■超高級ホテルをお得に堪能するなら
パリ出張時、私は途方に暮れていた。久しぶりのパリ、仕事とはいえ大いに堪能しようと息巻いていたのに、訪れて気がついた。なんという物価高、なんという円安地獄……。
張り切って予約していたホテルは、自分では割と奮発したつもりだったにも関わらず、日本のビジネスホテルに毛が生えた程度の部屋だった。
カフェで朝食をとれば数千円、ランチは1万円を超え、ディナーともなると、庶民的なビストロでもワインの酔いが覚めるような価格。ため息をついていた時に、たまたま同じタイミングでパリに来ていた知人から連絡があった。
「パリにいるの? 『オテル・ド・クリヨン』で会わない?」
それはコンコルド広場に面した超高級ホテル。かつてマリー・アントワネットの宮殿だった豪華絢爛な建物だ。そこに宿泊しているのかと聞いたら「まさか! でも泊まらなくても十分堪能できる方法があるんだよね」という。どういうことか?
一泊料金を調べてみると約30万円(当時)。ちなみにこの原稿を書いている今日の価格は39万8000円だ。
■普段づかいの富裕層と肩を並べる
「泊まるなんて無理だけれど、バーでお酒を飲むだけでも十分に価値がある」と知人は言う。騙されたつもりで、多少の敷居の高さを勇気で突破して訪れたところ、果たしてそれは本当だった。その日我々は2杯ずつのカクテルを数千円支払って大いに堪能した。それでも高額といえば高額だが、しかし、超高級ホテルのバーに集う人々の様子をじっくり観察するという貴重な機会も得たのだった。隣席でノートPC片手にノンアルコールと思しき一杯を楽しんでいた地味な中年男性はカナダ人で、聞けば彼も出張族。「このホテルには2週間ほど泊まっている」と聞き(宿泊費だけで何百万になるのか……)、見た目はスティーブ・ジョブスっぽい雰囲気の奥に海外富裕層のパワーを感じずにはいられなかった。
■高級ホテルほどゲストに優しい場所はない
パリの体験は、文字通り私の眼からウロコをこそげ落としてくれた。泊まるのが難しいからといって、自分なんてお呼びじゃないなどと考える必要はないのだ。さらにこのことは、ケチではなく賢人として、柔軟に高級ホテルや一流レストランと付き合う術(すべ)を示してくれているようにも思う。
そんな視点で周りを眺めれば、少ない投資で最大限の感動体験を与えてくれる場所はたくさんある。パリと同様、最高級ホテルのバーはその最たる例だろう。
面白いところでいうと、2025年10月に名古屋城横に満を持してリニューアルオープンした「エスパシオ ナゴヤキャッスル」内にある「THE BAR CASTLE(ザ バー キャッスル)」。お堀を挟んで目の前が名古屋城という稀有なロケーションにあり、客室やレストランから美しい城が一望できる。宿泊料金はパリの「オテル・ド・クリヨン」に引けを取らないが、バーなら利用しやすい。目の前には白く輝く名古屋城がそびえ立ち、一人で訪れても城を話し相手に、しみじみとお酒が楽しめる。
東京駅八重洲の「ブルガリ ホテル東京」は、2023年春にオープンして早々にミシュランガイドのホテル版「ミシュランキー」で最高位の3ミシュランキーを獲得して話題になった。ここも気軽に楽しもうと思ったらアフタヌーンティーもいいけれど、やはり「ブルガリ バー」がおすすめだ。美しいインテリア、45階の高さから望む窓の外には東京アスファルトジャングルが広がり、非日常を絵に描いたらここだろうと思わせるエレガントな空間。泊まれたら最高だろうが、ここで早い時間からアペリティーボ(イタリア語で夕刻のお酒&軽食をこう言う)を楽しめば、それだけでも憂さ晴らしには十分だ。
■重要文化財の中でスイーツを堪能という手も
経済的に楽しめる高級体験として最近感動したのは、京都のホテル「長楽館」もその一つ。円山公園横に居を構えたのが1909年のことで、築115年を経て2024年の秋、この豪奢な建築物は国の重要文化財に指定された。さらには2025年6月に、世界的な高級ホテルグループ「スモールラグジュアリーホテルズ」に加盟し、いまだに京都生まれでも知らない人も多いという客室数たった6部屋のオーベルジュは、「国のお宝の中で過ごしたり食事したりできる」というユニークな存在となった。
客室から見晴らす古都の景色や宿泊客しか味わえない贅沢な朝食も堪能したいところだが(シーズンオフなら一泊10万円を下回る日もある)、“外来”でも十分に満喫できる。
レストランも素晴らしいが、「お得」という観点からおすすめなのはカフェだ。昔の建築物らしく「貴婦人の間」「絵画の間」といった名が付けられた純洋風の部屋が幾種類かあって、席は自由に選べる。ここで紅茶とケーキを注文しても3千円台。いささか費用対効果が高すぎないかと心配になるほどだ。
■星付き店よりビブグルマンが満足を確約
さて、ホテル&バーからレストランに話を移そう。「バーやカフェではなく食事がしたい。しかも高級体験をお得に」という方も多いだろうと思う。
しかしその前に考えていただきたいことがある。それは「高級」「贅沢」の定義をご自身がどこに置いているかだ。
訪れたいのはミシュランの星を持つ店なのか、予約困難で何カ月も待たなければならない人気店なのか、それともA5和牛の肉寿司の上にウニやキャビアを載せて出すようなキワモノ素材勝負店なのか。さらに、自分にとっての「高級」「贅沢」の定義が食事を共にする同行者とも同じでなければ悲劇を生む。
筆者が考える「高級で贅沢な店」は、オケージョンや相手、目的によって違う。定義づけは出来ない。しかし、ビジネスや友人同士との場であれば、誰もが喜ぶ最大公約数的ポジショニングを考えて店を選ぶのが得策ではないだろうか。
一人数万円を超える高級店は、趣味嗜好を同じくする人とでなければ料理に集中できないだろうから、懇親会や初対面の食事には不向きだと思う。本当に行きたい高級店は一人で行くのが最も幸せ、というのが筆者の持論だ。
脱線したが、「わかりやすいおいしさ」「気負いなく楽しめる雰囲気と価格」「手慣れていると思わせる店選びのセンス」の3つこそ、コストパフォーマンスの高い名店と言えるのではないだろうか。
その点、「ミシュランガイド」に掲載されている「ビブグルマン」のリストはハズレが少ない。星の数ではなくバリューの有無で評価されるのがこの賞であり、筆者の肌感覚にはなるが、星付き飲食店よりもビブグルマンを持つ飲食店の方が、安定感があって常時客で賑わっている感がある。要するに「お得でいい店」揃いなのだ。
■「頑張りすぎていない感じ」が居心地の良さ
例えば、2025年1月のオープンながら「ミシュランガイド東京2026」でビブグルマンを獲得した中国料理とワインの店「新楽記」という中国料理店がある。場所は新宿区・四谷三丁目駅から徒歩10分弱という閑静な住宅街の中にあり、お世辞にもものすごく行きやすいとかわかりやすいとは言えないのだが、それでもこの店の価値・居心地の良さは、最初に訪れた時からグッとくるものがあった。
料理はおいしいし、ワインも珠玉のものが揃っている。そして、誤解を恐れずに申し上げると、この店の「頑張りすぎてない感じ」がまた、居心地の良さに拍車をかけている。要するに、一口食べた瞬間に深淵なる美味に絶句して涙をこらえて黙り込む……ようなことはないので、テーブルを囲む人たちとの会話が弾み、あぁ楽しい夜だったと思わされてしまうのだ。
いや、本当は店の方々は陰ですさまじく努力し、頑張っていらっしゃるのかもしれない。しかし、それを感じさせない美学というか、さりげなさが終始心地良く、これこそビブグルマンたるゆえんではないかと一人納得している次第。気づけば次を予約してしまう。老若男女客層が幅広いという“いい店の条件”を押さえている名店だ。なぜそれがいい店の証明になるかというと、店の魅力が一部分に偏っていないからこそ客層が特化しないと思っている。
同じく2025年7月オープンでビブグルマン店となったモダンベトナム料理店「ナイトマーケット」もおすすめしたい店。シェフの内藤千博さんは三つ星フランス料理店で副料理長を務めるまでになった後に、ベトナム料理の道へ進んだ異色の経歴を持つ。
店内の雰囲気は、一見するとおしゃれで若い。メニュー表を見れば、これまた洒落た感じが伝わってくる。
■ハシゴ技でカロリーと出費をセーブする
コストカットしつつ「店選びのセンスが素敵」と思われたいなら、昭和の酔っぱらいとは一線を画す、新時代の「ハシゴ酒(食)」はいかがだろうか。
筆者はつい最近、酒販店で働くプロフェッショナルの酒テイスター、富裕層をターゲットにEC(イーコマース)業に勤しむ百貨店担当者と食事したのだが、彼らの店選びがこのスタイルだった。
オープンして間もない話題の飲食商業施設のカウンター割烹に集合し、2時間おきに店を代わるという飲み方・食べ方で、落ち着けないのではと思っていたのも杞憂。その場でおすすめやスペシャリテをさくっと食し、飲み、はい次へというリズム感の心地良さが新鮮だった。次の店も律儀に予約してあって、カジュアルな店と丁寧に向き合っている感じも好印象だった。そして途中でいったん場を締めるため、出費やカロリー、アルコールにもほどよくセーブがかかるのだ。結構飲んだ気がしたが、会計の数字は財布にも心にも優しく、さらにギュッと濃い体験ができた感じも楽しかった。
飲食商業施設も良いが、居酒屋街やのれん横丁的なエリアでもこのスタイルは使える。2時間おきではなく1時間勝負を繰り返すのも良いかもしれない。
■超高級店のオンラインショップは外さない
一目置かれるおいしい体験のコストカット術として最後におすすめしたいのは、高級飲食店が手がけるオンラインショップだ。
マダムやシニア女性であれば「すでにこんなのは当たり前」という人も多いだろうが、私が敢えておすすめしたいのは、お取り寄せとは無縁に生きてきた男性たち。こんなに熱くお得で、話題性に富んだ飲食世界はそうはないのだ。
売り上げの上限がある程度決まってしまう飲食店にとって、余剰利益を生んでくれるオンラインショップは、今や目をつぶってはいられない存在。特に日本料理店や中国料理店がこれに長けているように感じる。
年末年始などの家族との時間はもちろんのこと、日常、気のおけない友人同士で何かおいしいものをと考えている時、いっそレストランに行くのではなく超高級店の鍋料理やコース料理をオンラインショップで入手してみてはいかがだろうか。
一例になるが、京都の日本料理店グループ「和久傳」は、最高峰の「高台寺和久傳」のディナー価格が一人5万円を超える高級店だ。この店はオンラインショップも充実していて多彩な商品が選べるのだが、例えば季節限定商品「合鴨鍋(二人前)」は1万2960円。野菜、鴨肉、鍋つゆが美しい竹籠入りのセットになっていて、どう考えてもお得だ。和久傳の空間や美学を丸ごと味わえるわけではないが、それでも緊張感ゼロの自宅で、料亭では頼みにくい好きな飲み物を合わせてワイワイ楽しめるのだからこれはこれで素晴らしいではないか。
ちなみに筆者も年始に届くように京都の某高級日本料理店のオンラインショップから予約を済ませた。購入したのは七味。この店は飲み物を含むと一人数万円はかかるのだけれど、オンラインで購入できる店手作りの七味は1本1080円。これを年賀のお土産にお渡ししたら、相手はどんな顔をするだろうか。こちらの下心の大きさも、商品の希少性と確かな味わいがうまく消してくれるのではないかと、今からホクホクしている。
ホテルを楽しむのもレストランを選ぶのも、お金さえかければ良いということは決してない。一見ひるんでしまうような高級ホテルにも今の自分を受け入れてくれる接点が必ずあるし、大切な人を予約困難の高級レストランにお連れするより穴場の居酒屋で大いに感動してくれる確率の方が高かったりするのだ。世界でも稀に見る飲食パラダイス、日本にいるのだから、ぜひとも隅から隅までおいしい体験を味わっていただけたらと思う。
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山口 繭子(やまぐち・まゆこ)
食のディレクター
神戸市出身。『婦人画報』『ELLE gourmet』(共にハースト婦人画報社)編集部を経て独立。主に飲食店やホテル、食に関するプロジェクトのディレクションや執筆活動を行う。訪れた飲食店や食した料理などについてはSNSで発信を続けている。著書に自身の朝食トーストをまとめた『世界一かんたんに人を幸せにする食べ物、それはトースト』(サンマーク出版)がある。
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(食のディレクター 山口 繭子)

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