※本稿は、上野泰也『本当の自由を手に入れるお金の減らし方』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■値段は「他人の意見」に過ぎない
【主な登場人物】
上野泰也:マーケットコンシェルジュ代表。元・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト。エコノミストランキングで6年連続第1位を獲得するなど、お金のプロ。
ミドリ:中学2年生。読書が好き。堅実でしっかり者。最近貯金をしている。本記事で父(上野泰也)からお金の本質を学ぶ。
上野:世の中のあらゆる値段は、君が決めたものじゃない。値段とは「他人が決めた価値」なんだ。
ミドリ:えっ、どういうこと?
上野:たとえばブームになった商品は、昨日まで1000円だったのに、突然3000円になることもある。オークションはもっと極端で、貴重な品だと数万円になったりもする。つまり「金銭的な表示額」は、他人の都合や需要と供給で、勝手に動くんだ。
ミドリ:じゃあ数字だけ見ても本当の価値はわからないんだね。
上野:そういうことだ。数字に表れた「他人の価値」に自分を合わせるんじゃなくて、自分の感じる価値を大切にすることだ。値段とは「他人の意見」にすぎないからね。
ミドリ:その考え方は、なかったかも。
上野:だろう。値段は、売り手と市場が出す“主張”だ。しかも一枚岩じゃない。いくつもの層が重なって、最終的な数字になる。
■原価が同じでも値段が違う商品がある理由
ミドリ:どういう意味?
上野:たとえばまずは原材料費や人件費、家賃、光熱費、梱包や配送の費用。いわゆる原価やコストだね。ここにお店の利益を少し上乗せして、ようやく「値段」ができあがる。でも実際は、それだけで決まるわけじゃないんだ。
ミドリ:原価が同じでも、値段がまったく違うことだってあるもんね。
上野:そう。近所に似た商品があれば競合が意識される。近い値段に寄せるのか、あえて離すのか。オンラインなら一発で比較されるから“見られ方”まで計算に入る。値段はいつも“他人の値段”に対するリアクションなんだ。
ミドリ:なるほど。
上野:さらに買いたい人が多ければ値段は上がり、少なければ下がる。これは店頭でもネットでも同じだ。特に相対取引といって、当事者同士が合意すれば成立する取引では、合意した“その瞬間の他人の判断”がそのまま値段になる。オークションはその典型。最終価格は競り合った他人同士が決める。つまり値段とは「他人の都合と需給の結果」なんだ。
ミドリ:確かに。誰かが「その値段で買う」って決めたから、その値段になるんだね。
■他人が仕掛けた“見え方の設計”
上野:そう。そしてレシートに載る税や決済の手数料、海外なら為替、それから時間帯や曜日や場所や残席数。航空券やホテルの宿泊料金が日時によって値段を変えるのは、条件の違いを値段に反映しているからなんだ。たとえば土曜日の夜の便と、平日の昼間の便。
ミドリ:“そのときどきの状況”で変わるってことなら、わかりやすいね。
上野:そう。さらに数字の見え方にも影響される。たとえば端数価格で安く感じたり、最初に見た数字が基準になってその後の判断を引っ張ったり。みんなが「このくらいがふつう」と思っている参照価格に合わせておくと違和感が減る。どれも他人が仕掛けた“見え方の設計”なんだ。「値段」とは心理に話しかけてくる言語でもある。
ミドリ:“見え方の設計”って、すごい。
上野:そうなんだ。そして「表示は安いのに、会計で増える」ということもある。
ミドリ:なるほど。
■値段を見るときには「自分で訳して使う」
上野:だから値段は「客観的な真理」じゃない。「今・ここで・その条件の他人がそう判断した」という、そのときだけの答えなんだ。だから値段を見るときは“受け取る”だけじゃなくて“自分で訳して使う”こと。どんなコストや条件や心理が乗っている数字なのかを思い出し、自分の目的に照らして測り直し、同じ条件で比較し、必要なら落としどころを探す。金銭的な表示額は、他人が決めた価値。その性格を理解したうえで「自分の評価軸」に一度照らし合わせること。それが、数字に振り回されないことの第一歩なんだよ。
ミドリ:でもさ、お父さん。
上野:いい質問だね。さっきは「値段は他人が決めている」と話したけれど、その中でも特にわかりやすいのが“ブーム”だ。みんなが欲しいと思えば一気に値段は上がる。でも熱が冷めれば、すぐに値段は下がる。
ミドリ:ブームって、どうしてそんなに値段を動かしちゃうの?
上野:これはね、「需給」という言葉で説明できる。需要と供給、要は「欲しい人」と「売りたい人」のバランスで値段が決まる。
ミドリ:欲しい人と売りたい人?
■タピオカドリンクの大流行と失速
上野:そう。欲しい人が多ければ値段は上がるし、反対に少なければ値段は下がる。シンプルな仕組みだ。でも実際、生活の中で体験すると驚くほど大きな差になる。
ミドリ:たとえば?
上野:タピオカドリンクを思い出してごらん。一時期は大行列ができて、800円以上してもみんな並んで買っただろう。でも数年後にはセール期間や割引券配布があったりで値段も下がって、多くの店がつぶれてしまった。あれは欲しい人が一気に減ったからだ。
ミドリ:ああ、覚えてる! 友達と一緒に並んだことある。高かったけど楽しかったなあ。でも今はほとんど見ないね。
上野:そうだろう。「これを食べなきゃ置いていかれる」みたいに行列ができたものもあるけれど、今ではブームが去って以前よりも安くなったり、店が閉じたりしている。
ミドリ:そういったブームができるのって、食べ物だけじゃないよね?
上野:もちろん。視野を広げていうと、芸能人やアイドルも同じだよ。大ブレイクしてテレビやSNSに出まくる時期は、ライブのチケットが何万円にも跳ね上がる。でも人気が落ちれば、同じチケットが余ってしまって定価より安く手に入ることもある。ブームは人の心を一気に動かすけれど、その熱が冷めるのも早いんだ。
■「ブームの値段=他人の熱狂の産物」
ミドリ:ブームがつくる値段って、まさに一時的なんだね。
上野:そう。だから「ブームの値段=他人の熱狂の産物」と言ってもいい。みんなが盛り上がれば値段は上がるし、静まれば暴落する。それが需給の力なんだ。
ミドリ:なんだか怖いなあ。だって、流行っているときは「今しかない!」って思っちゃうもん。
上野:そう感じるのも自然だよ。でも大事なのは、全部がブームで決まるわけじゃないということだ。お米や水道水みたいに、生活に欠かせないものはブームに左右されにくい。常に安定しているものもあるんだ。
ミドリ:少し安心した。全部が上がったり下がったりするんじゃないんだね。
上野:そう。そしてここで「自分の評価軸」が大切になってくる。たとえ世の中がブームで盛り上がっていても、自分が本当に欲しいかどうかを考えることだ。タピオカがいくら流行していても「自分はタピオカが好きじゃない」と思うなら、ブームに無理に乗る必要はない。逆に、好きならブームが去っても飲み続ければいい。自分の感覚に従うことだ。
■50万円のコースで1万円のコースの「50倍」幸福になれるか
ミドリ:なるほど。「自分の評価軸」で考えれば、無理して流行に合わせなくてもいいんだね。
上野:その通り。飛行機のチケットも似ている。旅行シーズンでみんなが一斉に買うときは値段が高くなる。でもオフシーズンには驚くほど安くなる。あれもブームと同じく「欲しい人が多いと値段が上がる仕組み」だ。だから、世の中の値段をそのまま信じるんじゃなく「自分の評価軸」に照らして考える。これが、流行に振り回されずに生きる方法だよ。
ミドリ:じゃあ次に流行が来ても、私は「本当に自分が欲しいのか」で決めようっと。
上野:いいね。それができれば、どんなブームが来ても怖くない。ここまでで、値段は他人が決めていること、そしてブームで値段が大きく動くことを話したね。じゃあ次は「値段の高さ=幸福の大きさ」なのかどうかを考えてみよう。
ミドリ:えっ? 高いほうがいいに決まってるんじゃないの?
上野:そう思うだろう? でも実際にはそう単純じゃない。たとえば、超一流シェフが作る50万円のフルコースがあるとする。一方で、街のレストランの1万円のフルコースもある。さて、50万円のコースは1万円のコースの50倍幸福を与えてくれると思うかい?
ミドリ:うーん、さすがに50倍はないかなあ。おいしいんだろうけど。
■お金の多さと幸せの大きさはイコールではない
上野:そうなんだ。確かに高級食材や手間ひまをかけているから、味は洗練されているだろう。でも人間の舌や心が感じる「おいしさ」は直線的に比例しない。街のレストランで食べる料理も十分に「おいしい」と感じられるし、むしろ気の合う友達や家族と一緒に食べるなら、幸福感は変わらないことだってある。
ミドリ:うん、友達と入るファミレスのランチは手頃だけどおいしくて、最高に楽しい。
上野:そういうこと。値段はあくまで「他人が決めた数字」にすぎない。それが幸福の大きさを保証するわけじゃないんだ。
ミドリ:なるほど。お金の多さと幸せの大きさは、イコールじゃないんだね。
上野:そう。たとえば旅行を考えてみよう。豪華ホテルのスイートに泊まれば一泊何十万円もする。でも家族で泊まった温泉旅館や、気の合う友達と泊まった安価な宿のほうが、記憶に残ることもある。値段は何十倍も違うけれど、幸福感は必ずしも比例しない。
ミドリ:確かに。修学旅行のとき、友達と宿で過ごした時間はすごく楽しかったもん。
上野:その通り。幸福というのは、数字で単純に割り切れない。値段が高い=幸福も大きい、という関係は成り立たない。
ミドリ:じゃあ、数字ばっかり見てたら、本当の幸せを見逃しちゃうね。
■お金で買えるのは「きっかけ」
上野:そうだ。人間の感覚には「限界効用逓減(げんかいこうようていげん)」という性質もある。簡単に言えば、同じものを繰り返し得ても、最初ほどの感動は得られなくなるということだ。最初のひと口目のケーキはすごくおいしいけれど、10個目になるとありがたみは薄れるだろう?
ミドリ:うん、わかる! 大好きなケーキでも、一度に3~4個も食べたらもういいかな。
上野:だから、値段が高い料理を食べても「感動の総量」には限界がある。むしろ適度な量や気持ちの充実のほうが大事なんだ。
ミドリ:じゃあ、幸せってお金では買えないってこと?
上野:厳密には、お金で「きっかけ」を買える。でも「幸せそのもの」はお金の数字で決まるものじゃない。たとえば同じ1万円でも、おいしい食事に使うか、大切な人への贈り物にするかで感じる幸せは違う。だから、値段はあくまでスタート地点にすぎない。
ミドリ:なるほど。じゃあこれからは、値段よりも自分の気持ちを大事にしたいな。
上野:それが一番大事だ。値段は他人が決めた数字。自分の心がどう感じるかが、本当の幸福を教えてくれるんだよ。
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上野 泰也(うえの・やすなり)
マーケットコンシェルジュ代表
元・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト。1963年青森県八戸市生まれ、育ちは東京都国立市。85年上智大学文学部史学科卒業。法学部法律学科に学士入学後、国家公務員I種試験に行政職トップで合格し、86年会計検査院入庁。88年富士銀行(現みずほ銀行)入行。為替ディーラーを経て為替、資金、債券の各セクションでマーケットエコノミストを歴任。2000年みずほ証券設立後、25年6月までチーフマーケットエコノミスト。質・量・スピードを兼ね備えた機関投資家向けのレポート配信、的確な経済・市場予測で高い評価を得て、「日経公社債情報」エコノミストランキングで2002年から6年連続で第1位、その後身の「日経ヴェリタス」エコノミストランキングで2011年、16~21年に第1位(トップは通算13回)。2025年7月にマーケットコンシェルジュを設立、代表に就任。
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(マーケットコンシェルジュ代表 上野 泰也)

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