※本稿は、川本大吾『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
■日本一のブランド「大間まぐろ」を揺るがす不正
日本一のマグロ産地として名を馳せる青森県大間だが、2023年2月、大間のマグロを巡って、大きなスキャンダルが明らかになった。いわゆる「マグロの脇売り事件」だ。危険と背中合わせで出漁し、高値のマグロを追う大間の漁師は勇敢にも思えるが、マグロ漁業に関する基本的なルールを知っていながら、それを無視してマグロを獲り、売りさばいていた漁師がいたのはいただけない。
マグロの脇売りとは、漁獲・陸揚げしつつも、それをなかったことにした隠蔽行為である。産地偽装や「密漁」というわけではないが、クロマグロは国際的な管理下に置かれている魚種。資源評価の上で管理策が敷かれており、国内ではシーズンに応じて、漁法や都道府県ごとに漁獲上限が定められている。
この上限を守るのに必要なのが、漁業者による漁獲報告。怠れば資源管理の土台が揺るがされる。乱獲によりマグロが減れば、そのツケは大間の漁師だけにとどまらない日本の漁業管理上の重大な問題なのだ。
■18トンのクロマグロが密かに流通していた
大間で発覚したマグロの脇売りは、漁協ではなく別の場所で船から引き揚げたものとみられる。
ただ、大間の漁師が船から漁協以外の場所でマグロを揚げても、そのマグロを流通させなければ意味がない。その役を担ったのが、大間町の2人の水産業者であった。この業者は2021年夏に漁業者と共謀し、18トンのクロマグロを報告せずに流通させた疑いで逮捕された。
これを皮切りに、これ以外にも多くのクロマグロが資源管理の規制から逃れ、県外に「大間まぐろ」として流れていたことが判明。日本一のマグロ産地で起こったスキャンダルとして伝えられた。
大間のマグロを巡る逮捕劇を受け、野村哲郎農林水産大臣(当時)は、2023年2月中旬の会見で「このような行為を防止するため、再発防止の管理ができるのかというのは今、検討している。今後、こういうことが横行していけば、国際的な信用を失っていく」と指摘。対応策の必要性を強調した。
■3年間で約200トンが資源管理の網を逃れる
こうした無秩序な漁獲や流通は、かなり横行していたとみられている。水産庁によると、青森県から2023年12月に報告された2021年度におけるクロマグロ漁獲の未報告の疑いがある数量は約98トン。このほか、2019~20年についても、大間で未報告の漁獲分があるといい、3年間でおよそ200トンが資源管理の網を逃れて陸揚げされ、流通していたようだ。
未報告分の一部は、これまで青森県の漁獲枠から差し引かれ、大間漁協の割当も相応分が減らされている。さらに、脇売りに関わった大間の漁業者、十数人に対し、一定期間、操業停止処分が下されている。
ルール違反の横行により、大間ブランドに大きな傷が付いたことで、豊洲市場からも非難する声が相次いだ。同市場の仲卸から見れば、未報告という事態は豊洲からは見えにくく、わかりにくい問題だ。それだけに、同市場の関係業者らは、大間の漁師らに、それぞれの思いを抱いている。
■最高級ブランドとしての責任は重い
マグロ専門の仲卸は「大間のマグロは、築地(市場)時代から、市場関係者や仕入れに来るすし店などが目利きしながら、最高のマグロとして扱ってきた。今後もブランド力を継続させるには、漁獲情報はきちんと報告し、管理すべきだ」(キタニ水産)と語気を強める。
別の仲卸からは「市場ではマグロの質だけを見て競り落としているため、漁獲情報のことはわからないが、世界的に環境問題が重視される中、ブランドに傷を付けないよう、管理上の問題を改善してほしい」との声も上がった。
初競り「大間の一番マグロ」を何度も競り落としている豊洲・仲卸「やま幸」の山口幸隆社長は、不正な漁獲管理に疑問を投げかける一方で、「大間では「釣り」や「はえ縄」といった漁法間で、漁獲枠の配分に対する不公平感があると聞く。さらに(不正問題が浮上した)2022年の暮れには、豊洲で大間産をはじめマグロの本数(上場)が多く、全体として値が下がったため、漁師も厳しい状況だったと思う」と、同情的な見方を示した。
さらに、東京・渋谷区で人気の寿司店「おけいすし」の店主・鈴木正志さんは、「特に冬場の大間産は絶品。日本一のマグロだから、仕入れられたときは「大間まぐろ」のラベルを店内の目立つ場所に貼り、お客さんにおすすめしている。
漁獲情報の管理問題が指摘される中で「この際、産地サイドで資源管理の必要性を改めて共有し、漁獲情報の管理を徹底化して、大間ブランドの維持へ再出発を図っていってほしい」(仲卸・鈴与)と、期待する声も少なくなかった。
■日本の漁業管理は「甘すぎる」
こうした中、有識者の間からは大間のみならず、日本の漁業管理策や罰則が「甘すぎる」と指摘されており、規制策の厳格化を求める声は多い。
大間での漁獲管理の甘さを踏まえ、国内外の水産資源の管理と市場・流通の現状と問題に詳しい水産庁OBで、「一般社団法人生態系総合研究所」(東京)の小松正之代表理事は、「日本の漁港・漁協での魚の水揚げ管理は、現状では無に等しい」と苦言を呈する。
■改革しなければ世界のマグロを買えなくなる
そのうえで、実効性ある漁獲管理について、次のように詳述する。
「漁獲報告は漁協ではなく各漁業者に義務付け、陸揚げ時の計量は漁協ではなく、公務員か科学オブザーバーが行う。それを行政が証明する。これが国際基準である。漁獲報告書の未提出者には、国際基準並みに漁業許可証の没収や、数千万円に上る厳しい罰則・罰金を科すことが再発防止に必要。
TACを科学的に厳しく定め、漁船ごとに漁獲可能量を割り当て、漁獲データをすぐにオンラインで報告させる。小型漁船は船尾と船首に監視カメラを設置し、大型魚漁船には科学オブザーバーを乗船させ、洋上や水揚げ時の不正を監視する。また、卸売業や仲卸業、加工業者やレストランのほか、第一次購入者(流通業者など)も購入の報告提出を義務とする。
これがなければ日本のマーケットも世界から信用を失い、日本へマグロを売ってくれなくなることが心配される。ブランド以前の話だ。日本の現状を改革しなければ、現在でも親魚資源量が低いクロマグロ資源も枯渇の危機を避けられない」
SDGsの実現がキーワードになる今、責任を持って近海の魚を獲り、流通させ、われわれ消費者に届けられる仕組みが必要だ。大間での不十分な漁獲管理の判明を機に、世界に通用する魚の資源管理へ向けたルール作りを急がなければならない。
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川本 大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006~07年には『水産週報』編集長。2010~11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)など。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)

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