近年、コオロギクッキーなどの昆虫食は身近になったものの、美味しくないと言われがちだ。しかし、NPO法人食用昆虫科学研究会の理事である吉田誠さんは「じつはオーストラリアの荒野に、非常に美味しいスイーツのような虫が存在する」という――。

※本稿は、吉田誠『世界の虫を食べてみたい 幻の「ミツツボアリ」と「素数ゼミ」を追い求めて』(緑書房)の一部を再編集したものです。
■漫画『美味しんぼ』で取り上げられた虫
「昆虫はだいたい、そこまで美味しくない」
様々な昆虫を食べてきた私の、率直な感想である。タイワンタガメや一部のヘリカメムシの香り、ヤシオオオサゾウムシのジューシーさなど、特筆すべき美味しさを持った昆虫は存在するが、「また食べたい」と思わせる昆虫は、正直それほど多くはなかった。「二度と食べたくない」と思った昆虫もしばしばある。
そんな中、見た目からして「美味しいに違いない!」と感じさせてくれる昆虫がいた。それがミツツボアリだ。ミツツボアリは北アメリカやオーストラリアの乾燥地帯などに生息するアリ。群れの中の働きアリとは別に、タンク役となるアリがいるのが他のアリとは違う点だ。体の中に貯めた蜜は、群れの保存食とされる。オーストラリアの先住民族アボリジニは、このミツツボアリをおやつとして食べてきたという。TV番組「クレイジージャーニー」や、グルメ漫画『美味しんぼ』でも取り上げられたことがあり、その味わいは「天然の極上スイーツ」との噂がある。
しかし、日本では限りなく入手が難しいのだ。
昆虫食愛好家の中でも、食べた話をほとんど聞かない、超レア食材。日本ではごく一部の愛好家が北米産のミツツボアリを飼育しているようだが、食材として入手して食べるのはまず不可能だろう。
■SNSで出会った人とミツツボアリツアー
「ミツツボアリを食べられる場所、ありましたよ。電話したら2名からツアー申し込み可能。ただし、10月中旬までしかやっていないって」
8月末、昆虫に詳しい高橋氏から連絡が入った。
話は約1年ほど前にさかのぼる。高橋氏とは、音声SNSのClubhouseで出会った。コロナ禍に一瞬流行り、急速にユーザーが離れてしまったSNSではあるが、コロナ禍の暇な時期に生き物のトークルームで暇潰しをしていたのだ。その中で、動物園関係者を名乗る人物から、怪しいメッセージが届いた。
「僕も昆虫好きなんです、ご飯行きませんか?」
宗教勧誘で、壺でも売りつけられるのか。疑心暗鬼になりながら、暇潰しで誘いに乗ってみた。実際に会ってみると、この高橋氏、ロンドン大学出身で自然科学を専攻しており、頭のネジが吹っ飛んだタイプの(褒めている)昆虫愛好家の方であった。
すぐに意気投合し、この会食の10カ月後には、オーストラリアの荒野へミツツボアリを食べに行くことになった。高橋氏の常日頃の情報網の広さ、そして海外だろうが気にせず電話して、アポイントを取る行動力には脱帽である。一方こちらは、商社勤めのサラリーマンかつ、限界旅行界隈の民となっていた(※1)。そして陸マイラーでもある(※2)。すぐさま渡航ルート策定と休暇計画を練る作業に入った。

※1 異常な渡航ルートや宿泊計画、渡航目的で旅行する人々。体力と気力と狂った精神が求められる。

※2 本来は飛行機渡航で貯めるはずのJALやANAといった航空会社のマイルを、飛行機に乗らずにひたすら貯める人々のこと。クレジットカードやポイント情報にやたらと詳しい。航空会社の上級クラスを入手するために無意味な渡航を行う修行僧もいる。昆虫とは関係がないが、お得情報に目がくらんで色々失っている界隈なので興味がある人はぜひ沼にハマってほしい。
■西オーストラリア州のカルグーリーへ
ミツツボアリが食べられるという場所は、オーストラリアの西オーストラリア州の都市、カルグーリーとのこと。

調べてみるとオーストラリアの乾燥地帯にある都市で、かつては金が採れたことから栄えたが、初期の鉱山は掘り尽くされて現在はゴーストタウン化したような街とある。ただ、最近でも金や他の鉱物が採掘されているようなので、廃墟というわけではなさそうだ。空港もあり、ホテルもある。これは行ける! と確信した。
そうと決まれば話は早い。渡航日程が組みやすい三連休周辺の日程を確認して、航空券を探し、突撃するだけである。スカイスキャナー、エクスペディア、ブッキングドットコムを見ながら、安く・短時間で辿り着ける日程を探す作業に入った。カルグーリーはオーストラリアの西部の内陸部寄りに位置しており、西オーストラリア州の州都パースから一日数便が出ている。要はパースまで辿り着けば、あとは国内線一本でカルグーリーなる都市に着けるわけである。
どうやらパースからカルグーリーまでは長距離バスも出ているようで、バス旅も可能だ。バス旅やレンタカー旅も楽しそうであるが、サラリーマンの休日は貴重である。時間を優先して飛行機での移動を検討した。

■ときに空振りすることもある昆虫食渡航
パースまで行く方法はいくつかあり、2023年11月以降は東京からパースへの直行便が出るようだったが、ミツツボアリは乾燥地帯にいて、10月後半以降は暑すぎて採集ができない。南半球の11月以降は猛暑になるので、10月までがタイムリミットだろう。
最終的に会社の休みや渡航時間を考えて、羽田空港(国際・夜行便)→シドニー(入国・通関)→パース(国内線)→カルグーリー、というカンタス航空を利用する渡航ルートを手配した。深夜に羽田空港を出発して、翌日夜にカルグーリーまで一気に渡航するルートである。航空券だけで27万円弱ほどで、ツアー代金とホテル代金を含めると35万円ほどになった。
海外への昆虫食渡航では、目的地に辿り着いても、必ずしもお目当ての昆虫が食べられるかはわからない。タイ山岳地帯のカメムシには、2回(2018年、2022年)も空振りを食らっている。とはいえ、今回は比較的不確定要素が少ない先進国のオーストラリアである。少し気が楽であった。
■「間に合わない」と絶望感に包まれたが
出発の夜が来た。期待に胸を膨らませ、シドニー行きの飛行機の出発を待つ。しかし、羽田空港のカンタス航空便がなかなか出ない。
機内での待ち時間を含めて90分ほどの待機の末、シドニーに旅立った。シドニーでの乗り継ぎ時間は3時間弱であり、少々乗り継ぎが不安ではあるが、まあ気にしても仕方がない。映画を観つつ、睡眠を取りつつ、シドニーまでの10時間ものフライトの暇を潰していた。
飛んでしまえばこっちのもの! と思っていたが、シドニー国際空港へ着陸すると「駐機場がいっぱいで乗客を降ろせない」との機内アナウンスが入る。到着したが空港の建物にすら入れないとは予想外である……。30分程度でようやく駐機場に入るも、乗り継ぎがギリギリなのだ。入国審査、税関を抜けなければならない。ところがどちらも長蛇の列。「これは間に合わない」と絶望に包まれた。
しかし人間、諦めてしまえば気は楽である。遅刻しそうなときは焦りで心臓が破裂しそうだが、遅刻が確定するとおおらかな気持ちになれる。 パース行きの便の出発時刻頃にようやく税関を抜け、カンタス航空カウンターに行った。
飛んでしまった航空便のチケットを片手に後続便でパース、カルグーリーへ行きたい旨を交渉する。残念ながら、当日中にはカルグーリーに到着できないことがわかったが、夜までにパースに辿り着くことができれば、翌朝に早朝便でカルグーリーに到着&ツアー参加できそうである。
■シドニーからパースへの飛行機も遅れて
ツアーガイドとは高橋氏が早々に調整を終えて、参加も問題なさそうだ。カンタス航空、飛行機は遅れるが地上のサービスは悪くない。振替便(※しっかり飛ぶとは言ってない)への手続きが完了し、シドニーで7、8時間ほどの暇が予想外にできてしまった。シドニーはオセアニア最大の都市だ。せっかくなので、ミツツボアリの前に、街を見て回ろうではないか……ということでシドニー市街へ出向き、市場などをぶらつき、約半日の観光を楽しんだ。
その後、シドニーからパースへのフライトは遅れに遅れ、最終的には7時間ほど遅れた。パースで確保したホテルでは90分ほどしか寝られず、極度の睡眠不足のまま、カルグーリーへ向かうこととなった。もう、何でもいい。カルグーリーに辿り着ければそれでいいのだ……。
眠気と戦いながら、カルグーリーへのフライトを空港で待っていると、なにやら蛍光色が入った作業着を着た乗客が多い。調べると、カルグーリーは鉱山労働者の街。パースに住み、鉱山に通う人が多いとのこと。この街は過去のゴールドラッシュ後、中心部の鉱山は掘り尽くされてしまい当時ほどの勢いはないものの、今でも金や銅、リチウムなどの鉱物が採掘できる鉱山があちこちにある。カルグーリーは、その鉱山の拠点の街なのだ。
■鉱山労働者の多いカルグーリーに到着
街の観光サイトを見てみると、ゴールドラッシュ時代の建物や、現役の鉱山を訪れるツアーがある。なお「Goldfields Honey Ant Tours」が、ミツツボアリを食べられるツアーの名称だ。直訳すると「金が採れる地区でのミツツボアリツアー」となるが、鉱山近くにミツツボアリがいるのだろうか。
幸運にも、パースからカルグーリーへ向かう早朝便は時間通り飛んでくれた。2便連続で遅延に巻き込まれて酷い目に遭っていたので、拍子抜けである。早朝便でカルグーリー空港に着くと、鉱山労働者だらけだった。鉱山労働者はHI‐VIS(High-visibility 訳:視認性が高い)という蛍光色が入った作業着を着ることを法律で義務づけられているようで、皆がかなり目立つ作業着を着ていた。
ガイドとの合流まで数時間あるので、空港で時間を潰していた。すると、席が少なかったためか、一人の労働者が「相席良いか?」と我々のテーブルへとやってきた。クッキーをゲータレード(アメリカの有名なスポーツドリンク。日本では2015年に生産終了した)で流し込みながら話を聞いていると、どうやらこの労働者はリチウム鉱山で働く人であった。「リチウムイオン電池需要で稼働率高いんだろうな」なんて思いながら我々がカルグーリーに来た目的を話すと、この方、ミツツボアリを食べたことがあるとのこと。
■SUV車で現れたアボリジニの女性ガイド
我々は、ミツツボアリに「なかなか食べられないレアな虫」というイメージを持っていた。ところが、たまたま話した一人の鉱山労働者が、食べたことがあるという。
「これならきっと、我々も食べられるぞ!」
少し安心するのであった。フライトの遅れはあったが、これは幸先がいい。
数時間暇を潰した後は、ガイドと合流である。ゴツいSUV車で現れたのは、ガイドであるアボリジニの中年女性だ。ミツツボアリのポイントまで、自動車で連れて行ってくれるようだ。
飲み物補給がてらスーパーに寄った後、車が街を出るとひたすら荒野が続く。時折鉱山らしい礫場 があるが、その他はまだらに低木が生えている荒れ地であった。乾燥地帯のラトソル(鉄やアルミニウムの酸化物・水酸化物を多く含む土壌)ということで、かなり土の栄養が貧相な印象を受ける。このような場所にどんな生き物がいるのか想像がつかない。
そして同じような景色がひたすら続くので、眠くなっていく。睡眠時間90分で辿り着いたので眠気に勝てずウトウトとしながら車に揺られていると、乾燥地帯のど真ん中で叩き起こされた。ブッシュタッカー(※3)の講義が始まった。アボリジニが利用する植物を案内してもらったが、筆者は話そっちのけで転がっている牛の糞をひっくり返して昆虫を探したりしていた。ちなみにそこでは、ゴキブリだけ見つかった。
※3 オーストラリアの先住民族であるアボリジニが伝統的に利用する動植物のこと。
■いよいよミツツボアリ堀りがスタート
さらに車を走らせること数十分(爆睡につき正確な時間は覚えていない)、いよいよミツツボアリ探索と昼食のポイントについたようだ。細長いスコップ状のものが手渡され、ミツツボアリ掘り開始である。
ミツツボアリはMulgaと呼ばれるアカシアの仲間(Acacia aneura)の木を好む。だからその近くの巣穴を探せばよいとのことだが、それらしき巣穴が全くわからない……。そもそも私には、Mulgaがどれか判別できない。探り探りで周りを見ていると、大声で呼ばれた。どうやら巣穴を見つけたようだ。急いで駆けつけると、ガイドがもう掘り始めていた。ミツツボアリはどれくらいの深さにいるかわからないが、作業を見たところ50cm程度の深さまでは掘らないといけないようだ。ゲストは黙って見てろと言わんばかりに、ガイドが掘り進めていく。
後になってわかったが、タンク役のミツツボアリは繊細なので、掘った衝撃で潰れやすい。だから、ガイドが丁寧に掘り進めるのに任せて見学していたのは、正解だったのだ。掘り進めていくと、セミの幼虫が出てきた。カラッカラに乾いた大地で生き物が見つかるのは少し驚きだ。ハエは無限に襲いかかって来るが、それ以外の生き物の気配がしなかったのである。せっかく掘り当てたセミの幼虫だが、今回のお目当てはミツツボアリである。普段は夏の公園でアブラゼミの幼虫を回収し、時折埼玉県の外来セミを集める私だが、今回はお目当ての昆虫を優先し、セミの幼虫は放置することにした。
■「私も食べたかったのにーーー!!!」
ガイドは時折出てくるセミの幼虫を気にせず、せっせと掘り進めていく。軽く汗ばむ日差しの中、ミツツボアリが掘り出されるのを待っていた。ハエが口や目の周りに来て鬱陶しい。乾燥地であるが、どうやら牛が放牧されているらしい。あちらこちらに牛の糞が落ちていた。掘り始めて30分ほど。ついに、アリが出てきた。ミツツボアリの、働きアリだ!
お腹に2本線が入った特徴的な模様、これぞミツツボアリである。タンク役ではないものの、初めて見るミツツボアリは感動的だった。あとはタンク役のミツツボアリを見つけられれば、オーストラリアまで来た目的の達成である。
さらに掘り進めること10分ほど、ようやくタンク役のミツツボアリが見つかった。ところがガイドが潰してしまったようで、そのままヒョイパク。私も食べたかったのにーーー!!!
でも、巣の中にはたくさんのタンク役のミツツボアリがいるはずだ。ガイドが続けて丁寧に掘っていくと、ついに無傷のタンク役アリがお目見えした。コロッとした体型に琥珀のような輝き。夢にまで見た、ミツツボアリであった。
■甘く芳醇で酸味がなく今までで一番美味
早速口に入れてみると、甘く芳醇な香りの気配がする。ちなみに食べるのは腹部だけ。頭や胸は、食べない。予想通り甘く、ギ酸の酸っぱさがない。これは美味しい。今まで食べた昆虫のなかでも、ダントツの美味しさだ。まさにオーストラリアの荒野における、唯一無二のスイーツである。最初に食べたミツツボアリは茶色っぽい個体だったが、中には白っぽい個体もいた。
「色が茶色いものは甘くてメープルシロップのような芳醇さがあるが、白いものは甘くない」
ガイドはこんな説明をしていた。試しに白いものを食べてみると、酸っぱさが混じるではないか。なんとミツツボアリは、色によって味が変わるのだ! アリ専門店「Ant Room」さんのブログによると、北米産のミツツボアリのタンク役は、成虫になりたての柔らかい状態のアリに蜜を詰め込みまくってお腹を膨らますと説明があった。ここオーストラリアのミツツボアリも、同じなのだろうか。若くて白っぽい個体がギ酸を含んでいて、成虫になって時間が経ち茶色くなった個体からは、ギ酸が抜けていくのだろうか?
「ミツツボアリの個体差による味の違い」という予想外の事象に出くわしたが、とりあえず目的のミツツボアリを得ることができ、大満足であった。

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吉田 誠(よしだ・まこと)

食用昆虫科学研究会 理事

1990年、滋賀県米原市(旧伊吹町)生まれ。東京大学農学部国際開発農学専修卒、東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻修士課程修了。商社で会社員として働く傍ら、NPO 法人食用昆虫科学研究会の理事として食用昆虫の情報収集・発信に取り組む。趣味は、きのこ狩りと釣り、ダイビング、そしてガジェット収集。2023年には、東京都ふぐ取扱責任者免許を取得。2025 年にトビイロスズメ販売・輸入等を行う株式会社環虫社を設立。

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(食用昆虫科学研究会 理事 吉田 誠)
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