子どもに自分と同じ職業を勧めるかどうか、意見は分かれるかもしれない。くりぃむしちゅーの上田晋也さんは完全に否定派だが、長女は確実にお笑い芸人である父の影響を受けているという。
著書『経験 この10年くらいのこと』(ポプラ文庫)より、一部を紹介する――。
■小学1年生の長女への「英才教育」
私は、自分の子どもたちに、自分と同じ仕事に就いて欲しいとは、つゆほどどころかプランクトンの涙ほども思わない。特に、長女には面白い要素などまったく求めていないし、真面目にすくすくと育って欲しいと思っている。しかし、職業病というのか、もはや病気というのか――。
娘が小学校1年生の時、学校から帰ってくると、ハイテンションで私に話しかけてきた。
「あのねお父さん、きょう、学校でおもしろいことがあってね」
普通のお父さんなら、とびっきりの笑顔で喋り始めた娘の話を、菩薩のような微笑みで聞いてあげることだろう。しかし、私は自分のセンサーに引っかかったことを口走ってしまった。
「あのね、何か話をする時に『面白いことがあってね』という入り方はやめなさい。『どんだけ面白いことがあったんだろう?』と、聞く人のハードルが上がるから。そういう時は、『今日、学校で不思議なことがあってね』とか『腹が立つことがあってね』という風に、聞いてる人の意識を他に持っていかせるようにしなさい」
と。私は7歳の娘になんのアドバイスをしてるんだろう――。娘もきっとポカーンとしてるだろうな――、と思って娘の顔を見やると、娘は「なるほど、わかりました、はい!」と真剣な表情で、しかも私に対して初めて敬語で返答した。

いかん、いかん、芸人を育てるつもりなどないのだから、こんなことは教える必要も、インプットさせる必要もないんだ、と反省したつもりだったのだが、その後も、娘が学校のクラスアンケートで、面白い女子1位に選ばれた、と聞くと「よし、良くやった!」と、星野監督ばりに抱きしめて褒め讃えたり、娘が変顔をしたり、面白い動きをした時に限って、「もう一回それやって」とアンコールをお願いし、その都度ビデオカメラを回して記録する、という行動を繰り返してしまっていた。
■「お風呂でおなら事件」容疑者は3人
そして、娘が小学校3年生のある日のことである。
娘と幼稚園の年中の息子と私の3人でお風呂に入っていた。私は体を洗いながら、思わず屁をこいた。すると真横にいた5歳の息子が「あーっ、おとうさん、いまオナラしたでしょ?」とニヤニヤしながら、問いかけてきた。
私「いや、お父さんじゃないよ、お前がしたんじゃないの?」

息子「ぼくじゃないよ、ぜったいおとうさんだよ」

私「いや、お父さんじゃないから。じゃあお姉ちゃんじゃないの?」
その時娘は、髪の毛をシャワーで洗い流しているところで、私と息子のやり取りはまったく聞いていなかったようであった。
娘「ん? なんか言った?」

私「いや、お父さんオナラしたでしょ、って言うから、お父さんじゃないよ、お前だろ、って言ったら、僕じゃないって言うから、じゃあお姉ちゃんじゃないの、って言ってたの」

娘「ちょっとやめてよー、失礼な。私じゃないわよー」

私「じゃあさ、誰がオナラしたと思うか、せーので指差そうよ」

息子「いいよ」

娘「いいよ」

3人「せーの!」
■8歳の回答に後輩芸人も感心
それぞれ、オナラの犯人だと思う人を指差した。息子は私を指差した。当然である。私が犯人なのだから。
私は、そこまでの話の流れもよくわかっていないであろう娘を指差した。そして娘が誰を指差しているのか確認すると、娘はなんと娘自身を指差していた。それを見た息子が驚いた顔で問い詰めた。
「なんでおねえちゃんオナラしてないのに、じぶんのことさすの?」
その問いに対する8歳の娘の返答に、今度は私が驚愕した。
「あのね、こういう時は本当かどうかなんてどうでもいいの。その時面白いと思うほうをえらびなさい」
私は思った。モンスターを育ててしまった、と。
この話を後輩芸人にすると、「いやー、それは確かにモンスターですね。だって2年目の芸人でも、そこで自分を指差せるかどうかわかりませんよ」と、自分のライバルが登場したかのように神妙な顔つきで呟いていた。
■突っ込みの苦悩を完全に理解している
その後も、娘のモンスターぶりは成長の一途を辿っており、小学校6年生の時、同じくクラスアンケートで、今度は面白い女子2位になった時、娘は、その結果が載っている学級新聞を恐る恐る私に差し出しながら言った。
「お父さん、ゴメン! 2位になっちゃった。私、皆にバンバン突っ込んでたのに、突っ込み側の人間って評価されにくくない?」
と、デビュー4、5年目の突っ込み芸人が味わうジレンマに陥ったりしていた。

そして、その翌年のこと。『おしゃれイズム』の収録で、ゲストに俳優の堤真一さんがいらしたのだが、トークの途中、堤さんが幼稚園児の娘さんの運動会を見て泣いたりするし、娘が結婚するなんて、とても考えられない、という話をされた。そして、「そのうち『一緒にお風呂入らない!』とか言われたらショックだなー」と、少々暗い表情でおっしゃったので、私が自分と娘の話をした。
■お蔵入りするはずだった娘とのエピソード
「ウチの娘は中学1年生なんですけど、いまだに一緒に僕とお風呂入るんですよ。それでこの間一緒にお風呂に入ってる時に、こんなやり取りをしましてね――」
私「お父さんは最近、毎回お前と一緒にお風呂入るの今日が最後なんだろうなぁ、と思って入ってるよ」

娘「なんで?」

私「だって、もし同級生とかに、お父さんと一緒にお風呂入ってるとかバレたらバカにされるかもしれないじゃん」

娘「とっくにバカにされてるんですけど!」

私「は⁉」

娘「友達にもバレてるし、バカにされてるに決まってるじゃん! でもいいじゃん、別に。私が一緒に入りたいんだから」

私「……」(ジーン)
この話を聞いた堤さんは、「じゃあ、ウチの娘もまだまだ当分一緒にお風呂入ってくれるかなぁ?」と、明るい表情になってくれた。
続けて私は、スタッフに向かってこう言った。
「でもゴメンなー、この話オンエアはしないでくれる? 放送されると、さらに多くの友達にバレて、娘が『アンタお父さんと一緒にお風呂入ってんの?』とかバカにされたり、イジメられたりするかもしれないし、それを機に俺と一緒にお風呂入ってくれなくなったりするかもしれないし」
そしてその日、家に帰ってこの話を娘にして、こうなだめた。
「でも大丈夫! オンエアはしないでくれって言ったから、ちゃんとカットしてくれるから」
すると娘は、私の肩口辺りを強目に引っ叩いてこう言った。
「なんでカットしてくれ、なんて言ったの! その話ウケるじゃない!」
■「ウケる話はカットしちゃダメだよ!」
私は再び思った。モンスターを育ててしまった、と。
「は? 本当にオンエアしてもいいのか? それで次の日から、バカにされたりするかもしれないよ?」
「そんなのはどうでもいいよ! ウケる話はカットしちゃダメだよ!」
娘から許可を得て、私はその場でスタッフに電話をかけた。

「カットしてくれって言った部分、もちろんオンエア上いらないならカットしてかまわないけど、オンエアしたいのに俺がカットしてくれって言ったから、カットしなきゃ、っていう考えは持たなくていいよ」
数週間後、そのくだりはオンエアされていた。
■「一緒にお風呂」はさすがになくなったが…
人づてに聞いたところによると、この話がオンエアされた後、私はネットで散々叩かれたらしい。やれ「上田はデリカシーがない!」とか、やれ「娘さんがかわいそうだ! これで娘さんがグレたらどうするつもりだ!」とか。俺がオンエアして欲しいと言ったわけじゃないんだけどなぁ。カットしちゃダメって言ったの、娘、いやモンスターなんだけどなぁ。
その娘も、最近私が入っているお風呂に入ってくることはさすがになくなった。淋しいような、女性としては真っ当に成長をしているのかな、というちょっとホッとしたような複雑な心境だ。と、ちょうどこの文章を書いている時に、娘からLINEが来た。開いてみると、ひたすら変顔写真のオンパレード。やはり真っ当には成長していないようだ。

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上田 晋也(うえだ・しんや)

お笑い芸人

1970年5月7日生まれ。1991年に有田哲平と共にお笑いコンビ「海砂利水魚」を結成。
フジテレビ系バラエティ「ボキャブラ天国」などに出演し、知名度を上げる。2001年にコンビ名を「くりぃむしちゅー」に改名。コンビとして活動する一方で、豊富な知識を活かし司会者としても活躍している。

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(お笑い芸人 上田 晋也)
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