子どもの挑戦する姿勢や物事をやり抜く力はどうすれば育てられるのか。起業家教育を重視した小学生向けアフタースクールを運営する森博樹氏は「ちょっとした親の声かけで、子どもの『やり抜く力』が育つ」という――。

※本稿は、森博樹『親子ではじめる 10歳からの起業家教育 圧倒的な主体性を育む「5ステップ成長循環メソッド」』(学事出版)の一部を再編集したものです。
■すぐ諦める子と粘り強く挑戦する子の違い
「失敗を恐れず、何事にも挑戦できる子になってほしい」これは、すべてのお子さんを持つ保護者の方々の共通の願いではないでしょうか。しかし現実には、たった一度の失敗で「もうやりたくない」とそっぽを向いてしまったり、難しい課題を前にして「どうせ僕には才能がないから」と挑戦する前から諦めてしまったり……。
そんなお子さんの姿に、心を痛めたり、もどかしい思いをされたりした経験は、きっと少なくないはずです。では、すぐに諦めてしまう子と、粘り強く挑戦し続ける子の違いは、いったいどこにあるのでしょうか。
その鍵を握るのが、スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエック教授が提唱する「マインドセット」、すなわち物事の捉え方や考え方の“癖”です。この“心の状態としてのマインドセット”には、大きく分けて2つの種類があります。お子さんがどちらのマインドセットを備えているかで、困難に直面したときの反応、そしてその後の成長の可能性が大きく変わってくるのです。
■挑戦を避けがちな「硬直マインドセット」
一つは、「自分の能力や才能は、まるで石版に刻まれた文字のように、生まれつき決まっていて変わらない」と信じている「硬直マインドセット(Fixed Mindset)」です。このマインドセットを備えている子どもは、無意識のうちに「できる自分=価値がある」「できない自分=価値がない」という思考に陥りがちです。そのため、自分の能力が試される場面、特に失敗する可能性のある挑戦を極端に避けるようになります。
例えば、算数で初めて見る難しい問題が出てきたとき。
彼らの心の声はこうです。
「もしこの問題が解けなかったら、自分は算数ができないダメな子だと思われてしまう。恥ずかしい思いをするくらいなら、最初から『こんなの分からない』と言ってやらない方がマシだ」
体育で逆上がりに挑戦するときも同じです。
「あの子はすぐできたのに、自分はできない。やっぱり運動神経が悪いんだ。何度も失敗する姿をみんなに見られるのは、もう嫌だ」
彼らにとって、失敗は単なる「間違い」ではなく、自分自身の価値を揺るがす「証明」になってしまうのです。だからこそ、自分のプライドや価値を守るために、挑戦そのものから遠ざかってしまいます。
■トレーニング前提の「成長マインドセット」
もう一つは、「能力や才能は、トレーニングで鍛えられる筋肉のように、努力や経験次第でいくらでも伸ばすことができる」と信じている「成長マインドセット(Growth Mindset)」です。こちらのマインドセットを備えている子どもは、失敗に対する捉え方が全く異なります。
同じように、算数で難しい問題にぶつかったとき。彼らの心の声は、興奮に満ちています。
「うわ、この問題すごく難しい! でも、もし解けたら最高じゃないか? どこから手をつければいいかな。」
逆上がりに失敗したときも、下を向きません。

「悔しい! でも、さっきより少しだけ足が上がった気がする。上手な子は、どこに力を入れているんだろう? やり方をちょっと変えて、もう一回やってみよう!」
彼らにとって、失敗は自分の価値を証明するものではなく、目標を達成するための「貴重なヒント」や「攻略法」に変わります。難しい課題は、自分を試すものではなく、自分を成長させてくれる絶好のチャンスなのです。
■家庭でできる「やり抜く力」の育て方
「やり抜く力」とは、この「成長マインドセット」という豊かな土壌があって初めて、力強く育つものです。しかし、「『成長マインドセット』が大切なのは分かったけれど、毎日忙しい中で実践するのは難しそう……」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。頭では分かっていても、ついテストの結果に一喜一憂したり、子どもが失敗すると感情的に叱ってしまったり……。それは、子どもの未来を真剣に思うからこその、自然な反応です。
「やり抜く力」と聞くと、何か特別なトレーニングが必要なのでは……と、身構えてしまうかもしれません。でも、大丈夫です。お子さんのその大切な力を育むのに、高価な教材や難しい理論は必要ありません。
実は、ご家庭での日々の何気ない「声かけ」をほんの少し意識して変えるだけで、お子さんの心の中にある「成長マインドセット」という豊かな土壌は、驚くほど着実に耕されていくのです。ここでは、今日からすぐに実践できる3つの「声かけ事例」をご紹介します。

■事例① 結果ではなく「プロセス」を見る声かけ
子どもを褒めることは、自己肯定感を育む上で非常に大切です。しかし、その「褒め方」が、どちらのマインドセットを育てるかを大きく左右します。
つい言ってしまいがちな声かけ(結果承認)

● テストで100点をとった時:「100点なんてすごい! やっぱり頭がいいのね!」

● かけっこで1位になった時:「1番なんて、さすが! 運動神経がいいんだね!」
やり抜く力を育む声かけ(プロセス承認)

● テストで100点をとった時:「難しい問題もあったのに、最後まで諦めずに考え抜いた集中力がすごいね!」

● かけっこで1位になった時:「毎日練習を頑張っていたもんね。あの努力が実を結んだんだね!」

「結果承認」の声かけは、「良い結果を出せる自分=価値がある」というメッセージを子どもに与え、失敗を恐れる「硬直マインドセット」に繋がりやすくなります。
一方で「プロセス承認」は、「結果がどうであれ、努力し続ける自分は素晴らしい」というメッセージになります。これにより、子どもは努力そのものに価値を見出し、失敗を恐れずに挑戦し続ける「成長マインドセット」を育むことができるのです。
■事例② 失敗を恐れなくなる声かけ
挑戦に失敗はつきものです。そのとき、保護者が失敗をどう捉えるかは、子どもの次の挑戦への意欲を大きく左右します。
つい言ってしまいがちな声かけ

● 計算を間違えた時:「なんでこんな簡単なこともできないの!」

● 工作がうまくいかなかった時:「あーあ、またぐちゃぐちゃにして……」
やり抜く力を育む声かけ

● 計算を間違えた時:「ちょっと難しかったかな。でもおかげで、どこで勘違いしやすいか分かったね。次はどうすればクリアできそう?」

● 工作がうまくいかなかった時:「うまくいかなかったかね。でも、色々な方法を試したこと自体が素晴らしいよ。
ここから何を学べたかな?」

保護者の方が完璧を求めすぎると、子どもは失敗を過度に恐れるようになります。大切なのは、「失敗=成長のチャンス」というメッセージを伝え続けること。失敗の中から学びを見つけ出す楽しさを教えることが、子どもの挑戦する心を育みます。
■事例③ 「伴走者」として関わる
子どもが「分からない」「できない」と助けを求めてきたとき、すぐに答えを教えたくなるのが親心かもしれません。しかし、そこをぐっとこらえて見守ることが、子どもの思考力と解決力を育みます。
ついやってしまいがちな関わり

● お子さん:「この問題、分からない!」

● 保護者:「ああ、それはね、この公式を使えば一発だよ」
やり抜く力を育む関わり

● お子さん:「この問題、分からない!」

● 保護者:「そうか、難しい問題なんだね。今までどんな方法を試してみたの? 他にどんなやり方がありそうかな?」

すぐに答えを与えるのではなく、子ども自身が考え、解決しようとする試行錯誤のプロセスそのものを「色々な方法を試していて、すごいね!」と承認してあげてください。自分で考え抜き、答えにたどり着いた経験は、何事にも代えがたい自信と「努力の価値」を子どもに教えてくれるはずです。
「やってみたい!」という内発的動機が、最初の一歩を踏み出すきっかけとなり、「自分で決めた」という自己決定力が、その歩みを「自分ごと」として力強いものにし、そして「諦めない」というやり抜く力が、困難な道でも歩み続けるための支えとなります。
この3つの力が相互作用して一つのサイクルとして回り始めたとき、お子さんの中には、生涯にわたって自分を信じ、未来を切り拓いていく「本当の主体性」が育まれていくのです。

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森 博樹(もり・ひろき)

子供教育創造機構 代表理事/共創機構 代表取締役

大学卒業後、NTTにてキャリアグレードのオペレーションシステム研究開発や光戦略会社の立ち上げに携わり、新規事業開発を10年以上推進。テクノロジーの進化を肌で感じるなか、変化に対応できる人材育成の重要性を痛感し、子供教育創造機構を設立。
小学生向けアフタースクール「キンダリーインターナショナル」を10年以上経営しながら、全国高校生起業家教育事業や教育カリキュラム改訂にも参画。2025年1月には文部科学省より「アントレプレナーシップ推進大使」を拝命し、10歳からの起業家教育普及に注力。大手商社、製造、食品、金融、SIer等、多様な業種での新規事業開発支援を手がける。

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(子供教育創造機構 代表理事/共創機構 代表取締役 森 博樹)
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