話が上手い人はどんな話し方をしているのか。教育コンテンツプロデューサーの犬塚壮志さんは「難しいカタカナ用語を交えて話すのは、相手がその言葉を知らなければ困惑と不信感を与えるだけ。
説明上手な人は相手が知っている言葉を選んでから話し始める」という――。(第2回)
※本稿は、犬塚壮志『「説明」がうまい人がいつも頭においていること』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■なぜ説明が上手な人の言葉は「心地良い」のか
自分にとっては当然でも、相手にとっては聞き覚えのない言葉もあります。
ある老舗企業で、若手従業員が、社長に、新しい販売戦略を提案しているとします。
「社長、今回の戦略のキモは、既存顧客とのシナジーを最大化しつつ、新規顧客のコンバージョンを上げることです。……」
社長「(心の声)しなじー……? こんばーじょん……?」
若手従業員が話している言葉のほとんどが、社長の頭の上を素通りしていきます。当人はカタカナ用語を駆使して「仕事ができる自分」を演出しようとしているのかもしれません。しかし、その結果生まれるのは、尊敬ではなく、「何を言っているのかわからない」という困惑と、「バカにされているかも……」という不信感だけです。
では、説明がうまい人は、同じ場面でどう話すでしょうか。
「社長、今回の新しい取り組みで一番大切なのは、昔からのお得意様にもっと喜んでいただきながら、新しいお客様にもお店のファンになってもらうことです。いわば『相乗効果』ですね」
話している内容は、先ほどの従業員とほとんど同じです。しかし、社長の理解度はまったく違うはずです。
後者の説明が心地良く頭に入ってくるのは、後者が「相手が知っている言葉」「相手がイメージできる言葉」、つまり「共通の言葉」を選んで話しているからです。
説明がうまい人は、自分の知識をひけらかしません。頭においているのはたった一つ、「どうすれば、自分の頭の中にある考えを、相手の頭の中に、そっくりそのまま届けられるか」です。
■難しい言葉に「翻訳」が必要な理由
なぜ、私たちは無意識のうちに難しい言葉を使ってしまうのでしょうか。
それは、自分たちが日常的に使っている言葉を、相手も当然知っているだろうと思い込んでしまう「知識の呪縛」(Heath, 2007)に囚われているからです。
しかし、あなたが医者なら、患者は医学用語を知らないかもしれません。あなたがITエンジニアなら、家族はプログラミング言語を知らないでしょう。そして、あなたが上司なら、部下は社内の略語や業界の慣習を知らない可能性があります。
説明がうまい人は、この「知識の呪縛」から自由です。常に「もし自分が、この言葉を生まれて初めて聞くとしたら?」という視点を頭においています。だからこそ、難しい言葉を、誰にでもわかる簡単な言葉へと「翻訳」する準備を怠らないのです。
ここで一度、「スキーマ」の話を用いて、「なぜ知らないことは聞いてもらえないのか」を簡単に見ていきたいと思います。

認知心理学に「スキーマ理論」(Bartlett, 1932)というものがあります。スキーマとは、私たちの頭の中にある知識の枠組みのことです。相手の頭の中に、その情報をしまう棚がなければ、捨てられてしまうように、聞き手が知らない言葉を聞いたとき、関連するスキーマが存在しない場合、脳が情報を処理できません。
コミュニケーションにおける最大の壁は、実はこの「枠組み」です。この枠組み(スキーマ)に入っていない概念や言葉は、理解してもらえないのです。
説明がうまい人は、このスキーマを超える方法を自然と使っています。
■話したい内容は「一言」にまとめておく
スキーマの違いを超えるためには三つのコツがあります。
1 「一言で言うと」の説明をする
相手が初めて接するものを説明しようとすると、とかく細かいことも話したりして、長くなりがちです。でも初めてのことだからこそ、大事なことだけ「一言」で説明してほしいのです。「一言で言うと」というシンプルな定義は、新しい情報を格納するための仮の「棚(スキーマ)」を、聞き手の頭の中に素早く作る役割を果たすのです。
例えば、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉を使いたいが、相手がわかるかどうかわからないと思った場合は、辞書を引いたり、ネットで調べて、大事なところを抜き出して説明します。
辞書(DXの例)「企業がビジネス環境の変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
一言で言うと「デジタル技術を使って、会社を根本から変えること」
事前に話す内容が決まっている場合は、ぜひ辞書で調べて用意していきましょう。
急に振られたときも「一言で言うと」と、大事なことだけ伝えるようにします。
■相手に「自分事」と思わせる
2 相手が持っている「辞書」を想像する
説明がうまい人は、相手との「共通の言葉」を使います。つまり、すでに相手のスキーマに入っている内容です。
あなたが経理部に新しいシステムの導入を説明する場面を想像してください。
説明がうまくない人は、システムの「革新性」や「デザインの美しさ」といった、自分が伝えたい魅力をそのまま話してしまいます。
しかし、説明がうまい人は、まず相手のことを考えます。「経理部のメンバーが一番気にすることは何だろう?」「経理部にとっての『良いシステム』とは何だろう?」と。
そして、経理部が最も重視するのが「コスト削減」や「作業の正確性」であるとあたりをつけ、それに合わせて説明の言葉を「翻訳」するのです。
「このシステムの導入で、外部に委託していた月5万円の経理作業を内製化できます。また、自動入力機能によって、入力ミスを98%削減したというデータもあります」
このように、相手が普段から使っている言葉、相手が価値を感じる言葉(=相手の辞書に載っている言葉)で話すことで、あなたの説明は「自分には関係ない話」から「まさに自分たちのための話」へと変わるのです。
■難しい用語を相手に説明するときの4ステップ
3 どうしても専門用語を使うなら、「解説」をセットにする
とはいえ、どうしても専門用語を使わなければならない場面もあります。そんなとき、説明がうまい人は、必ず「用語解説」をセットで行います。
これは、私が企業研修でも必ずお伝えしている、誰でもすぐに使える強力な「型」です。
【用語解説の型:4つのステップ】

STEP1:相手が知っているかを確認する

STEP2:一言で、シンプルに定義を伝える

STEP3:なぜそれが必要か(目的・メリット)を伝える

STEP4:具体的なイメージが湧く事例を出す
例えば、カメラ好きの人が友人に専門用語を説明しようとします。
STEP1:相手が知っているかを確認する
「カメラでよく言う『F値(エフち)』って聞いたことある?」
STEP2:一言で、シンプルに定義を伝える
「あれはね、カメラの『瞳の大きさ』みたいなものなんだ」
STEP3:なぜそれが必要か(目的・メリット)を伝える
「この瞳を大きくすると、光をたくさん取り込めるから、背景がすごくボケて、主役が際立ったプロっぽい写真が撮れるんだよ」
STEP4:具体的なイメージが湧く事例を出す
「ほら、この写真は、人物はくっきりしてるけど背景がふんわりしてるでしょ? これが瞳を大きくして(F値を小さくして)撮った写真なんだ」
説明がうまい人は、決して聞き手を置き去りにしません。相手の頭の中に「?」が浮かんだ瞬間を見逃さず、それを「!」に変えるための言葉を、常に準備しています。
そして相手の世界に歩み寄り、相手の言葉で語りかけることで、相手との間にある見えない壁は、なくなっていくのです。

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犬塚 壮志(いぬつか・まさし)

教育コンテンツプロデューサー/士教育代表

福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。大学在学中から受験指導に従事し、駿台予備学校の採用試験に25歳の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備学校時代に開発した講座は、超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる。2017年、駿台予備学校を退職。独立後は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成・営業代行をワンオペで請け負う「士教育」を経営する。著書に『あてはめるだけで“すぐ”伝わる 説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)、『理系読書 読書効率を最大化する超合理化サイクル』(ダイヤモンド社)がある。


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(教育コンテンツプロデューサー/士教育代表 犬塚 壮志)
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