多くの人にとって、個別株への投資はハイリスクに思える。しかし、年収300万円台から株投資で2億円超の資産を築いた名古屋の長期投資家(通称:なごちょう)さんは「割安な銘柄への投資……つまり『バリュー投資』なら、1社でも成長すれば資産全体は増えるうえ、大きな損失を出すリスクは低い」という――。

※本稿は、名古屋の長期投資家『2億稼げる なごちょう式 低リスク超分散株投資』(高橋書店)の一部を再編集したものです。
■どの銘柄が「割高」か「割安」か
バリュー株投資を行うに当たって、目をつけた銘柄の株価が「割高か」「割安か」を評価する必要があります。
それによく使われるのが、これから説明する「PER(株価収益率)」、「PBR(株価純資産倍率)」、「配当利回り」です。これらは投資の「物差し」として、どの株を買うべきか判断するうえで非常に重宝されます。特に初心者にとっては、何を基準に株を安いと見るのか、高いと見るのかを考える最初のステップとして重要な指標です。
ただ、説明をする前に最初にお伝えしたいのが、これらの指標のうち、PERとPBRについては、「これなら安い」「これなら高い」といった絶対的な基準は存在しないということです。なぜなら、企業によってビジネスモデルも、収益の安定性も、成長のスピードも異なるからです。
■企業の成長度や成熟度で変わるもの
PERが15倍なら一般的には「やや割高」とされることがありますが、急成長中のIT企業なら50倍でも「まだ安い」と判断されることもあります。逆に、成熟した業種ではPERが10倍でも「高い」と見なされる場合もあります。
PBRにしても、製造業のように資産を多く持つ企業では1倍以下が割安の目安になりますが、IT企業のように無形資産が多い会社では、1倍を大きく超えていても不思議ではありません。
私もPERやPBRの基準を決めてはいますが、それ自体が正解を教えてくれるわけではないと、身をもって経験しています。割安か割高かは、その企業の成長性、収益力、景気変動耐性、財務状態、業種によって変わります。

■将来を予想して判断するのが投資家
株式投資で最も難しいのは、「未来がわからない」点にあります。よく「株価は企業の将来を映す鏡」といわれますが、その将来というのは当然ながら現実にはまだ存在していないものです。私たち投資家は、あくまで「将来こうなるだろう」と予想しながら、限られた材料で判断を下さなければなりません。
その判断材料として、PERやPBR、配当利回りはたしかに役立ちます。ただし、それらをうのみにするのではなく、企業の過去の業績、現在の財務体質、業界の動向、景気の動きなどを組み合わせて総合的に判断する必要があります。
とはいえ、基本的な指標を適切に読み取って「これは割安だ」と思える銘柄に分散投資しておけば、大きな損失を出すリスクは下がります。そして、その中に1社でも大きく成長する企業があれば、全体としての資産は着実に増えていくのです。地味な作業に見えるかもしれませんが、こうした分析こそが、投資の成功につながります。
■投資家からの人気度を表す「PER」
「PER」は、日本語では「株価収益率」と呼ばれ、「株価÷1株当たり純利益」で算出しています(1株当たり純利益=純利益÷発行済株式)。
PERは「その銘柄の人気度」を表す指標といえます。「会社が1年間で稼ぐ利益の何倍の株価で買われているか」と考えるとわかりやすいでしょう。たとえば、PERが25倍だったら、その会社の年間の利益の25倍。
つまり25年分で稼ぐ利益の額で、株価が取引されているわけです。
この計算の「利益」は、会社予想の純利益を使います。利益が出ない赤字の会社は算出できないので、PERはなしになります。東証プライム市場上場企業の現在(2025年6月30日終値で計算)の平均PERは、19.0倍です。
PERは、言い換えると「投資家から企業への成長の期待度」です。成長すると思われている企業のPERは大きくなります。一方、成長しない企業や衰退すると思われている企業のPERは小さくなります。
成長すると思われていてPERが高い企業が成長しなかったり、期待ほど成長しなかったりしたときは、株価が下がってPERが低くなります。また、衰退すると思われていた企業が成長すると株価が上がってPERも高くなります。
■企業の種類や業種によって基準は違う
先述のとおりPERの基準は企業の種類や業種によってかなり違います。たとえば、東証の中でプライム市場上場銘柄の平均PERは19.0倍ですが、グロース市場上場銘柄の平均は51.5倍です。グロース市場は成長を期待された新興企業が多いので、今出している利益よりも、今後の成長を期待する投資家の評価で株価が上がっているわけです。
私は基本的に10倍以下の銘柄から探しています。
PERは業種によっても変わり、2025年6月30日時点では鉄鋼、海運などの業界が1桁なのに対し、情報・通信業は平均26.0倍もあります。目をつけた銘柄が割安かPERで比較するためには、利益構造が似ている同業他社と比較する必要があります。
注意が必要なのは、PERの計算に使う一過性の利益や損失で純利益はブレやすい点です。利益が多いと非常に低くなり、逆に少ないと非常に高い数値が出ることがあります。前の期のPERなどと比較して、今の数値に一過性の要因が含まれていないかチェックが必要です。
また先ほど触れた鉄鋼や海運といった業界は景気変動に敏感な「シクリカル銘柄」といわれPERが割安度の指標として機能しません。売上の増減が激しい業種ではPERが低い(業績が良く利益が多い)時期に株価のピークを迎えて下がりはじめ、逆にPERが高い(業績が悪く利益が少ない)時期には株価が底を打って、上昇しやすくなる傾向があります。つまり低PERは株価下落の予兆なのです。
■PBRが1倍以下だと割安だが低い理由に要注意
「PBR」は日本語では「株価純資産倍率」と呼ばれ、「株価÷1株当たり純資産」で算出されます(1株当たり純資産=純資産÷発行済株式)。
PBRは、「会社が保有している純資産の何倍の株価で買われているか」という概念です。純資産は、3カ月ごとに発表される「決算短信」の貸借対照表から計算されます。
PBRが1倍のときは、「会社が今すぐ廃業してすべての資産を売り払うと、株価と同じだけの価値になる」ということになります。
これが高ければ、「その会社には保有資産以上に、利益を生み出し続ける価値がある」と判断されています。一方、1倍より低いと「会社を運営するより、解散して保有資産を株主に分配したほうが株主は儲かる」という、期待されていない株価水準だとわかります。借金などの支払うお金が多すぎる企業は債務超過になることがあり、そのときは算出できません。
■企業の種類や業種によって基準は違う
東証プライム市場上場企業の現在(2025年6月)の平均PBRは、1.20倍です。前の項目のPERと同様に、PBRも成長すると思われている企業は高くなり、成長が期待されない企業や衰退すると思われている企業は低くなります。
この数字が低ければ低いほど「資産を持っているのに、それと比較して株価が安い」と判断できます。ただしPBRが極端に低い会社は、財務状態がかなり悪かったり、赤字が続いていたりする場合があるので注意が必要です。
資産を多く保有していても、貸借対照表の資産の中身が「換金性の低いものが大半」の場合は要注意です。たとえば、すぐには売れそうもない不動産、回収が何年も先の債権、ソフトウエアなどは、決算上は資産扱いになるのですが、現実的には売ることができません。PBRが安いことを基準に買うときには、貸借対照表をチェックすべきです。PERに比べ純資産を使って算出するPBRの数値の変化は少ないです。
その分、会社の価値の判断基準としては、安定的でブレがないといえます。
■配当金も「割安かどうか」の目安
前回の記事にあった大航海時代のころ、出資者に山分けで分配されていた物は、現在「配当金」と呼ばれる存在になりました。
配当金の権利を得るには、株主として「権利確定日」の株主名簿に登録されなければなりません。権利確定日は、配当、株主優待などの株主の権利を取得できる日を指します。そのためには「権利確定日」を含めてかぞえて、3営業日前の「権利付き最終日」までに株式を保有(約定)しておく必要があります。権利付き最終日の大引け(15:30)の時点で、その銘柄を保有していれば、株主の権利を取得できます。
配当金の権利確定日は、3月決算企業ならほとんどが3月末、2月決算企業なら2月末、12月決算企業なら12月末になります(まれに月末ではなく、20日が権利確定日の企業もあるので、確認が必要です)。
配当が年2回ある企業のことを「中間配当がある会社」と呼びます。中間配当の権利確定日は、3月決算企業なら9月末、2月決算企業なら8月末、12月決算企業なら6月末になります。なお株主優待は、3月決算企業でも9月しか出していないとか、1年以上保有していないともらえない、など企業によって変わってくるので、もらえる条件を自分自身で調べることをおすすめします。
「配当利回り」とは、株価に対する年間の1株当たりの配当金の割合です。「年間の配当金額÷株価」で算出します。
東証プライム市場の現在(25年5月2日終値で計算)の平均配当利回りは、2.69%です。配当金の支払い回数は年に2回もしくは1回の企業が大半です(なかには4回支払う会社もあります)。
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名古屋の長期投資家(なごやのちょうきとうしか)

投資家

名古屋在住の覆面個人投資家。10歳のころ『こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)』で目にした投資エピソードと、親の知人が任天堂株で大儲けしたのをきっかけに投資を志す。大学生時代にバイトで貯めた50万を元手に1995年12月から株式投資を開始。徹底した銘柄分析と、低リスクを志向した「超分散投資」の長期投資家で、208銘柄を保有。インカムゲインと配当の成長を重視したポートフォリオを組む。家業である文房具店で日中働きながら、投資手法の研究を重ねた結果、総資産は2億円を超えた(2025年9月19日時点)。Xのフォロワーは7.6万人。

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(投資家 名古屋の長期投資家)
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