■硝煙ただよう世界情勢
本年1月の米国陸軍特殊部隊によるベネズエラのマドゥロ大統領夫妻の拘束、米国への強制送付、さらに米国トランプ大統領による同国石油資源の米石油企業による開発の表明に対しては、中国やロシアから非難されるばかりでなく国際社会が大きな懸念を表明する事態となっている。作戦への明確な賛意を表明しているのはイタリアとイスラエルぐらいだ。
ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ攻撃に加え、さらに米国そのものが軍事作戦による現状変更を行ったものであり、世界は硝煙のただよう時代へと突入した感がある。そこで今回は、データで世界の軍事拡大の流れを確認して行こうと思う。
まず、世界各国の国民がどの程度、軍拡を支持しているのかについて、世界的な世論調査会社であるフランスのイプソス社の国際意識調査の結果を見てみよう。
イプソス社は、世界情勢・安全保障(WORLD AFFAIRS & SECURITY)に関して世界30カ国を対象に行った調査の中で各国国民の国防意識について何点かの問を設けている。本記事では、そのうち財政的側面である「軍事費拡大」と人的側面である「徴兵制」についての調査結果を紹介しよう。
■軍拡ムードに染まる世界各国
徴兵制については後段で紹介することとして、最初に軍事費拡大の意向について見てみよう。
ロシアによるウクライナ軍事侵攻、イスラエルのガザ攻撃に伴う東欧・ロシア圏や中東の安全保障上の情勢悪化で世界各国の国防意識が刺激され、軍事費拡大への賛意も高まっている(図表1)。
調査した30カ国平均でも60%が軍事費拡大に同意している。
最も軍事費拡大への同意率が低いのはイタリアであり、日本がそれに続いているが、それでも、それぞれ、38%、43%前後と約4割が賛成している。
逆に最もそれが高いのはポーランドの79%であり、タイが76%で続いている。
米国は軍事費拡大への賛意は48%と5割程度にとどまっている。米国ばかりが軍事費を負担せず、NATO諸国や日本、韓国など同盟国により多くの軍事費を負担してもらおうという意識の表れと思われる。
■実際に軍事費は各国で拡大傾向
こうした点は、主要国における実際の軍事支出の対GDP比率の推移を見るとはっきり裏づけられる。図表2にはそのデータをグラフ化した。
軍事支出の目立って高い国を軍事国家とするなら、一貫して周囲のアラブ・イスラム勢力と常に対峙しているイスラエルの値は常に高く、一貫して軍事国家と言わざると得ない。
このほか、1980年代には、米国、英国、韓国の値が高く、当時のソ連とともに軍事国家群を構成していた。ソ連の防衛費の対GDP比は1980~88年に12~17%だったとされる。
近年では、英国、韓国の軍事費は縮小し、ソ連の後継国家であるロシア、米国が対GDP比3%以上の軍事国家として目立っている。
1991年のソ連解体による冷戦構造の崩壊により、米国をはじめ世界各国で軍事費支出がいっせいに縮小し、世界全体(点線で示した)で1982年の4.3%が1999年には2.2%とほぼ半減するに至った。
■米国の軍事費は実は対GDP比ほぼ横ばい
米国の軍事費は2001年の同時多発テロまで縮小が続いたが、それ以降、「テロとの戦い」の名の下に、アフガニスタン侵攻、イラク戦争と軍事作戦が相次ぎ、2011年のウサーマ・ビン・ラーディンの殺害まで、軍事費は大きく増大した。
2009年には米軍を中心とするNATO軍がアフガニスタン南部の反政府組織タリバン支配地域に対する大規模軍事作戦を開始した。
近年では2020年に世界各国で対GDP比が上昇したが、これは新型コロナの影響でGDPが落ち込んだにもかかわらず各国が軍事費は削減されなかったためと思われる。
その後、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を契機にNATO諸国および日本で対GDP比が上昇傾向に転じた点が印象的である。特にそれまで低レベルだったドイツの上昇が目立っている。
一方、米国の対GDP比はほぼ横ばいであり、米国は「世界の警察官」の役割を放棄し、NATO諸国や日本に応分の負担を求める方針に転換したように見える。
しかし、米国は平和国家を目指す方向に転換したわけではないことは、今回のベネズエラ作戦ではっきりしたようだ。同盟国に軍事費を肩代わりさせて浮いた分を、むしろ西半球で使い、地域支配から自国利益を引き出そうとしているようだ。モンロー宣言ならぬドンロー宣言(ドナルド+モンロー)を打ち出しているのもその表れと言えよう。
■日本の軍事費も1%から大きく拡大
中国は、軍事大国化が日本をはじめ世界から懸念されているが、総額は母数のGDPが増大したのでやはり大きいものの、対GDPでは最新で1.7%と主要国と比較して低い。
日本はかつて各国で大きく軍事支出がアップダウンしていた頃にもそうした世界の大勢にかかわりなく、ずっと対GDP1%以下を維持し続けていた。最近の動きとしては、1%以下の準則をあっさり放棄した点が目立つが、そのことより、世界の動きに追従するようになった変化のほうが印象深い。NATO諸国の対GDP比は冷戦時代に多少戻ったにすぎないが、日本の場合は初めて状況なのである。
世界的な軍事産業や武器商人のロビー活動が功を奏していると見られる。他国に軍事費負担をシフトさせている米国は自国の税金を使わずに自国の軍事産業を潤すこととなるので好都合だろう。
しかし、大陸別の大国支配という米国の路線につきあってアジアで日本が軍事力をアップさせることが果たして有効かつ合理的なのかは大いに議論があるところだろう。
■徴兵制をアジアなどで支持する声が大きい
徴兵制について、イプソス社の国際意識調査では、具体的には「若者への兵役義務付けを支持するか」という問を設けている。その結果を図表3に掲げた。図表には実際の徴兵制の状況も記した。
若者への兵役義務についての支持率が最も高いのはマレーシアの76%であり、これに次いで、シンガポール、タイ、インドネシアが70%台で続いている。調査対象国のうち東南アジアに属する4カ国がトップ4を構成しており、人的側面の国防意識につては東南アジアで特に高いことがうかがわれる。
東南アジア4カ国に次いでやはりアジアに属する韓国が68%、インドが67%で続いている。
こうしたアジア勢に続いて、中南米、欧州の諸国が現れる。欧米諸国の中ではスウェーデンが61%と最も高く、フランス、ドイツ。
米国での若者の兵役義務支持率は35%と世界の中でもかなり低いレベルであることは覚えてよいデータであろう。米国は世界中に米軍基地や原子力空母を展開し、その軍事的影響力を保っているが、国民の国防意識と直結した考えからではないことがうかがわれる。
そして最下位なのが日本の17%である。日本に次いで低い米国、ニュージーランド、カナダといった英語圏諸国が31~35%だったので、日本はその半分の非常に低いレベルとなっている。
よく引用される世界価値観調査の「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という設問への答でも日本は最下位である。
■徴兵制廃止から復活へ動く世界情勢
最後に、こうした徴兵制への意向に表れた国防意識の強さが、国名の右に○×△で示した実際の徴兵制の施行とどう関係しているかを見ておこう。実際に徴兵制をもつ国のほうが、国防意識が高いかというとグラフの上のほうほど○が多く、下ほど×が多いことから全体的にはそう言える。
ただ個別には両者が対応しているわけではない。国防意識が最も高いマレーシアや、かなり高いインドや南アフリカなどは徴兵制をもたない。逆に徴兵制をもつコロンビアや法的には徴兵制を発動可能なスペインや米国では国防意識は低いのである。
なお、徴兵制については、冷戦が終結し、ロシアが米欧と接近したのを受けて、21世紀に入ると徴兵制をやめる国が相次いだ。
だが、ロシアが14年にウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合したのが転機となり、ロシアの軍事的脅威に敏感な国を中心に復活の動きが出ている。
フランスはテロの脅威を理由により2019年新学期開始時に「普遍的国民奉仕」を導入したり(注)、リトアニアのようにロシアによるクリミア併合によるロシアの脅威を理由に徴兵制へ戻すなど徴兵制を復活させている国もある。
(注)マクロン大統領が提唱した制度であり、もともとは徴兵制の復活を目指したが、最終的に16歳前後の男女に1カ月の義務的な社会奉仕(軍事・公共機関での訓練とボランティア)と、3カ月~1年間の任意参加の奉仕活動(国防・福祉分野など)を組み合わせた2段階の社会参加プログラムとして導入された。
なお、中国の徴兵制は、法定制度としては認められているが、実際には行われていない(上の印では△)。
このように人的側面からも世界各国の国防意識は高まりつつあり、日本においても、上で見た財政的な軍事費支出だけでなくこれまでタブーとされてきた徴兵制についてもいずれ本格的に議論される時が来る可能性がないとはいえない。
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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』(星海社新書)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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