ネットの広告費はテレビの2.5倍に達する勢いだ。2026年以降も、テレビ分をネット側が容赦なく削っていく流れは止まらないと見られている。
次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「テレビ局はインターネットのポテンシャルを読み間違えた。だが、その出遅れを一挙に挽回し、反転攻勢する方法は残されている」という――。
■ネットの広告費はテレビの2.5倍
2025年は、ラジオ、テレビと続いた「放送100年」の記念すべき1年となるはずだった。
ところが直近30年でのインターネットの進化に放送は乗り遅れ、情報伝達のシステムとしても質量ともに周回遅れの感が否めない。その2025年に、生成AIが一挙に進化し、ネット以来の大きな影響を真正面から受けている。だが、生成AIとの向きあい方次第では、放送も乾坤一擲の大逆転が可能だ。
電通が毎年とりまとめている「日本の広告費」によれば、今や総広告費のほぼ半分をネット広告費が占めた。しかも地上波テレビを抜いて4年で、その規模は倍となり、間もなく2.5倍に達する勢いと、急伸ぶりは衰えを知らない。
もしネット広告費が今後も同様の成長を続けたらどうなるのか。日本の広告費の総額は、毎年2000~3000億円しか伸びていない。これに対してネット広告費は、それを上回る金額で伸びて来た。このままだと、金額の大きいテレビ広告費をガンガン削り取り始める事態は容易に想像できる。

前提にはメディア利用の実態がある。例えば博報堂「メディア定点調査」によれば、人々のメディア総接触時間のマスコミとネットの比率は、2006年には4対1とマスコミが圧倒的だったが、20年の間に1対2に完全に逆転した。テレビがかつては断トツの主役だったが、今やスマホに取って代わられた格好だ。
個別のサービスで比較しても、ネットの優勢は揺るぎない。電通の調べでは、テレビの中の首位を疾走するのは日テレだ。ただし同局を含めた東京キー局より、YouTubeが49歳以下のDAU(1日に5分以上の利用者数)では2倍以上となっている。全年齢でみるとテレビのいくつかのチャンネルが依然上だが、あと3年前後で逆転されるほどの勢いの差となっている。もはや近未来の勢力図がどうなるかは子供にも一目瞭然だろう。
ネットでは、他にも躍進するサイトが少なくない。TVer、Spotify、Netflix、ABAMAなどが右肩上がりを続けている。テレビの全チャンネルが右肩下がりの放送に対して、次々と人気サービスが登場するインターネットとの差は開くばかりだ。
■社会への影響力でも逆転
量の変化は質にも及ぶ。
例えば総務省の調査データでは、「情報源としての重要度」でテレビは10年前と比べ11ポイント落ちた。また「いち早く世の中の出来事や動きを知る」ために「最も利用した」との回答でも、テレビは36.1%でインターネットの61.0%に大きく後れを取った。
こうした変化が影響力で顕著だったのが選挙報道だ。例えば5年前はテレビが優位で、ネットは補助的存在に過ぎなかった。候補者の間でもSNSを手掛けるのは少数派だった。ところが2024年にはXをやる候補者は9割を超え、SNS選挙が本格化した。
一方テレビ報道は中立性重視から政治報道が減少し、“その空白”をSNSが埋めるようになった。「候補者の本音」「政策説明」「切り抜き」動画が爆増し、政治情報の入手ルートがテレビからネットへ移った。結果として投開票日の出口調査でも、最も参考にしたのはマスコミよりSNSや動画という回答が上回った。明らかに社会への影響力で、決定的な変化が生じていたのである。
■マス向けコンテンツもネットへ
ネットのマスメディアへの浸食は、選挙報道にとどまらない。多数が同時に視聴するスポーツでも、インターネットの存在感は高まっている。
最初の逆転現象は2022年のサッカーW杯カタール大会だった。中継権料の高騰からABEMAが全64試合の中継権をおさえた。うち41試合を地上波テレビ局が放送権を再販してもらう形になった。しかも人気の日本代表戦でも、ABEMAは500万ほどの同時接続数をさばいた。従来言われていたインターネットの課題は、技術の進化で軽々と超えられていた。
2025年は決定的な逆転が起こった。2026年春のWBC放映権をNetflixが独占し、地上波テレビの中継は行われない。また今年の6月のサッカーW杯北中米大会では日本戦こそ地上波テレビが中継するが、全104試合はDAZNとなった。いよいよインターネットに死角がなくなり、地上波テレビ中継が一部残るとしても、ネットファーストの時代になっていく。
要は経済の論理で人気コンテンツを地上波テレビが権利を買えなくなり、ネット企業が押さえてしまう時代に移行したのである。ITは技術的進化を急速に果たし、テレビ放送ができることは何でもでき、さらにテレビのできない部分までカバーし、事業としても優位に立とうとしているのである。
■特定層狙いで反転攻勢へ
では、量と質でネットとテレビの関係性が変容する中、テレビは生き残ることができるのか。

筆者の答えはYesだ。テレビ局が放送にのみこだわるなら、今後も先行きは細るばかりで「終わる」だろう。ただし躍進するネットを活用すれば、ビジネスとしての活路は十分にある。
例えば、TBSドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(火曜夜10時~)は、個人視聴率が4%なので、リアルタイムで視聴する人は400万人ほどしかいなかった。ところが第7話の無料配信回数は、522万を突破し歴代最高を記録した。より長期の配信やSVOD展開を入れれば、視聴者数は放送を大きく凌ぐ。
フジテレビは2025年、「アドレッサブルCM」の実験放送に成功した。ターゲット別に視聴者へCMを届ける技術で、広告効果が高まるのでCM単価の上昇が視野に入る。これが一般的になれば、放送以外でも大勢にリーチする番組制作のニーズが高まり、テレビ局の収入増にもつながる可能性がある。
こうなると最大公約数を狙ってきたテレビ番組は、発想を転換して柔軟なビジネス展開ができるようになる。マス対象の放送パートの後に、ターゲットやニーズ別に多様なコンテンツを作り分け、ネットで特定層を効率的に刈り取る発想だ。
「そんな何通りも制作するのは大変」という反論が出そうだが、実は生成AIなど技術の進化は、それを安価で迅速に可能とする。
例えばニュース番組。1時間で20項目とすると、1項目平均2~3分となる。ただし視聴者によっては、関心のないニュースが幾つも含まれ、リアルタイム視聴が厭われる要因だった。
ところが各項目30秒ほどのヘッドラインをまず放送し、視聴者はその中からニーズに応じて詳細情報をネット経由で視聴すれば、便利なシステムとしてより多くの視聴者を獲得できる。まさにアドレッサブル広告の番組本編版だ。
どれほどの詳報か、どの切り口が必要か等のニーズに応じて、同じ項目を何通りも作り分ける。生成AIを活用すれば、コストは1.2倍程度に抑えることが可能だ。一方で売上や利益は、テレビ広告とネット広告をあわせて1.5倍以上に膨らむことも視野に入る。
■テレビ局の反転攻勢
このやり方は、生活者のテレビ視聴時間を短くする副作用を持つ。それでも従来は最大公約数の視聴者にリーチするだけだったテレビが、多数派の他に少数派もきめ細かく取り込むことで、一人当たりの単価を上げ総収入増が可能になる。
しかもこの方式なら、アニメ・ドラマ・バラエティ・情報番組にも応用できる。総リーチと総収入で見れば、コスト増より収入増が上回るような仕掛けは十分に発明可能だ。

インターネットが登場して以降、放送陣営はその価値を見誤り、結果として大きく後れをとってしまった。その周回遅れのタイミングで訪れた生成AIの進化。今度こそ可能性を最大限に活かす知恵を発揮し、新たな地平を切り拓いてもらいたいものだ。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)

次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト

愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。

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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)
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