大学受験を成功させるために、親はどうすればいいのか。東大生作家の西岡壱誠さんは「これまでの親の経験だけで、今の大学受験を語るのは危険だ。
総合型選抜や学校推薦型選抜が増加しており、勉強方法や対策がまるで異なるからだ」という――。
※本稿は、西岡壱誠(著)、じゅそうけん(監修)『知らないと合格できない 令和の受験のフツウ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「親の理解がない」と、不合格になる時代
令和の時代の受験事情は、昭和や平成の時代とは本当に大きく変化し、また変化し続けてもいます。総合型選抜入試による受験も増えた令和の大学受験の中では、親の不理解によって子供が大学に不合格になってしまうケースが後を絶ちません。今回は、令和特有の受験事情を紹介します。
最近の大学入試において受験生が不合格になるパターンの1つに、「親の不理解」というものがあります。
当たり前ですが、99.99%の親は子供の受験における合格を祈っていることでしょう。合格してほしいと思って食事を作り、合格してほしいと思って学校や塾に子供を送り出し、合格してほしいと思って声を掛ける。これらは普通のことですが、この令和の時代には親が受験についての知識が少なく令和の受験に対して不理解なことがあるせいで不合格になってしまうようなケースが、かなり多くなっているのです。
なぜそんなことが発生するのか。それを説明するために、1つのケースを紹介します。
■「バスケ部所属」は将来のためになるか否か
中高一貫の中堅都内私立校に通うAくん。
彼は中学からバスケットボール部に所属し、毎日練習に励んでいます。その分、勉強の成績は学校内で「中の下くらい」。そんな中で、高2の2学期には少し成績が下がり、親としては不安が募りました。「大学受験のことを考えると、無理にでも今の時期にバスケ部を辞めさせて、高2の3学期からは受験勉強に専念させるべきではないか?
Q あなたがAくんの親なら、どちらを選びますか?
1.Aくんにバスケ部を辞めさせる

2.Aくんにバスケ部を続けさせる
多くの親御さんにこの質問を投げかけると、この状況では「1」の方がよいのではないかと答える人が少なくありません。理由はシンプルで、「バスケを続けたって将来のためにはならないが、勉強は将来のためになる。だから、多少子供に恨まれてでも辞めさせるのが親の役割ではないか」と考えるから、とのことです。
しかし、多くの受験生を指導する先生方や令和の受験に詳しい塾講師の方にお話を聞くと、この場合に「1」を選ぶのはむしろ危険だという見解を持っている場合が多いです。
その理由は2つです。1つ目は、親が無理に介入して部活を辞めさせること自体が、子供の主体性を奪い、親子関係に亀裂を生む危険があるからです。本人の意思がないまま活動を打ち切られることで、勉強に専念するどころか、反発や無気力を招き、逆効果になることが多いということです。これは普通に多くの人が思い付くことだと思います。
■「6年間続けたこと」はアピール材料になる
しかし、それ以上に大きな問題は2つ目にあります。
それは、親は「大学入学の可能性を広げるために辞めさせる」と考えているけれど、令和の受験においては、それがむしろ「大学入学の可能性を狭めてしまう可能性が高い」ということです。
令和の時代には、一般入試だけでなく、総合型選抜入試での大学受験も割合が非常に増えています。文部科学省が発表しているデータによれば、大学全体の選抜方法として一般入試は47.1%、総合型選抜と学校推薦型選抜の合計は52.9%となっており、過半数を超えています。ペーパーテストで受験をする人の割合は、むしろ少数派となっているのが実情です。この割合はどんどん広がっていますから、26年度入試や27年度入試ではますますこの傾向が強くなっていくでしょう。
(文部科学省「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究 調査報告書」)
そして、もし仮に選抜入試での受験を検討する場合、高校時代にどのような経験を積み、それを大学での学びにつなげられるかが評価されます。バスケ部のように1つの活動を中高6年間続けたという事実は、たとえインターハイに出場していなくても十分アピール材料になるのです。
■部活を辞めると、「物語」を語るチャンスが失われる
特に、部長や副部長など役職を担った経験や、仲間をまとめた経験は、志望理由書に具体的に書くことができる場合が多いです。
「部活で後輩を指導するうちに、人に何かを伝えることの面白さを知った。だから教育学部を志望する」「チームで勝利を目指す中で、戦略やデータ分析の重要性を感じた。だから経済学部や情報学部に進みたい」
こうした形で、自分の経験を大学での学びにつなげることができるのです。ところが、親が「部活は無駄だから辞めなさい」と止めてしまうと、このような“物語”を語れるチャンスが失われてしまいます。

昔の大学受験を知る親にとっては、「勉強時間を増やすこと」こそが最優先に映ります。しかし現代の大学入試では、「どんな活動を通じて学びの文脈を作ってきたか」が重視されます。ここを理解していないまま昔ながらの受験観を押し付けてしまうと、せっかくの総合型選抜のチャンスを奪ってしまうのです。
実際に、部活動や探究活動を途中で辞めさせられたことで、志望理由書に書けることがなくなり、総合型選抜の出願資格を満たせなくなってしまう生徒も少なくありません。つまり、親の“善意の介入”が、子供の進路を狭めてしまうことも多いのです。
■「一般入試」と「総合型選抜」の併用は多い
さて、別の「親が子供の受験を邪魔してしまうケース」を紹介します。先ほども紹介したように、一般入試以外のテストの割合がどんどん増えてきている令和の大学受験においては、一般入試と総合型選抜入試を両立して受験するケースが多くなっています。一般入試も総合型選抜入試も受験し、両方で第一志望の大学合格を目指すという戦略が非常に多いのです。
そしてこの戦略を取る場合、大学受験のスケジュールが昔とは大きく異なってしまいます。
総合型選抜入試の本番は高校3年生の9月から12月に集中して行われます。例えば9-10月に志望理由書を提出し、その志望理由書で1次選抜を合格したら、11月に面談などが行われ、12月に合格発表……そんなスケジュールで行われる場合が多いです。
12月に合格発表があるため「年内入試」なんて呼ばれたりもしますが、その後もし第一志望に不合格になってしまった場合には、そこから1月に一般入試で共通テストを受験し、国公立大学の場合は2月に2次試験を受験する……そんなスケジュールでの受験をする人が多いのです。

■「総合型」の対策は、決して楽ではない
この「一般入試と総合型の受験スケジュール両立」というのは非常に難しいことです。例えば、高校3年生の2学期といえば昔は一般入試の最後の追い上げを行っている時期でした。
しかし、総合型選抜入試を受験する場合には、この時期に志望理由書の仕上げや面接対策、小論文の練習、プレゼンテーションの準備などで時間を取られ、ほとんど一般入試の勉強に手を付けられなくなることが多いです。「夏休みが終わってから過去問を解こう」と思っていても、実際には総合型の準備で忙殺され、気づけば時間がなくなっていた、という事態になってしまうこともあります。
一般入試と総合型の「二方面作戦」の結果として、「どっちつかず」になってしまうケースは非常に多いわけです。総合型の対策に追われすぎて一般入試の基礎が崩れてしまい、総合型も一般もどちらも不合格……という事例は決して珍しくありません。これは、情報を知らずに「とりあえず両方受ければチャンスが広がる」と考えた結果、準備の時間配分を誤ってしまう典型例です。
そしてこの状況の中で、よくある親の勘違いが「自分の受験の時と同じような尺度で子供の受験スケジュールを考えてしまうこと」です。
■「予備校は休んでもいい」「高3の春こそ受験準備で忙しい」
例えば高3の9月に総合型選抜入試の志望理由書の完成度を上げるために自分の志望する学部に通っている同じ高校の先輩にアドバイスをもらいに行こうとしたら、親から「9月になったのに勉強もせずにどこに行くの!」と怒られた、なんて話はよく聞く話です。
総合型選抜入試について親が全く理解していないと、「なんでこの時期にそんなことが必要なの?」ということがわからず、親が子供の邪魔をしてしまうケースが多いのです。「総合型選抜の出願のために必要なコンテストを受けたいから、予備校を休みたい」と子供が言っても「何言ってるの! 予備校に行きなさい!」と言われてしまった、なんて話もあります。
総合型選抜では高3の2学期頭に志望理由書を提出する場合が多いことから、高3の春から準備が忙しくなってしまう場合が多いのです。
一般入試を想定していると、高3の春はまだ「受験の1年前」でしかなく、忙しいイメージがない親御さんも多いのではないかと思います。
そうなると親御さんが「まだ高3の春なんだから、そんなに急がなくていいんじゃない?」というような声掛けをしてしまうこともあるのですが、もちろんこれも間違いです。実際には総合型選抜入試において一番大事な時期だった、という場合もあるわけです。
■「過去の経験」を絶対視してはならない
大抵の場合、親御さんもこうした事情を話せばわかってくれます。でも、令和の受験に対する知識のない親御さんに、子供が受験の時期にわざわざ「総合型選抜入試っていうのはこういうもので……」「自分の大学受験のスケジュールはこうで……」と説明しなければならないというのは、非常に大変な作業です。
令和の受験のフツウ』の漫画の中ではこういった状態を指して「子供が親をおんぶしながら受験している状態」と表現しています。
さて、この記事を読んでいる親御さんに、どうしてもお伝えしておきたいことがあります。それは、令和の大学受験は、親御さんが経験した受験とは前提も仕組みも評価軸も大きく異なる、という事実です。
一般入試一本だった時代とは違い、総合型選抜が広がった現代では、どんな経験を積み、その経験を大学での学びにつなげることができるのかが問われます。しかし、多くのご家庭で起こっているのは、親の“昔の常識”と、子どもの“今の受験”が噛み合わないまま進んでしまうことです。そのズレこそが、努力を邪魔し、不合格という最悪の結果を生んでしまう原因になっているのです。
まず何より大切なのは、親御さんが自分の受験経験を絶対視せず、子どもの言葉に丁寧に耳を傾ける姿勢です。
「なぜ今それが必要なのか」「どうしてその活動に時間を使っているのか」と、責めるのではなく、理解するための対話を持とうとする姿勢が欠かせません。
■「受験生に説明させる」のは余計な負担
「9月なのに勉強をせずにどこに行くの」「高3の春なのにそんなに焦る必要はあるのか」といった言葉は、昔の受験観からすれば当然の反応かもしれません。しかし、総合型選抜が主流になりつつある今、その時期に何をしているのかには、すべて理由があります。
情報が不足したまま口を出してしまうと、子供は“説明しながら受験しなければならない”という余計な負担を背負ってしまいます。令和の受験において一番危険なのは、「知らないまま判断してしまうこと」なのです。
そして何より、親御さんに知っておいてほしいのは、親は“指揮官”ではなく“伴走者”であるということです。進路をともに考えることも、情報を集めることも、悩みに寄り添うこともできます。しかし、「やめなさい」「こうしなさい」と指示を出しすぎてしまうと、子どもの主体性が奪われ、反発や無気力を招き、総合型選抜で最も評価される“自分で考えて行動した経験”が失われてしまいます。親御さんの「よかれと思って」の一言が、可能性を閉ざしてしまうこともあるのです。
■「理解と伴走」が求められている
受験期における親の役割は、決して子どもの人生を代わりに設計することではありません。むしろ、安心して自分の力を発揮できるよう、適切な距離感で支えることです。令和の受験は「経験を生かし、自分の物語を語る時代」です。
だからこそ、親御さんが情報をアップデートし、現代の受験を正しく理解しようとする姿勢が、子どもの挑戦を大きく後押しします。親御さんの理解と伴走があれば、より広い選択肢の中で、主体的に自分の進路をつかみ取っていくことができます。

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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)

カルペ・ディエム代表

1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。

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(カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)
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