※本稿は、細井裕司『挑戦する人か、文句を言う人か 奈良医大7883日の奮闘と大改革』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■入学式の式辞も『学報』も変えた
教育改革により、大学の在り方を大きく変えようとしてきた私にとって、最も重要な役割の一つは、学長自らの言葉で大学の方針や挑戦を伝え続けることだ。「こんな制度をつくった」「こんな協力体制を構築した」と突如発表しても、何のためにやっているのかという意義や目的が伝わらなければ、大学の思いと学生の思いは離れてしまう。そうならないようにと、細井流のコミュニケーションを始めた。
まず、入学式の式辞では、いかに記憶に残るかを考え、壇上で一方的に話し続けるのではなく、パワーポイントを用いる形式を採った。聴覚だけでなく、画像や文字といった視覚にも訴えることでより強く印象付けられるからだ。私は学生が興味、関心を持ち、自分事として捉えてもらうための方法を常に考えていた。
また、学生や教職員、学校関係者に向け年4回発行される学内広報誌『学報』に、「学長からのメッセージ」を毎号掲載することにした。ここには式典でのあいさつの内容を記録するだけでなく、大学の取り組みや「挑戦の精神」にまつわるエピソードを私自身が記している。文字で残せば読み返すこともできる。
■学生や卒業生に対するサポート体制
「奈良医大は、在学中も卒業後も面倒見のいい医科大学です」。このキャッチフレーズを携え、教育改革と同時に進めてきたのが、学生や卒業生に対するサポート体制の充実だ。14億円の寄付を集めた(先述)未来への飛躍基金だけでなく、教職員が一丸となって支援体制をつくり上げてきた。例えば、学生や研修医に対して、臨床研修センターでは、キャリア構築の相談や進路指導といったサポートを手掛けている。
卒業後の生涯教育システムも構築した。最新医学知識の共有から自身のプレゼン能力を磨くスキルアップ講座まで、生涯のパートナーとして資質を生かすための支援を行う。
奈良医大の方針を知ってもらうため、学生にとどまらず、保護者を対象とした取り組みも開始した。まず、入学式や卒業式では必ず、「奈良医大は卒業後も心のよりどころとなり、生涯にわたってサポートを続ける面倒見の良い医科大学です」と繰り返し強調し、支援事例を紹介している。
そして、入学式や白衣授与式(臨床実習開始前に実施)には保護者を招待。入学式後の食事会では、県知事臨席の下、教育方針や卒後教育の仕組みを述べることにした。私立大学では一般的な取り組みかもしれないが、国公立大学では保護者を対象に食事会を行っている大学は少ない。
■10ページに及ぶ「学長からの手紙」の内容
手紙では、データを用い、日本の医療と医師の将来像について、丁寧な説明を心掛けている。というのも、私学では学生は医師の子弟が多いと思うが、奈良医大では医師の子弟が比較的少なく、保護者の多くは医療現場の現実を必ずしも熟知しているわけではないからだ。実は私自身、祖父の思いを受けて医師になったものの、家族や親族に医師がいたわけではないので、学生たちの環境が想像しやすかった。
保護者の間には「世の中は医師不足だから医大に入れば安泰」という見方が根強い。だが、実際には医師不足よりも地域や診療科による医師偏在こそが問題だと指摘されている。厚生労働省の推計(2022年2月。医師需給分科会)によれば、医師の労働時間を一般労働者並み(週60時間以内)と仮定した場合、2029年には全国で需給が均衡し、その後は医師過剰時代の到来が見込まれている。
私は、学生のキャリア形成を支える上で、正しい現状認識の共有が保護者の理解を得るために欠かせないと考えている。ここからは、保護者への手紙でも触れた「医師過剰時代にAIが及ぼす影響」について言及しておきたい。
■AI革命で起こること
医療の世界で分かりやすい技術革新といえば、かつてはCTやMRIが挙げられた。
人間が行っていた高度な判断まで、AIができるようになってきた。医療分野では、画像診断の領域から導入が始まり、AIによるパターン認識やディープラーニングを用いた診断は、人間とは比べものにならないスピードと精度を示している。さらに診療システムの効率化や疾患の進行予測、ナビゲーションシステムによる手術支援、研究開発における分子データの網羅的収集・解析など、その活用範囲は急速に広がっている。
■それでも高い評価を得られる医師になる方法
専門医が不要になることはないが、その数が縮小する可能性は大いにある。内科の診断もAIによって格段に効率化が進めば、今まで10人が必要であった業務が5人で済むようになる可能性は高い。一方、外科においては、極めて近い将来ロボットが外科医に置き換わるということはないものの、徐々に外科医の仕事を代替していくだろう。
遠隔操作によるロボット手術が大学病院で日常的に行われる未来はそう遠くない。こうした時代においても高い評価を得る医師は、独自の技術を有している医師か、新しい医療を開発する研究力を備えた医師になるだろう。
そのために私は、奈良医大の教育・研究・臨床の力を高め、後述するMBT(Medicine-Based Town)という産学連携に基づく製品・サービス・まちづくりも進めてきた。
そして、医師過剰時代であっても活躍できる知識やスキル、ネットワークを奈良医大が提供することを伝え、県内で医師としての第一歩を踏み出すことが、その後の医師人生を豊かにし、時代の変化に耐え得る強さを持つことにつながるのだと、保護者に向けて呼び掛けている。
■AIと医学の融合を目指す拠点を設置
ここで2025年にオープンした「AIシステム医学融合イノベーションセンター」について触れておく。AI時代に適応した医師を輩出していくためには、データサイエンスや数理科学の基礎的知識の習得から医療分野への応用、システム開発に至るまでの一貫した教育・研究を実現する必要がある。そこで、奈良医大では、医学とAIの融合で未来の医療を創造する拠点「AIシステム医学融合イノベーションセンター」を2025年に開いた。同センターでは、段階的に教授選考を行い3つの講座を開設する。既に2講座の教授選考を終えている。
第一段階は「数理医学AI講座」である。ここでは数理モデルやAIアルゴリズムの基礎を研究し、種々の分野での研究力向上の土台を築く。第二段階は「応用システム医科学講座」で、基礎で得た知識を臨床データ解析や地域医療課題の解決に応用し、院内実装までを視野に入れる。
■AIと医学を積極的に融合させる
そして第三段階として「先端AI医学講座(仮称)」を設け、奈良先端医工科学連携機構との協働を通じて最先端のAI技術を医療に橋渡しする。イノベーションセンターの特徴は、基礎から応用、そして先端的なAI医学の研究開発を推進するという明確なステップを描いている点だ。
第一に、本学は県内医療を支える強固なネットワークを持ち、基礎から臨床までを網羅する研究体制を備えている点である。地域密着型の医療現場と直結したAI研究は、スピードと実効性を兼ね備えるはずだ。
第二に、奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大)との連携体制が確立している点である。同大が持つバイオサイエンスや情報科学の世界水準の研究力と、本学の医学的知見を融合することで、AI医療の開発に不可欠な医工学の連携が可能となる。奈良医大の「AIシステム医学融合イノベーションセンター」は、革新的な医療技術や先進モデルを、奈良から世界へ発信し、メディカルAI分野における日本の代表的拠点となることを目指している。
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細井 裕司(ほそい・ひろし)
奈良県立医科大学理事長・学長
大阪府生まれ。1975年奈良県立医科大学卒業。92年近畿大学医学部助教授を経て、99年奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座教授。2005年奈良県立医科大学附属病院 副院長 兼務のあと、2014年から現職。専門は、聴覚医学、耳科手術(新手術法の開発と実践)。
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(奈良県立医科大学理事長・学長 細井 裕司)

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