※本稿は、飯田史也『あなたの一生を支える 世界最高峰の学び』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■5月と6月の学年末試験は毎年修羅場
毎年、学年末試験が行われる5月と6月は、ケンブリッジの大学と街全体が、一番の緊張に包まれます。どの学部もどの学科も共通して、すべての試験は学年末に一度に行われます。
学生の観点からすれば、1年を通じて、学期ごとに少しずつ科目を分けて試験をしてくれた方が楽です。習ったことを忘れる前に、少しずつ試験をやってもらいたいと思うのは当然でしょう。
ところが、この学年末試験のやり方もまた、ケンブリッジ大学で長年続くしきたりのひとつで、誰も変えることのできない、不文律の掟になっています。
なぜこのようなしきたりになっているのでしょうか?
ここでは、ケンブリッジ大学の学年末試験の実情と、その背景について考えてみましょう。
■学年末試験は「学びを加速するしかけ」
ケンブリッジ大学における学年末試験は、単なる卒業要件の一部ではなく、多くの要素を含むとても重要な「学びを加速するしかけ」です。
まずこの試験は、卒業資格に直結します。
ケンブリッジの入学試験はカレッジごとに実施され、各カレッジが合否を決めますが、卒業資格については大学全体が判断し、試験も大学が統一的に実施します。
この違いは一見些細なようですが、実際には大きな意味を持っています。
この試験は、学生の卒業を決めるだけではありません。
それ以上に、カレッジ間や教員間の緊張関係を促進する役割も果たしています。優秀な学生が多いカレッジは、試験結果で他のカレッジを上回ることで評価され、担当教員もその功績を称賛されます。
反対に、自分のカレッジから落第者が出れば、大きな問題として扱われます。
このようなしくみにより、教員たちは学生の学力向上のために1年を通じてあらゆる方法を模索し、試験対策に力を注ぎます。
試験は、学生にとっても学びの底力を引き出すための重要なツールです。試験がなければ得られない学びがあり、試験があることで学びの成果が飛躍的に高まることがあります。
一方で、試験の設計を誤れば、学びのチャンスが失われます。そのため、試験の構成や内容は慎重に考えられ、学生にとって最大限の効果を引き出せるよう設計されています。
ケンブリッジ大学の試験は、単に学生の学業成果を評価するだけではありません。教員たちの緊張感と意欲を高めるとともに、組織全体の体制やカリキュラムを形づくる重要な役割を担っています。試験というしくみは、学びを評価する手段であると同時に、教育の質を高めるための重要な原動力にもなるのです。
■一夜漬けで乗り切ることはほぼ不可能
試験といえば、一夜漬けで乗り切った経験を持つ人も多いでしょう。
しかし、ケンブリッジ大学の学生は、一夜漬けで試験を乗り切ることはほぼ不可能です。膨大な試験範囲と問題量だからです。1年を通じて計画的に学び続けることが求められます。学年の始まりである10月頃に行われる個別指導では、教官たちは長期的な視点を持って指導を始めます。この指導が8カ月後の試験で役立つよう計画されます。日々の宿題をこなすだけでなく、試験を意識した学びの基盤が重視されます。
12月には最初の学期が終了し、冬休みが訪れます。この一学期8週間を乗り越えた学生たちは一息つきますが、この冬休み期間に、それぞれの学生が自律的に復習を行うかどうかが、後の成績に大きな影響を与えます。冬休みをうまく活用することで記憶の定着が図られ、逆に怠ればその遅れを取り戻すのは非常に困難です。
そのため、冬休み明けの2学期の最初の週には模擬試験が実施されます。
実際の試験と同じ形式で行われるこの模擬試験は、学生に試験の感覚をつかませる重要な機会です。
■1年間を通じて学びのサイクルを回す
2学期はさらに多忙を極め、1学期以上の勉強量が課されます。その間に、1学期に学んだ内容を忘れてしまうこともあります。春休みには、この2学期の復習を中心とした大量の課題が与えられますが、試験が間近に迫っていることもあり、学力に余裕のある学生は2学期分の両方を復習します。
ケンブリッジでの試験準備は学年を通じた継続的なプロセスであり、学生たちが試験に向けて努力を積み重ねる過程で得るものは非常に大きいのです。
ここで大切なのは、試験勉強は学生たちが個別にがむしゃらにがんばるだけではないというプロセスです。
ただ膨大なインプットをそれぞれがこなすだけではなく、スーパーバイザーやチューターとの議論や相談、宿題や模擬試験の成績相談、体調管理まで含めた勉強方法など、コミュニケーションを中心にした学びのサイクルを、1年間を通じて回していくという点です。
■大切な「ヘルプサインを出す技術」
春休みが終わると、再び模擬試験が実施され、ここから本格的な試験準備が始まります。この時期は授業や実習、レポート作成と並行して試験対策を行うため、学生も教員も非常な緊張感に包まれる時期です。
試験直前の個別指導では、学生一人ひとりの状況に合わせた特別な指導が行われます。
教員たちは、学生の弱点を克服するための復習問題を用意し、試験での戦略や解答のアプローチについて議論します。
加えて、学生の体調管理や精神面のサポートも欠かせません。
ここで、学生にとっては、ヘルプサインを出す技術が大切になります。
膨大な試験範囲を前に、すべてについて質問するわけにもいきません。その一方で、何もヘルプを出さないと、学びのチームが効果的に動きません。
試験直前になって多くの問題にパニックにならないように、普段から、少しずつヘルプサインを重ねて、効果的に学びを深める技術がここで役に立つわけです。
■すべての試験が終わるとシャンパンを開けて大騒ぎ
試験期間中の大学は、緊張感と静寂に包まれた独特の雰囲気に満ちています。
ケンブリッジ大学の学年末試験では、試験監督を務める教官たちは全員真っ黒のガウンを着ることが義務づけられています。どのような意味があるのか知りませんが、この伝統的な儀式が、試験期間中の厳粛な空気をさらに引き立てる一因となっています。
すべての試験が終了すると、学生たちは一斉に試験会場を出て、シャンパンを開けて大騒ぎするのが恒例です。
1年を通じた努力が報われる瞬間として、学生にとっても特別な時間です。この後、夏休みが始まるまでの数週間は学生たちにとってパーティーの季節となり、試験の重圧から解放されて楽しい時間を過ごします。
教員たちにとっては、ここから試験結果の採点と総評を行う仕事が待っています。
1年間を乗り切った安心感を胸に、試験の結果を分析し、成功した点や改善すべき点を振り返ります。この振り返りは、夏のリサーチピリオドの計画に役立てられ、次年度に向けた教育の質の向上につながります。
こうしてケンブリッジ大学の1年は締めくくられ、学生と教員それぞれにとって新たな挑戦への準備期間が始まります。
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飯田 史也(いいだ・ふみや)
ケンブリッジ大学工学部教授
1974年東京生まれ、ケンブリッジ大学工学部教授、ケンブリッジ大学コーパスクリスティカレッジフェロー、東京大学大学院工学系研究科教授、理学博士。小中高大院と日本で教育を受けたのちに海外留学生活を始める。2006年にスイス・チューリヒ大学博士課程修了後、ドイツ・イエナ大学と米国・マサチューセッツ工科大学で研究員、スイス連邦工科大学チューリヒ校の教員を経て2014年より現職。研究の専門分野はロボット工学で、スイスと英国で16年教壇に立ち、200人以上の教え子を世界中に輩出してきた。
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(ケンブリッジ大学工学部教授 飯田 史也)

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