※本稿は、阿曽山大噴火『バカ裁判傍聴記』(Hanada新書)の一部を再編集したものです。
■よくある盗難事件が話題になったワケ
ニュースで大々的に報じられた事件でも、裁判の内容まで報じられるのはごく一部です。そこで今回は、実際に新聞・テレビで報じられた事件の傍聴記を。
罪名 建造物侵入と窃盗
被告人 無職の男性(52)
起訴されたのは3件です。1件目は、令和6年7月10日深夜に、被告人がポストから合鍵を取り出して東京都港区内の焼肉屋に侵入して、現金2万円を盗んだ件。2件目は、7月27日深夜に、被告人がポストから合鍵を取り出して東京都港区内のクリーニング店に侵入して、現金12万円を盗んだ件。3件目は、9月25日深夜に、被告人がポストから合鍵を取り出して東京都品川区の居酒屋に侵入して、レジを盗んだ件。
新聞やテレビでは、閉店後の店舗に侵入して売上金を狙った連続盗難事件と報じられていました。よくある事件と言えばそれまでですが、犯人の格好が特徴的であるとしてネットなどで話題になったニュースなんです。被告人は、拾ったカラスの羽根三片を自分の帽子に挿して盗みを行っていたという。
防犯カメラの映像には、カラスの羽根が付いた帽子を被っている男が盗みをしている姿が映っていて、次々と犯行が発覚。
■最後にドロボーをするなら東京で
検察官の冒頭陳述によると、被告人は中学卒業後に会社員になり、20歳くらいからずっと盗みをして生活をしていたそうです。前科は10犯。被告人質問。まずは弁護人から。
弁護人「なぜ、こんなことをやったんですか?」
被告人「お金が欲しかったからです」
弁護人「令和6月3月に大阪刑務所を出所したと。それからどんな生活をしてたんですか?」
被告人「九州の自宅に戻って、おとなしく生活してました。そして、お金もなくなってきて盗みをしようと、東京に行きました」
一念発起、盗み目的で上京を決意です。
弁護人「また盗みをやったら、刑務所に戻るとは思いませんでしたか?」
被告人「東京ですから防犯カメラも多いですし、最近はリレー捜査もあるんで、捕まる覚悟を決めて上京しました」
リレー捜査とは、街中に設置してある防犯カメラ映像をリレーのように繋いで犯人の足取りを追跡する捜査方法です。東京地裁でも、平成30年代から証拠として提出されることが増えている印象です。
弁護人「捕まりたいんですか?」
被告人「いいえ。最後にドロボーをするなら、自分の出発点である東京でやろうと覚悟を決めました」
弁護人「覚悟が違う気がしますけどね…」
弁護人も苦笑いです。
■「なぜ盗みを繰り返すのか」への回答
弁護人「お金に困ってるなら、盗みなんかより、日雇いの仕事でも何でもやれば良かったじゃないですか?」
被告人「話すと長くなるんで、詳しくは言いませんけど…」
と、天井を見上げて声を低くして、ニヒルな雰囲気で語り始める被告人。
被告人「生い立ちが、まぁ、いろいろあって。人付き合いがうまくできないんです。もう……死ぬかドロボーやるかしかないと思って、東京に来ました」
デッド・オア・ドロボーという究極の二択を胸に、逮捕される覚悟を決めて東京に来たようです。
弁護人「平成5年が最初の逮捕で、この30年で前科10犯。今回が11回目の裁判になるんですけど、なぜ盗みを繰り返すんですか?」
被告人「人間の付き合いが苦手というのに加えて、パチンコに手を出しまして。人が怖くて働けなくて、悪いこと一本でやろうと決めたんです」
弁護人「盗む時のスリルを味わってるとか楽しんでるとかなんですか?」
被告人「いや、もともと家が貧しくて。それで物が無いので、盗んで気持ちを満たすというか。それで本格的なドロボーになってしまったんです」
幼少期は貧乏だったので、欲しい物は盗むのが当たり前だったそうです。
■盗みのターゲットとなった店の特徴
弁護人「今後はどうしますか?」
被告人「対人が苦手なんですけど、福祉の世話になってる間に、仕事を見つけて働きたいと思っています」
弁護人「もう盗みからは足を洗うんですか?」
被告人「はい。人が怖くて働く勇気も持てず、いままでは役所にも行けませんでした」
いまは就労意欲があるし、二度とドロボーはやらないと誓って、弁護人からの質問は終了です。続いて、検察官から。
検察官「他にも盗みをやってたという話ですが、どんな手口ですか?」
被告人「今回は、ポストに合鍵が入ってる店に絞りました」
検察官「それはなぜですか?」
被告人「私も歳を重ねて動きが遅くなってきてるので、ガラスを割って侵入するのはもうやれないなと思ってたので」
窓ガラスを割って侵入する場合、割れた時に音がするので盗むのも逃げるのも素早い動きが必須。現在52歳の被告人としては、20代にやってた方法はとても無理だと老いを自覚してるそうです。
検察官「ポストに入れてある店の合鍵を探してたんですか?」
被告人「消火器の下とか植木鉢の陰とか、私はドロボーですから、ポストとか無意識に見てしまうんですね」
肩書きがドロボーになってしまってる被告人。
■30年で詰め込んだドロボーの知識
検察官「合鍵を使って店内に入ったら、どこから探すんですか?」
被告人「私は必ずですね、レジスターからです。レジにお金が無かったら台所に行って、電子レンジのなかか、冷蔵庫のなかに売上金がありますから。美容室であれば、奥の部屋とかを探します」
長年ドロボーをやってきて、売上金のベタな隠し場所は把握してるようです。
検察官「さっき、弁護人の質問に東京は出発点だと答えてましたよね。
被告人「大阪刑務所に入ってる時から、盗みはもうやめようと思ってました。それで、出所後は九州でおとなしく暮らしてました。でも、お金がなくなって……。それで最後にやるなら東京で、と。どうせやるなら東京でという気持ちが消せなかったんです。東京で盗みをやるのは10年ぶりですよ。広島、大阪、京都ではやりましたけど。やっぱり、東京はリレー捜査があるんで避けてました」
リレー捜査は、東京だけじゃなく他県でもやってそうですけどね。被告人の話を聞いても、東京の何が出発点なのかさっぱり分かりませんが、最初に盗みをやったのが東京だったんでしょうか。
検察官「なんで人嫌いなんですか?」
被告人「親の都合で、私は小学校中学校を出ていません。そこに原因があるのかな、と」
義務教育は受けずに、独学でドロボーの知識をパンパンに詰め込んで30年生きてきた男性の話は、なかなか凄いものがありますね。
■ドロボーで貯めた金で買ったまさかのモノ
検察官「働いてお金を稼ごうとは思わないんですか?」
被告人「30年のドロボー生活でおかしくなってるんでしょう。
検察官「じゃあ今回出所した時に、生活保護を受給しようとは動かなかったんですか?」
被告人「20歳の時に免許証を落として勝手にお金借りられて、ブラックリストに載ってるんで、生活保護は受けられません」
何のブラックリストなんですかね。盗みしか生きる方法はないんだと、自分で自分を追い込んでるだけのような気もします。最後は裁判官から。
裁判官「出所が近付くと、出所調整っていうんでしたっけ? 社会に戻ってからどうする予定なのかって職員と話し合いがありますよね? 大阪刑務所では何考えました?」
被告人「いや、2年以上誰とも喋らず独居房にいて。調整してもらえませんでした」
裁判官「そうなんですか……。取り調べによると、大阪刑務所を出たあとは大分県にいたと。ここは実家ですか?」
被告人「いや、持ち家です。4年前に買いました」
裁判官「は? ……だって、お金は?」
被告人「盗んだお金です」
■裁判官も呆れて笑ってしまう
約30年間のドロボー生活で貯めたお金で、被告人は一軒家を購入してるんです。ドロボーだって長年続けていれば家が持てるんですね。世の中には想像を絶する生き方を選択した凄い人がいるもんだ。ちりも積もれば山となるということわざを、人生をもって証明した人です。
裁判官「えへへ……え~っと……」
呆れて笑顔がこぼれる裁判官。
裁判官「ま、家を買った経緯は一旦さておきですけど……。大分に住む家があったわけでしょ? なぜ東京に来たんですか?」
被告人「不思議な話をしますけど……呼ばれました。やるなら東京、捕まるなら東京、死ぬなら東京って」
全くの意味不明発言です。これを聞いた裁判官は、
裁判官「言いたいことは大体分かりました」
理解力があるところを見せて、被告人質問は全て終了です。結局、誰一人として、カラスの羽根については質問をしませんでしたね。リレー捜査は気にしてたくせに、目立つ格好をしてた理由は謎のまま。このあと、検察官は懲役5年を求刑。
■なぜか最後までカッコつけている被告人
裁判官「これで、この事件の審理を終えて次回判決ですが、最後に言いたいことはありますか?」
被告人「え~……7回目の盗みで広島の裁判所でしたけど、裁判官に『また刑務所行くのかな?』って言われました。その時は言い返せませんでした。その裁判官、ここにはいませんけど……やっと決意しました……と伝えたいです」
なんかカッコつけてるんですよね。今回の盗みを最後にする決意ができたと述べていました。これだけ盗みを繰り返してきた人でも、裁判官が投げかけた嫌味っぽい質問とか心に残ってるもんなんですね。
1週間後、判決が言い渡されました。
懲役3年4月
出所して半年で犯行を再開していて常習的であると指摘したうえで、罪を自白してるし再犯しないと約束しているので刑を短くした、というのが判決理由でした。
東京は捜査が厳重だと思っていた被告人にとって、上京したのは人生最後の挑戦だったのかもしれませんね。カラスの羽根は警察への挑発だったのか、逮捕してくれという被告人の無言のメッセージだったのか。出所したら大分県で真面目に生活すると誓ってましたけど、社会にいる時間がカラスの行水にならなければいいのですが。
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阿曽山 大噴火(あそざん・だいふんか)
裁判ウォッチャー
1974年生まれ、山形県出身。月曜日から金曜日の9~17時、東京地裁に通勤定期券で通う、裁判傍聴のプロ。1999年のオウム裁判傍聴以来1万件を超える裁判を傍聴。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラー、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。
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(裁判ウォッチャー 阿曽山 大噴火)

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