食品メーカー・丸美屋(東京都杉並区)は、「のりたま」(66周年)、「混ぜ込みごはん」シリーズ(38周年)など、これまで数々のロングセラー商品を生み出してきた。世代を超えて愛され続ける理由はどこにあるのか。
ノンフィクション作家の山田清機さんが聞いた――。
■“ごはんのおとも”で350品目
丸美屋にはロングセラー商品が多い、というのは必ずしも正確な表現ではない。
広報宣伝部部長の青木勇人さんによれば、丸美屋が販売する商品数は350品目にも上る。
その中に、突出して長期間売れ続けている商品が何点かある、というのが正確な表現だろう。
以下の商品は、いずれも日本食糧新聞社が主宰する食品ヒット大賞で「ロングセラー賞」を受賞している。
・「のりたま」 昭和35年発売 昭和63年受賞

・「とり釜めしの素」 昭和45年発売 平成13年受賞

・「麻婆豆腐の素」 昭和46年発売 平成9年受賞

・「混ぜ込みわかめ」 昭和63年発売 平成24年受賞
「これらの商品はロングセラーであるだけでなく、各カテゴリーでトップシェアを持っています。特にふりかけは過去10年間の弊社の売上を牽引しており、丸美屋はふりかけ市場全体の実に40%のシェアを持っています。そのうち約7%を『のりたま』が占めています」(青木さん)
発売から66年たっても売れ続ける、まさに怪物商品と言っていいと思うが、「混ぜ込みわかめ」が全種類の合計では「のりたま」を凌ぐ売上高であることは、前回述べた通りである。
果たしてロングセラーとは、いかにしてロングセラーになるのだろうか?
■ロングセラーを支える“おいしさ”以外の要素
「のりたま」(66周年)「混ぜ込みわかめ」(38周年)という超ロングセラー商品を担当する丸美屋マーケティング部部長の丸山すみれさんは、ロングセラーには絶対的な前提条件があるという。
「感動的においしいということは、絶対的な前提条件ですね。『のりたま』も『混ぜ込みわかめ』も感動的においしい。私自身、子どもの頃『のりたま』を、“ご飯をおいしくする黄色い魔法の粉”だと思っていました」
前提条件をクリアした上で重要になるのが、思い出。
丸山さん曰く、ロングセラーは必ず思い出と紐づいているという。
「これには面白い調査データがあるんです。年配になっても『のりたま』を好きだと言える人と、『のりたま』を使うなんておかずがあるのに失礼だと考える人の、『のりたま』との接触時期を調べたことがあるのです」
すると、昭和39年という明確な境界線が浮上してきたという。いったい、昭和39年に何があったというのだろうか。
■“限定商品”を毎年出し続ける理由
青木さんが言う。
「丸美屋は昭和38年に始まった人気テレビアニメ『エイトマン』を全枠提供していましたが、翌39年に『のりたま』『すきやき』の袋にエイトマンシールを封入したところ、これが爆発的な売れ行きにつながったのです」
面白いことに、このエイトマンシール入りの「のりたま」を小学校低学年以下の年齢で食べた人と、それ以上の年齢で食べた人では、ふりかけに対する許容度がまったく違うというのだ。もちろん、低年齢で接触した人の方が許容度が高い。丸山さんが言う。
「つまり、いかにして幼少期のうちに商品と接触してもらうかが、ロングセラーを作る上で重要だということなんです。三つ子の魂百までと言いますが、三つ子のうちにその商品を通して楽しい思い出を作れるかどうかが、ロングセラーを作る要なのです」
丸山さんは、発売からすでに66年が経過した超ロングセラー商品である「のりたま」でも、この思い出づくりをやり続けているという。
「たとえば『ひよこチップ入りのりたま』や『大粒のりたま たまご増し』のような期間限定商品は、接点づくり思い出づくりのひとつですが、こうした施策は毎年、切れ目なくやらなくてはならないのです」
なぜか?
■“思い出”は30年後に開花する
「幼少期に楽しくおいしい接点を持った人は、大人になったときに、その体験をわが子にも体験させたいと考えるからです。つまり、幼少期の体験を再現しようとするんですね」
たとえば、「混ぜ込みわかめ」が売れ始めたのは95年ころのことだが、その当時に10歳前後だった人は、現在40歳前後の子育て世代になっている。

「『混ぜ込みわかめ』は2020年にコロナ禍でお弁当需要が減った直後から再び急成長しているのですが、それは95年ころに『混ぜ込みわかめ』と接触した人が、子どもに食べさせるようになったからだと見ています。つまり95年に仕込んだことが、30年後のいま花開いているわけです。
よく社内で、『混ぜ込みは毎年売り上げが上がっているんだから、新しい施策は今年はいらないんじゃないの?』って言われましたが、とんでもない! って返していました。
だって、お弁当を毎日食べる高校生活って3年間しかありませんよね。そのうちのたった1年でも接点づくりをサボったら、人口の3分の1が他社のブランドに流れてしまうかもしれないんですよ。だから、接点づくりは毎年毎年やらなくてはダメなんです」
幼少期に接点を作ること、そして接点づくりを連綿と絶やさないことがロングセラーを生み出す上で必須であるのは理解できた。
しかし人間とは飽きっぽい生き物であり、そして新しい商品は日々、続々と誕生している。
ふりかけに限ってみても「おとなのふりかけ」や「超ふりかけ」(いずれも永谷園)がブームになったのは記憶に新しいし、丸美屋自身「ソフトふりかけ」「のっけるふりかけ」といった商品をシリーズで出している。
ロングセラー商品がこうした新興勢力にシェアを奪われないのは、いったいなぜなのだろうか?
■すべての商品が「一番」でなくてもいい
「たしかにどんな商品でも、飽きられるときはきます。『のりたま』ですら飽きられるわけですが、では、飽きに対してどう対処するかといったら、飽きが来たときのローテーションを丸美屋商品で回してもらうようにするのです」
うーむ、どういうことだろう?
「たとえば日清食品さんの『カップヌードル』だったら、しょうゆ、塩、シーフードがロングセラーの定番商品ということになると思いますが、うちの『混ぜ込みわかめ』で言えば、鮭、若菜、梅じそがそれに該当する、いわば1軍です。
1軍をサポートする2軍には、わかめ、しらす、おかがが在籍していますが、重要なのはこの1軍、2軍の売り上げを鉄壁の守りで固める、買い回り商品を揃えておくことなのです」
買い回り商品を出せば、そちらに客が流れてしまうのではないだろうか。つまり、自社商品どうしでカニバリを起こしてしまうのではないか。

「人は同じものを使い続けると、どうしても飽きてしまうことがあります。ちょっと気分を変えて他の商品も試したくなるんですよね。最終的に戻ってきてくれればいいのですが、他所に行った切り、つまり、競合他社の商品に完全に乗り換えられてしまうことも考えられます。
そうならないためには、自社商品の中に常時、気分転換できる選択肢を用意しておいて、1軍2軍に飽きたら、その範囲内で新しい味を試してもらう。そしてまた、『やっぱりこれが1番』っていつもの定番に戻ってきてもらえばいいんです。
この仕組みをつくるために、商品のバリエーションを増やしたり、期間限定商品を出したりする必要があるわけです」
■だから“栗ごはん風”も出してみた
なるほど。たしかに「混ぜ込みわかめ」シリーズのラインナップを見てみると、ごぼうおかか、おかかチーズ、えび天むす風、鮭バター醤油など、スーパーの店頭であまりお目にかかったことのない商品が多数存在している。
「本当は全商品を店頭に並べることができればいいのですが、それは難しいので、営業も出したり引っ込めたり、手を替え品を替え、自社製品の範囲内でお客様に刺激を与え続ける努力をしているわけです。そうしなければ、定番商品を守り抜くことはできないのです」
期間限定商品はどのような役割を持っているのだろうか。
「ちょうどいま、『プレミアム混ぜ込みわかめ』シリーズから『栗ごはん風』という期間限定商品を出しています。
私が密かにつけたあだ名ですが、ユーザーの中に“いもくりさん”という人たちが一定数いるのです。彼らは、名前に“いも(=さつまいも)”、“くり”が入っている商品をとにかく買いたがる習性があって、“いも・くり”が入っていると、『うれしい! おいしい! サイコー!』ってなる。

この『栗ごはん風』はそういう人たちの興味を喚起するための商品です。こうした遊び心のある商品を要所要所で出していくこともロングセラーを守るのに必要なことなのです」
■「売れすぎて経費が…」エース商品のジレンマ
1988年の発売から、2011年の震災と20年のコロナ禍の年を除いて、「混ぜ込みわかめ」は基本的に右肩上がりで売上を伸ばしてきた。しかし、2011年~2017年にかけて横ばいの停滞期を経験している。
この停滞は、競合他社の新商品発売と、社内的な事情が重なった結果起こったという。「混ぜ込みわかめ」の販売数が大きくなった結果、販促費が膨らんでしまい、他の商品の販促費とバランスが取れなくなり、社内から販売にブレーキがかかったのだ。
丸山さんは、この難局をどう乗り越えたのだろうか。
「『混ぜ込みわかめ』の定価は130円(当時)ですが、それを100均で売ろうとすると、単品当たりの販促費の比率が大きくなって、他の商品の販促費を圧迫してしまう。
『売れたら売れただけ辛い』という難しい存在になってしまい、それを問題視する声もありました。どうしても納得いかず、部長や役員に直接ひざ詰め談判のようなこともしていました」
最終的に販促比率を抑えられるプレミアムシリーズを180円で出し、従来品と組み合わせて販売することで販促費の問題は軽減したそうだが、それまでの約6年間、丸山さんは社内で戦い続けたという。
この情熱、いったいどこから生まれてくるのだろう。
■「白いご飯の日」保育園時代の思い出
「幼少期の接点が重要だというお話をしましたけど、私と丸美屋の接点は保育園の時の『白いご飯の日』なんです。
その日だけ、お弁当に白いご飯を持っていくのですが、お昼になると先生が巡ってきて、白いご飯に『のりたま』をかけてくれたんです。
それがあまりにもおいしくて、『黄色い魔法の粉』を先生がかけてくれるのが楽しみで楽しみで仕方なかった。
だから私、丸美屋の商品が大好きで、こんなにおいしいものを知らないなんて、もったいない! って、純粋に疑問に思ってしまうんです。
仕事だから売らなきゃ、とは思ったこともなくて。商品のよさをもっと知ってもらいたいから、アイデアが次から次へと湧いてきちゃうんです」
ロングセラーの背後には、丸山さんのようなエバンジェリストが存在しているのだ。
改めて、「大好き」以上のモチベーションはないことを思い知った取材であった。

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山田 清機(やまだ・せいき)

ノンフィクションライター

1963年、富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(朝日文庫)、『東京湾岸畸人伝』『寿町のひとびと』(ともに朝日新聞出版)などがある。

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(ノンフィクションライター 山田 清機)
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