いつも仕事が締め切りギリギリになってしまう“ギリギリ癖”を直すにはどうしたらいいのか。臨床心理士の中島美鈴さんは「時間管理には、脳の『実行機能』という高度な働きが関わっている。
時間管理に必要なステップを分解し、認知行動療法のテクニックを使うことで、ギリギリ癖を改善できる」という――。(第1回/全2回)
※本稿は、中島美鈴『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■能力の高い人は先延ばし癖がなおりにくい
30代会社員のカナコさん。いつも仕事に追われていて、締め切り前には徹夜することも。

体力的にもきつくなってきたし、こんな自分を変えたい。どうしたら計画的に仕事ができるのだろう。
いつも締め切りギリギリの人はいませんか? 仕事の締め切りに追われ、本人は肩身が狭いでしょうし、周囲はハラハラさせられっぱなしです。
実はギリギリ癖は時間あたりの生産性が高い、能力の高い人に多く見られます。能力が低い場合には、子どもの頃から締め切りにギリギリ間に合わないことが多く、大人になるまでに既に痛い目にあって、「もっと前もってとりかかろう」と学習できているのです。しかし、能力が高いと、ギリギリにとりかかっても、なんとか締め切りに間に合ってしまうのです。その結果、先延ばし癖が改善しないのです。
相談の要点

・計画的に仕事ができず、いつもギリギリ

・これまでは徹夜でカバーしてきたが、体力的にもう無理
■時間管理は高度な技
ギリギリになってしまう背景について、物事の捉え方(認知)や対処の仕方(行動)を見直す、認知行動療法の視点で分析します。

時間管理には、脳の「実行機能」と呼ばれる働きが関連しています。主に、脳の前頭前野のいくつかの部位でなされていて、例えば料理のように、材料を買って、切って、煮て、味付けをしてという一連の計画を最後までやり遂げられるのも、実行機能の働きのおかげです。
前頭前野の機能は、生後すぐは非常に未成熟な状態です。高度な機能だからこそ、生まれてからさまざまな経験を通して、少しずつ成長していくといわれています。しかし、脳の特徴に合った経験ができないと、この実行機能がうまく成長させられないことがあるのです。
睡眠不足や疲労などによって、「今日は料理どころじゃない」「なんか時間がかかってしまった」なんてことはありませんか? これは料理のような、段取りが必要な作業に脳の働きがかかわっている証拠です。なんてことないように感じるかもしれませんが、脳が一生懸命働いている、非常に高度な技なのです。
実行機能がどのように働いているかについては、まだ研究途中で諸説あるものの、時間軸で見た場合、次のような4ステップからなることがわかっています。
■「計画通りに進める」プロセスを分解する
1.とりかかり
着手するために自分でモチベーションを上げる。書類や印鑑などそのタスクの実行に必要な物を揃えることができていることも必須。
2.計画立て
仕事の完成形をイメージしてから、時間内に終わる方法を選択し、小さなタスクに分解して締め切りを決め、実行日時を決め、複数のタスクがそれぞれの締め切りに間に合うような並行した計画を立てる。
3.モニタリング
計画の進捗について、作業中にも時間を意識して確認する。
もしも計画よりも遅れが出ている時には、方法を変更するか期限の延期を相談するなどなんらかの対処を取る。
4.脱線防止
タスク以外のことに気を取られずに、集中して最後まで取り組む。
いかがですか? こうして文字にすると、計画通りにタスクをこなすことは複雑なプロセスなんだと、おわかりいただけたと思います。一番難しいのは、どのプロセスが欠けても計画通りに仕事はこなせないということです。みなさんも、どのステップで自分がつまずきがちなのかを知っておくと、対策が立てやすいですよ。
さて、カナコさんの場合はどうでしょう。
■“ギリギリの人”はここでつまずく
1.とりかかり
企画書を作るように言われた瞬間、うんざりしてしまいます。いつもパソコンのデスクトップはファイルだらけで整理されていないので、企画書作成に必要なファイルを探し出すのにも苦労しています。
2.計画立て
計画を立てても、その通りにできたことがありません。「この仕事なら、30分で終わる」と予測しても、実際には1時間かかってしまいました。こんな調子なので、計画はどんどん後ろにずれていきます。計画を立てずに作業するので効率が悪く、やり直しも発生します。

3.モニタリング
カナコさんは、昔から妙に凝り性のところがありました。急いでいるはずの企画書に対して、「このデザインは譲れない」「ここの調査はもっとしておきたい」などのこだわりを発揮してしまうのです。
4.脱線防止
スマホが近くにあると、ついつい触ってしまいます。スマホに50分、企画書作成に10分を費やすという間違った時間の使い方もしていました。本来逆であってほしいのですが。
つっこみどころ満載なカナコさんの仕事スタイル。どのように改善したらいいでしょうか。
■「とりかかり」の壁を越えるテクニック
時間管理の改善には、これまで紹介した実行機能モデルのステップごとに対処していくことが最も王道で効果的です。
カナコさんは認知行動療法の手法をもとに、各ステップを実行してみました。
テクニック①自己報酬マネジメント/整理整頓
1のとりかかりの重い腰を上げるために、ご褒美をぶら下げてやる気を出します。
自分でご褒美を設定して、やる気を出すことを「自己報酬マネジメント」といいます。
「整理整頓」は言葉通り、余分な物を捨てて、物の配置を見直していく作業です。

私たちはやりたくないタスクに取り掛かる際に相当なエネルギーを要しますので、必要な物をサッと取り出せるようにするだけで心理的な負担が減ります。
カナコさんは、企画書が完成した後のご褒美を考えました。いつも会社帰りにふらりと立ち寄るコンビニで、新作のスイーツをチェックします。企画書ができるまではコンビニスイーツは控えてヘルシーなドライフルーツのみにして、企画書完成の特別なご褒美として新作のケーキを食べることにしました。それに加えて、趣味の推し活グッズを購入することにしました。企画書の締め切りはまだ先でしたが、締め切りを金曜日に設定して、週末は推し活グッズを買いに行くことにしたのです。
整理整頓では、仕事を終えてパソコンをシャットダウンする際に、不要なファイルを探して削除したり、フォルダに整理したり、最新のファイルにマークをつけることを習慣にしました。メールも同様に、引用返信機能を利用して、不要なメールはその場で削除するようにしました。これで必要な時に必要な物が取り出しやすくなったのです。
■「スモールステップ」で目標を達成する
テクニック②タスクの分解/タイムログに基づく計画立て/ガントチャートの活用
2の計画立てでは、タスクを分解することで、比較的短いスパンでタスクをクリアできて、達成感を感じながら次のステップに進み、目標を達成しやすいことがわかっています。これは心理学では有名な「スモールステップの原理」と呼ばれるものです。
タイムログに基づく計画立てとは、「このタスクは、1時間でできるはず」といった見込みや期待ではなく、「実際に10分間やった上で現実的な計画を立てる」という方法です。

ガントチャートとは、1カ月など比較的長い期間を一目で俯瞰できるスケジュール帳をもとにした計画表のことです。縦軸にプロジェクト名を、横軸に日付を入れます。私たちが数週間から数カ月に及ぶタスクを複数こなす際には、目の前の作業だけでなく、数週間先の見通しを持ちつつ、同時に他のタスクにも気を配りながら進める必要があります。ガントチャートを使えば各タスクの進捗が一目でわかるので非常に便利です。
■「企画書作成」を分解する
カナコさんは、苦手な企画書作りの計画を立てることにしました。
これまではスケジュール帳に、
□企画書作成
とだけ記入していましたが、スモールステップの原理で、to doリストを作成します。
カナコさんの企画書のテーマは「野菜不足を気にしている20代をターゲットにした新しい飲料の開発」でした。
□市場調査、現状把握

□ターゲット設定

□コンセプト設計

□商品仕様の検討

□マーケティング戦略の検討

□企画書作成

□レビュー・ブラッシュアップ
企画書作成といっても、これだけやるべきことがあるのですね。
■所要時間を入れたto doリストを作る
さらに詳細なto doリストを作りながら、タイムログに基づく計画立てを行っていきます。to doリストの項目で所要時間を見積もるのです。項目の最後に(30min)などと所要時間を記入します。過去に似たタスクの経験があれば、それを参考にするのがよいでしょう。

□市場調査、現状把握
□20代の食生活や健康意識、野菜摂取状況に関する統計データを収集(1h)

□野菜不足に対するニーズや課題(味、手間、価格など)のリサーチ(1h)

□競合商品(野菜ジュース等)のラインナップ、特徴、価格帯、シェアを調査(1h)

□成長が期待される健康飲料市場のトレンド(機能性、低糖質など)を確認(1h)
□ターゲット設定
□20代のどの層をメインにするか決定(例:大学生、若手社会人など)(10min)

□ペルソナ(具体的なターゲット像)の設定(15min)

□利用シーンの仮設定(朝食代わり、仕事の合間、運動後など)(15min)
□コンセプト設計
□商品のポジショニングを明確にする(例:手軽さ重視、栄養機能性重視)(10min)

□商品の差別化ポイントの検討(例:旬の野菜の配合、低カロリー、砂糖不使用)(10min)

□ブランド名・商品名の案出し(15min)
□商品仕様の検討
□味の方向性(野菜感しっかりorフルーツミックスで飲みやすい)(15min)

□栄養素(ビタミン・ミネラル・食物繊維など)の強化ポイント(15min)

□容量・パッケージデザインの検討(15min)

□保存方法や賞味期限、製造可能性の確認(1h)
□マーケティング戦略の検討
□想定価格帯の設定(15min)

□販売チャネルの検討(コンビニ、ドラッグストア、ECサイトなど)(15min)

□プロモーション案(SNS活用、インフルエンサー、試飲イベント)(15min)

□初年度の販売目標、売上予測の仮定(15min)
□企画書作成
□企画書の構成案決定(15min)

□必要なグラフ・図表・データの準備(1h)

□デザイン案のラフを作成(パッケージ、広告イメージなど)(30min)

□収支試算表(初期コスト、単価、利益率など)の作成(1h)
□レビュー・ブラッシュアップ
□上司・関係者への事前レビュー(1h)

□フィードバックを反映し、最終版を完成(2h)

□プレゼンテーション用資料の準備(パワポ等)(2h)
■脳にかかる負荷も減り仕事が効率化
こうして書き出すと、やるべきことが明確になるだけでなく、省略できそうなことがわかったり、他の人に聞かなければならないことが見えてきます。頭の中だけで考えているよりも、脳にかかる負荷も減って、効率的に仕事を進めていくことができます。
「商品仕様の検討」では、別の部署の担当者に相談しながら決めるべきことがわかったので、早めに打ち合わせの日程を打診することも付け加えました。また、最後の「上司・関係者への事前レビュー」の日程調整も、毎回ギリギリになって注意されていたので、早めに設定しました。
このように、to doリストを時系列に落とし込む段階で活用できるのが、ガントチャートです。
■テクニック③アラームの活用
こうして詳細なto doリストとガントチャートで計画を立てました。3のモニタリングで、時間通りにこなせないという時は、各to doリストで定めた所要時間ごとにアラームを設定してから、作業をスタートすることをおすすめしています。
カナコさんもさっそく作業に取りかかってみました。「20代の食生活や健康意識って今こんなふうなんだ。なるほどね。食生活って一言でいっても、糖質制限をしている人ってどのぐらいいるのかな」
いざ着手すると面白くなって、興味関心が広がっていきます。統計情報を次々に見ていきます。
ワクワクしながら検索し続けていると、アラームが鳴りました。最初のタスクを始める時に設定しておいたアラームです。さあ、時間がきました。時間内に決められたタスクができていなければ、所要時間の変更をするなど、to doリストとタイムログを変えていきます。
■脱線しないで作業に集中する方法
テクニック④環境調整/注意持続訓練
4の脱線防止について、作業に集中するための二つのテクニックを紹介します。
環境調整とは、誘惑されてしまう刺激(スマホ、ラジオやテレビ、ゲームに友達からの連絡、来客など)を遮断できる場所を作ることです。本来はもう少し幅広い意味があるのですが、本書では刺激を遮断するという意味で使います。
注意持続訓練とは、私たちが作業中に浮かぶ「あ、SNS見たいな」「そういえば今日の夕ご飯何食べよう」といった雑念に振り回されずタスクに集中する訓練です。不注意傾向のあるADHDの治療でも用いられています。
■雑念を書き出してから作業に戻る
例えば、タスクに集中できる時間が10分の人は、まずは10分でちょうどこなせるぐらいのタスクを用意します。
スマホのアラームなどで10分間のタイマーを設定してから、タスクを開始します。その10分間のうちにもいろいろな雑念が湧いてきたら、その雑念を行動に移す代わりに、メモに箇条書きしておいておくのです。
・このタスクは意味があるのかな

・X見たい
ぱっと短く書くだけでいいです。そして、「よし、ここに書いたから大丈夫。アラームが鳴ったら、このメモについて後から考えよう」と切り替えて、タスクに戻るのです。もしかすると、すぐに同じことが浮かぶかもしれません。そしたら、また箇条書きしましょう。
・このタスクは意味があるのかな

・X見たい

・YouTube見たい
ポイントは、雑念にひっかからずに、メモに書いたら、またすっと作業に戻ることです。一旦書き出しておくことで「後で」という安心感を持つことができるのです。
カナコさんの場合は、他のタスクが間に合うか不安になることがたびたびありましたので、さらにメモにはこれらを追加しました。
・来月までに提出の報告書

・今週末の飲み会の返事

・出張の飛行機の手配
これまでなら作業を途中でやめて、すぐに着手したでしょう。1日の終わりにどのタスクも完了しないこともありました。私たちは、実はシングルタスクで物事をこなしていった方が効率がいいのです。
スマホに必要以上に集中力を奪われるということに気づき、締め切り前にはタイムロッキングコンテナに入れることにしました。ここぞという時には、物理的な遮断方法も活用しました。
とりかかりと脱線防止に問題のあったカナコさん。ご褒美作戦は大成功で、なんとか金曜日までに企画書を仕上げることができました。週末は推し活仲間とランチできたこともうれしかったのですが、それ以上に、締め切りギリギリにならずに計画的に企画書を仕上げることのできた自分を誇らしく思えました。
ガントチャートを作り、アラームを設定することで、たびたび計画から脱線していることがわかったので、企画書作成以外のタスクについてもto doリストに加えることにしました。それでもうまくいかない時は、スマホをタイムロッキングコンテナに入れて対処しました。

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中島 美鈴(なかしま・みすず)

臨床心理士

福岡県生まれ、臨床心理士。専門は認知行動療法。2020年、九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などでの勤務を経て、現在は九州大学大学院人間環境学府で学術協力研究員、肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員。主な著書に『マンガで成功 自分の時間をとりもどす 時間管理大全』(主婦の友社)、『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(光文社新書)、『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)など。

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(臨床心理士 中島 美鈴)
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