210人のランナーは果たしてどこのシューズを履くのか。箱根駅伝ではレースの行方と同時に、選手の足元に毎年注目を集まる。
スポーツライターの酒井政人さんは「昨年に続いて着用率2連覇を狙うアディダスと、超軽量モデルを投入したアシックスが強いが、他ブランドも負けていない。先日、男子マラソンの日本新記録を達成したレジェンド大迫傑選手が履いたシューズも注目されている」という――。
■レース同様に熱い箱根駅伝2026 “厚底シューズ”戦争
正月の風物詩となっている箱根駅伝。その人気・注目度は絶大で、近年はスポーツメーカーの天王山にもなっている。出走する210人のランナーたちが履いているシューズの“椅子取りゲーム”が、ブランドイメージや国内の売り上げに大きな影響を及ぼしているからだ。
そこで、まずは前回(2025年)大会のブランド別のシューズシェア率を振り返ってみよう。
①アディダス36.2%(76人)

②アシックス25.7%(54人)

③ナイキ23.3%(49人)

④プーマ11.9%(25人)

⑤オン1.4%(3人)

⑥ミズノ0.5%(1人)

⑥ニューバランス0.5%(1人)

⑥ブルックス0.5%(1人)

では、箱根駅伝2026はどうなるのか。各ブランドの最新情報と合わせて、占っていきたい。
前回、アディダスは前年の18.3%から倍増となる36.2%と大躍進。カーボンプレート搭載の厚底シューズを真っ先に投入したナイキを逆転してトップに立った。今季の出雲駅伝(10月)と全日本大学駅伝(11月)でもシェアを拡大しており、このままトップを“独走”することになりそうだ。
とにかく、2023年9月に発表された8万円の“スーパーシューズ”〈ADIZERO ADIOS PRO EVO 1〉の爆発力が凄まじい。

当時はごく少数しか製作されていなかったため、着用者は3人のみだったが、前回は40人以上が選択。なかにはメルカリで購入した選手もいたという。花の2区では片足わずか138g(27.0cm)の超軽量モデルを履いたリチャード・エティーリ(東京国際大)、吉田響(創価大)、黒田朝日(青山学院大)が従来の区間記録を上回り、4区では太田蒼生(青学大)が区間賞に輝いた。
昨年4月には後継モデルの〈ADIZERO ADIOS PRO EVO 2〉を発売している。次世代フォームテクノロジーを前足部に3mm増量して、エネルギーリターンが5%向上、アウトソールのグリップパターンも新しくなったという。
また前回は〈ADIZERO ADIOS PRO 4〉というモデルで3区の本間颯(中央大)、6区の野村昭夢(青学大)、8区の塩出翔太(青学大)、10区の小河原陽琉(青学大)が区間賞。アディダスは3連覇を狙う青学大、出雲を連覇して初優勝を目指す國學院大などをサポートしており、今大会で「シェア率50%を目指す」と発表している。どこまで伸ばすことができるのか。
■アシックスは超軽量モデルに注目
アシックスは2021年大会で屈辱の着用者ゼロに沈んだが、その後は社長直轄組織「Cプロジェクト」で急ピッチに進められた〈METASPEED〉シリーズで盛り返してきた。バージョンアップを重ねる度にシェアを拡大。前回は25.7%まで伸ばしてナイキを逆転した。
昨年7月に最新シリーズとなる〈METASPEED TOKYO〉を発売。
従来と同じくストライド型(歩幅を伸ばすことでスピードを上げる)に向けた〈SKY〉と、ピッチ型(ピッチの回転数を上げることでスピードを上げる)に向けた〈EDGE〉の2種類がある。ともに前作より15g軽い170g(27cm)で仕上がり、エネルギーリターンも向上したという。
今季のトピックスはアディダスのスーパーシューズに真っ向勝負するような超軽量モデルを投入したことだろう。それが〈METASPEED RAY〉だ。
重量は129g(27.0cm)で価格は3万3000円(税込み)。アシックスの廣田康人会長兼最高経営責任者(CEO)が「我々の新しいイノベーションにより、現時点でいちばん良いものをランナーが買いやすい価格で出せた」と話す自信作だ。
今年9月に開催された東京世界陸上では男子マラソンで銅メダルを獲得したイタリア人選手が〈RAY〉を着用。同モデルを履いた近田陽路(中央学院大4)が箱根駅伝予選会で日本人トップに輝いている。
他にも全日本大学駅伝を制した駒澤大の主将・山川拓馬(4年)、「山の名探偵」として注目を浴びている工藤慎作(早稲田大)らがアシックスのシューズを着用している。
また12月21日に行われた全国高校駅伝では女子で連覇を果たした長野東高、同2位の大阪薫英女子高の全選手が11月に発売したアシックス〈EKIDEN Pack〉(9品番のコレクション)のモデルで出走。キーカラーであるバイタルグリーの“花”が箱根路でも咲き乱れれば、目標にしている「パフォーマンスランニング市場のシェア1位」が見えてくるだろう。
■ナイキ、プーマも目を離せない
一方、ナイキは厚底を史上初めて開発した当初は圧倒的な着用率だったが、前回大会でついにトップから陥落した。
ただ、発売前だった〈ヴェイパーフライ 4〉のプロトタイプで吉居駿恭(中大)が1区を独走。同モデルを着用した若林宏樹(青学大)が5区で区間賞・区間新の快走で3度目の往路Vゴールに飛び込むなど強烈なインパクトを残した。今大会も一般発売前のモデルが登場する可能性もあり、目が離せない存在だ。
プーマは2022年大会から少しずつシェアを拡大。前回は〈ディヴィエイト ニトロ エリート 3 EKIDEN GLOW〉というモデルを着用した桜井優我(城西大)が9区で区間賞に輝いた。ブランドとして箱根駅伝の区間賞は初めてだった。前回は山口智規(早大4)、青木瑠郁(國學院大4)、山口翔輝(創価大2)ら上位候補のエース級選手も着用していたが、今回もシェアを伸ばすことができるのか。
■スピードキングが着用するブランドは?
オンは前回の着用者は3人だったが、当日変更で7区に入った佐藤圭汰(駒大)が異次元の走りを披露。故障上がりながら、区間記録を1分近くも塗り替える1時間00分43秒という驚異的なタイムを叩き出したのだ。佐藤は今季、故障で出遅れていたが、全日本大学駅伝で復帰。前回以上の状態で最後の箱根駅伝を迎えることができそうだ。この「学生長距離界のスピードキング」がオンのシューズで“伝説”の快走を見せるかどうか。

また1万mで27分43秒92の自己ベストを叩き出した折田壮太(青学大2)もオンを着用予定で、その走りが楽しみだ。
前回はミズノ、ニューバランス、ブルックスに1人ずつ着用者がいた。このなかで特に注目すべきは日本のミズノだろう。12月19日に同社史上最軽量となる約137g(27.0cm)の〈HYPERWARP PURE〉、ストライド型のランナーに向けた〈HYPERWARP ELITE〉、安定感を重視した〈HYPERWARP PRO〉の3モデルを発売している。
フットウェア企画の担当者は、「このハイパーワープを起点に、ミズノランニングは変わります」と宣言。1997年から箱根駅伝を協賛してきた国内ブランドが再び、勝負をかけてきた。アシックスのような逆襲劇を見せることができるのか。
■日本新記録大迫傑が履く中国ブランド
前回、出走者がいたニューバランス、ブルックスだけでなく、ホカ、アンダーアーマー、それから大迫傑が10月に所属契約を発表した中国ブランドのLI-NING(リーニン)の動向にも注目したい。34歳になった日本長距離界のカリスマは12月7日のバレンシアマラソンで2時間4分55秒の日本記録を樹立。今後は箱根駅伝でもリーニンを履く選手が出てくるだろう。
日本のランニング市場を揺るがすビッグレース。今大会もランナーたちの足元から目が離せない。


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酒井 政人(さかい・まさと)

スポーツライター

1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

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(スポーツライター 酒井 政人)
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