■「不安なら使わせるな」BBCで炎上したCEO発言
いま、小学生のあいだで爆発的に広がっているのが、シリコンバレー発の世界最大級のゲームプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」だ。
世界で毎日1億5000万人が使い、利用者の約7割が16歳以下という報道もある。
アプリの中に様々なゲームのほか、ワールド(仮想空間・メタバース)で利用者同士の交流もできる。このアプリが今、世界中で大ヒットしている。
親世代の多くは、「マインクラフトの次に流行っている子ども向けゲーム」程度の認識かもしれない。だが海外では、ロブロックスを子供には危険すぎるプラットフォームと捉え、利用させるべきでないと強い懸念が広がっている。
こうした中、2025年3月にイギリスBBCは、ロブロックスのCEOであるデイヴィッド・バズーキの独占インタビューを放送した。その中で、バズーキは親からの安全性への懸念について、次のように述べた。
「心配であれば、子供に使わせるべきではない。最終的な判断は親に委ねられる」
この発言が放送されると、BBCには数百件に及ぶ親からの意見が殺到した。
BBCによると、ある親は、15歳の息子がロブロックスに依存し1日に14時間も使い続けていると訴えた。アカウントを停止しても、別のアカウントや他人のアカウントでログインを繰り返すという。さらに深刻なのは、9歳の娘がロブロックスのゲーム内で「結婚ごっこ」を強要され、ゲーム内通貨の見返りとして性行為を要求されたという報告だ。
そんな問題が日常化しているサービスのトップが「不安なら使わせるな」と発言したことが、大きな反発を呼んだのだ。
子供の被害を訴える親の一人は、こう発言している。
「子供向けとして宣伝されているプラットフォームとして、これは受け入れがたい。企業は何の責任も負っていないようだし、明らかにフィルターは機能していない」
■海外で進む規制、日本だけが楽観視している
こうした被害報告は、イギリスに限った話ではない。世界各地で、ロブロックスをめぐる深刻な問題が次々と明らかになっている。
ドイツの公共放送ZDFは、調査ドキュメンタリー「Die Spur」で、未成年のロブロックスへの依存問題を放送。膨大な子供がアクセスする中で一企業が子供の安全を守れるのか、疑問を投げかけた。
ドイツでは関係機関の対応も早く2025年1月には「メカニズムが年齢に不適切」としてロブロックスの年齢制限が12歳から16歳に引き上げられている。
こうした諸外国の動向とは真逆に、日本では、ロブロックスが更なる拡大を期待されるビジネスとして注目を集め、子供への推奨と参入が盛んになっている。
教育産業ではプログラミング教育の最適な教材としてロブロックスを利用した教室も増加。企業では、講談社は『進撃の巨人』のワールドを展開し、ホンダやバンダイナムコといった大手も公式空間を開設した。日本経済新聞社は12月、ロブロックス内に「支局」を解説、記者がアバターになって取材するという新事業を展開している。また、大阪府など観光PR目的でロブロックスを利用する事例も出てきている。

こうした中で利用者数も年々拡大している。2024年末のデータでは、世界中で毎日8500万人以上がログインしている。そのうち3分の1近くが、13歳未満の子供だ。日本でも過去1年で利用者が急増し、小学生のおよそ3%が遊んでいるとされる。
こうなっている理由が日本では『マインクラフト』や『あつまれどうぶつの森』のようなゲーム程度にしか理解されていないことだ。しかし、実際にログインしてみると、その認識が間違いだったことはすぐにわかる。
■ロブロックスは単なる「ゲーム」ではない
ロブロックスは、ただのゲームではない。
FacebookのようなSNS機能、YouTubeのような投稿・拡散の仕組み、さらにゲーム内通貨を使った経済活動までが、ひとつのサービスの中にまとめて詰め込まれている。無料で遊べる無数のゲームが並び、その横で子ども同士がつながり、評価し合い、仮想のお金を使って売買までできる。
言い換えれば「ゲームの形をした総合サイト」だ。
そして、このサイトは子供を依存させるように設計されている。
政府がロブロックスへのアクセスを遮断したトルコでは、国営放送TRTが、その依存の深刻さを報じている。
2024年8月、トルコでは政府が裁判所命令に基づき遮断を実施した。しかし、その後も、それでも子供たちはロブロックスの話をやめないし、VPNを使ったアクセスが横行しているという。
報道では「人類の歴史上、これほど多くの子供が同時に交流し、遊び、チャットし、取引する場所は存在しなかった」とし、それは同時に歴史上これまで存在しなかった形の子供にとって危険な場所であるともしている。
ロブロックスへの依存は家庭や学校への教育でどうにかなるものではない。なぜなら、サイトの設計そのものが、どうやって子供を依存させるかを目的に設計されているからだ。
■子どもを依存させるように設計された仕組み
この点で、ロブロックスは従来のゲームと大きく異なる。
親世代が知っているゲームは、クリアすれば終わりという区切りがあった。しかし、ロブロックスにそんなものはない。無限にゲームが追加され、友達とのチャットが24時間途切れない。友達がログインしている限り、自分だけ抜けることができなくなっていく。
さらに、アイテムを買ってアバターを着飾れば「いいね」がもらえる。もっと評価されたくて、また買う。
自分でゲームをプログラミングするのも同様だ。目的が見ず知らずの誰かに「いいね」を貰うための行動になっていく。しかも、ゲーム内で得られる通貨がリアルマネーに換金可能になっていることも、それを加速させる。
これは大人がSNSやYouTubeのような動画投稿サイトで起こしている問題と同様だ。自分が見たSNS上の投稿や動画を、AIは分析し、好みにあった投稿や動画を無限に表示しつづける。「いいね」は、脳に快楽を与える。そのくり返しで、麻薬のように「いいね」を欲しがるようになり、投稿はより過激になっていく。
ロブロックスの設計は、これとまったく変わらない。つまり、「教育に良い」「ビジネスに使える」と見せかけて、実際には子供を快楽漬けにする仕組みになっているのだ。
■ロシアで起きた「遮断への抗議デモ」が示す依存の深さ
ネット企業は、サービスそのものをユーザーが依存するように設計している。これは、いま大人向けのSNSや動画サイトでも明らかになっている事実だ。
2025年11月にEUがまとめた報告書では、GoogleやMetaなど複数の企業が自社のサービスが、子供を含めた利用者に依存をもたらすリスクがあることを認識していることを認めたことが記されている。

つまり、既に多くの国では無料で誰もが始めることのできるサービスは、脳内麻薬を量産しユーザーを中毒にするようにできているのは常識になっている。ただ、日本だけがこうした危機感もなく新たなネットサービスを教育やイノベージョン、ビジネスのチャンスと無警戒に受け入れているのだ。
ロブロックスへの依存の深刻さをもっともわかりやすく示しているのが、ロシアでの動向だ。ロシアでは2025年12月に「過激主義やテロリズムを正当化し、子供に不適切なコンテンツ」が蔓延しているとしてロブロックスの禁止を決定した。
ところがロシアの英字紙「The Moscow Times」によれば、ロシアの地方都市では、遮断に抗議するデモが発生。ロイター通信が配信したニュースでは、戦時下でこうした抗議活動が活発化していると驚きをもって報じられ、6万3000通を越える抗議の手紙がプーチン大統領に届いていることを報道官も認めたとしている。
西側の主要SNSはすでに遮断され、政府批判にはリスクもあるロシアで「ロブロックスにアクセスできなくなった」と抗議が起きていることからは、いかにロブロックスが深刻な依存をもたらすかを示している。
しかし、なぜ、日本ではいまだこうした危機感が認識されていないのか?
その背景には、日本で長く続いてきた問題意識のズレがある。
■ロブロックスは本当に「教育」や「ビジネス」なのか
これまでインターネット上で問題視されてきたのは、わいせつな画像や暴力的表現、違法投稿といった「コンテンツの中身」だった。規制の対象も、常に表現そのものに向けられてきた。
だが、現在のインターネットは様相が変わっている。問題の中心は「中身」ではなく、「仕組み」だ。
利用者をできるだけ長時間とどめるために設計された中毒化構造が、結果として過激で悪質なコンテンツを次々と生み出す環境を作っている。
この点が批判されると、企業は表向きには問題を認め、対策を約束する。しかし、根本的な設計が改められることはほとんどない。なぜなら、ユーザーの滞在時間や収益を実際に押し上げているのは、まさにそうした依存性の高い仕組みだからだ。
結局のところ、ロブロックスは、大人向けSNSと同じ仕組みで作られたものを、ビジネス目的で「子供向けサービス」として売っているに過ぎない。子供を集めてまで、教育やビジネスに使わなければならない必然性は、本来どこにもない。
そして、もっと重要なのは、これがビジネスとしても実は中身の薄い話だという点だ。
いま、ロブロックスを
「新しいビジネスチャンスだ」

「子供の教育に役立つ」
と盛んに宣伝している顔ぶれを見ると、少し前まで
「これからはメタバースだ」
と同じ調子で語っていた人たちと、ほとんど重なっている。
メタバースは思ったほど広がらず、事実上ブームは終わった。子供向け教育ツールとして普及したマインクラフトも、すでに成長は頭打ちになっている。その次の使い道として、ロブロックスが選ばれているにすぎない。
■子どもが“実験台”にされている現実
だからこそ、その危険性は意図的に見ないふりをされる。ビジネスになる間は「教育に良い」「可能性がある」という言葉で覆い隠し、問題は後回しにされる。子供がその実験台になっていることには、誰も正面から向き合おうとしない。
知名度のある企業や、馴染みのあるキャラクターがロブロックスに次々と登場している理由も、冷静に見れば単純だ。それは「子供の未来のため」でも、「新しい文化の創造」でもない。
企業側の本音は「万が一、流行ったら取り残されないための保険」である。比較的少ないコストで公式ワールドを作り、「実験的に参入しました」という実績を残しておく。もしロブロックスが本当に次の主流になれば「我々は最初から関わっていました」と言える。流行らなければ、静かに撤退すればいい。それだけの話だ。
この構図は、決して目新しいものではない。数年前、「これからはメタバースだ」と叫ばれていた時も、大手企業や自治体が一斉に参入し、仮想空間に支社を作り、イベントを開き、キャラクターを配置した。だが、その多くは人知れず消えていった。
ロブロックスへの参入も、本質的にはそれと変わらない。子供が使っているから注目されているだけで、企業にとっては「次の流行に賭ける安価な実験場」にすぎない。
結局のところ、海外ではすでに、ロブロックスは「問題が起きるかもしれないサービス」ではなく「問題を生み出す構造を持ったサービス」だ。
それでもなお、日本だけが周回遅れで走り続けている。企業にとっては小さな実験でも、その実験台になるのは、判断力も自衛手段も持たない子供だ。

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昼間 たかし(ひるま・たかし)

ルポライター

1975年岡山県生まれ。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。著書に『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)『おもしろ県民論 岡山はすごいんじゃ!』(マイクロマガジン社)などがある。

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(ルポライター 昼間 たかし)
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