全国860店を展開する丸亀製麺が、香川県丸亀市で大規模な「うどん祭り」を開催した。だが会場で自社のうどんは一杯も売られていない。
主役は地元の人気うどん店。しかも丸亀市はいまも店舗ゼロの“空白地”だ。社員200人超を動員し、なぜ採算のとれないイベントに踏み切ったのか。フリーライターの宮武和多哉さんが現地を取材した――。
■地方のイベントに社員200人が出動
店内製麵で人気を集める讃岐うどん専門店「丸亀製麺」。今や全国に860店舗を展開する巨大チェーン店だ。そんな丸亀製麺が2025年11月21日・22日、香川県丸亀市と共同で「丸亀うどん祭り2025」を開催した。
注目すべきは、その規模だ。丸亀製麺はこのイベントのために全国から200人を超える社員を集結させ、ゲストを招き市内5カ所で22種類の催しを開催した。
地元テレビ局は「丸亀うどん祭り2025」ジャック状態となり、丸亀城だけでなく、公園や広場、商店街など、会場はどこに行っても人でいっぱいだった。地元・丸亀市の方々も「こないにお金も人も使うて、丸亀製麺はどんだけがいな会社なんじゃ!」(讃岐弁で「どれだけすごい会社なんだ!」)と、驚いた様子だった。
なぜ全国規模の企業が1つの市のために、ここまでのリソースを投じたのか。

■「丸亀にない丸亀製麺」の暗い過去
丸亀製麺の創業は2000年11月、兵庫県加古川市。店名に「丸亀」を冠しているものの、丸亀市で創業したわけではない。讃岐うどんの本場・香川県の創業ではないのに「讃岐うどん」を名乗り、従来の讃岐うどんとは異なるスタイルで全国展開を進めてきた。
こうした経緯から、香川県内では反発の声も根強く、過去には3店舗が出店したものの撤退を余儀なくされた。そして香川県進出から20年近く経過したいまも、丸亀市での出店は叶わず、県内も1店舗のみにとどまっている。
今回の「丸亀うどん祭り2025」は、社名の由来である「丸亀市」の地域振興にも繋がる、全面協力を印象付けるイベントのようにも見える。香川県全体での「丸亀製麺」ブランドのイメージアップを図るもの、と言っていいだろう。
こうしてみると、「丸亀うどん祭り2025」は「丸亀製麺が独断で企画したもの」と思われるが、パンフレットを見るとかなり多くの人々が関わっていることがうかがえる。
【主催】 丸亀市、株式会社トリドールホールディングス、株式会社丸亀製麺

【協力】 丸亀商工会議所、丸亀市飯綾商工会、一般財団法人丸亀市観光協会、一般財団法人日本うどん協会、丸亀市中央商店街振興組合連合会、シャッターをあける会、広島地区活性化協議会
なぜ地元・丸亀市や地元企業・団体を巻き込み、「丸亀うどん祭り2025」を開催したのか。この背景を探ると、丸亀製麺の「丸亀」への情念のようなものが見えてきた。
■25年前の「原点」だった
丸亀市の松永恭二市長は、イベント会場で開催経緯についてこう述べた。
松永市長

「イベントの構想が浮上したのは、2022年4月に丸亀市・丸亀製麺・トリドールで地域活性化包括連携協定を締結してからしばらくのこと。
2年~2年半前ごろに丸亀製麺様から話があり、『おっ、やりましょうやりましょう‼』と応じて、イベントの準備を続けてきました」
なお、イベント開催にあたって否定的な反応がなかったか聞いたところ、松永市長曰く「私はいろいろと気を使うタイプですが、(丸亀製麺のイベントに関しては)市役所の方も企業の方も最初から大賛成! だから開催に漕ぎつけた」そうだ。
父が香川県出身という丸亀製麺創業のトリドールHD・粟田貴也社長は会場でこう話した。
トリドールHD・粟田社長

「2000年ごろに全国で『讃岐うどんブーム』が起こり、製麺所併設うどん店の行列に学びを得て、その年に丸亀製麺1号店を創立しました。あれから25年が経ち、これだけ盛大な祭りを開催できるのが、本当に夢のようです」
粟田社長は自著で、地元タウン誌連載に端を発する「一大さぬきうどんブーム」を振り返っている。「小麦粉の袋が野積みになり、大窯から湯気が上がっているような『製麺所併設うどん店』店内」の賑わいに衝撃を受けたという。
地元仕様・普段使いの製麺所併設店にうどんを食べに行くのは、観光客にとってはちょっとした冒険・体験に近い。こういったうどん店体験が、のちに丸亀製麺を「食体験」と位置付けさせ、来店そのものを楽しませる丸亀製麺の「ライブキッチン」のようなスタイルに繋がっていったという。つまり、丸亀製麺は「丸亀市で創業」ではないものの「丸亀市での食体験が原点」なのだ。
■「出店は大苦戦」でも関係良好
丸亀製麺はかつて、「『丸亀』と名乗りながら丸亀市創業ではない」「『讃岐うどん』を名乗りながら、麺・出汁が少々異なる」など、讃岐うどんの本場・香川県ではあまり好意的な目で見られてはいなかった。
いまも他県では1県3店以上出店しているのに、香川県には高松市の「丸亀製麺 高松レインボー通り店」の1店しかないのは、そういった香川県民の心象も、関係しているだろう。
香川県内の店舗が閉店に追い込まれる一方、粟田社長と丸亀市の関係はむしろ深くなっていった。2011年7月、粟田社長が市の文化観光大使に命名されて以降、丸亀製麺は「丸亀市役所の公用車への広告掲出」「丸亀城の石垣復旧支援」「離島・讃岐広島の港湾施設改修ならびに研修施設『心の本店』設置」など、十数年にわたってさまざまな支援を行ってきた。

だからこそ、丸亀城や市街地を会場として使用しつつ、丸亀市や地元財界が全面バックアップするようなイベントが開催できたのだ。
■開催のカギを握った「地元うどん店」
「丸亀うどん祭り2025」の開催は、丸亀市との関係だけでは成しえない。粟田社長は、「地元・香川県のうどん店の存在」がカギを握っていたという。
トリドールHD・粟田社長

「丸亀市の『純手打ちうどん よしや』(以下:よしや)店主・山下義高さんを通じて、たくさんの方との交流をさせていただき、過去には東京の店舗でのコラボイベント開催なども行っています。『よしや』のような手打ち店は参考になる上に、讃岐うどんを通じて指針なく無邪気に、地域を盛り上げるために動いていることに、感銘を受けています。丸亀製麺のメンバーも『山下さんの言うことなら、協力しよう』となった。今日も結構話して『また何かやろう』と盛り上がっていたところです」
粟田社長と山下さんは以前から交流を持っており、2024年9月3日のInstagramでは、食事会の帰りにおそろいのTシャツを着て、満面の笑みで記念撮影をされている。もうこの1枚だけで、双方の良好な関係がうかがえようものだ。
■自社のうどんより、地元のうどん
そして山下さんは、「よしや」経営や人材育成に成功した経験を活かし、「店主の高齢化・売り上げ減少」といったうどん店の共通課題に立ち向かうための「日本うどん協会」を設立。いまや、香川県内外のうどん店にアドバイスを送りつつ、業界を牽引する立場だ。
今回のイベントでは「日本うどん協会」は「協力」7団体に加わっており、讃岐うどん店同士のコラボ企画「一夜限りの幻のコラボうどん」(ジャンボうどん高木×よしや、手打ちうどん丸亀渡辺×手打うどん竹寅)は実現した。
会場では丸亀製麺のレギュラーうどんメニューは販売されなかった(試食のみ)ものの、かわって「うどん祭り」と呼ぶにふさわしい名店の味が提供され、「讃岐うどん」を求めた香川県・丸亀市などの人々を満足させたことになる。

粟田社長と山下さんの関係があり、多くの地元うどん店主の共感を得ることができたからこそ、「丸亀うどん祭り2025」開催が実現したといえるだろう。なお山下さんは、うどん職人日本一を決めるイベント「SANU-1グランプリ」への熱い想いがあふれたのか、初日から事あるごとに涙を見せていたのが印象的だった。
■香川県では「ブランド力」が通用しない
今回の「丸亀うどん祭り2025」開催によって、丸亀市と丸亀製麺・トリドールHDの関係は、より強固なものになったといえるだろう。イベントに参加した丸亀市民にとっても、「丸亀製麺」という存在はより身近になったといえる。
ここで気になる「香川県内・丸亀市内への『丸亀製麺』出店」だ。丸亀製麺は香川県民や丸亀の人たちに受け入れられるのだろうか。
トリドールHD・粟田社長

「丸亀製麺・山口社長と相談が必要ですが、これだけ多くの方に集まっていただいたので、ぜひ近いうちに検討したいと考えています」
丸亀製麺・山口社長

「香川県の出店に関しては、現段階ではまだ決まっていることはないです。今後もまた検討しながら、もし出店のチャンスがあれば、進めていきたいと思っています」
先述の通り、創業者であるトリドールHD・粟田社長と所縁があるとはいえ、「丸亀製麺の香川県進出」は、遅々として進んでいない。
創業12年目の初出店(「亀坂製麺」として)から3店を展開するも、いま残っているのは「高松レインボー通り店」1店のみ。しかもイオンモール高松の店舗に至っては、入れ替わりで入った「こがね製麺所」(別のセルフうどんチェーン)が盛業……香川県に限っては「丸亀製麺ブランド」の力のなさが目立つのだ。
■競合と価格という“2つの壁”
理由としては「生業うどん店との競合問題」がある。香川県には製麺所タイプも含めて700~900店のうどん店があり、「かけ1杯200~300円」でうどんを提供する。

県民の多くは「うどんにワンコイン以上払うのは贅沢」といった感覚が染みついており、レギュラーメニューで600円以上、新商品だと800~900円にものぼる丸亀製麺は、どうしても避けられやすいのだ。
丸亀製麺は根本的な味などのローカライズを行わないため、どうにか「料理としての贅沢なおうどん」の高付加価値を認めてもらうしかない。
なお丸亀市は「うどん店53軒」とコンビニの47軒を上回っており、「いつ進出するか」よりも「どこに出店するのか」といった部分も、気になるところだ。
そしてもうひとつ、香川県内へ丸亀製麺が出店するにあたって、大きな問題「ライバルチェーン店の存在」が付きまとう。ライバル関係として語られることも多く、創業の地である香川県高松市に本社を再移転したばかりの「はなまるうどん」には、どういったイメージを持っているのか。
■個人店にもチェーン店にも追い回される
トリドールHD・粟田社長

「はなまるうどんと丸亀製麺は創業がほぼ同じで、向こうも25周年でしょう。(はなまる:2000年5月・丸亀:2000年11月)そういった意味では、非常に思い入れの強い業態です。お互い一生懸命に協賛しあいながら、ともに発展していければと考えています」
「はなまるうどん」は本社再移転後も「香川県発祥のうどん店です」といった広告を各地に掲出し「本場の讃岐うどん」としての立場を強調している。では、香川県内では「はなまるうどん」が、強力なライバルなのか? ……実は、少し違う。
香川県内には、ローカルのうどんチェーン店として「こがね製麺所」(22店)「こだわり麺や」(14店)「さか枝」「さぬき麺業」「たも屋」などがあり、県内の「はなまる」は、むしろ競争からの埋没を心配しなくてはならない。
いわば、丸亀製麺が進出したとしても「個人店にもチェーン店にも追い回されている」状況。この中で、少しお高めの丸亀製麺は、どう進出して店舗網を拡大していくか。
人口90万人・面積は47都道府県で最小の香川県にこだわらないという選択肢もあるものの、あえて「本場への出店」にこだわるのか? 経営判断が注目される。
ただし、積極出店という判断を下したとしても、「ライバルの問題」「価格の問題」という問題が立ちはだかり、打てる一手は「イメージアップ」以外にない。それでも丸亀製麺は、苦戦が続く香川県内でのイベントや取り組みを、強い意志で続けていくだろう。
■“最後の1ピース”を埋める
こうして見てくると、「丸亀うどん祭り2025」は単なる地域イベントでも、将来の出店を見据えた営業活動でもない。丸亀製麺がここまでの人と時間、そしてコストを投じた理由は明確だ。粟田社長が25年前に魅了され、原点としてきた「讃岐うどんの食体験」と正面から向き合い直し、「讃岐うどん」を名乗る丸亀製麺の正当性を、本場・香川県の人々に問うためのイベントだったと言えるだろう。
香川県、ましてや丸亀市への出店は、結果として実現するかもしれないし、しないかもしれない。しかし少なくとも今回の「丸亀うどん祭り2025」は、出店をゴールに設定したイベントではない。丸亀製麺にとってこれは、「なぜ自分たちは、『丸亀製麺』と名乗ってきたか」「『讃岐うどん』を看板に掲げてきたか」という問いに、25年越しで答えを出しにいく行為だった。いわば、「ブランドの故郷を名乗ることへの正当性を問うイベント」だった。その点で、丸亀市だけでなく、地元うどん店と目に見える協力関係を築けたのは、はかり知れない収穫だったと言えるだろう。
全国860店を展開する外食チェーンにとって、1つの市で2年以上かけて準備し、200人超の社員を動員し、しかも自社商品の販売を主目的としないイベントを開くことは、短期的に見れば、どう考えても「割に合わない投資」だ。
それでも丸亀製麺が丸亀市との関係構築を続けるのは、この地での評価こそが、全国で築いてきたブランドの「最後の1ピース」だからだろう。
売り上げや出店数では測れない場所に、あえて時間とコストをかける。それは「どこで生まれたか」ではなく、「何に心を打たれ、どこに原点を持つのか」を顧客に発信するための経営判断にほかならない。
「丸亀うどん祭り2025」で、これまでネガティブに語られることも多かったイメージの一定量は消し飛んだはずだ。出店までにクリアしなければいけない問題はまだあるかもしれないが、今後もイメージの上書きのような浸透を図っていくことが、出店のもっとも近道なのかもしれない。

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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)

フリーライター

大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。

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(フリーライター 宮武 和多哉)
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