■軍事行動の直前、届いた1通のメール
「Shimizu-san、A pizza place in Georgetown is booming.(清水さん、ジョージタウンのピザ屋が大繁盛しています)」
アメリカ・ワシントンDCの郊外、ジョージタウンに住む知人のジャーナリストからこんなメールが届いたのは2025年12月23日のことだ。彼女曰く、「12月に入ってからずっと大繁盛している。でもクリスマスのせいではない」。
ジョージタウンは、アメリカ国防総省があるペンタゴンシティに近い。アメリカ軍による軍事作戦が近くなると、夜を徹して作戦会議が開かれるため、車やバイクですぐのジョージタウンからピザのデリバリーが増えるのだ。
実際、彼女は、2003年3月に始まったイラク戦争などもピタリと言い当てている。
その信憑性の高さを知っている筆者は、翌日、TBSラジオ「大島由香里 BRAND-NEW MORNING」に出演し、「クリスマスあたり、アメリカ軍によるベネズエラ攻撃がある」と断言した。
■トランプには国際法も国連憲章も関係ない
天候などの影響で作戦の実行は1週間あまり延びたが、ニューヨークタイムズ紙によれば、軍の特殊部隊(デルタフォース)が、ケンタッキー州に建設したマドゥロ邸の実物大模型で訓練を重ね、CIA(中央情報局)も秘密工作班を首都カラカスに潜入させ、マドゥロ大統領の行動パターンを徹底調査したうえで、大統領夫妻の拘束とアメリカへの移送という作戦の成功に結びつけたという。
アメリカのトランプ大統領(以降、敬称略)は、昨夏あたりには、「麻薬密輸撲滅」を大義名分にマドゥロ政権の一掃を狙い、埋蔵量世界一と言われるベネズエラの原油利権と、カリブ海以西の西半球での覇権を確実なものにしようとしていたのだ。
トランプからすれば、お行儀の良い国際法や国連憲章など関係ない。作戦が実行された2026年1月2日は、強者が弱者を軍事力でねじ伏せるという「弱肉強食」時代の幕開けになったと言っても過言ではない。
こうした中、トランプは1月7日、国連大学や国連人口基金、それに国連気候変動枠組み条約など66の国際機関や条約から脱退し、資金提供も停止する大統領令に署名した。
これにより、先端的な研究や貧困対策、地球温暖化防止に影響が出るばかりか、国際的な会議などでのアメリカの存在感が低下し、「中国が世界の盟主」という空気になるのは間違いない。
ベネズエラへの軍事作戦と合わせ、この動きを見た中国は、高笑いしているに相違ない。
■36年前のパナマ侵攻と同じ手口
ベネズエラに話を戻せば、一連の流れは、1989年12月に起きたパナマ侵攻を想起させる。この時、アメリカのブッシュ政権は、パナマの最高権力者だったノリエガ将軍の麻薬取引疑惑を主張して身柄を拘束、ノリエガ氏はアメリカで裁判にかけられ有罪となっている。
今回、トランプは、「アメリカ国民に多大な被害をもたらす麻薬密輸組織の首謀者であるマドゥロ氏をアメリカ国内で裁くため」と説明した。つまり、あくまで法を執行するためと言うわけだ。これは、運河の支配権維持を目的に行ったパナマ侵攻の理由と同じだ。
ベネズエラへの軍事作戦に関して、アメリカは「麻薬撲滅」対策、とりわけ合成麻薬「フェンタニル」対策の一環と主張している。しかし、「フェンタニル」の生産国は主にメキシコで、原料輸出国は中国やインドである。つまり、「麻薬密輸撲滅」は口実にすぎない。これがアメリカの手口なのだ。
■トランプの次のターゲットは資源豊富な国
「われわれはモンロー主義をはるかに超えた。
1月3日、トランプは作戦成功を受けた記者会見で、このように述べて胸を張った。「モンロー主義」とは、アメリカとヨーロッパの相互不干渉を示す言葉で、これに、大統領の名前の「ドナルド」を掛け合わせた造語が「ドンロー主義」である。
トランプは、ベネズエラで政権移行が進むまで国家を運営すると言う。このような「ドンロー主義」がまかり通るなら、次は非鉄金属鉱物資源が豊富なコロンビア、その次はデンマークの自治領でレアアースなどが眠るグリーンランドが標的になり、軍事力という脅しによって、アメリカの植民地的な地域が拡大することになる。
問題は、その考え方が日本の周辺にも影響を及ぼすという点だ。
○中国が「アメリカの行為が許されるなら、われわれも台湾に侵攻し、頼清徳総統を拘束しても文句はないよね?」と言いかねない
○中国が「台湾省」の一部と位置づける尖閣諸島も一方的に占領され、沖縄本島や南西諸島も危機にさらされる
○ロシアもウクライナ戦争を正当化し、イスラエルもまたガザ地区への攻撃を再開させかねず、ロシアと中東の情勢不安が原油価格を高騰させるリスクが生じる
■中国は韓国を歓待し、日本には「塩対応」
ここで、「しかし、ベネズエラからの原油は80%以上が中国に輸出されているので、アメリカがベネズエラを管理すれば、中国にとって痛手なのでは?」という疑問も湧いてくる。
しかし、中国のエネルギー消費量の中で、ベネズエラ産の原油が占める割合は1%にも満たない。仮にアメリカがベネズエラの原油を支配したとしても、蚊に刺された程度の話だ。
現に、中国の習近平国家主席(共産党総書記。以降、習近平と表記)は、国際社会がトランプの一挙手一投足に注目している1月5日、韓国の李在明大統領を北京に迎え、国賓並みに歓待した。
習近平は、日本との歴史問題で中韓両国の連携を呼びかけ、15の協力文書にも署名したほか、両国の環境当局の間では、韓国へのパンダの貸与の話まで進んでいる。
1月7日に配信されたハンギョレ新聞電子版は、首脳会談で中国が強調したキーワードは、まず「抗日」、そして「台湾問題」と「アメリカへの共同対応」だったと伝え、注目される「台湾問題」について、中国側は、李氏が「中国の核心的利益(つまり台湾統一)を尊重する」と述べたと報じている。
一方、日本に対しては、中国商務省が、1月6日、軍民両用品の輸出禁止を発表する「塩対応」ぶりを見せた。この輸出規制には、レアアース関連製品も対象に含むとの見方もあり、自動車や電子部品、工作機械などの幅広い産業に影響する可能性も出てきている。
■「万里の長城」を背景に語ったこと
このように、中国は着々と調略の手を伸ばし、また圧力もかけながら、アメリカ以上の覇権主義で、「弱肉強食」の論理で日本を干上がらせ、台湾を飲み込もうとしているのである。
ここで、習近平が2025年12月31日、新年用に中国国営中央テレビなどを通じて発表した「新年の挨拶」にも言及しておかなければならない。
新年の挨拶の中で、習近平は、「両岸同胞の血は水よりも濃く、祖国統一の歴史の大勢を阻止することはできない」と強調して台湾統一に並々ならぬ決意を示した。
特に注目すべきは、習近平が通常の執務室ではなく、巨大な「万里の長城」の絵画を背景に収録したという事実だ。
■「台湾を手に入れる」習近平の強い覚悟
中国は、その力と決意を誇示する際、しばしば「万里の長城」を引用してきた。たとえば、2021年7月に行われた中国共産党結党100周年の式典では、習氏がアメリカを念頭に、「鋼鉄の長城に頭をぶつけて血を流すことになる」と述べて対抗姿勢をあらわにした。
また、2025年11月、高市早苗首相が、台湾をめぐり「存立危機事態」に言及した際も、中国政府は、「14億の中国人民が血肉で築き上げた鉄の長城の前で、頭を打ち割られ、血まみれになる」と警告している。
今回、習近平が背景に「万里の長城」の絵画を選んだのは、「誰が何と言おうと台湾は手に入れる」と、不退転の決意を示す狙いがあったと筆者は見ている。
■作戦コードネームは「正義使命-2025」
習氏の台湾統一への本気度を示すのが、12月29日と30日に台湾を取り囲む形で実施された大規模な軍事演習だ。
2日間に及んだ演習では、ロケット弾の発射や主な港湾を封鎖する訓練も実施され、台湾侵攻の際、空と海を支配し、石油や液化天然ガスなどの資源が乏しい台湾を兵糧攻めにするためのリハーサルはほぼ完了した形となった。
ここで注目したいのは、作戦のコードネームが「正義使命-2025」という点だ。なかでも「正義」というワードである。
中国の国営メディアが、高市首相の「存立危機事態」発言を非難する際、「国際正義を露骨に踏みにじる発言」(2025年11月14日 環球時報)といったように、必ず出てくるワードが「正義」だからである。
その意味で、今回の訓練は「日本の邪魔は許さない」との思いで実施されたと分析することもできる。
これに対し、トランプへの批判には「正義」は使われない。トランプ政権が台湾への武器供与を承認した際は「断固たる反対と強烈な非難」、アメリカ軍がベネズエラを攻撃した際も「国際法や国連憲章の趣旨と原則を順守すべき」と述べただけだ。
一方のトランプも、中国の台湾周辺での軍事演習について、「心配していない」と述べ、さらに「習氏とは素晴らしい関係だ」と中国を持ち上げる姿勢まで見せている。つい最近まで関税戦争を繰り広げていた間柄なのに、である。
■アメリカと中国の覇権主義、勝者と敗者は?
「I'm very scared of the US and China teaming up.(私はアメリカと中国が接近するのが一番怖い)」
冒頭で紹介したジャーナリストは筆者へのメールをこのような表現で結んだ。
事実、アメリカが12月4日に発表した「国家安全保障戦略」では、バイデン前政権時代、中国を「唯一の競争相手」と表現したのとは裏腹に、「真の相互利益に基づく経済関係」として、共存共栄を示唆するかのような中身になっている。
先に述べた「ドンロー主義」さながらに、アメリカと中国が互いの縄張りを認めるかのような内容になっている。トランプの「自国第一」の政治路線は、短期的にはアメリカに利益をもたらすが、長期的には中国に大きな利益を譲り渡しているように思えてならない。
先に述べたアメリカの国際機関からの脱退も、習氏にとっては追い風になる。だとすれば、日本にとって極めて不都合なことだ。
日本、アメリカ、中国の綱引きがヤマ場を迎えるのが、今春、予定される日米、日中の首脳会談だ。「弱肉強食」の世界観を体現しようとしている超大国のはざまで、高市首相にとっては、働いて働いて働かなければならない外交局面が近づいている。
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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。文化放送入社後、政治・外信記者。ベルリン特派員や米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。現在、TBSラジオ「BRAND-NEW MORNING」コメンテーターも務める。専門分野は現代政治と国際関係論。著書は『日本有事』、『台湾有事』、『安倍政権の罠』、『知って得する、すごい法則77』ほか多数。
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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水 克彦)

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