2025年12月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト3をお送りします。マネー部門の第1位は――。

▼第1位 町内会は入会金50万円、よそ者が歩けばすぐ通報…田園調布や松濤とは違う「日本で一番お金持ちが住む街」の掟

▼第2位 高所得者層ほど肉とスパゲッティを好む、では低所得者層は…データでわかった収入差"による食生活の格差"

▼第3位 「年金だけで暮らす人」は定年前に手放している…大掃除で捨てるべき老後のお金を食い潰す"無駄なもの2つ"

兵庫県芦屋市にある「六麓荘町」というエリアは、日本有数の高級住宅街として知られている。なぜのこの町は高級住宅街になったのか。『誰も知らない「芦屋」の真実 最高級邸宅街にはどんな人が住んでいるか』(講談社+α新書)を書いたフリーライター・加藤慶さんに聞いた――。(第1回)
■六麓荘町が高級住宅街になるまで
――兵庫県芦屋市の「六麓荘町」は、日本有数の高級住宅街として知られています。この街はどのような経緯で高級住宅街になったのでしょうか。
兵庫県芦屋市は、東京の新宿区とほぼ同じ面積でありながら、人口は約9万2000人という小規模な市です。かつては「東の鎌倉、西の芦屋」と対比されていました。
この地域が高級住宅街として発展した背景には、明治後期から昭和初期にかけて関西圏で築かれた「阪神間モダニズム」という独自のライフスタイルがありました。当時の大阪は東京を凌ぐ日本一の経済規模を誇り、多くの実業家たちが六甲山系の山と海に囲まれた理想的な土地に住まいを移し始めました。
六麓荘は、その中でも特に計画的に開発された街です。1928年(昭和3年)、大阪の実業家である内藤為三郎らが「東洋一の立派な別荘地にしたい」という構想のもと開発がスタートしました。そのモデルとなったのは、香港島の白人専用街区だったそうです。

開発当初から、電柱や電話線は地下に埋設して電柱のない景観を実現し、道路幅は最低でも6mを確保、一戸当たりの標準区画を300坪(約990平方メートル)以上と定めるという先進的な計画が実行されました。
さらに、芦屋市は大阪と神戸のほぼ中間に位置しており、JR芦屋駅から新快速を使えば大阪駅まで約13分、三ノ宮駅まで8分という利便性を持ちながら、都会の喧騒から離れた閑静な住環境が提供されているという地理的条件も高級住宅街としての地位を確立する要因になったと考えられます。
■ほかの高級住宅街よりも圧倒的に取材が難しい
――なぜ六麓荘を取材することになったのですか。
きっかけは2015年頃、『週刊現代』の編集部から相談を受けたことでした。「お金持ちの町」を特集する企画があり、東の田園調布、西の六麓荘として、そこに住む人々の暮らしぶりを描きたいと。そこで私が六麓荘の担当となり、取材を始めることになったのです。
しかし、実際に取材を始めてみると、六麓荘は他の高級住宅街とは大きく異なる特徴を持っていることに気づかされました。
例えば、他のエリアであれば、高級住宅街といえども多少は人が歩いているので、住宅街を歩いている人への取材を試みることもあります。ですが、六麓荘ではそれが通用しないのです。
JR芦屋駅から六甲山側に向かって徒歩30分ほどのエリアなのですが、山の途中にある町のため急勾配の道が多く、住民は基本的に車で移動します。町内を歩いている人がほとんどおらず、もちろん自転車で移動している人もまったくいません。そのため、スーツ姿であっても、見知らぬ人間が歩いているだけで目立ってしまいます。

実際に取材してみると、邸宅に設置された最新の防犯カメラが人物を検知し、数秒もしないうちにインターフォンから「何かご用ですか?」と声をかけられたほどです。徒歩移動をやめて車の中で住民を張り込んでいても、見慣れない車が路上駐車しているだけで1時間以内に通報されてしまいます。
たまたま歩いている人がいることや、たまたま1時間くらい停車している車があることが、この街にとっては異常事態だということを示しています。結局、突撃取材はうまく進まず、大阪の北新地にある高級クラブのママから芦屋セレブを紹介してもらい、そこから少しずつ取材対象者を広げていきました。
■「豪邸条例」で景観とブランドを維持
――豪邸が立ち並ぶ六麓荘の景観を守るために、独自のルールが存在するそうですね。
はい、六麓荘の景観とブランドは、厳格なルールによって維持されています。2007年2月1日に施行され、世間を賑わせたのが、通称「豪邸条例」です。
この条例が生まれた背景には、相続税の支払いなどで六麓荘を出ていく人が増え、土地が細分化されたり、老人ホームなどの建設が計画されたりといった、「高級住宅街にふさわしくない狭い区割りとなってしまう」という町内会の危機感がありました。
一部を抜粋したものですが、条例には以下のような具体的な建築条件が定められています。
また、屋外照明や外灯の設置については、反射光による近隣への影響に十分に配慮することや、ネオンサインや光源の点滅、サーチライトやレーザー光線が禁止が定められています。
さらに、緑地率の最低限度は40%または30%とし、緑地面積10平方メートルにつき、高木1本かつ、中木2本を植栽することが義務付けられています。これらの規定に違反した場合、町内会会長は理事会の決定に基づいて工事施工の停止を請求することができるとされています。

特に「1区画につき400平方メートル以上」の敷地面積が求められるため、必然的に豪邸しか建てられない地区となり、この排他的とも言えるルールによって、六麓荘の景観はいまも守られているのです。
また、新居の建築前には、町の理念を継承するため、建築物の設計図などを町内会の役員に提出し、家の小型模型を用意して、理事や近隣住民を集めた説明会を行うことが求められています。
■最強の町内会があったが…
――それほど厳しいルールを運用する町内会とは、どのような組織なのでしょうか。
住民によって自主的に運営されている町内会なのですが、一時期は「くいだおれ太郎」を運営する「くいだおれ」の創業者である山田六郎氏が会長を務めていました。
山田会長の時代には、町内会は強い権威と権限を持っていたと住民は証言しています。例えば、芦屋学園の学生送迎バスが道路をはみ出して走行した際、当時の会長がバスの運転手に向かって「はみ出るな!」と大声で叫び、住環境を守るためにクレームを入れていた、といったエピソードが残されています。
こうした時代には、町内会が住民たちを直接指導し、近隣トラブルにも即座に仲裁に入っていたそうです。町内会は、50万円という入会賛助金や毎月の会費を徴収しており、その使途は六麓荘の環境保全に充てられています。
しかし、その権限は次第に弱まっていきました。1993年1月、町内の道路を所有しており、町内会で株式を100%保有している「六麓荘土地有限会社」が、道路の維持管理権をすべて芦屋市に移管すると決めました。行政が道路の維持管理費を負担するようになった半面、町内会が「道路の使用権限」という権限の源泉を失ったことで、住民への指導力が弱まりました。
さらに、町内会の建築協定がさきほど紹介した「豪邸条例」という形で条例化されたことで、すべてが法令に則って進められるようになり、町内会がトラブルの大半を芦屋市に委ねるようになったのです。

そのため、新築を建てる際に行われる近隣説明会で、以前であれば調和を優先して要望に従っていた施主が、「法律に抵触していないのだから耳を貸す必要もない」と、町内会の意見を聞き入れずに建設を進めるケースも現れるようになりました。
■なぜ「日本一の高級住宅街」になれたのか
――六麓荘のどんな魅力が「日本一の高級住宅街」として人々を惹きつけるのでしょうか。
六麓荘が「日本のビバリーヒルズ」とも称され、日本一の高級住宅街として地位を確立できた背景には、大きく分けて3つの理由があります。
まずは、都市と自然が融合した「絶妙なロケーション」が挙げられます。
特に六麓荘は六甲山の山麓に位置する高台にあり、その邸宅からは大阪湾を一望できるという風光明媚な眺望が最大の魅力です。晴れた日には、大阪湾を挟んで生駒山やあべのハルカス、淡路島まで見渡すことができ、最近では大阪・関西万博の会場である夢洲の「大屋根(リング)」や、開催期間中に打ち上げられた花火を自宅から鑑賞できた住民もいたそうです。
■「一軒家しかない高級住宅街」という異様さ
――ほかにはどんな魅力がありますか。
次に、よそ者が歩くだけで通報されるほどの治安の良さが挙げられます。六麓荘の治安の良さは、徹底した排他性によって守られています。さきほども説明したように、街が急勾配の坂道にあるため住民の移動手段はほぼ車であり、町内を歩いているのは家政婦や営業マンくらいです。
そのため、スーツ姿であっても見知らぬ人間が歩いているだけで「不審者」として目立ち、住民からの通報で警察官に職務質問されることも珍しくありません。各邸宅には警備会社との契約はもちろん、高性能な防犯カメラが設置されており、町内会が管理するカメラも多数稼働しています。

最後の理由は、マンション建設を絶対に許さない「一軒家の豪邸しかない街」だということです。田園調布や松濤などの他の高級住宅街と六麓荘の決定的な違いは、マンションなどの集合住宅が一切存在しない点です。これを担保しているのが、前述した「豪邸条例」です。
「敷地面積400平方メートル以上」「戸建ての個人専用住宅に限る」「階数は2階以下」という厳格なルールにより、土地を細分化して小さな家を建てたり、マンションを建設したりすることが不可能です。この「階数は2階以下」というルールによって、高さではなく広さやデザインの豪華さが住人の間で競われるようになり、六麓荘にしかない、飛び抜けて豪華な高級住宅街が生まれました。
この異様な条例によって、広大な敷地を持つ豪邸だけが立ち並ぶという景観が維持され、真の富裕層しか住むことのできないブランド価値が保たれ続けているのです。
(初公開日:2025年12月3日)

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加藤 慶(かとう・けい)

フリーライター、カメラマン

1972年、愛知県生まれ、大阪市在住。2002年から編集プロダクション「スタジオKEIF」を主宰。週刊誌や月刊誌、ネット媒体で事件から政治、スポーツまで幅広く取材する。YouTubeチャンネル「デザイナーtoジャーナリスト」を手掛けている。共著に『猛虎遺伝子 タテジマを脱いだ男たち』(双葉社)、『プロ野球 戦力外通告を受けた男たちの涙』(宝島SUGOI文庫)、『誰も知らない「芦屋」の真実 最高級邸宅街にはどんな人が住んでいるか』(講談社+α新書)などがある。

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(フリーライター、カメラマン 加藤 慶 聞き手=プレジデントオンライン編集部)
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