※本稿は、上野泰也『本当の自由を手に入れるお金の減らし方』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「お金が増えること」で満足してはならない
【主な登場人物】
上野泰也:マーケットコンシェルジュ代表。元・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト。エコノミストランキングで6年連続第1位を獲得するなど、お金のプロ。
ミドリ:中学2年生。読書が好き。堅実でしっかり者。最近貯金をしている。本記事で父(上野泰也)からお金の本質を学ぶ。
ミドリ:さっき「貯めること自体が目的になるのは違う」って言ってたよね。具体的に、何が問題なの? 預金通帳の数字が増えると、ちょっと嬉しいのは事実なんだけど。
上野:嬉しいのは自然だよ。数字が増えるのを見て安心する……それ自体は否定すべき感情じゃない。ただ、そこで満足を完結させてしまうと、本来の目的地にたどり着かない。お金は“道具”であって、道具を磨くことは準備にすぎないからだ。準備を丁寧にやるのは大事だが、準備だけをゴールにしてしまうと、いつまで経っても出発しないままになる。
ミドリ:出発しないままの登山者、みたいな?
上野:そう。山小屋で装備を点検して満足している状態だ。装備を整えるほど安心には近づく。だけど、安心は「マイナスをゼロに戻す」ことに近い。そこから先の「プラス」に進むには、外に出て一歩を踏み出す必要がある。お金も同じで、数字が増えることは不安の解消には役立つが、幸福の創出とは別物だ。
■貯めることは「目的」を達成するための準備段階
ミドリ:じゃあ、貯めることって無意味なの?
上野:無意味ではないよ。
ミドリ:仮置きでもいい、っていうのは気が楽だね。
上野:多くの人は「一度決めたら最後まで同じでなければならない」と思い込む。でも実際は、やってみて、どうにも合わなければ、修正すればいい。目標は生き物だ。年齢や環境、好みが変われば、ふさわしい目標も変わる。だから「貯めるために貯める」に陥らないためのコツは3つだ。1つ目は、目標を仮置きすること。
ミドリ:小さく試すって、どういうことを想定してるの?
上野:たとえば「海外に行ってみたい」なら、いきなり大旅行でなくてもいい。近場の短期旅行で試す。経験して、嬉しかったこと・疲れたこと・次に工夫したいことなどをメモしておく。次は少しだけ距離や時間を延ばす。目標に向けた出費を分割して、トライ&エラーで質を高めるんだ。これは勉強でも趣味でも同じだよ。
ミドリ:なるほど。1回で完璧を狙わないのね。
■お金の使い方も投資も「確率のゲーム」
上野:そう。そして、お金を使ったときの評価は「減点法」ではなく「加点法」で考える。
ミドリ:でも、失敗したなって思うこともあるよ?
上野:もちろんある。期待と違った、期待が高すぎた、2回目以降は新鮮味が落ちた。人は誰でもそういうハズレを引く。大事なのは、ハズレを「経験資産」に変える姿勢だ。次に似た場面で、同じミスを避ける確率を上げられれば、すでにリターンは得ている。お金の使い方も投資も、結局は確率のゲームなんだ。
ミドリ:確率のゲーム。
上野:そう。しかもその確率は、自分で上げられる。
ミドリ:でも「消費・浪費・投資に分けて、浪費を減らせ」と説く人もいるよね?
■安心と幸福は違う
上野:便利な枠組みではあるけれど、注意もいる。なぜなら「浪費」というラベルはしばしば他人の価値観で貼られるからだ。本人にとっては幸福の芯に触れる出費でも、外から見れば理解されないことがある。枠組み自体を否定はしないが、ラベルの運用を他人任せにしないこと。これが肝心だ。
ミドリ:「自分の評価軸」だね。
上野:お金は信用の上に動く道具だ。数字が増えれば安心は増す。しかし、安心と幸福は違う。安心は「リスクの影を薄めること」。
ミドリ:準備と創出、ね。
上野:準備は計画や積立、緊急資金の確保。創出は目的に沿った支出、経験の設計、関係性の構築。貯めることは前者、使うことは後者。どちらが欠けても、人生の手応えは薄くなる。だから「貯めて増やすこと自体にメリットはない」という言い方の裏には、「準備だけで終わるな。創出まで進め」というメッセージがある。
■毎月の家計で「必ず○%貯蓄」は万能ではない
ミドリ:でも、学校では「まずは貯めなさい」ってよく言われるよ。
上野:それは間違いではない。何も持たないところから始めるなら、守りを固めるのは合理的だからね。ただ、守り続けるだけでは攻めには転じない。たとえば毎月の家計で「必ず○%貯蓄」という固定比率が合う家庭もあるが、すべての家庭に万能ではない。収入の変動、家族構成、必要な備え。これらの前提が違えば、正解の比率も違うからね。
ミドリ:確かに、同じやり方がみんなに合うわけじゃないよね。
上野:そうだ。それに、物価や生活の段取りは絶えず動いている。だから、比率を万能薬にせず、状況に合わせて「準備」と「創出」を切り替える柔軟さが必要だ。貯蓄の数字を誇るんじゃなく、数字が未来の具体的な場面にどうつながるか説明できれば素晴らしい。
ミドリ:たとえば?
上野:「半年後に資格試験があるから参考書と模試にいくら」「1年後に短期留学をしたいから渡航費はいくら」「家族の記念日にレストランで会食するからいくら」──こういう「場面のラベル」を先に貼っておく。数字はラベルに引っ張られて、意味のあるお金に変わる。ラベルがない数字は、ただの砂山だ。
ミドリ:砂山って、形がすぐ崩れちゃうね。
■小さく買う、小さく試す、小さく関わる
上野:そう。風が吹けば崩れる。目的のない数字は、イベント1回で簡単に形を失う。けれど、目的に紐づいた数字は「形」を持つ。費用の内訳、実施の順序、得たい記憶や成果、つまり形があるから、崩れにくい。だから貯める段階でも「目的のラベル化」を先にやる。
ミドリ:でも、目的が見つからない人もいるよね。どうしたらいいの?
上野:「好奇心の素」を探すんだ。小さく買う、小さく試す、小さく関わる。たとえば、本を1冊だけ買ってみる、近所のワークショップに一度だけ参加する、推しのライブ配信を有料で1本だけ見てみる。手触りの良かったものに、次の一歩の資金を少し足す。大事なのは「考えてから動く」だけでなく「動いてから考える」も同じ比率で回すことだ。
ミドリ:動いてから考える、か。確かに私、考えすぎて動けなくなるタイプかも。
上野:誰でもそうだよ。だからこそ「小さく始める」。そして、経験の記録を残すと、次の判断が早くなる。お金を使うたびに、項目・金額・良かった点・次回の工夫点を4行でメモしてみるのはどうだろう。メモは未来の自分へのアドバイスになる(図表1)。
ミドリ:4行メモ、やってみようかな。
■誰かの「浪費」は、自分の「投資」かもしれない
上野:もう一つ伝えておきたいのは、「人の評価に流されない」ことだ。誰かにとっての浪費が、君にとっての投資かもしれない。逆に、誰かにとっての投資が、君には空虚な数字合わせかもしれない。君の人生の基準線は、君が引く。お金は他人の価値観で測ると、たちまち枠に閉じ込められてしまう。
ミドリ:うん。自分で線を引くんだね。
上野:最後に、貯める・増やす・使うを1枚の図にしておこう(図表2)。中央に「目的」を置く。左に「準備(貯める)」、右に「創出(使う)」、下に「学び(増やすための知恵)」だ。目的が中央にある限り、左だけが大きくなりすぎることはないし、右だけが暴走することもない。数字は、目的という磁石に向かって集まってくるものだからね。
ミドリ:目的という磁石。いい表現だね。私も、磁石を真ん中に置いておくよ。
上野:それができれば、「貯めて増やすこと」自体にメリットはない──という言葉の意味が、数字ではなく生活の手触りとしてわかってくる。数字は君を守り、目的は君を進ませる。二つがそろって初めて、お金は味方になるんだ。
■お金を使って得られる「幸せ」
上野:ここまでいろんな方法を紹介したけど、お金を貯めること自体に意味はない。方法を知ることは大事だが、目的を見失ってはいけないし、自分で目的をつくる必要がある。
ミドリ:結局、お金って何のために使うのがいいの? お父さん自身ならどう?
上野:いい質問だ。お金を使って得られる幸せには、大きく二つの側面があるんだ。一つは自分の内に感じる幸せ、もう一つは人との関わりから生まれる幸せだ。
ミドリ:内と外、ってこと?
上野:そう。内的な幸せとは、自分の満足や成長に結びつくことだ。たとえば本を買って知識を得る、習い事をして技術を磨く、旅行に行って新しい経験を積む。健康のために運動にお金を使うのもそうだ。お金を自分に投資することで「成長した」「できるようになった」という喜びが心の中に残る。
ミドリ:わかる。私もお小遣いで本を買ったとき、少し大人になったみたいでワクワクしたな。
■「クリスマスのケーキ」を買う目的
上野:それだな。そういう心の充実感が内的な幸せだ。一方で外的な幸せは、人との関わりの中で得られるものだ。友達にプレゼントを贈って喜んでもらう、家族と外食をして「おいしいね」と言い合う、寄付をして社会の役に立ったと感じる。自分の外側から返ってくる感謝や笑顔が、また幸せを生み出すんだ。
ミドリ:確かに、友達にお菓子をあげて「ありがとう」って言われたときはすごく嬉しかった。あれも外的な幸せなんだね。
上野:その通り。お金はどう使うかで意味が決まる。この季節の父さんにとっては、クリスマスのケーキを買うことがそうだ。自分が甘いものを食べて満足する内的な幸せと、家族みんなで分け合って笑い合う外的な幸せ。その両方を同時に味わえる。だからこそ「何のために使うか」が大切なんだ。
ミドリ:なるほど。お金をただ貯めるより、使って人と時間を共有したほうが幸せってことだね。
上野:そうなんだ。数字が増えるだけでは心は満たされない。けれど、自分の中と外、両方の幸せにつながる使い方をすれば、お金は本当の力を発揮する。バランスの問題だよ。
■株よりも前に「自分に投資」する
ミドリ:さっきは「お金をどう使うか」で内と外の幸せがあるって聞いたけど、じゃあ長い目で見たら、どんな使い方がいいの?
上野:それはね、やっぱり自分に投資することだ。
ミドリ:自分に投資? 株とか国債に投資するんじゃなくて?
上野:そう、株や社債に投資する前に、自分に投資するんだ。父さんは公務員から銀行・証券の世界に移ったときに痛感したよ。金融市場は英語が共通語でね、資料も英語だったりする。だから会社に頼らず、自分のお金で英会話学校に通い、参考書を買って、毎日必死で勉強したんだ。英検1級や国連英検A級、ケンブリッジ英検、通訳ガイド資格まで、さまざまな資格を取ったんだ。TOEICやTOEFLでも高得点を取れるようになった。
ミドリ:ええ! そんなにたくさん? でも働きながらの勉強は大変だったでしょ?
上野:もちろん時間もお金もかかったよ。でも、それは「将来の自分」を高める投資だった。後から大きなリターンになって返ってくる。企業が設備投資をして新しい機械を導入するのと同じだよ。人間も自分のスペックを上げれば、自信につながるし、将来の収入や転職の武器にもなる。今の時代、副業も転職も当たり前になってきた。だからこそ、多様な働き方に対応できるように、自分への投資は時代の要請でもあるんだ。
■自分の健康に投資するのもいい
ミドリ:なるほど。将来のために自分を強くするんだね。
上野:若い頃は旅行にも投資した。アルバイトを掛け持ちして資金を貯めて、ヨーロッパを1カ月とか2カ月といった長期間、フリーで旅したんだ。バックパック一つで、いろんな街を歩いて、自由に経験を積んだ。あれも立派な自分への投資だったと思う。
ミドリ:うわあ楽しそう。経験も力になってくれるんだね。
上野:その通り。だから「長期的な視点で自分に投資する」ことを勧めたいんだ。自分の健康に投資するのもいい。勉強にせよ、仕事にせよ、子育てにせよ、体が資本だからね。父さんは今でも健康管理のためにプールで泳いでいる。体脂肪率はこの歳でも常に10%ちょっとを保っていて、ベストで8.3%を叩き出したこともあるよ。
ミドリ:ええっ、8.3%!?信じられない!
上野:ははは。もし「体脂肪率の低いエコノミストランキング」なんてものがあれば、ちょっと上位に入るかもしれないね。それは冗談だけど、そんな努力も自分への投資なんだ。病気を防ぎ、長く働ける体を保つことは、将来の大きな資産になる。
ミドリ:なるほど。健康に使うお金や時間も、ちゃんとリターンがあるんだね。
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上野 泰也(うえの・やすなり)
マーケットコンシェルジュ代表
元・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト。1963年青森県八戸市生まれ、育ちは東京都国立市。85年上智大学文学部史学科卒業。法学部法律学科に学士入学後、国家公務員I種試験に行政職トップで合格し、86年会計検査院入庁。88年富士銀行(現みずほ銀行)入行。為替ディーラーを経て為替、資金、債券の各セクションでマーケットエコノミストを歴任。2000年みずほ証券設立後、25年6月までチーフマーケットエコノミスト。質・量・スピードを兼ね備えた機関投資家向けのレポート配信、的確な経済・市場予測で高い評価を得て、「日経公社債情報」エコノミストランキングで2002年から6年連続で第1位、その後身の「日経ヴェリタス」エコノミストランキングで2011年、16~21年に第1位(トップは通算13回)。2025年7月にマーケットコンシェルジュを設立、代表に就任。
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(マーケットコンシェルジュ代表 上野 泰也)

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