なぜあなたの話は相手に届かないのか。教育コンテンツプロデューサーの犬塚壮志さんは「説明が下手な人は自分が話したいことだけを言い続けてしまう。
説明がうまい人は自分が話す内容を固定せず、相手の反応を見ながら言葉を柔軟に変えている」という――。(第1回)
※本稿は、犬塚壮志『「説明」がうまい人がいつも頭においていること』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■なぜ誰もあなたの話を聞こうとしないのか
あなたは、こんな場面に遭遇(そうぐう)したことはないでしょうか。
会議やプレゼンの場で、話し手が一生懸命に準備した資料を、一言一句たどるように説明しています。おそらく、その人の頭の中は、次に何を話すか、どのスライドを見せるかでいっぱいです。その人は、一応最後までよどみなく説明を終えました。
しかし、ふと周囲の聞き手に目をやると、どうでしょう。ある人は手元のスマートフォンに視線を落とし、ある人はぽかんとした表情で宙を見つめ、またある人は困ったように眉をひそめている……。
あなたも感じたかもしれませんが、話し手が「完璧に説明しきった」と思ったその内容は、聞き手にはほとんど届いていなかったのです。
これは、説明がうまくない人が陥りがちな、典型的な失敗です。
「説明」という行為を「自分が話したいことを、決められた順番通りに、最後まで言いきること」だと考えてしまっていることが原因です。
■説明上手はキャッチボールがうまい
ここで、説明における最も重要なマインドについてお話しします。

それは、説明の主役は、話し手であるあなたではなく、聞き手である相手だ、ということです。これは、メッセージを計画、作成、伝達するすべての段階で、聞き手の特性やニーズを最優先する「聞き手中心アプローチ」(Beebe, 2012)に基づいています。
伝わらない説明は、一人で壁に向かってボールを投げ続ける「壁当て」です。
一方、説明がうまい人にとって、「説明」とは、「相手にボールを投げ、相手がどう受け取ったかを確認し、次のボールを投げること」。つまり、「キャッチボール」なのです。
想像してみてください。あなたが友人とキャッチボールをしているとします。
あなたが力いっぱい投げたボールを、相手がうまく捕れずに落としてしまいました。そのとき、あなたはどうするでしょうか。「なんで捕れないんだ!」と怒ったり、「次はもっとうまく投げよう」と自分の投球フォームを気にしたりするでしょうか。おそらく、違いますよね。
「ごめん、ちょっと強すぎたかな? 今度はもう少し山なりで投げるね」と、相手が捕りやすいように、次のボールの投げ方を変えるはずです。

■理路整然と話しても伝わらないワケ
説明も、これとまったく同じです。
あなたの言葉は、相手に投げるボールです。そして、相手の表情やうなずき、視線の動きといった「リアクション」は、相手がそのボールをどう受け取ったかを示す、何よりも雄弁なサインなのです。
相手が受け取りづらい言葉であれば、けわしい表情になったり、無関心になりますし、受け取りやすければうなずいて聞いてくれます。関心を持ってくれれば、「それで?」と話を促してくれるでしょう。
社会言語学の世界には「オーディエンス・デザイン」という考え方があります(Bell, 1984)。これは、話し手が無意識のうちに聞き手を想定し、それに合わせて言葉遣いや話の構成をデザイン(設計)している、という理論です。説明がうまい人とは、この「デザイン」を意識的に、かつリアルタイムで行える人のことなのです。
例えば、あなたが新しいスマートフォンの料金プランについて、実家の両親に説明しているとします。
「まず、基本料金がこれで、データ容量がギガ放題で、5Gオプションを追加すると月々プラス1000円。それで、2年契約の縛りがあって、もし途中で解約すると違約金が発生するんだけど、その代わり家族割を適用すると……」
あなたは「正しい情報」を「正しい順番」で話しているかもしれません。しかし、両親の頭の上には「?」マークが飛び交い、目は点になっているはずです。
これは、相手が捕れない剛速球を、一方的に投げ込み続けているのと同じ状態です。
■“シゴデキ”が話すときに意識していること
では、説明がうまい人はどうするでしょうか。彼ら彼女らは、常に相手の表情という「ミット」を見ながら、投げるボールを変えていきます。
「まず、一番大事なことから言うね。新しいプランにすると、今の料金より、毎月2000円安くなるんだ」(捕りやすい、やさしいボールを投げる)
両親「へぇ、そうなの!」
「うん。その代わり、今までと少しだけ使い方が変わるところがあってね」
両親「(眉間にしわが寄る)……どういうこと?」
「大丈夫、難しくないよ。例えば、今までお店でやっていた手続きが、このスマホ一つでできるようになるんだ。僕が全部やってあげるから安心して」

このように、説明がうまい人は、説明を「対話」だと考えています。自分が話す内容を固定せず、相手の反応を見ながら、言葉というボールの種類や投げ方を柔軟に変えていきます。
つまり、説明が苦手な人が「あれも言わなきゃ、これも言わなきゃ、どうやって言おう……」と考えているところを、「まずこれだけ言おう。わかってくれたな。次はこれを話そう」と、しっかり伝わっているかを相手のリアクションを一つひとつ確認しながら、丁寧に説明しているのです。
相手のリアクションを拾うことで、相手が発言せずとも対話にすることができます。
このキャッチボールの意識こそが、説明の名手たちが共通して頭においていることなのです。
■混乱している相手に情報を伝える方法
説明がうまい人は、相手の表情などを見ながら、状況によって説明を瞬時に切り替えるのです。一例を挙げましょう。
あなたが会議で新しい業務システムの導入を提案しているとします。ロジカルに、データに基づいてその優位性を説明していましたが、数人の聞き手が腑に落ちない顔で首を傾げているのに気づきました。
この「首を傾げる」というリアクションは、「あなたの話が理解できていません」という明確なサインです。
このとき、説明がうまくない人は、「なぜ伝わらないんだ」と焦り、同じ説明をさらに早口で繰り返してしまいます。これでは、相手の混乱を深めるだけです。
説明がうまい人は、このサインを見ても焦りません。即座に説明のレベルを下げたり、具体例を加えたりして、「球種」を変えます。
・相手を主語にした説明に切り替える
「失礼しました。
少し専門的すぎましたよね。要するに、今まで皆さんが3時間かけていた入力作業が、ボタン一つ押すだけで、10分で終えられるようになる、ということです」
・比喩(たとえ話)でイメージを補う
「身近な例でたとえると、これは皆さんがいつも使っている電車の乗り換え案内アプリのようなものです。目的地さえ入れれば、一番早くて安いルートを自動で示してくれますよね。あれの業務版だと思ってください」
このように、相手が「?」という顔をしたら、それはチャンスです。あなたの説明力を発揮し、相手の頭の中に「なるほど!」という納得感を生み出す絶好の機会なのです。
■「話がつまらない」と相手に思われたら
逆に、話し手が自信満々に話しているのに、聞き手が時計をチラチラ見たり、あくびを噛み殺したりしている……。これは「話に興味がありません」という、最も恐ろしいリアクションです。
このとき、説明がうまくない人は、相手の無関心に気づかないフリをして、準備した原稿を最後まで読み上げてしまいがちです。いわゆる「敗戦処理」に入ってしまいます。しかし、説明がうまい人は、この状況を打開するための「決め球」を持っています。
1 希少性を持ち出す
「実は、今からお話しするこのプランは、まだ社内でもごく一部の部署にしか公開していない特別なご提案なんです」
(→「自分だけが聞ける特別な話なのか」と、相手の心にフックをかける)
2 ニュース性を加える
「ちょうど今朝のニュースで、リモートワークによるコミュニケーション不足が問題になっていましたが、実はこのシステムは、その問題を解決するために開発されたものなんです」
(→「これは自分にも関係するかも、聞いておいたほうがよい話だ」と、当事者意識を持たせる)
3 質問を投げかける
「少し一方的に話しすぎてしまいましたね。○○さんは、今の話を聞いて、どのあたりが一番気になりましたか?」
(→一方的な説明を中断し、キャッチボールを再開させる)
相手が退屈そうな顔をしていたら、「もっと面白いボール」を投げるようにしましょう。


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犬塚 壮志(いぬつか・まさし)

教育コンテンツプロデューサー/士教育代表

福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。大学在学中から受験指導に従事し、駿台予備学校の採用試験に25歳の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備学校時代に開発した講座は、超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる。2017年、駿台予備学校を退職。独立後は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成・営業代行をワンオペで請け負う「士教育」を経営する。著書に『あてはめるだけで“すぐ”伝わる 説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)、『理系読書 読書効率を最大化する超合理化サイクル』(ダイヤモンド社)がある。

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(教育コンテンツプロデューサー/士教育代表 犬塚 壮志)
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