風邪をひいたかもしれないと思った途端に、総合感冒薬を飲む人は少なくない。しかし、医師で医療ライターでもある音良林太郎さんは「風邪のひき始めに総合感冒薬を飲むのはおすすめできない。
むしろスーパーで買える食材のほうが役に立つ」という――。
■「早めの総合感冒薬」が効く根拠はない
寒い時期になると、テレビでよく耳にするフレーズがあります。「早めの○○」「喉からくる風邪には○○」「風邪を早く治そう」――そう総合感冒薬のCMです。
こうしたCMの影響で、風邪をひいたかもしれないと思ったら、すぐに総合感冒薬を飲まなければならないと思い込んでいる人は決して少なくないでしょう。
しかし、早めに総合感冒薬を飲んだからといって風邪が早く治るわけではありません。風邪はほとんどがウイルス感染で、ウイルスを直接やっつける薬は存在しません。総合感冒薬に入っているのは、熱を下げる成分、鼻水を止める成分、咳を抑える成分、痛みを和らげる成分といった「対症療法」の薬なのです。
ですから、風邪の症状を一時的に抑えることはできても、風邪そのものを治すわけではありません。それどころか、内容によっては逆効果になる可能性すらあるのです。
今回は、風邪に総合感冒薬が本当に必要か、医学的根拠に照らして考えてみます。そして、医師として風邪にどのような対処をしているのかお伝えしましょう。
■本当に風邪に効く成分が入っているのか
まず、総合感冒薬に含まれている成分は本当に風邪に効くのでしょうか。

例えば、「喉の痛みに効く」とされるトラネキサム酸。確かに抗炎症作用はありますが、喉の痛みへの効果を示す医学的根拠はかなり限られています。日本の過去の研究で一定の効果が報告されているものの(※1)、国際的な大規模研究では明確な結論が出ていないというのが正直なところです。ただし、飲んでも危険な合併症が増えるわけではないと考えられるため、病院で処方されることもあります。
抗ヒスタミン薬というアレルギー薬は、鼻水を止めるとされています。しかし、風邪のときに鼻水が出るのは、ウイルス自体やウイルスと戦った白血球の死骸を体外に出すための生理的な反応。だから、どんどん出したほうがよいのです。無理に止めようとしても止まりませんし、中耳炎のリスクが増えるという報告もあります(※2)。医師の間でも基本的に出さないほうがよいというのがコンセンサスです。
咳止めについても同様です。信頼性の高い医学研究の統合分析では、咳止め薬が咳を減らすという確実な証拠は見つかっていません(※3)。とはいえ、つらい咳を少しでも和らげようと、咳止めを処方する病院もあるでしょう。

※1 竹中洋、斎藤洋三、他「咽頭炎に対するトラネキサム酸の臨床効果」耳鼻咽喉科臨床.1979;72(増3):1123–1131.

※2 Wald ER, Guerra N, Byers C. Upper respiratory tract infections in young children: duration of and frequency of complications. Pediatrics. 1991;87(2):129–133.

※3 Smith SM, Schroeder K, Fahey T. Over-the-counter (OTC) medications for acute cough in children and adults in community settings. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014(11):CD001831.
■総合感冒薬の「やっかいなところ」とは
こうした総合感冒薬のやっかいなところは、必要のない成分まで一緒に摂ってしまう点です。例えば、あなたが困っているのは喉の痛みだけなのに、総合感冒薬には鼻水止め、咳止め、解熱剤、カフェインまで入っています。必要のない薬を体に入れるということは、それだけ副作用のリスクが増えるということです。
ドラッグストアで総合感冒薬を手に取る前に、まずは裏面の成分表示を見てください。本当に今のあなたに必要な成分だけが入っているでしょうか。
特に問題なのがカフェインの配合です。多くの総合感冒薬には、眠気覚ましとして、あるいは頭痛を和らげる補助成分としてカフェインが配合されています。確かに、信頼性の高い医学的データでは、カフェインを鎮痛剤と併用すると頭痛への効果が少し上がるというエビデンスはあります。
しかし、よく考えてみてください。風邪をひいたとき、一番大切なことは何でしょうか。休むこと、しっかり寝ることです。ところがカフェインが入っていたら、寝つきが悪くなりますし、睡眠の質も低下します。

つまり、風邪を治すために薬を飲んでいるのに、その薬のせいで睡眠が妨げられ、かえって治りが遅くなる可能性すらあるわけです。これは矛盾していると言わざるを得ません。
■風邪をひいたらどうしたらいいのか
さて、風邪をひいたら、病院を受診したほうがいいでしょうか。じつは軽い風邪の場合は、内科や耳鼻科をわざわざ受診する必要はありません。軽い風邪での受診は、医療費の無駄遣いになりますし、医療機関の混雑を招きますし、さらには他の感染症をもらうリスクもあるためです。
しかも、先に述べたように風邪には特効薬はなく、それぞれの症状を緩和する対症療法の薬しかありません。また、ほとんどはウイルス感染ですから、抗生物質も効きません。それなのに医療者側が「念のために」と薬を出したり、患者さん側が「安心だから」という感覚でもらっていたりするのです。
もちろん、高熱が続く、呼吸が苦しい、意識がもうろうとする、といった重い症状があれば、すぐに医療機関を受診しましょう。また子どもや高齢者、持病のある人の場合、心配ならぜひ受診してください。
一方、健康な成人で「ちょっと喉が痛い」「鼻水が出る」くらいなら、まずは自宅で安静にして、市販の単剤(必要な成分だけの薬)を使うほうが合理的です。風邪は「病院に行くべきもの」から「自分で管理するもの」へ。
そういう意識の転換が必要な時期にきていると思います。
■医師が本当にすすめる効果的な風邪対策
では、実際に風邪をひいたとき、私たちは一体どうすればよいのでしょうか。風邪対策の答えはシンプルです。とにかくよく寝て休むこと。風邪はウイルス感染ですので、結局のところ自分の免疫がウイルスを排除するのを待つしかありません。
免疫がしっかり働くためには、栄養と休息が必要です。薬で無理やり症状を抑えて仕事に行ったり、家事を続けたりすると治りが遅くなります。
ある大規模な調査では、睡眠時間が6時間未満の人は7時間以上寝る人に比べて風邪にかかるリスクが4.2倍も高かったという報告があります(※4)。逆にいえば、しっかり寝ることは最強の風邪対策なのです。
基本は、休息と水分補給、そして栄養です。その上で、どうしても症状がつらいときに薬を使うなら、総合感冒薬ではなく、必要な成分だけが入った「単剤」を選ぶことをおすすめします。じつは、OTC薬でも処方薬と全く同じものが単剤で買えるのです。
私なら、こちらを選びます。

※4 Prather AA, Janicki-Deverts D, Hall MH, Cohen S. Behaviorally assessed sleep and susceptibility to the common cold. Sleep. 2015;38(9):1353–1359.
■風邪のときに使えるOTC薬の賢い選び方
発熱や痛みがつらいときは解熱鎮痛剤です。アセトアミノフェン(カロナール、タイレノールなど)、イブプロフェン(イブなど)を必要なときだけ飲みます。これなら余計な成分を摂らずに済みます。
喉の痛みには、トラネキサム酸を試してもよいでしょう。エビデンスは限られていますが、副作用は比較的少ないので悪くない選択です。痰が絡むときは去痰薬(ムコダイン、ムコソルバンなど)を選びましょう。これも単剤で購入できます。薬の種類がよくわからないときは薬剤師さんに相談しましょう。
そして、鼻水を止める薬は基本的に不要です。鼻水はこまめにかんで出してしまったほうがよいでしょう。どうしてもつらいときは抗ヒスタミン薬ではなく、鼻うがいや加湿で対応するほうが安全です。


咳については、処方薬と同じようにOTCで売られている咳止めにも効果はほとんど期待できません。むしろ、市販の咳止めに含まれるデキストロメトルファン(メジコン)を大量摂取すると幻覚や多幸感といった精神作用が出ることがあり、若年層を中心に乱用事例が増えています(※5)。「市販薬だから安全」というのは誤解です。咳止めとしての効果も高くないことを考えると、安易に飲むべきではありません。
なお、葛根湯を選ぶ人もいます。明確なエビデンスはありませんが、体を温め発汗を促すという効能を考えれば、選択肢として悪くはないでしょう。

※5 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」
■どこのスーパーでも買える風邪対策食材
薬以外で、風邪のときに役立つ食材があります。その一つがハチミツ。複数の臨床研究を総合した結果では、ハチミツが咳の頻度と重症度を減らすという中程度のエビデンスが示されています(※6)。
ですから、夜寝る前にスプーン1杯のハチミツをなめましょう。紅茶やレモン水に入れて飲むと喉の保湿にもなります。私も喉が痛いときは部屋を加湿・加温した上で、ハチミツをなめて寝ています。ただし、1歳未満の乳児はハチミツに含まれるボツリヌス菌によって重篤な食中毒になるリスクがあるので絶対に与えないでください。
それから欧米で「おばあちゃんの風邪薬」と呼ばれる温かいチキンスープもおすすめです。ある研究では、チキンスープが白血球の動きを抑えることで過剰な炎症反応を和らげる可能性が示されました(※7)。完全に証明されたわけではありませんが、少なくとも水分と栄養を摂れますし、温かいものは喉にもやさしいといえます。
要するに、スーパーで買える普通の食材で十分対応できるのです。変に高い総合感冒薬を買うより、ハチミツとチキンを買って家でゆっくりスープを作ってたっぷり寝る。これが一番効きます。

※6 Abuelgasim H, Albury C, Lee J. Effectiveness of honey for symptomatic relief of upper respiratory tract infections: a systematic review and meta-analysis. BMJ Evid Based Med. 2021;26(2):57–64.

※7 Rennard BO, Ertl RF, Gossman GL, et al. Chicken soup inhibits neutrophil chemotaxis in vitro. Chest. 2000;118(4):1150–1157.
■周囲にうつさないためにもしっかり休む
基本的に風邪はウイルス感染ですから、どのようなウイルスの風邪でもうつる可能性があると思ったほうがよいでしょう。新型コロナウイルスだから、インフルエンザだからうつる、他の風邪はうつらない、というわけではありません。いつでも、誰でも、どんな風邪でも必ずうつる可能性があるのです。
コロナ禍を経て、社会全体で「風邪をひいたら休む」という意識が少しずつ広がってきました。しかし、また最近、この素晴らしい風潮が薄れつつあります。「早めの○○」「喉からくる風邪には○○」などという風邪薬のCMによって、また「風邪薬を飲んで頑張る」「風邪を早く治す」という昔に戻りつつあるように感じます。
風邪をひいた人が無理に出社したり外出したりすると、周囲にウイルスをばらまくことになります。次のパンデミックの第一歩は、そういう「軽い風邪」から始まるかもしれません。自分のためだけでなく、周りのためにも、風邪をひいたらしっかり休む。それが社会全体の共通認識になってほしいものです。
風邪をひいたみなさん、どうかお大事になさってください。そして何よりも早めにゆっくり休んでくださいね。

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音良 林太郎(おとら・りんたろう)

医師、医療ライター

2006年、慶應義塾大学医学部卒。臨床研修修了後、2008年より同大学耳鼻咽喉科学教室へ所属。日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、耳科学会認定医。耳科、聴覚を専門とし、臨床勤務医として従事する。2018~2020年、米国ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科頭頸部外科でポストドクトラルフェローとして先天性難聴の蛋白機能解析に関する基礎研究に従事。2021年より国立病院機構栃木医療センター耳鼻咽喉科に医長として勤務。本名、小島敬史。現在はX(旧Twitter)で医学・健康情報の啓蒙活動をしながら、医療ライターとして医療記事執筆を行っている。2006年春、東京都立川市で開業予定。

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(医師、医療ライター 音良 林太郎)

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