※本稿は、佐藤弘幸『国税最強の精鋭部隊「コメ」』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■こうして「ターゲット」は選ばれる
コメが対象とする案件についてまず前提としてあるのは、増差(追徴対象所得)が1億円以上であることだ。そしてハッキリ言うが、コメの調査案件は「作られる」ということである。調査の数カ月も前から狙われているのである。行動記録、SNSなどへのアップも……。
作られるというのは冤罪(えんざい)という意味ではなく、申告書などの資料をもとに追徴できるような事件を企画するのである。こういう手法で脱税しているだろうというストーリーを組み立て、それに合わせて動員する人員、調査箇所などの陣容を決めるのである。
税務署では、クロでなくても定点観測、巡回接触という意味合いで3~5年に一度、同じ会社を調査することもあるが、コメは実際に調査を行う必要がある案件しか調査しない。すなわち、追徴できそうな案件である。
規模の大きな案件になると、企画書は50ページ以上にも及ぶことがある。企画書には調査対象者の概要、過去の接触状況、財務諸表分析、不正計算の想定、関係者一覧と申告状況などが記載される。
巡回時に各種情報や申告実績から「粗選定」したものを所轄する税務署の幹部の意見を聞きつつ決定する。事業規模、営業拠点、調査箇所の多寡、調査対象者が悪質なケースなど、どうしても所轄署だけでは手に負えない事案があるので、書類だけではわからない事情を直接聴取する必要があるからだ。
何百件と情報を集め、コメで調査をする可能性のある案件に関しては、税務署に対して調査しないよう伝える。そうして、次事務年度(事務年度は7月から6月)のターゲットになりそうなものを探すのだ。
■テレビに出ている“セレブ”の正体
調査選定では、国税総合管理システム(KSKシステム)という、国税の基幹データベースや各部が保有する情報も参考にされる。このシステムには誰でもアクセスできるわけではなく、部署や職位によって制限がかけられているが、コメはほとんどの情報にアクセスすることができる。
ただ、KSKには基本的なデータしか入っていないので、各部署が紙ベースで管理している詳細情報も参照する必要がある。大型案件に関しては、調査企画のプロが策定したものが多い。プロというのは、統括国税実査官(情報担当)である。東京国税局のすべての情報は、ここに集約されている。
面白いところでは、テレビ番組などのセレブ特集がもとになって調査選定されることがある。
ただ困ったことに、セレブとしてテレビに出ている輩には、なんちゃってセレブが少なくない。本当のセレブは、テレビに出たりはしないのである。こうして選定が進められるが、いい案件に関しては、複数の部署で取り合いになることもしばしばある。
たとえば法人税は課税第二部のテリトリーで、課によってある程度の棲み分けはできているが、バッティングする部分もある。課税第二部資料調査第一課のターゲットは、大まかな規模でいえば、下は売上高50億円から上は青天井。
■“いい事案”は取り合いになる場合も
課税第二部資料調査第二課が扱うのは、税務署との合同事案なので、それほど大きな規模の会社は扱わない。売上高が20億~50億円程度の企業がターゲットとなる。
課税第二部資料調査第三課の主なターゲットは公益法人だが、一課が扱う一般法人も扱う。公益法人は三課の専権事項だが、一般法人では一課と三課はバッティングすることが多いのだ。いい事案ほど取り合いになるので、「調査選定会議」なる場で決定することになる。
「ぶん取り合戦」と呼ばれるこの会議で獲物を狙うのは、コメだけではない。課税部には、コメから派生したセクションがいくつか存在しており、それらもぶん取り合戦に参加する。選定会議は戦場さながらだ。7月に新事務年度がスタートする。それに向けて5月を過ぎると、次の1年間に調査するターゲットを決定することになる。
仮に年間100件を選定するとなると、まずは3倍程度の対象者を俎上(そじょう)に載せる。これが粗選定。数人で見て優先順位をつけ徐々に減らしていき、最終的に200件弱に絞る。これがコメのターゲットになるが、選定時と最新の申告状況では対象者の「景気」が同じではない。
したがって、選定は実調査件数プラスアルファを確保する。
■「売り上げ上昇、所得低調」が選定の基本
国税局内で選定されなかった事案はどうなるか。所轄の税務署が調査することになるわけだが、この税務署内での取り合いがまた大変である。
複数の税目にまたがるような大きな案件は、総合担当特別国税調査官(通称「ソウゴウトッカン」)、複数の署にまたがるグループ法人だと特別調査情報官(通称「トクジョウカン」)、そのほかの一般の特別国税調査官(通称「トッカン」)や所轄署の特別管理部門(通称「トクチョウ」)も絡んでくる。
税務署からも選定されなかった事案は問題なしと判断されているかというと、そういうわけではない。数年たって選定されるということもある。経済環境は変わるし、一般に3~5年周期で会社の経営というのはアップダウンする。情報は常にアップグレードし、経営が上向いているときを狙うのだ。
当たり前だが、業績が好調な会社ほど狙われやすい。規模に関係なく、「売り上げ上昇、所得低調」、これが調査選定の基本中の基本だ。
それでは、コメの男たちは何を基準に事案を選定しているのだろうか。申告書や決算書を見て選定する場合、まず売り上げが連続して上昇しているのに利益の伸びが低調といったパターンが怪しい。事業規模に関係なく、最優先はこのパターンとなる。
■脱税を一度始めるとやめられなくなる
そもそも世に出ている節税本などに書かれていることを実践しても、大した節税にはならない。極端な利益の低調は、かなり怪しいと感じる。
来期以降の不況対策、株主対策、予算・決算を重視する企業においては、事業部の実績操作のために行われるのが一般的だ。無理な利益調整を行うと、売り上げの伸びと申告所得の伸びに歪みが生じる。歪みのある企業にいけば追徴ができ、調査官の成績に加点されるので、優先して選定されるわけである。
利益を圧縮する方法は、実はいくつもない。売り上げを減らす。売上原価や経費の水増し、架空経費をつくる。それに棚卸資産を減らすという、大きく3つほどだ。まれに架空資産を取得したことにして簿外資金をつくり、これを受注工作資金に充てて、以後の事業年度で減価償却をするというのもある。
売上原価は、期首にある在庫の金額と当期に仕入れた金額から期末の在庫を引くと算出される。収入から原価を引いた額が利益なので、利益を圧縮するためには、原価を上げるのが手っ取り早い。そのためには、期末の棚卸しを少なくすればいい。
しかし、それに一度手を染めてしまうと、麻薬ではないが、やめられなくなる。
期末棚卸高が来期には期首棚卸高になるわけだが、前期末高を故意に減らした分、期首高が少なくなるので、結果、売上原価も少なくなってしまい、利益が出てしまう。すると、次の期末でも棚卸しを減らすか架空仕入れを計上しないと、利益を圧縮できないのだ。
■脱税の仕組みはシンプルだが…
脱税方法としてはポピュラーで、誰にも迷惑をかけずにできる。ほかの方法だと、そうはいかない。
たとえば水増し発注の場合は、協力者が必要になる。本当は1000万円の支払いなのに、3000万円を支払ったことにして、2000万円を戻してもらうといったように、だ。しかし、調査が入った場合、発注先に迷惑をかけてしまう。
ところが棚卸しの過少申告は、自社だけで完結できる。しかも、棚卸しを減らした伝票を入れるだけなので簡単。一度手をつけたらやめられないわけだ。
調査する側からすれば簡単にはわからないものの、不自然さは売上総利益率、棚卸資産回転率など、いろいろな係数に表れる。数字を見て怪しいと思えば実際に調査に着手する。実地棚卸伝票を見つけてきて、申告した数値より明らかに少ないということがわかれば、抜いていることを実証できる。
ただし、伝票を隠したり捨ててしまっていることがあるので、それを見つけ出すまでが大変だ。棚卸しの整理用でエクセルなどの表計算ソフトを利用している企業がある。演算式を見ていくと、単価をゼロにしたり、著しく低くしたり、合計のところだけ過少になるようにしているケースがある。すぐにバレる手口だと思う。
本当の数字は誰かが必ず把握しているはずである。そうでないと、仕入れたものを返品するときなどに不都合が生じる。どこかにあるはずで、それを見つけ出すのもコメに必要とされる能力だ。
■“偽コンサル”に発注したことにする場合も
ひどいものでは、利益が出た年度に、コンサルティング契約に基づくフィーを“払ったことにする”というケースがある。不動産の売却益が出たときに登場してくる。仕事の内容がわかりづらいこともあり、バレないと思うのだろうか? そんなはずはない。
それと、赤字法人や稼働していない法人を利用(赤字法人に利益をつければ税負担がない)して、そこに発注したりなんてのもよくある。これらは、いずれも子どもだましの手口といえるが、偽コンサルタントが暗躍していることが多い。
B勘屋(裏取引のためのかぶり屋、つまり架空領収書の販売業者。領収金額の、たとえば10%を報酬として受ける)を兼ねているせいか、脱税協力金(コミッション)を欲しがる人種なのでタチが悪く、脱税者が被害者になることすらある。
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佐藤 弘幸(さとう・ひろゆき)
元東京国税局・税理士
1967年生まれ。プリエミネンス税務戦略事務所代表。税理士。東京国税局課税第一部課税総括課、電子商取引専門調査チーム、統括国税実査官(情報担当)、課税第二部資料調査第二課、同部第三課に勤務。主として大口、悪質、困難、海外、宗教、電子商取引事案の税務調査を担当。2011年、東京国税局主査で退官。著書に『国税局資料調査課』(扶桑社)、『税金亡命』(ダイヤモンド社)、『国税最強の精鋭部隊「コメ」』(扶桑社新書)がある。
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(元東京国税局・税理士 佐藤 弘幸)

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