※本稿は、飯田史也『あなたの一生を支える 世界最高峰の学び』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■他者との対話に「深い学びの種」がある
私たちは、自分の考えを自分で磨くだけでは、どうしても限界があります。他者との対話の中で、思いがけない指摘や新しい問いをもらい、自分の理解を深め、表現を練り直すことの中に、深い学びの種が眠っています。
とはいえ、誰とでも対話が深まるわけではありません。
逆に、自分が一生懸命言葉にしても、相手が受けとめきれないこともあります。こうしたすれ違いは、ごく自然なことです。相性はとてもたくさんの要素から決まる、複雑なものです。すべてが噛み合う相手の方が稀でしょう。
ここで、大切になるのは、「ひとりの相手にすべてを求めない」という姿勢です。
ある人はおもしろい話題を与えるけれど、考えを整理するには向かないかもしれません。議論は盛り上がらなくても、良質な情報だけを提供してくれる人もいます。
■自分の思考を深めてくれる相手を見極める
深い学びの鍵は、多様な人と関わりながら、自分の思考を深めてくれる相性のよい人と巡り合うことです。
すべての人と等しくつきあう必要はありません。むしろ、相性のよくない相手と無理に続けると、かえって学びが停滞してしまうことさえあります。
だからこそ、「全員とうまくやらなければならない」という思い込みを手放し、自分にとって本当に意味のある関係を育てることが大切です。
相性が合えば、話題選びも、自分の理解を深める問いかけも、より効果的になります。相性のよい相手となら、議論の中で本質的な問いにまで到達しやすくなり、思考をさらに深いレベルへと導いてもらえることもあります。
同じ1時間の対話でも、相性次第で学びの成果には大きな差が生まれます。
ただし、相性が合わないと感じても、すぐに諦めてはいけません。相手が語る内容が難しく思えても、自分の知識が深まることで後から意味を持つこともあります。相手自身も変わっていく存在です。
お互いをよく知るうちに、話し方やテーマが変わり、この上ない相性が生まれることもあります。
このように、「相性」は深い学びを支える大事な基盤です。
すべての人と深く関わる必要はありませんが、自分にとって意味ある関係を見極め、時間をかけて育てることは、深く豊かな学びを続ける土台になります。
■『ハリー・ポッター』のようなフォーマルディナー
ケンブリッジ大学の学生生活で最も印象的な体験のひとつが、週に数回行われるフォーマルディナーです。
荘厳なホールにキャンドルが灯され、参加者はガウンをまとい、格式ある食事を共にします。まるで映画『ハリー・ポッター』の一場面のようなこのディナーは、ただのイベントではありません。
実は、コミュニケーションを鍛える絶好のトレーニングの場でもあるのです。
このフォーマルディナーにはたくさんの厳格なルールがあります。
まず、ドレスコードがあります。スーツやドレスの上に、真っ黒なガウンを着ます。Tシャツやスニーカーを着ていくと、入り口で追い返されて、食事にありつけません。
そのほかにも、会の開始を知らせる銅鑼(どら)と、ラテン語での祈りなど、一見すると堅苦しく感じられる伝統があります。
しかし、これらの形式や伝統はすべて、人と人との対話を促進し、関係を築くためのしかけとして機能しています。
■一度の食事で複数人と会話するしくみ
たとえば、食事は前菜・主菜・デザートの3プレートで構成されており、各プレートごとに隣の人と話す相手を変えなければならないという慣習があります。
これは、たった一度の食事でも複数の人と会話する機会を設けるためのしくみであり、知らない人と話すことが苦手な人にとっても、形式に沿って動けば自然と交流が始まる設計になっています。
加えて、提供される料理やワインは、誰もが楽しめる共通の話題として機能します。
どんなに気難しい人でも、おいしい食事の前では、自然と会話も弾みます。こうした共有された状況が、初対面同士でも会話の糸口を見つけやすくし、「話し始めること」の心理的ハードルを下げてくれるのです。
■「知らない人と話す」ハードルを下げる役割がある
コミュニケーション力を鍛えるには、日常の安心した環境を一歩出て、自分と異なる価値観を持つ人と会話する経験が不可欠です。
フォーマルディナーでは、学部や専門分野の異なる学生に加え、教職員や外部ゲストなど、普段は接点のない人々ともテーブルを囲むことになります。
このような異分野・異年齢・異文化の人との会話は、最初は戸惑いを感じるかもしれません。しかし、その「戸惑い」に慣れていくことが、まさに実践的なコミュニケーション力の養成につながります。
さらには、会話が学問的な話題にとどまらず、趣味やキャリアの悩み、人生観にまで広がることもあります。
2時間という長い時間を共に過ごす中で、会話の深度を調整する力、相手の反応を読み取る力、自分の考えを適切に表現する力など、まさに総合的な対話力が求められる場面です。
■話す力を鍛えるための「枠組み」
自由に話す力を鍛えるためには、実はある程度の「枠組み」が有効であることを教えてくれます。フォーマルディナーの厳格な形式は、一見すると自由を制限しているように見えますが、実際には会話のベースラインを整える役割を果たしています。
人はだれしも、好きな人と話をしたいものです。気心の通じた人との話は楽しく充実します。
それでも知らない人、新しい隣人との出会いと、そういう人との会話の練習は自分の成長に欠かせません。
そのような難しい一歩の背中を押してくれるのが、フォーマルディナーという学びのしくみなのです。
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飯田 史也(いいだ・ふみや)
ケンブリッジ大学工学部教授
1974年東京生まれ、ケンブリッジ大学工学部教授、ケンブリッジ大学コーパスクリスティカレッジフェロー、東京大学大学院工学系研究科教授、理学博士。小中高大院と日本で教育を受けたのちに海外留学生活を始める。2006年にスイス・チューリヒ大学博士課程修了後、ドイツ・イエナ大学と米国・マサチューセッツ工科大学で研究員、スイス連邦工科大学チューリヒ校の教員を経て2014年より現職。研究の専門分野はロボット工学で、スイスと英国で16年教壇に立ち、200人以上の教え子を世界中に輩出してきた。
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(ケンブリッジ大学工学部教授 飯田 史也)

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