■運を「マネジメント」するという発想
成功している経営者や富裕層と接していて痛感するのは、彼らが「運」というものを、天から降ってくる偶然の産物ではなく、自らの手で管理・運用すべき「資産」として捉えていることだ。
彼らにとって神社参拝や占いは、神頼みではない。あくまで「情報戦」の一部であり、勝率を1%でも上げるための戦略的行動なのだ。スピリチュアルという見えない世界の智慧を、彼らは統計学や環境心理学としてドライに活用している。
その徹底ぶりを示す一つの例が「時間」へのこだわりだ。
「方位学」という言葉をご存じだろうか。九星気学などに基づき、自宅やオフィスを起点として、特定の方角(吉方位)へ移動することで運気を取り込むという考え方だ。だが、本物の富裕層がさらに重要視するのは「どこに行くか」以上に、「いつ行ってはいけないか」という「引き算」のルールである。
ここで登場するのが「ボイドタイム(Void Time)」という概念だ。これは西洋占星術由来の考え方だが、多くの日本人経営者も参考にしている。月が他の惑星と特定のアスペクト(角度)を作らなくなってから、次の星座に入るまでの「空白の時間」を指す。
■「ボイドタイム」と「日破殺」を恐れる理由
この時間帯は、月の効力が無効(Void)になり、判断ミスが起きやすいとされる。「そんな迷信を」と笑うなかれ。私が知るある著名投資家は、数億円規模の契約や重要な会議の日程を決める際、必ず秘書にこのボイドタイムをチェックさせ、その時間帯を避けている。「魔の時間」に決定した事項は、後になって白紙に戻ったり、予期せぬトラブルに発展したりするケースが多いという経験則からだ。
東洋の思想でも同様だ。九星気学には「日破殺(にっぱさつ)」という日がある。文字通り「破れる」日であり、この日に契約書にサインをしたり、登記をしたりすることは御法度とされる。彼らは、こうした「避けるべき時間」を徹底的に排除する。運気を上げる(プラスにする)ことよりも、致命的な不運(マイナス)を避ける。この「リスクヘッジ」の思想こそが、資産を減らさずに増やし続ける人々の鉄則なのだ。
■なぜ東京には「目黒」「目白」があるのか
彼らがこうした「見えない力」を信じるのには、歴史的な裏付けがある。日本で最も長く続いた長期政権、すなわち徳川幕府の成功事例だ。
富裕層たちの会話では、しばしば「江戸の都市計画」が話題に上る。実は、現在の東京(江戸)という都市自体が、巨大な風水都市として設計されていることは、知る人ぞ知る事実だ。
「徳川家康が江戸に幕府を開いた後、3代将軍・徳川家光とそのブレーンであった天海僧正は、江戸城(現在の皇居)を霊的に守護するために、徹底的な『結界』を張り巡らせた。家光は天海の助言を受け、江戸城を中心として、その周囲を五行説に基づいた『色』を持つ不動明王で固めた。それが『五色不動(ごしきふどう)』である」
「山手線の駅名として知られる『目黒』『目白』という地名は古くから存在し、むしろこれらの地名に因んで不動尊が名付けられたとされる。目黒不動(龍泉寺)、目白不動(金乗院)、さらに目赤、目青、目黄。これらの不動尊は、既存の地名を活用しながら、江戸というシステムを守るための『セキュリティソフト』として配置された」
■富裕層のメインイベントは「参拝」ではない
これらの話はすべて史実通りではなく、後世に言い伝えられた逸話も含まれている。しかし一部の経営者たちは史実以上に、史実に基づくストーリーを重視する。なぜか?
成功している経営者たちは、自社を「城」に見立てる。徳川家康が260年続く平和の礎を築くために、物理的な軍事力だけでなく、呪術的な防衛ライン(結界)を重視したことを彼らは知っているのだ。「あの徳川家がやったのだから、われわれがやらない理由はない」。彼らがオフィスの位置や神棚の向き、そして「結界」にこだわるのは、決してオカルト趣味ではない。
一般の参拝客は、鳥居をくぐり、手水舎で手を清め、本殿で拝んで終わりにする。しかし、これでは富裕層の基準からすると「片手落ち」もいいところだ。彼らにとって、本殿での参拝は挨拶、いわばアポイントメントの確認に過ぎない。
重要なミッションは、その前後にある。その一つが「お水取り」と「お砂取り」だ。
特定の吉方位にある神社の境内から湧き出る御神水や、清められたお砂をいただき、自宅や会社の敷地に撒く。あるいは飲み水として体内に取り込む。これは、神社の清浄な「気」を物理的に持ち帰り、自分のテリトリー(自宅やオフィス)に定着させるための儀式だ。お水取りで有名なのは奈良県の東大寺二月堂で毎年3月に行われる修二会(しゅにえ)で、1250年を超える歴史がある。
ただ参拝して「いい気分」になって帰るだけでは、エネルギーは一過性のもので終わる。それを物質(水や砂)に転写し、日常に「実装」するまでがセットなのだ。
■観光地化している神社には見向きもしない
さて、ついに2026年を迎えた。干支でいえば「丙午(ひのえうま)」にあたる。60年に一度巡ってくるこの年は、陰陽五行説において「火の兄(ひのえ)」と「火の動物(うま)」が重なる、極めて火のエネルギーが強い年とされる。歴史を振り返っても、丙午の年は社会的な変動や大きな出来事が起きやすいと言われてきた。
この激動の予感を前に、富裕層たちが注目している「聖地」のトレンドに変化が起きている。それは「原点回帰」だ。
これまで人気だった、金運などの現世利益を謳(うた)う神社から、よりプリミティブ(原始的)なパワーを感じられる場所へのシフトが起きている。具体的には、縄文時代からの遺跡や磐座(いわくら)(=巨石)が残るような、自然崇拝の色彩が濃い古社だ。社殿が立派な神社よりも、巨石や巨木そのものを御神体とするような場所である。
富裕層が通う神社には、明確な傾向がある。彼らは、雑誌の「最強パワースポット特集」に載っているような、観光地化してアクセスの良い神社には見向きもしない。
■孫正義氏は金劔宮、斎藤一人氏は高龍神社…
有名な話だが、ソフトバンクグループの孫正義氏は、石川県の「金劔宮(きんけんぐう)」を参拝したと報じられている。決してアクセスが良い場所ではない。また、高額納税者番付の常連であった実業家の斎藤一人氏は、新潟県の「高龍(こうりゅう)神社」を参拝していたことが知られている。他にも熊野三山の奥の宮「玉置神社」も著名人が訪れるが、共通して言えるのは、山深い場所にあり、行くこと自体が一つの修行のような場所である。
AIやデジタル通貨が浸透し、社会が複雑化すればするほど、人間としての「野生」や「直観力」が錆びついていく。2026年の強烈な変化を乗り切るには、小手先のテクニックではなく、生物としての生命力を底上げする必要がある――そう感じている経営者が増えているのだ。
■究極の開運法は「願いごと」をしない
最後に、富裕層が行き着く「神様との付き合い方」の最終形態について触れておきたい。それは「お願いをする」ステージから、「守る」ステージへの移行だ。
地方の過疎化が進む中、多くの神社が存続の危機に瀕している。そうした神社の修繕費を寄付したり、維持管理のプロジェクトに参画したりする富裕層が増えている。彼らは決して名前を売りたいわけではない。
これは「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)」の実践であり、東洋的にいえば「陰徳を積む」行為だ。神様に対して「助けてください」と乞うのではなく、「あなたが住まう環境は私が守ります」とパトロンになる。これこそが、神様と対等、あるいはそれ以上のパートナーシップを結ぶ究極の方法だと彼らは知っているのだ。
「ギブ・アンド・テイク」ではない。「ギブ・アンド・ギブ」。見返りを求めず、ただ純粋に「場」を守るために動く。逆説的だが、そうした人間にこそ、神様(あるいは運という名の確率論的偏り)は、想像を超えたリターンをもたらすのかもしれない。
■運命は自分で変えられる
ここで一つ、江戸時代に活躍した伝説的な観相家(人相占い師)、水野南北(みずのなんぼく)の思想を紹介して筆を置きたい。富裕層の間で密かに読み継がれている彼の教えの核心に、「天禄(てんろく)の書き換え」がある。
人間は生まれながらに「天禄」、すなわち天から与えられた運命や寿命を持っているとされる。これがいわゆる「宿命」だ。しかし、南北はこう説いた。「天禄は固定されたものではない。後天的な行いによって書き換えることが可能である」と。
では、どうすれば書き換えられるのか。そのもっとも効果的な方法として彼が挙げたのが「食の節制」である。
粗食を心がけ、足るを知る。欲望のままに貪るのではなく、自らを律する。そのささやかな徳積みが天に届き、凶を吉に変え、短命を長寿に変えるというのだ。これは単なる健康法ではない。「運命のコントロール権を、自分の手に取り戻す」という宣言だ。
ここまで、神社の選び方やボイドタイムなど、さまざまな「技術」を紹介してきた。しかし、最も重要なのは、それらを扱うあなた自身の「器」である。
今年、あなたは神様とどのような契約を結ぶだろうか。もし本気で現状を打破したいと願うなら、まずはカレンダーを確認し、ボイドタイムを避け、吉方位の水を汲みに行くこと。そして何より、日々の食事や振る舞いを通じて、自らの天禄を書き換える努力を始めることだ。
運命は変えられる。その泥臭い行動の積み重ねこそが、富裕層への最短ルートなのである。
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西田 理一郎(にしだ・りいちろう)
価値共創プロデューサー、ディープルート 代表取締役
富裕層向けブランド体験の「物語」を紡ぐナラティブ・マーケティングをプロデュース。また、情報伝達を超えた行動を仕組化し、個の全盛時代において、ラグジュアリー市場での持続的成長を実現する知の「価値共創」戦略を構築する。プレミアムブランドの世界観を体現する戦略的プラットフォームの商品化を手がけ、ミシュラン・ガストロノミーから超高級ライフスタイルまで、文化的価値を経済価値に転換するマーケティング、ブランディングを専門とする。「to create a Real LIFE 敏腕マーケターが示唆するこれからの真の生き方とは」「Life is a Journey」「食と文化の交差点 ガストロノミーへの飽くなき情熱」などのメディア掲載・連載を通じて真のラグジュアリーとは「所有」ではなく「体験」であり、その体験に宿る物語こそがブランド価値の源泉である――という信念のもと、富裕層マーケティングの新境地を開拓し続けている。主要著書に『予測感性マーケティング』(幻冬舎)、『アフターコロナ時代のトラベルトランスフォーメーション』(ゴマブックス)、『GRAND MICHELIN ミシュラン調査員のことば[特別編集版]』(アンドエト)がある。個人サイト
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(価値共創プロデューサー、ディープルート 代表取締役 西田 理一郎)

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