■在庫が増えているのに、なぜ高いまま?
ここへ来て、国内のコメ民間在庫が積みあがっている。農林水産省の集計によると、11月、コメの民間在庫量は前年同月比27.0%増の329万トンだった。
販売店の在庫も増加している。これまでのデータを見ると、2025年5月ごろからコメの在庫状況は変わり始めた。
備蓄米の放出に加え、2025年の新米の供給が進んだ結果、コメの在庫量は“令和のコメ騒動”の2023年夏場以前の水準に回復した。ただ、コメ価格の上昇期待の高まりに加えて、非効率な流通市場の構造などの要因で、足元でもコメの小売価格は高止まりしている。
しかし、一部の専門家や有力コメ業者からも、「コメの供給制約は徐々の解消に向かっている」との指摘が出ている。そうした声を反映して、コメ相場の急落を警戒する流通業者は増加しているという。「コメ価格の急落は近い」と懸念して、在庫の圧縮を急ぐ業者もあるようだ。
今後、コメの価格が低下する可能性は十分にあるだろう。それは、わたしたちの生活負担の軽減に重要だ。
ただ、異常気象の影響などを考えると、再度、コメの供給が減少し価格が上昇する恐れは残る。高市政権は、コメ価格安定のための生産・流通体制を検討すべきだ。それは重要な物価高対策であり、国民の安心した生活環境の実現に欠かせないはずだ。

■「令和のコメ騒動」が始まったきっかけ
2025年の夏場以降、民間のコメの在庫が増えていることが鮮明になった。
コメの在庫量には毎年、一定の流れが確認できる。新米の流通が本格化する、毎年9月から11月ごろにかけて在庫は積みあがる。そして、12月以降、一転して在庫は取り崩される。過去のコメの在庫循環によると、11月時点での在庫の水準は、その後の需要を充足する量が確保されているかを見る重要なデータといえる。
2025年11月の民間在庫量(329万トン)は、2024年11月の259万トン、2023年11月の303万トンを上回った。令和の米騒動が本格化した、2022年11月の在庫水準(330万トン)とほぼ同じ水準に回復している。
過去数年間のコメの生産状況をみると、2023年夏場、コメの供給量は大きく減少した。それにより、需給バランスは急激に悪化した。コメの生産を調整して、価格の下落を防ぐ減反政策の影響に加え、猛暑など気候変動の影響でコメの生育不良が深刻化した。その結果、コメの生産量は下方に屈折した。
一方、海外からの訪日客の増加もあり需要に増加圧力がかかった。
供給が需要を下回り、コメの価格は上昇し始めた。
■コメの収穫量は9年ぶりに増えている
2024年の新米シーズンに入っても、コメの供給は需要を下回った。ポイントは、なぜ供給制約が続いたかだ。政府によると、2024年のコメの収穫量は、前年から2.7%増の679万2000トンだった。一部で、異常気象の影響やカメムシによる食害から、コメ不足は鮮明化するとの懸念はあったが、実際に収穫量は減らなかった。
一方、農林水産省の試算によると、2024年の主食用米の需要は、当初見通しの674万トンを上回る711万トンだった。なぜ、需要が上振れたかは明確ではないが、政府は、流通経路の目詰まりなど供給制約によって、コメの価格が高騰したとの立場をとっていない。
また2025年の主食用米の収穫量は、前年比10.0%増の746万8000トンだった。これは2016年以来9年ぶりの増加である。2024年以降、コメの生産は増加した。2025年産の新米の供給が本格化するに伴い、コメの在庫は急速に増加している。これが現状だ。

■「コメは儲かる」と新規参入した業者たち
コメの生産が増加するにしたがって、小売店舗への供給は増えるはずだ。データの推移を見ると、2024年10月以降、販売段階での在庫量は前年同月比プラスに転じた。新米の収穫が増え、徐々に食品スーパーの棚に並ぶコメは増え始めた。
2025年5月以降、販売段階での在庫増加率は10%を上回るようになった。備蓄米による供給圧力がかかった。新米の供給も増えた。11月、販売段階でのコメの在庫は前年同月比39.0% 増の82万トンに急増した。この水準は2019年7月以降で最高である。
注目されるのは、供給が回復したにもかかわらず、価格が高止まりした点だ。価格高騰の主たる要因は、やはり、生産者から消費者にコメが伝わるまでのプロセスで、非効率的な流通経路が存在している点だろう。
歴史的に、わが国のコメの流通経路は、5次にわたる卸売問屋が重層的に存在し、各社が互いに利ざや(マージン)を抜くことが慣行になっている。2023年の令和のコメ騒動以降は、ITやスクラップ、リサイクル業者など、本来、非米穀取扱業者の新規参入も増えた。

それに伴い、コメの流通経路は、一段と重層かつ複雑化した。投機的な動きも活発化した。一時、政府でさえ、どこで、だれが、どれだけのコメの在庫を確保しているか、把握することが困難だった。
■「買うから上がる、上がるから買う」の連鎖
その結果、業者間で価格上昇への期待は高まった。先行きの強気心理も膨張した。「コメの価格上昇は間違いない」と思い込む新規参入者は増えた。買うから上がる、上がるから買うという具合に強気心理は連鎖し、農家のところに出向いてコメを買い占めようとする人は増えた。
また、2025年の新米取引で、農業協同組合(JA)は、農家からコメを集める際に支払う概算金(前払い金)を大幅に引き上げた。9月の全国平均は、前年同月比で1万4195円(63%)増の3万6895円に概算金は跳ね上がった。2023年以降の記憶を頼りに、JAもいち早く在庫を確保して利得を手に入れようとしたようだ。
概算金の上昇は、コメの卸売りや小売りの価格に転嫁された。備蓄米の放出が始まった後も、こうしたコメの流通経路は価格の要因の一つになっただろう。
それに加え、「価格が上昇してもおいしいご飯を食べたい」と思う消費者も増加したとみられる。
■2026年、業者は在庫を売り急ぐ見通し
2025年12月の時点で、コメの小売価格は依然として高い。ただ、コメの在庫が急速に積みあがっている状況を見ると、価格が下落する可能性がありそうだ。2025年7月と11月の間、産地別の民間在庫量は、北海道・東北地域から九州、沖縄まで軒並み200%以上の増加率を記録した。全国的にコメの在庫は増えているのである。
在庫増加ペースは一部のコメ流通業者の予想を上回った。銘柄米の新米価格が高止まりしたことで、消費者の買いづらさも高まった。米穀安定供給確保支援機構が発表した11月の調査によると、コメ需要が減ることによって、価格への下押し圧力を警戒する取引関係者は増加した。
2026年の年明け以降、高値圏での利益確定を狙い、在庫を売り急ぐ流通業者は増えるだろう。それに伴い、国内のコメの卸売価格は下落し、小売価格も下落する可能性はありそうだ。価格調整が発生し、高値のコメ在庫を抱え込んだ卸売業者の業績が厳しくなることも想定される。それは、わが国のコメ流通市場の効率性の改善、および生活者の負担軽減に必要な変化だ。

■政府は今こそ「ブラックボックス」にメスを
ただ、少し長い目線で考えると、コメの価格が不安定化するリスクは残るだろう。世界的な異常気象の影響から、2026年のコメの生育が再度悪化する可能性はある。仮に、猛暑の影響で新米の供給が2025年の実績を下回るとの観測が高まれば、一部の業者は2023年以降の記憶を頼りに再度在庫を抱え込み、価格上昇圧力がかかるだろう。
再度、コメの価格上昇が鮮明化すると、わたしたちの生活負担は高まる。影響は、それだけにとどまらない。コメの価格上昇は、日銀が重視する物価動向にも影響し、金利上昇圧力が追加的に高まる恐れもある。
足元で、カリフォルニア米などコメの輸入も増加基調だ。すべての消費者は、国産のコメでなければならないとは思っていないだろう。政府は、在庫が積みあがり価格調整圧力がかかる局面を活かして、コメの流通経路の効率化に取り組むべきだ。それは、重要な物価高対策になるはずだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)

多摩大学特別招聘教授

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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