2025年に日本国内で放送・配信されたドラマで、評価するべき俳優はだれか。ドラマ偏愛コラムニストの吉田潮さんが作成した「2025年俳優ランキング」を紹介する。
第3回は男優女優混合のワースト5――。(第3回/全3回)
■元TBSアナの衝撃的な演技
好演、熱演、名演。適役、大役、ハマリ役。これらの言葉と残念ながらご縁がなかった俳優陣を「ワースト俳優ランキング2025」としてまとめてみた。今回は、本人の技量の問題ではなくて「ミスキャスト感」「過剰演出」を覚えたケースも多い。主観と偏向甚だしく、今年もお届けしよう。
5位 宇垣美里 -20点
衝撃の棒読み&感情排除の説明口調は聞き取りやすさ抜群
元アナウンサーで多趣味・博識の印象がある宇垣美里が、ちょこちょことドラマに出ていたのは知っていたが特徴は見出せず。そしてまさかの主演作『できても、できなくても』(テレ東)を迎えたわけだが、なかなかの衝撃を受けた。
自然妊娠できない不妊症と診断を受けても、7年付き合った婚約者で勤務先の社長の息子(渋谷謙人)に不妊が理由でフラれても、そのことを社内でアウティングされてゲスい噂にされても、鼻持ちならない後輩(樋口日奈)に「女失格」と揶揄されても、ほぼセリフはなく表情も固いまま。「え、大丈夫か?」と思った初回。
伏し目がちで愛想笑いするか、微振動とまばたきで戸惑うか、目を見開くだけ。喜怒哀楽を表に出さないタイプだとしても、主人公ならもうちょっと漏らそうよ。
酔って強引にナンパされかけたところを救ってくれて、一夜を過ごしたイケメン(山中柔太朗)が実はお隣さんっつう……雑な展開で恋が始まるわけだ。
滑舌のよい棒読みは逆に聞き取りやすくて、年寄りに優しい。さすが元アナウンサーだなと変なところで感心したが、表情が乏しいのは致命的だ。初々しいとか新鮮とか言ったほうがいい? 田中みな実の「決して適役ではないのになりふりかまわず振り切ってなりきる図々しさと鉄の心臓」を見倣え、とまでは言わない。でも苦言を呈してくれる玄人を身近に置くべきだと思った。
■55歳が整形して25歳という設定は…
4位 齊藤京子 -30点
「中身55歳の水野美紀」を演じるには技量と迫力不足
『娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?』(関西テレビ、フジ系)は、娘を死に追い込んだママ友たちに、全身整形で別人になりすまして復讐をするっつう物語。
55歳設定の水野美紀が全身整形したら25歳の齊藤京子に……骨まで切ったんかい! とツッコんじゃってね。もうドラマ界では暗黙の了解で、まったく似ていなくても親子を演じさせることは多々ある。美容整形の技術がいくら進んだといえ、身長や骨格に手を入れるのはなかなかやで、と重箱の隅をつつきたくなってしまった。
シュッとした美人系の水野がすんとしたカワイイ系の齊藤へ、その無理めな変身もさることながら、やっぱり迫力不足は否めなかった。広瀬アリスだったら満場一致で「アリ!」となったかもしれず。あるいは、元が水野美紀ではなく、いとうまいこか池脇千鶴あたりだったら納得いった? 最もしっくりいくのは女装した山崎育三郎というトリッキーな策だ。

ドラマにおける相似形問題は些末ではあるが、系統を近づけることは説得力をもたらす重要なファクターであると改めて思った。
■「ばけばけ」で好演する俳優が7位に
3位の前に次点を。6位は相変わらず昭和平成風味をがっつりまとうのが藤原紀香。『家政婦クロミは腐った家族を許さない』(テレ東)で演じたのは、セレブ一家の母親役。整形してビジネスが軌道に乗って成功した女という設定は適役だが、どこか芝居がかっていてね。
7位は今や人気俳優でニュース番組でもまっとうなコメントを期待できる板垣李光人。満を持して挑んだSF大作『秘密』(関西テレビ製作、フジ系)は厳しかった……。
清水玲子の漫画原作で、キャラクター的にはかなり近似値だとは思うが、漫画と実写化の壁は思いのほか高かった。キャンキャン吠えているようにしか見えず。ただし『しあわせな結婚』(テレ朝)や朝ドラ『ばけばけ』で演じた愁いあるボンボン役は李光人にしかできないと思ったので、+10点の挽回に。
■まだまだ恋愛ドラマにいる深田恭子
8位の岩田剛典は、逆に漫画のキャラに近づけようとしたのか、もっさりしてしまった残念感が。『DOCTOR PRICE』(読売テレビ制作、日テレ系)で医師専門の転職エージェントを演じたが、髪型が明らかに浮いていた。
ロン毛は必須だった? このドラマ、「一般病棟より療養型病院のほうが延命治療だけで、医師の手間が少なくて儲かる」など、実に興味深い医療現場の疲弊と本音と闇が晒されて面白かったんだけどな。
9位は野村康太。『ディアマイベイビー』(テレ東)で松下由樹演じる狂気のマネージャーに翻弄される新人俳優の役。いや、新人だからこれでいいと思う部分もあるが、由樹姐さんの怪演が激しすぎて完全に気圧された感も。そりゃ勝てんわな。
10位はまだまだ恋愛ドラマ市場に居座る深田恭子。『初恋DOGs』(TBS)で若い衆を温かく見守る姐さん的存在かと思いきや、まだ恋愛市場のど真ん中にいるわけさ。そこは若い衆に譲って……とはいかないホリプロの意地。唇と顎関節の可動域が年々狭まってきているのがちょっと心配。ということで、トップ3へ。
■作品に恵まれなかった「あおい」
3位 森川葵 -40点
ヒロインに説得力がない、日本のドラマの悪しき典型
おとり捜査がメインの警察モノ『スティンガース』(フジ)では、警察庁のエリートで、FBI帰りのキャリア警視をきゅるんとかわいい森川葵が演じた。タイミングとしては、ちょうど警視庁が特殊詐欺対策として「仮装身分捜査」を導入し、検挙に成功したと言うニュースもあったので、興味深く観はじめたのだが……。
「お遊戯会か文化祭かい?」と。
日本のドラマに多いパターンね。聡明かつ経験豊富で苛烈な競争を生き抜いてきたはずのエリートを、緊張感も説得力もリアリティももたないかわいこちゃんが演じる、ザッツジャパニーズエンターテインメント。
森川葵は、主演作『プリンセスメゾン』(2016年・NHKBSP)がとてもよかったのだが、今回はお祭り騒ぎの神輿に乗っかっちゃったがゆえに滑った印象も。
こじつけだが、2025年は他の「AOI」が大活躍だった。視聴ノートにメモをするとき、AOIの文字を何度も書いた記憶が。大河『べらぼう』や『東京サラダボウル』(NHK)で好演した中村蒼、『ちょっとだけエスパー』で超キュートな妻を演じた宮﨑あおい、『ホンノウスイッチ』『すべての恋が終わるとしても』(テレ朝)で切ない恋愛モノを得意ジャンルとした葵わかな、湊かなえの問題作『人間標本』(PrimeVideo)や『八月の声を運ぶ男』(NHK)で好演した伊東蒼など。
森川もきっとまた良作に巡り合えるはずと信じている。
■存在感の薄かった国民的アイドル
2位 相葉雅紀 -40点
座長としては力不足、曲者&大物多めで大崩壊
大追跡』(テレ朝)は、ベテランで固めてシリーズ化を目論んだようにも見えたが、主演の魅力が、というか影が薄かった。
相葉雅紀は元証券マンで頭脳明晰、中途採用でキャリア組の刑事という役どころ。しかも伯父が内閣官房長官(佐藤浩市)。優秀で影響力の大きい新人というけれど、どうにもこうにも影が薄くてね。
もうちょっと主張してもよかったんじゃないかと思うほど、存在感が弱かった。
民間企業にいた経験から偉ぶらない穏やかさがあるのはわかったけれど、逆に捜査一課の漫才コンビが悪目立ちしちゃってね。遠藤憲一はテレ朝史上最も情けなくて頼りない警視庁捜査一課長だったし、松下はコメディタッチに邁進しすぎて逆に新鮮だったし。エンケンと松下が官房長官の甥である相葉に気を遣いまくって、空回りする構図ばかりが記憶に残ってしまったよ。
■私が白目をむいたNHKドラマ
1位 綾瀬はるか -40点
独身女の焦燥感や危機感や諦観をポップで濁した主犯
切れ味鋭い皮肉やシュールな思考回路が秀逸なカレー沢薫の原作漫画がドラマ化、しかもNHKで。期待したのだが、主演が綾瀬はるかと聞いて、口をつぐんでしまった。なんかちがう……。40手前の独身女の憂いとか焦燥感とか諦観とか、作品のえぐみやリアリティがなくなってしまうのでは、と。
案の定、綾瀬はめちゃくちゃかわいかった。ヒロインは危機感も責任感もない、何にも考えずに推し活に励む39歳だから、いいのかもしれない。でも「独身だった叔母が風呂場で孤立死し、腐乱死体を通り越して汁になっていた」現実を目の当たりにし、自分の終活、いやその前に親の終活だと真剣に考え始めるには、綾瀬はあまりにポップすぎた。
セリフの皮肉や毒は活かされているものの、「かわいい」「ポップ」でくるみすぎて、鋭さや切なさが格段に目減りした。
いや、母親(松坂慶子)とラップバトルってなんだよ! 途中で白目むいちゃったよ。
■「綾瀬だからよかった」という声も
ただ、「綾瀬だからよかった」という私の友人の持論も記しておこう。「あれをくたびれた中年が演じていたら観なかった」という。どう考えても無理ゲーで不安しかない老後の憂いをシリアスに描いたら、いやな気持ちにしかならんと。なんも考えていないような、つやつやの綾瀬が演じることでオブラートに包み、見やすくなって間口を広げたという。なるほど……。NHKの戦略、そういうことだった?
とらえかたは人それぞれ。演技というよりも、演出の問題ではある。私は意地悪く、別の俳優を頭の中に描いたりもしたのでね。
もう1作『べらぼう』での加点減点になった経緯も触れておこう。語りとして、綾瀬の声は濁りがなくてわかりやすかったし、適度な解説っぷりは非常に助かった。が、吉原の九郎助稲荷の化身としてスマホもって登場したときは、「?」と思った。これは演出の問題だが、綾瀬だけがファンタジーかつ現代の令和に媚びた存在で悪目立ちしたようにも思えた。が、最終話で「死神」的な役回りをはたしたことに納得がいったというか、腑に落ちた。落語のようなオチだが、江戸のファンタジーで幕を閉じることができたから。結果、プラマイゼロ。
もっと超ド級の棒演技とか、平坦まっしぐらの棒読みとか、華麗なミスキャストとか、残念な役者が2026年もひょっこり現れることを期待して、筆を置く。

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吉田 潮(よしだ・うしお)

ライター

1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)
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