族で話し合った結果、実家を売却することに。思いのほか早く買い手がついたのですが、今度は片づけに追われることになったのです。両親も手伝おうとしてくれましたが、途中で体調を崩してしまいました。
きょうだい間でも「何を処分するのか」「誰が何を引き取るか」で意見がかみ合わず、なかなかスムーズに進みません。
結局、自分たちだけでは手に負えなくなり、業者に依頼することになりました。費用も時間も、予想以上にかかってしまったそうです。
■実家を残すと想像以上に「お金がかかる」
空き家の維持費は、一般的に年間20~50万円程度かかると言われています。固定資産税、火災保険、水道光熱費の基本料金、管理のための交通費や修繕費など、積み重なると決して小さな金額ではありません。そのため、売却を決めたのは賢明な判断だったと思います。
ただ、Bさんのケースでは「実家の片づけのタイミング」と「家族間の意思疎通」が問題でした。
家の売却が決まってから慌てて片づけるのは、体力的にも精神的にも大変です。特に親御さんの体力が落ちてからでは、手伝ってもらうことも難しくなります。また、きょうだいがいる場合は、実家にあるモノをどうするかについて、事前に話し合っておくことが欠かせません。
「いつか片づけよう」「いつか話し合おう」と思っているうちに、状況は少しずつ難しくなっていきます。親御さんも自分たちも元気なうちに、要らないものの処分を進めておくことをおすすめします。

■苦労した「両親の転居先探し」
ちなみに私の場合、実家の片づけや売却自体は比較的スムーズに進みました。すでに水回りのリフォームや、床・壁紙の補修を終えていたこともあってか、売却価格は予想を上回る1150万円でした。大分市内とはいえ最寄駅から徒歩45分、市街地までは車で30分くらいかかる立地で、築32年の戸建てという条件を考えると、良い結果だったと思います。
ところが、思わぬところで苦労しました。両親の新しい住まい探しです。「62歳ならまだ若いし、すぐ見つかるだろう」と思っていたのですが、現実は違いました。
両親は収入もあり、引っ越してからも働く意欲があったにもかかわらず、契約の段階で年齢面から「審査に通らない可能性がある」と言われたのです。そのため、いい物件が見つかっても、いざ契約の話になると「ご両親の年齢を考えると難しい」と何度も断られました。結局は私の名義で契約し、弟に保証人になってもらうことでなんとか借りることができたのです。
救いだったのは、契約時に両親の元気な姿を見て、不動産会社や大家さんが安心してくださったこと。私の自宅から徒歩5分という近さも、「何かあればすぐ駆けつけられる」という安心材料になったようです。
ある調査によると、65歳以上の高齢者の約4人に1人が、年齢を理由に賃貸住宅への入居を断られた経験があるといいます。
一般的に、年齢が上がるにつれて、賃貸住宅の選択肢は少しずつ狭まるともいわれます。もし両親がもっと高齢になってからの住み替えだったら、住まい探しはもっと困難を極めていたかもしれません。
■実家じまいのトラブルを回避するために
これらの事例を踏まえて、トラブルを未然に防ぐためのポイントをまとめます。
1.親が元気なうちに「意思」を確認しておく
実家をどうしたいのか、何を残したいのか。親御さんがしっかり判断できるうちに、意思を聞いておくことが何より大切です。エンディングノートを活用するのもひとつの方法です。
2.きょうだいや親戚間で話し合っておく
きょうだいがいる場合は、「実家をどうするか」「誰が何を引き取るか」を事前に話し合っておくことが大切です。また、いわゆる実家が“本家”の場合、自分たちだけでなく親戚の同意も必要かもしれません。意見の相違は、後になればなるほど解決が難しくなります。
3.住み替えを検討するならできるだけ早めに
実家じまいをして賃貸住宅への住み替えを視野に入れるなら、できるだけ早めに動き始めることをおすすめします。賃貸住宅への入居は、年齢が上がるほど難しくなります。審査の厳しさはもちろんのこと、住み慣れた土地を離れて新しい生活に順応しやすい元気なうちに住み替えできるようにしておきましょう。
4.片づけは早めに進めておくとベスト
親御さんがしばらく実家に住み続ける場合でも、片づけは早めに進めておくことをおすすめしたいです。モノがあふれた家は、落下物やつまずきなど事故のリスクもあります。Bさんのケースのように、売却が決まってから慌てるのは想像以上に大変です。親御さんが元気なうちに、使っていないモノから一緒に整理しておくとよいでしょう。
5.空き家の維持費を把握する
さまざまな事情から「とりあえず実家を残しておく」という判断をすることもあるかもしれません。その場合は、前もって年間の維持費を試算しておくことをおすすめします。どのくらい金額がかかるのか、その費用をどのように捻出するのかも家族で話しておくとよいでしょう。
■実家じまいの切り出し方
ただ、そもそも実家をどうするかという話題を「親になかなか切り出せない」という声も多く聞きます。そこで、話を切り出すときのヒントをいくつかご紹介します。
1.「自分ごと」として話を始める
「『将来、この家どうしようかな』って最近考えることがあって……」といった形で、自分の悩みとして持ちかけると、親御さんも構えずに聞いてくれることが多いです。
■実家じまいは日常の中で“少しずつ”話す
2.身近な人のエピソードを持ち出す
親戚や友人など身近な人が、実家じまいや遠距離介護などで苦労した話を持ち出すと、「うちはどうする?」という流れになりやすいです。私の家の場合も「母のいとこが遠距離介護で鹿児島と名古屋を行き来している」という話が実家じまいのひとつのきっかけになりました。
3.帰省時に切り出す
実家に滞在しているときは、話を切り出しやすいタイミングです。「庭の手入れ、大変じゃない?」といった日常の話題や、床・壁・水回りなど家の劣化が気になったときに、「この家、これからどうする?」と話を広げることができます。
4.日常の会話の中で少しずつ話しておく
私の場合、母とのLINEや電話での日常会話も大きなきっかけでした。「東京で一緒に買い物に行けたらいいね」「スープの冷めない距離に住めたらいいね」といった話を少しずつしていたので、自然な流れで「元気なうちに実家じまいをしよう」という話になったと思います。
■「まだ早い」と思えるときがベストタイミング
実家じまいは、「親が元気なうちに」がキーワードです。意思確認も、住み替えも、片づけも、親御さんに判断力と体力があるうちなら選択肢は広がります。
そして、親と同じだけ子どもである私たちも年齢を重ねていきます。自分自身も気力と体力があるうちに動くことが、将来の自分のためにもなるのです。だからこそ、実家の片づけや実家じまいは、早めに着手することをおすすめしたいです。
「まだ早い」と思える時期こそが、実は一番動きやすいタイミング。この記事が、ご家族で実家の将来について話し合うきっかけになったら嬉しいです。

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大井 あゆみ(おおい・あゆみ)

WEBマガジン『実家のこと。」編集長/エディット合同会社 代表

1980年、大分県生まれ。両親・祖母・弟と5人で暮らす家庭で育つ。大学進学を機に上京し、そのまま東京で就職。会社員を経て、2009年にフリーライターとして独立。2017年に実家じまいし、当時60代だった両親を大分から東京に呼び寄せることに。実家じまいから親の上京に至るまでの経験をもとに、2020年『両親が元気なうちに“実家じまい”はじめました。』(光文社)を出版。「親が元気なうちにこそ、家族で実家やこれからの暮らしを話し合うこと」の大切さを伝えたいという思いから、2024年に「実家のこと。」を立ち上げた。終活アドバイザー、実家片づけアドバイザー®1級取得。

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(WEBマガジン『実家のこと。」編集長/エディット合同会社 代表 大井 あゆみ)
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