複数のメディアが報じたところによると、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は連立政権を組む3つの政党に所属する連邦議会(下院)議員に宛てた年頭の書簡の中で、いくつかの産業が“瀕死(sehr kritisch)”の状態にあるとの危機感をあらわにし、ドイツ経済の活性化に向けて連立与党が一丸となって取り組むよう要請をしたとのことだ。
メルツ首相は、特にエネルギーコストと労働コストの急増を問題視している。
一方、労働コストは、最低賃金の大幅な引き上げなど、高インフレの渦中でメルツ政権が分配政策を強化したことで膨らんだ。こうしたコスト高の問題は、輸出競争力の低下をもたらし、製造業を蝕んだ。加えて、米国でドナルド・トランプ大統領が再登板したことにより、いわゆる“ドル不安”が生じ、その受け皿としてユーロが買われた。
■ドイツの「一人負け」
さらにトランプ大統領は、関税を大きく引き上げた。今年に入ると、その影響が本格化することになる。内部環境ならびに外部環境の両面で、ドイツの製造業を取り巻く環境は厳しさを増している。それを改善していくためには、政治が打って一丸となって対応しなければならないというのが、メルツ首相のメッセージのエッセンスのようだ。
ここで欧州連合(EU)の主要国の製造業生産の動向を確認すると、ドイツの厳しさが浮き彫りとなる(図表1)。EU全体の製造業生産の回復を牽引しているのは、フランスとスペインである。一方、重荷となっているのがイタリアとドイツだが、2025年の半ば以降は、ドイツだけが減少しており、事実上の“一人負け”となっている。
実のところ、これは連立のパートナー政党のうち、中道左派の社会民主党(SPD)の所属議員に対するメッセージだったのではないだろうか。メルツ首相が率いる中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党・同社会同盟(CSU)は経済界寄りだ。一方で、SPDは労働界寄りであり、コスト高をもたらした張本人でもあるためだ。
■コスト高を招いたショルツ政権
エネルギーコストの問題に関しては、国内で原発の稼働延長を求める声が高まっていたにもかかわらず、それを断行した。これには、当時、SPDと連立を組んでいた緑の党の意向が強く働いたようである。脱炭素化を重視して石炭火力を使わないなら、原発の稼働を延長した方が、ドイツはエネルギーコストの膨張をもっと抑制できただろう。
労働コストの問題はさらに深刻かもしれない。ショルツ前政権は2022年より、インフレ対策を理由に、最低賃金を大幅に引き上げた。政労使の調整を経ず政治主導で行われたこの決定には強い批判が寄せられたが、以降もショルツ前政権は最低賃金を積極的に引き上げ続け、2027年には14.6ユーロまで引き上げられることが決まっている(2026年1月1日時点で13.90ユーロ)。
いずれも、ショルツ前政権による、典型的な負の遺産である。とはいえ、程度の問題はあるが、方向性そのものはショルツ前首相の前任である、CDU出身のアンゲラ・メルケル元首相の下で定められている。そういう意味では、今のドイツの苦境の責任をSPDであり、ショルツ前首相にだけ求めることはフェアな姿勢とは言えないだろう。
とはいえ、環境の変化に鑑みてブレーキをかけるべきだったのに、むしろアクセルを踏んでエンジンをふかしたという点では、SPDでありショルツ前首相の責任は重い。本来なら彼らを政権から外す方が筋だろうが、そうなるとCDUとCSUは少数与党政権に転落してしまう。右派のドイツのための選択肢(AfD)とも組めず、渋々、大連立を組む構図だ。
■マクロ的に必要なのはコストカット
経済の成長力を高めるうえでは生産性の向上は欠かせない。生産性の向上は、簡単に言えば、分子である付加価値を伸ばすか、分母である労働コストを減らすか、その両方をバランスよく進めるか、でしか達成しえない。現実問題として、近年のドイツでは、付加価値を伸ばすために必要な設備投資が、過去のトレンドに比べ弱い(図表2)。
とはいえ、企業が設備投資を増やすためには、企業がドイツ経済に対して抱えている不信感を和らげなければならない。最大の不信感は、メルツ首相が指摘するように、やはりコストの問題だということになる。石炭火力や原発再稼働が見込めないなら、遅れている送配電網の整備を急ピッチで進めて、エネルギーコストを圧縮する必要がある。
それ以上の問題は労働コストだ。少なくとも、最低賃金を積極的に引き上げるような環境にないことは明らかである。CDUとCSU、そしてSPDでも右派寄りの現実主義派は、それを十分に理解しているだろう。
概して、賃金が高過ぎるとしてコストカットを断行するような政策は、国民の反発を受ける。しかし、それをしていかないと、ドイツの製造業の復活はまず見込めない。経済的には何をすべきか明らかなのに、それを実行すれば選挙で負けるため、政治的には断行できない。こうしたドイツの姿は日本を含めた先進各国に重なる構図でもある。
■ドイツは構造的な病理を抱えている
このように整理すると、ドイツ経済を取り巻く環境は厳しく、直ぐに持ち直すような状況ではないことが分かる。ここで疑問を呈したいのが、少なくない日本のエコノミストがドイツ経済に対して比較的、楽観的な見方を提示することだ。主に政府がインフラや防衛力強化のために支出を増やし、それが景気を牽引すると考えているようだ。
しかし、グローバルにヒト・モノ・カネという生産要素が逼迫する中で、ドイツだけが果たしてインフラ投資を堅調に積み上げることができるだろうか。とりわけヒトの面に関しては、外国人労働者に対する風当たりが非常に強まっている折、その手当ては困難だろう。資材価格も高騰しており、言うは易く行うは難し、といったところである。
それに、インフラや防衛のための支出であり投資は、いわゆる公需であることから、相応にクラウディング・アウト効果を持つ。
日本は別の構造的な病理を抱えているが、ドイツもまた構造的な病理を抱えている。その払拭は困難であるし、現状の環境に鑑みても、短期的な上振れはまず望み難いのではないか。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)
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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員 土田 陽介)

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