アメリカの第2次トランプ政権が始まるなど、世界経済が揺れた2025年。長年、投資市場を見てきたFPの浦上登さんは「NISAなどを活用し、主要インデックスに投資して損をした人は少ないはず。
中には値上がり率約60%という伸びを示したものもあった」という――。
■主要インデックスの成績発表
今年もいよいよ終わり。連載してきた投資解説記事のまとめとして、取り上げたインデックスの2025年のランク付けをしてみようと思う。
取り上げたのは、米国株価指数のS&P500、オルカン(全世界株式)、金、ビットコイン、米国REITの5つである。
これらが今年1年間でどのくらい上昇したかを見てみたい。
比較は米ドル建て価格で行うが、円ドル為替レートも1USドルあたり1月2日が157.52円、12月10日が156.00円なので、円換算してもほとんど変わらない。
■ビットコインは最後に急落
上昇率の低いものから紹介していこう。
第5位は暗号資産の「ビットコイン」で、上昇率はマイナス5.03%となった(全て2025年1月2日~12月10日。米ドル建てインデックスにて比較。手数料は原則含まず)。
5つの資産のうち、上昇率が唯一マイナスとなった。
年初に9万6907ドルつけて、8月から10月にかけて12万4000ドルを超えたものの、12月10日には9万2036ドルと逆戻り、5%の下落で終わった。

リスク資産の中でも値動きが荒く、「流動性・需給・ポジション」に左右されやすいので、株より大きく振れるのが特徴だ。第4半減期以降の上昇がこれで終わりなのか、また続くのかがよくわからない。2025年に限って言うとビットコインの上昇は踊り場に来たといえる。
■米国REITはほぼ上がらなかった
第4位は不動産投資信託の「米国REIT(リート)」で、上昇率1.00%だった。
ほぼ横ばい。今年は株式が上昇した年といえるが、リートはその性質上、株式ほどには上昇しない。金利の影響を受けやすく、米国が比較的高金利で推移したため、上昇局面に乗れなかった年といえる。
■S&P500、オルカンは20%前後上昇
第3位は「S&P500」、上昇率17.35%、第2位は「オルカン(全世界株式)」で上昇率21.77%となった。
同種のインデックスなので、まとめてコメントしたい。
オルカン(全世界株式)の3分の2は米国株。今年の上昇率を比較すると、オルカンの方がS&P500より4%強上回っている。特に4月のトランプショック後、コンスタントにオルカンの上昇率が高くなっている。

これは、米国株がトランプ関税、AIバブルの懸念、金利高とインフレ、米国政府の財政問題などにより株価下落の直撃を受けやすく、かつ、上値が重かったのに対し、欧州、日本、BRICS株がそれらの影響を受けるリスクが小さく、相対的に安定していたためといえる。S&P500が10月28日の高値6890ドルを超えられるかが、来年初頭にかけてのポイントだと考えていたが、12月24日現在、6932.05ドルまで上がっている。
例えば1月にオルカンに100万円投資していたなら、12月には約122万円の価値になっている。新NISAで少額ずつ投資していたとしても、あるていどの成果は出ているはずだ。
■金に100万円投資すれば160万円
そして、今年の上昇率1位は断トツで「金」だった。上昇率は59.08%。
近年、脱ドルの動き、各国中央銀行による金の購入が進んでおり、また、ウクライナ戦争などの地政学上のリスクも増大しているため、安全でかつ戦略的な資産としての金価格の上昇が顕著だった。
仮に1月に100万円分の金を購入していれば、単純計算で160万円ほどの価値になっている。これほど短期での利益が見込める投資は、他にないだろう。
■主要インデックスの動向まとめ
各インデックスの上昇率を比較したのが、以下の図表7と図表8である。
比較チャートでみると、金の上昇が際立っているのに加えて、ビットコインが8~10月に高値を付け、その後、下落したのが印象的だ。
■10年間の上昇率ランキングは?
今年の上昇率だけでは一時的なので、長期投資を前提に、最近10年間(2016年1月4日~2025年12月10日)のランキングで見てみよう。

今年の順位と大きく変わるのはビットコインである。10年ランキングは上昇率の高い方から説明したい。
1位:ビットコイン=上昇率24,909.78%
この数字だけを見ると一体どのくらい上がったのか見当がつかないが、10年間で約250倍になったということだ。
上昇率比較では、10年間の“桁違い”の勝者ということが言える。この差は資産の「優秀さ」以上に、資産の性格が他のインデックスとは別物であることに起因している。
A)超ハイボラティリティ

価格が極端に激しく、速く変動しやすい性格を持っている
B)需給主導

企業の株価のように、企業価値などの経済のファンダメンタルズを基盤とした資産ではなく、価格が買い手(需要)と売り手(供給)のバランス(需給)の変化によって動かされる性格のものである。
C)レジーム転換

それまでの安定していた経済状況や市場の支配的なルールやトレンドを打ち破り、実体資産に裏打ちされない資産として登場した。従来のルールを打ち破ったことが、短期間で未曾有の上昇をもたらしたということが言える。
2位:金=上昇率293.48%
増加率が元本の2.93倍なので、10年間で金は3.93倍、すなわち、約4倍になった。
これは株価変動をヘッジする「守りの資産」というだけでなく、通貨・インフレ・地政学・金融不安といった「構造要因」が複数回発生し、そのたびに金が評価され、ドル離れを目指す投資家や国などが継続的に購入していることに起因している。
金は「リスクオフの一時避難」だけではなく、「長期リターン源」および「資産保持の新しい柱」になってきたといえるだろう。
■この10年は米国株投資が正解だった
3位:S&P500=上昇率242.17%
4位:オルカン(全世界株式)=上昇率170.15%
10年でS&P500は3.4倍、オルカンは2.7倍になった。
S&P500がオルカンを上回ったのは、10年間にわたり米国株の収益力・成長力がオルカンを上回ったのが原因と考えられる。
一方で、その差は「決定的」なものではなく、オルカンの「地域分散による安定性(市場のルールが変わっても持ちやすい)」という強みも評価されるべきだろう。
すなわち、この10年比較では「米国が強いと評価した人が報われた」といえるが、この傾向が盤石なものかどうかはわからない。今年はS&P500とオルカンの順位が逆転した。
5位:米国REIT(USRT)=上昇率26.7%
REITは株式ほど伸びない代わりに大きく下落するリスクも少ない資産なので、10年で26.7%の上昇率も決して悪いものではない。
株・金・ビットコインのような市場動向ではなく、金利・資金調達コスト・利回り評価などの金利環境という条件に縛られるのがREITの特徴ともいえる。
図表9は、各インデックスの上昇率の比較を行ったものだが、今までに述べたドル建ての評価に加え2016年当時に円で投資をした人は、為替が円安に振れたため、それ以上のリターンを享受することができたことになる。
■2026年はどうなるか?
日銀の金利引き上げなど、日本を始め、世界の政治・金融はドラスティックに変化しているが、あえて来年の動向を考えるとすれば次の通りだ。
2026年のS&P500の上昇率は2025年より鈍る可能性がある。
最近20年のS&P500の年間上昇率を見ると、2、3年上昇した後、次の年は0かマイナスになっている。このリズムが続くとすれば、2023、24、25と3年連続で上昇しているので、26年は0かマイナスになる確率が高い。オルカンもS&P500に連動するだろう。

■投資の基本「下がったときが…」
もしも株価が下がったとしても、長期積み立てをやめてはいけない。価格が下がる時こそ安く株が買えるチャンスなので、むしろ仕込み時と言える。淡々と長期積み立てを続けていくのがいいと思う。
2008年のリーマンショックでは、リーマンショック前の最高値で一括高値掴みをしても、5.5年で株価は回復した。一方、積立投資の場合は2年超で投資額は元に戻っている。積み立て投資は株価下落中でも買い続け購入価格を下げるので、不況時に強い投資方法なのだ。
問題は株価下落中でも買い続ける“胆力”があるかどうかだ。初心者は積立投資を途中でやめてしまいかねない。実は株価下落中の積立購入が将来の利益創出の原資になるのに。
株価下落は決して望ましい流れではないが、そのときでも、長期積立を続けることをお勧めする。
金は株価下落の際に上昇することが多い。株価と逆の動きをする資産として金を買っておくことは、株価下落時の精神的な支えとなる。

来年以降もドル離れの動きは進むだろう。その意味では金だけでなく、ビットコインも注目だ。

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浦上 登(うらかみ・のぼる)

コンサルタント

早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱重工業に入社、海外向け発電プラントの仕事に携わる。ベネズエラ駐在、米国ロサンゼルス営業所長などを歴任後、三菱重工グループの保険代理店に移り、取締役東京支店長。2009年にはファイナンシャル・プランナーの上位資格CFPを取得。2017年にサマーアロー・コンサルティングを設立、著書に『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』(PHP研究所)がある。

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(コンサルタント 浦上 登)
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