新しい年が始まった。自宅での新年会を計画している人も多いだろう。
できるだけ安く、会が盛り上がる食材はないか。ライターの大宮冬洋さんが向かった先は鮮魚店だった――。
■マアジより安くておいしいアジ
大衆魚の代表選手と言えばアジ(マアジ)だろう。安くておいしいのだから言うことなし。本連載でも初夏に、刺身からのたたき、なめろう、山家焼きの「アジの三段活用」を教えてもらって堪能した。塩焼き、フライ、煮つけにも活躍するアジ。まさに庶民の味方だ。
しかし、最近のスーパーでは新鮮なアジが丸ごと売っていることが少なくなった。刺身に切り分けられて劣化していたり、内臓をつけたままパックされて3日も置かれていたり。一方で、専門店で立派なアジを見つけると、「これがアジの値段!」と高値に驚くこともある。アジが遠い存在になりつつある。
「マアジの他にも安いアジがあるって知ってますか? メアジやムロアジです。
鮮度落ちがマアジ以上に早いので、朝獲れのものがどっさり売っていたりします。『刺身OK』と表示されているメアジやムロアジを見つけたら即買いです!」
軽やかな口調で教えてくれるのは鎌倉の鮮魚店「サカナヤマルカマ(以下、マルカマ)」で企画・広報を務める狩野真実さん。マルカマは鹿児島県阿久根市の漁港から新鮮な魚介類を空輸で仕入れている他、地元の神奈川県小田原市で水揚げされた魚も扱っている。この日も小田原から運んできたメアジが2尾500円、ムロアジが1尾500円で売られていた。ムロアジはまるでサバのように丸々と太っていて食べでがありそうだ。これで500円なら安いぞ。
■南の魚が北上するといい脂をのせる
まずはメアジから。こちらはマアジにそっくりだけど、目がマアジより大きいのでメアジと命名されたようだ。
「沖縄ではガチュンと呼ばれている南方系のアジだね。南の魚が北上するといい脂をのせることが多い。特に冬のメアジはうまいよ」
魚のことなら生態から料理法まで何でも教えてくれるのは、元水産庁職員でマルカマのアドバイザーでもある上田勝彦さん。マアジよりも筋肉質なメアジ。
その刺身はパリッとした張りのある食感を楽しめるらしい。
「ワサビ醤油は合わない。生姜醤油か青唐辛子醤油がいいよ」
ムロアジに関しては「くさやで使う魚」という認識しかなかった。刺身で食べたことなどはない。上田さんによれば新鮮なものはもちろん生でいける。
「ムロアジは削り節に使うぐらいだからうまみの宝庫。その点、サバに似ているな。肉は柔らかめだからメアジと食べ比べてみてほしい」
■魚に火が早く通る調理法は
狩野さんと上田さんのおすすめは、2種のアジをいろんな薬味と酒と合わせてみること。家族や友人たちと「この魚に合う食べ方は何だろうね」と探せば、大衆魚なのに非日常の食事を楽しめる。
「塩焼きでも違いを感じてほしい。火を通すとフワッと柔らかくなるのがメアジ。ムロアジはむしろ引き締まる。
そして、刺身と同じぐらい魚本来の味がわかるのが湯煮(水煮)だね」
ここで上田さんからクイズ。塩焼きと湯煮を比べると火が早く通るのはどちらだろうか? 正解は湯煮。火のほうが、温度が高いのだから焼くほうが早い気がするが、周囲の空気はそこまで高温にはならないので時間がかかってしまう。一方の湯煮は100℃が限界だけど魚全体に当たる温度が下がりにくい。こちらのほうが早く加熱できるのだ。
「魚という食材は高温の長時間加熱に弱いことを覚えておこう。うまみや風味、栄養を失いやすいんだ。調理で目指すべきは、高温なら短時間。じっくり加熱するなら低温だよ」
湯煮ならば、切り身は1分半、丸魚でも5分もあれば火が通る。低温で短時間なのだから、そもそも魚に最も適した調理法と言えるのだ。筆者は上田さんから教わってからイワシなどを湯煮にしては食べているが、これが本当にうまい。全体的にふっくらしていて、水っぽさなどは皆無。
茹で方を間違わなければうまみは逃げないので魚のうまみをダイレクトに味わえる。新鮮な魚であればまずは湯煮で食べたいと思うほどだ。
■魚の隅々に塩を付けられる「触り塩」
上田さん秘伝の塩焼き「表1・裏7・表2」の法則はヘダイの記事で詳述したので参照してほしい。ここでは湯煮を教えてもらおう。
「まずは魚の隅々に塩を付ける。触り塩だね」
触り塩とは上田さん独特の表現で、手を水で濡らしてから塩をひとつまみ手のひら全体にのばし、魚の頭から尾までを触りながら薄く塩を付けていくことを指す。下手な振り塩よりも塩をまんべんなく均等に付けられる技法だ。
メアジもムロアジも下処理(ウロコや内臓、ヌメリ、血などを除去すること)をし、その体表だけでなく、内臓を抜いた腹の中も念入りに触り塩を施す。10分も置くと、余分な水分と臭みが抜けて、身に塩が軽く入る。
「次に、酒をチョロっと入れた湯の中に入れる。このときにグラグラと沸騰させて煮るとうまみが魚肉の外に出てしまうよ。火加減に注意だ。
ダシを取るときとは違うので80℃ぐらいのお湯で加熱する。鍋底に細かく泡が出る程度の温度だね。それでも十分に火は通る。魚の目が白くなり、切れ目から骨が見えてきたら引き上げて、熱いうちにポン酢や醤油で調味する」
■メアジ6尾・ムロアジ4尾で3500円
この日、魚を持ち込んで調理して一緒に食べてもらうのは都内に住む50代の友人夫婦。さらに20代と50代女性、60代男性も参加するという。いずれも料理上手でよくしゃべる人たち。筆者とは20年来の付き合いになる。思ったことをはっきり言う人たちなので緊張を感じるが、安価だけど新鮮な食材で喜ばせたい。メアジを6尾、ムロアジ4尾で合計3500円だった。
まずは刺身から。メアジもムロアジもアジ科の魚特有のゼイゴが付いているので、尾にある突端から包丁を入れて切り取る。包丁を身に軽く押さえつけるとゼイゴが浮くので切りやすくなる、と上田さんに教えてもらった。
皮を剥いだ身はキッチンペーパーや吸水布を押し当てて汚れを拭き取り、食べやすい厚さでそぎ切りにする。
「メアジは肉がしっかりしているね。味はアジそのもの。普通においしいよ。ムロアジはすごく太っている! イワシっぽい脂で好きだな~」
友人たちからはホッとするコメントをもらえた。刺身は合格点だったようだ。メアジは生姜醤油、ムロアジは青唐辛子醤油が合うと筆者は感じた。
■タマネギのみじん切りも薬味になる
次に塩焼き。友人宅には魚焼きグリルがないのでフライパンで焼いた。油を引いても皮は少し剥がれてしまうのは仕方ない。上田さんの「表1・裏7・表2」の法則のうち、裏を焼いている時間はフライパンにフタをして蒸し焼きにすると火が早く通る。パリッと仕上げるため、表を焼いているときはフタを外す。なお、フタがない場合はアルミホイルで代用できる。
「いいね~。メアジのほうは和がらしだけで食べるとうまいな。ムロアジはサバみたいな味がするね」
60代男性が喜んでくれた。出版業界の先輩でもあるこの人はハンターでもあり、冬場は山で鳥を撃っている。ジビエを食べ慣れているので、新鮮な天然魚が嬉しいのかもしれない。
そして、湯煮。これは油断して失敗してしまった。メアジもムロアジも薄く切りすぎて、短時間でもうまみが流出してしまったのだ。
「パサッとした食感になっちゃったね。この薄さなら、しゃぶしゃぶぐらいの茹で加減でもよかったかも」
台所を貸してくれた友人が直言。その通りです……。なお、調味に関しては盛り上がった。調味料は醤油のみで固定して、青唐辛子、ショウガ、ネギ、タマネギのみじん切りをそれぞれ試したのだ。
「タマネギは意外だったけれどシャキシャキした食感がいいね。ネギよりもさっぱりしている」

「青唐辛子を入れすぎた。辛い!」
あれこれ話した挙げ句、特にムロアジに関しては「薬味は全部のせがうまい」という結論に達した。茹でても独特のクセは残るので、複数の薬味と一緒に食べたほうがバランスを取りやすいのかもしれない。
大人の男女6人で食べ比べを楽しめて3500円。年末年始のおいしくお得な遊び方を見つけた気がする。

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大宮 冬洋(おおみや・とうよう)

フリーライター

1976年埼玉県所沢市生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。著書に『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せの見つけ方~』(講談社+α新書)などがある。2012年より愛知県蒲郡市に在住。趣味は魚さばきとご近所付き合い。

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(フリーライター 大宮 冬洋)
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