定年後の再雇用期間を満了し、住宅ローンも完済して肩の荷がすべて下りた。今後は夫婦2人でのんびり過ごそう。
そう一息ついた矢先、とっくの昔に独立した2人の娘のうち、45歳の長女に“異変”が発生。その影響で夫婦の健全な家計は一気にあやしいものに。家計再生コンサルタントでFPの横山光昭さんが出した救済案とは――。
■40代の独身娘が出戻りで家計が大混乱
和島孝宗さん(仮名・67歳・パート)が、専業主婦の妻・清美さん(仮名・67歳)と二人で家計相談に来られたのは約1年半前。
質素な生活を思わせる出で立ちで、深い溜息をついてこう打ち明けてくれました。
「現役時代は会社員として真面目に働き、節約に節約を重ね、教育ローンや奨学金に頼らず娘2人(長女・45歳、次女・42歳)を大学まで出しました。住宅は、千葉県内にマンションを購入し、退職金で住宅ローンも繰り上げ返済。払うものは全て払い終え、娘たちもとうに独立しているので、あとは悠々自適とまではいかなくとも、穏やかな老後を送れるのではないかと考えていました」(孝宗さん)
ところが、「人生には3つの坂」あり。上り坂、下り坂、そして、まさか……。
「独身でバリバリ働いていたはずの長女が突然『失業した』と言って、出戻ってきたんです。暗い表情で口数の少ない娘に、退職理由やいつまで実家に滞在するのかといったことを聞ける雰囲気ではない。もしかしたらパワハラに遭って精神的に限界なのかもしれないし、少しだけ実家で休ませよう。
また仕事が決まったら出ていくだろう。そう思って、何の取り決めもせず空いていた個室を整えて迎え入れてしまったのが運の尽き。一時的な滞在のはずが、3年以上も居座ってしまったんです」(同上)
■想定外の出費で家計に大打撃
突然の娘の出戻りで、老夫婦の生活は一変。それが顕著に表れているのが、家計です。
孝宗さんは年金に加え、週3回のパート収入が月8万円あり、合計26万円。妻はずっと主婦だったため国民年金による収入が月約7万円あります。夫婦合わせて収入は月33万円。趣味の山登りや旧友との会食などを楽しみながらも、老後の貯金を増やすべく、収支の差額(黒字)が月7万円以上出るように慎ましやかに暮らしていました。
しかし長女が戻ってきてから、食費は4万円、水道光熱費は1万円、日用品は2万円それぞれ増加し、トータルで7万円の支出増となったのです。その結果、2人だけで暮らしていた頃は収支の黒字は7万5000円あったのが、現在は5000円に。孝宗さんのパート収入8万円は丸ごと貯金に充てるはずが、生活費で全て消えてしまう事態に。
想定外の負担は、家計の数字だけではありません。

■出戻り長女が何もしないズボラさに両親閉口
「娘は気まぐれで食事に呼んでも来ないから、食事は親子バラバラで、洗い物の回数も増えます。娘の部屋の掃除、娘のこだわりの衣服の洗濯、布団干し、家事一つひとつの手間が2倍に増えました。“一時的なことだから”と気安く引き受けていたのが、まさか3年も続くとは。ズボラなところのある娘はもうすっかり甘えてしまって、自分のことすらやらなくなってしまいました」(清美さん)
お嬢さんは決してニートなわけではなく、就活の傍ら、スポットで入れる短期バイトにも励んでいるそう。
「でもね。短期バイトの収入は単発的だから、計画的に家にお金を入れるという発想がなくて、バイト代は全部自分の小遣いにしているんです。いっそ短期バイトじゃなくて、本腰を入れてくれないかと思うんですけど、『就活をするために、短期バイトをやっているの。急に面接に行くことになるとシフトを調整することになるから』の一点張り。
今思えば同居を始めるタイミングで、家にお金を入れるルールを決めればよかったんですよね。でも当時は、出戻りは一時的なハプニングで、すぐに就職先が見つかって出て行くと思っていたんですよ」(清美さん)
娘に気遣うあまり何も言えず、それが首を絞めていたというおふたり。一方、お嬢さんからすれば、慣れ親しんだ実家で雨風しのげてご飯はあって、家事もしてくれる。こんな桃源郷を手に入れたらもう出る気を失うのも仕方ないかもしれません。

■“ある習慣”が支出上限を青天井に
もうこれは腹を決めて、半永久的に同居することも視野に入れ「ルール決め」をしたほうがいい。私はそう考え、おふたりに以下の解決案を出してみました。
① 生活費を家に入れてもらう
お嬢さんも立派な成人。親子とはいえ、経済的な線引きは引くべきです。7万~8万円のバイト代から月数万円でもいいから家に入れるよう交渉してみては、と。
おふたりは少しためらいを見せながらも、後日、思い切って長女に切り出しました。
「あなたがうちに戻るのは構わないけれど、こちらも老後の貯金が少なくて、あまり余裕がないの。もしこの家で暮らすなら、少額でもいいからお金を入れてね。そして、今後は自分がほしい物は自分で買ってちょうだい。私たちも、趣味代を削るなりして家計維持の努力はしているから。痛み分けよ」
結果、波はありながらも、一応4万円は入れてもらえるようになったと、報告してくれました。
■「あれ食べたい」「これ飲みたい」無限クエスト
② 買い物前に声かけをしない
次に、娘の食品や日用品を“ついで買い”しないように、買い物前に声かけする習慣をやめてもらいました。

奥様は食費や日用品などの買い物に行く前に、「ほしいものある?」と聞いていました。リクエストされればつい甘えてしまうのが子供(じき50歳だというのに)。「あれ食べたい」「これ飲みたい」「こういうのを買っておいて」と無限にリクエストされ、予算が狂い、家計がなし崩しになっていたのです。
しかし私の提案を受け、娘に4万円を入れてもらった上で、こだわりのシャンプーなど自分が使いたいものは自分のバイト代から払ってもらうようになり、支出はどんどん減っていきました。食費は11万円から8万5000円へ、日用品費は3万5000円から1万円へと、2つの費目だけで5万円の削減です。入れてもらえるようになった生活費4万円を足すと、ようやく出戻り前頃の支出に戻ります。しかし、お嬢さんの収入には波があるため、毎月4万円を確実に入れてもらえるとは限らず、他も切り詰める必要があります。
そこで、親の被服費を0円にして、今あるものを着続けるなど、節約を徹底。交際費も、余裕がある時はお友達とランチに行ったり、旧友と会ったりしていたのを、予算1万円に設定して大体5000円くらいに収めています。昨今、ランチ代でも1人2000円超かかる店が多いので、飲食店に行けるのはお昼のみ、月1~2回。夜の会食は涙を飲んでお断り。趣味の登山も、「百名山」の制覇を目指していたところだったが、電車で行ける範囲の“安・近・低”の山にどめているとのこと。

そのようにして楽しみを削って削って、見事月11万5000円の黒字を残す家計になりました。目下、10万円をさらなる老後のためにNISAでつみたて投資をしています。
■将来の夢は「娘たちに頼らない老後」
少しくらい自分たちの楽しみに回しても良いのでは? と聞くと、おふたりは首を振って静かに話しました。
「自分たちが介護状態になったとき、娘たちをアテにしたくない。その一心で、楽しみを削って月10万円を貯めているんです。次女は家庭があり余裕はないでしょうし、長女に関しては今自分たちがのしかかかられて困っていますから(苦笑)。これまでは、独身の長女に寄りかかることも視野に入れていたんですけどね」
皮肉にも、出戻り娘が貯蓄のモチベーションになっているというのです。
貯蓄の内訳としては、すでに生活防衛資金と想定しうる突発的な支出に備えて預貯金700万円持っていたため、黒字額11万5000円のうち10万円を2人の強い意向で投資に回す方向に。
夫婦の年齢はともに67歳。この年からNISA? と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、長生きリスクに備えて80歳以降の生活費、要は資産寿命を延ばすことが目的です。
もちろんリスクは抑えます。「つみたて投資」枠で取り扱う商品自体基本的にリスクは低めですが、さらに、インデックス投資や全世界に分散投資する“比較的安全な商品”を多めに、少しだけ先進国や米国も入れたポートフォリオを組みました。

想定利回り3%で、月10万円の投資を10年続けることができれば、10年目には1394万円になっているでしょう。途中、孝宗さんが月6万円のパートを辞めたとしても、お嬢さんが実家にいて4万円前後を入れている限りは、1万円くらいは投資を続けることは可能です。
孝宗さんたちは出戻り娘との同居生活が続くことを覚悟しています。
「今できることは、パートを続けて、生活費を絞り、投資で種を植えていくこと。ここまでがんばるのも娘に頼らない老後を実現するため。この年で、こんな形で生活に張り合いが出るとは夢にも思っていませんでしたよ(苦笑)」

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横山 光昭(よこやま・みつあき)

家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表

お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万6000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は90万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は171冊、累計380万部となる。

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桜田 容子
ライター

明治学院大学法学部を卒業後、男性向け週刊誌、女性向け週刊誌などで取材執筆活動を続け、気付けばライター歴十数年目に突入。にもかかわらず、外見は全然ライターっぽく見られない。趣味はエアロビとロックンロールと花見など。

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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭、ライター 桜田 容子)
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