センターピンをいとも簡単に動かすのか。高市早苗政権の「至上命題」だった衆院議員定数削減問題は、実現の見込みがないまま越年する。
だが、閣外協力している日本維新の会の吉村洋文代表(大阪府知事)は12月20日、衆院定数削減法案の臨時国会成立を強く迫ったにもかかわらず、来年の通常国会で法案の成立を目指すが、成立しなくても、政権から離脱することはない、との考えを大阪市内で記者団に明らかにしたのである。
自民党が高市総裁のリーダーシップで法案をまとめ、共同提出したこと自体を評価したのだという。拍子抜けと言っていい。
吉村氏は衆院定数削減を「改革のセンターピン」と位置付け、藤田文武共同代表が比例選だけで50議席減が「スピーディーで、シンプルだ」と豪語したこともあった。
自民党との事前調整によって、12月5日に臨時国会に共同提出された法案は、現行の小選挙区比例代表並立制の下で、小選挙区(定数289)で25議席、比例選(定数176)で20議席を削減するという内容になったが、吉村氏は、1年以内に結論を出せなかった場合、自動的に議員定数を削減するという条項を捻じ込み、野党や自民党の一部から「乱暴だ」との声が上がっていた。
吉村氏は12月12日、記者団に対し、議員定数削減法案の行方について「結論が出るまで会期を延長するべきだ。結論を出さずに終わる、こんな政治はまっぴらごめんだ」と語気を強めていた。15日の参院予算委員会では、片山大介氏が「この法案は連立政権の発足の要件だけでなく、存続の要件でもある」と、高市首相に迫っていたのである。
政府・与党内調整や与野党間の合意形成の仕組みや段取りに通じていない、ただのお騒がせ男の独り相撲なのか。それとも、何かと連立離脱カードを切る、という猿芝居を見せつけられていたのだろうか。
■定数削減が実現しなくても離脱しない
吉村氏が、通常国会で衆院定数削減が実現しなくても連立離脱しないと言明したのは、2日前の12月18日に自民党と国民民主党が急接近し、所得税の非課税枠「年収の壁」の引き上げで合意したのと無関係ではないだろう。
高市首相は、自民、国民民主両党の税制調査会幹部の折衝で、小野寺五典自民党税調会長から政治決断を求められ、現行の160万円から178万円に引き上げるという国民党案を丸吞みしたのである。
国民党の玉木雄一郎代表は、合意後の記者会見で、25年度補正予算に続いて、26年度予算案の成立にも協力する考えを明らかにした。23日の講演では、連立政権入りを「模索している」と述べている。
維新の藤田共同代表は12月25日、国民民主党の連立入りを「ウェルカムだ」としつつ、自維連立合意文書に明記された政策を全て受け入れることが条件であるとの考えを示した。
「副首都構想」などが念頭にあるのだろう。自維国連立政権を視野に重点政策の主導権争いが始まっているとも言える。
維新が閣外協力を続けるのは、高市内閣の支持率が高水準を保っていることもある。言い換えれば、首相の求心力を利用して、自民党の譲歩を引き出そうという企みでもある。
12月の読売新聞世論調査(19~21日)で高市内閣の支持率は73%で、10月の内閣発足以降最高を更新した。内閣発足直後から2か月後も支持率70%以上を維持したのは、大平正芳内閣以降では、細川護熙、小泉純一郎両内閣に続く3例目だという。
衆院議員定数削減については「賛成」78%、「反対」13%だった。
石破茂前政権が「どよーんとした感じで、何にも動かないという感じがあった」(麻生太郎副総裁)のに対し、高市政権は明るいイメージで、何かやってくれるという期待値が高まっているためなのだろう。
閣外協力の維新と部分連合を目論む国民民主党が政策実現のために自民党との距離の近さを競う合うという政治情勢に入っている。
■なぜ政党交付金の削減ではないのか
本題である衆院定数削減問題の臨時国会での経緯を振り返る。
自維両党によって12月5日に提出され、衆院政治改革特別委員会に付託された衆院定数削減法案は、審議入りもせずに、継続審議となった。
特別委は立憲民主党の伴野豊氏が委員長で、企業団体献金の受け手規制を強化する政治資金規正法改正案が先行審議され、「先入れ先出し(先に審議入りした法案を優先的に処理する)」の原則に沿ったものだった。
15日には特別委での参考人質疑が終わった時点で、維新の会の浦野靖人理事が突然、政治資金規正法改正案の質疑打ち切り採決を求める動議を出し、野党の反発を招く「事件」も起こしている。
継続審議は、当然の結末だった。衆院議員定数は、民主主義の土台である選挙制度の根幹にもかかわらず、なぜ1割削減なのか、なぜ政党交付金や議員報酬の削減ではないのか、維新から本質的な説明はほとんどなかった。
現在の衆院議員定数は465で、人口が7000万人余だった終戦直後の466と同水準にある。人口比では主要国よりも少ない方だ。これ以上の削減は、国会に多様な国民の声が届かなくなる恐れがあるほか、法律の制定や行政の監視といった機能に支障をきたしかねない、にもかかわらず、である。
■「顔を洗って出直された方がいい」
野党の維新への視線は厳しかった。
立民党の斎藤嘉隆参院国対委員長は12月12日、吉村氏の“まっぴら”発言をめぐって「国会の衆参与野党の状況などを考えれば、多少(会期を)延長したとしても(成立は)100%無理だ。本当に法案を通したいなら、各党にも説明を尽くす必要があるし、必要なプロセスを踏んで提出するのが当たり前だ」「必要なプロセスを全く踏まずに、『採決をしないのはけしからん』と言うのは、無知の極みだ」と記者団を通じて苦言を呈した。
そのうえで、斎藤氏は「ここは国会であって、無理を通せば道理が引っ込むような世界ではない」「この法案については顔を洗って出直された方がいい」と突き放したのだ。
公明党の斉藤鉄夫代表は、17日の記者会見で、定数削減法案に関連して「自民、維新の新しい政権与党の進め方は少し強引だ。別の言葉でいうと、乱暴すぎたのではないか」「今回(審議が)進まなかった責任が野党にあるかのような言説は本当に許せない」と不満を露わにしている。
連立を離脱した公明党は、定数削減問題のキープレーヤーだ。創価学会は10月22日に方面長会議を開き、今後、衆院選は比例選に特化していく、小選挙区は現職を除いて撤退し、他党とは地域ごとの人物本位で推薦などの選挙協力とするとの方針を決定した。現職の斉藤代表ら4人には、党で初めての比例選との重複立候補が検討されている。
重要なのは、その裏で、自民党が維新と共同で衆院比例選の定数削減法案を提出したら、自民党には選挙協力しないことも申し合わせたことである。
■「うちは企業献金で自民党に譲ったんや」
公明党・創価学会のメッセージは、国会・地方議員から、自民党に陰に陽に伝えられた。 公明党の西田実仁幹事長は10月26日のBSテレ東番組で、自民党との選挙協力について「白紙だ」とし、今後の国政選で立民党候補を推薦する可能性を問われて「人物本位だから、あり得る」と述べ、自民党を牽制した。
公明党は、企業団体献金規制などへの対応をめぐって、日に日に野党色を強めていく。
高市首相が11月26日の党首討論で、「政治とカネ」の問題に取り組むべきだと主張した立民党の野田佳彦代表に対し、「そんなことよりも、ぜひ定数の削減をやりましょうよ」と呼びかけ、物議を醸す場面もあった。
自民党内に衆院定数削減に応じる空気は薄かった。
報道によると、自民党は衆院定数削減の基本方針を定めたプログラム法案の共同提出を提案し、衆院議長の下に置かれた選挙制度協議会で結論が出なければ、1年後に自維で法案を提出し直せばいいとの考えを示した。
遠藤氏がこう切り返した。「うちは企業献金(規制)で自民党に譲ったんや。そこを汲んでもらわんと、吉村や藤田が持たん。定数削減するっていう実効性の担保が必要や」
プログラム法案に同調する代わりに、1年後に結論を出せなかった場合の担保として、自動削減条項の導入を強く求めたのだ。
これに萩生田氏が即応する。自動削減条項を受け入れたうえで、野党の協力を求めるには、比例選のみ50減ではなく、小選挙区25、比例選20の計45減とすべきだと説き、最終決着を導いたという。萩生田氏の念頭にあったのは、公明党が「50議席を削減するなら、小選挙区30、比例選20の削減が妥当だ」(斉藤代表)と主張していたことだった。
■「我々のミッションは提出で一区切り」
翌12月1日の自維党首会談は、こうした衆院定数削減法案の内容で合意した。自民党は3日の総務部会・政治制度改革本部合同会議で、加藤勝信本部長に取り扱いを一任し、異論が多かった自動削減条項を含む法案の了承に漕ぎつけた。
5日の党の意思決定機関である総務会は、総務の1人が反対の意思を示すために途中退出したが、最終的に法案を了承した。
10月に交わされた自維連立合意書には「臨時国会に法案を提出し、成立を目指す」と記されている。永田町文学で「成立を目指す」は、法案を提出すれば、目指すことになる、約束を守ったという解釈が成り立つらしい。
自維両党が5日に衆院定数削減法案を共同提出した後、維新の浦野氏が「成立までが仕事だ」と意気込んだのに対し、自民の加藤氏は「我々のミッションは法案提出で一区切りだ」と述べ、熱量の差をうかがわせた。
維新の馬場伸幸顧問(前代表)は9日のBS11番組で、定数削減法案が成立しない場合に首相は衆院解散・総選挙に打って出るべきだと主張した。「自民党の中に獅子身中の虫がいる」とも述べ、「高市降ろし」の兆しがあるとの見方も明らかにした。
馬場氏は「議員定数の削減は議員だけで決められる。自分たちのこともできないのに、役所や外部の人が絡む改革をできるのか、と高市さんに問いかけている」と語る。
■他党の「身を切る改革」になった面も
「身を切る改革」を掲げる維新には、大阪府・市議会で議員定数削減を実現し、支持を伸ばした成功体験がある。
大阪府議会は定数が109だったが、2011年に88に、22年に79に削減され、36選挙区が1人区となり、過半数を握る維新にとってさらに有利になった。大阪市議会でも23年に定数を81から70に削減する改正条例が成立した。
自民、維新両党は、衆院で与党会派が過半数に達したが、参院は過半数に6議席足りない少数与党だ。法案を成立させるためには、国民民主党か、参政党かに賛成に回ってもらうなどの多数派工作が必要になる。
藤田氏は12月4日、参院で15議席を持つ参政党の神谷宗幣代表と国会内で会談し、衆院定数削減法案への協力を要請した。神谷氏は賛意を示しつつ、協力の条件として中選挙区制導入や公設秘書の増員、スパイ防止法制定を挙げたため、話がまとまらなかったという。
政治を前に進めるには、与野党や利害関係者の間で小さな合意形成を積み重ねる必要がある。そこに向けての説得の技術は、論理や物心両面の支援、飲み食いを含めて関係者が納得でき、行動に移すようもっていく政治家の力量に通じるものだ。
維新にとって、来年の通常国会で衆院定数削減や副首都構想を実現するには、こうした技術を磨くことも必要なのではないか。
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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。
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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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