※本稿は、枡野俊明『疲れない心をつくる休息の作法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■シニア世代は元気、現役世代はへとへと
いま日本人の多くが、
自分で思っている以上に疲れています。
「疲れがたまる一方だ」
「なんだか体がダルい」
「休んだはずなのに、疲れが取れない」
「少し働いただけで、心も体もぐったり」
こんなふうに、「疲れる」にからむ言葉が口グセのようになっていませんか?
仕事が忙しかったり、人間関係が複雑だったり、四六時中スマホを見ていたり。原因はさまざまかと思いますが、現代人の多くが、体よりも頭、もしくは心に過度の「疲れ」を感じているようにお見受けします。
実際、「日本の疲労状況2024」(日本リカバリー協会)という全国10万人を対象にした調査によると、日本人全体で約8割もの人が「疲れている」そうです。
なかでも深刻なのは、「現役世代の疲労」。「元気な人」の割合が、シニア世代は30~40%程度なのに対して、20代は13.8%、30代で12.6%と、かなり低めの数値になっています。
やはり、仕事のストレスから疲れが生じ、元気が奪われているのでしょう。
■疲れをためこむと“しっぺ返し”を食らう
ただ、気になることが一つあります。
同調査で「疲れている」と答えた人が、「どのくらいの頻度で疲れを感じているのか」を見てみると、低頻度と高頻度がほぼ半々だったということです。
では、「低頻度」と答えた人は、本当に「たまに」しか疲れを感じていないのでしょうか。
私の印象ですが、「疲れを自覚していない」、もしくは「疲れているというほどではない」と自己判断して、「そんなにしょっちゅう疲れてはいない」と答えた人が、相当数含まれているように思います。
というのも、日本人の国民性というべきか、実際にはかなり疲れているにもかかわらず、「まだ大丈夫」と、がんばり続けることをよしとする風潮があるからです。
ですが、疲れを軽視してはいけません。「時間が解決してくれる」「根性で乗り切れる」などとたかをくくっていると、必ず“しっぺ返し”を食らうことになります。
「少水常流如穿石(しょうすいつねにながれて いしをうがつがごとし)」
という禅語があります。
「わずかな水の流れであっても、絶え間なく流れ続ければ、やがては硬い石をも貫く」という教えです。
地道な努力や継続の重要性を説くすばらしい禅語ですが、裏を返せば、
「小さな悪事や過ちも、積み重なれば大きな災いになる」
ということでもあります。
「疲労」に関していえば、自分では「ちょっと疲れたな」と感じる程度でも、それが蓄積されることで、いずれ深刻な体調不良や病気の発症につながっても不思議ではないのです。
だからこそ、疲れを見くびらないこと――。「休息の作法」を身につけて、こまめに疲労を解消していくことが大切です。
■こんな“疲労のサイン”を見逃さない
一口に「こまめに」といっても、人によって疲れのたまり具合は違います。
それだけに、「休むタイミング」をはかるのは、なかなか難しいでしょう。
そこで、「休むタイミング」を逃さないためのいい方法をご紹介しましょう。
それは、毎朝のルーティーンのなかから、
「疲れのバロメーター」
となるものを持つことです。
じつは禅僧には、毎朝のルーティーンがあります。何時に起きて、何時にお経をあげて、何時に朝食をいただいて……というふうに、やることが決まっているのです。
「変化に乏しい生活」のように思われるかもしれませんが、だからこそ、自分の体調や気分のちょっとした変化に気づくことができます。
たとえば私の場合、お勤めのときに「声の出具合」をチェックするのですが、いつもよりも声がかすれていると感じることがあります。そんなときは、「ちょっと疲れているな」と思い、意識的に休息の時間を増やすなどの工夫をしています。
あるソムリエの方は、「疲れてくると、味覚の感度が少し落ちる」とおっしゃっていました。
彼がバロメーターにしているのは、「朝食べる梅干し」です。
しっかり「すっぱさ」を感じるようであれば、体調は「いつも通り」で問題なし。
逆に「いま一つ、すっぱくないな」というときは、疲れで味覚の感度が鈍っているから「休んだほうがいい」と判断するそうです。
■“少しの休息”を惜しむべからず
「疲れのバロメーター」になりえるものは、ほかにもたくさんあります。
朝からあくびが止まらない。
体の節々にわずかな痛みを感じる。
会社に向かう足取りが重い。
いつもより身支度に時間がかかる。
……など。
「昨日今日不同(さくじつこんにちとおなじからず)」
という禅語が示すように、人生に“同じ日”は一日とてありません。
「規則正しい暮らし」を日々心がけているからこそ、こうした些細な心身の違和感を感じ取ることができるのです。
そのうえで大事なのは、
「疲れを少しでも察知したら、その日は可能な限りがんばりすぎない」
ようにすることです。
スケジュールが許すなら、少し早めに仕事を切り上げる、短い時間でもいいからリラックスして過ごす時間を持つ、ふだんより少し早く布団に入るなど、心身が休まる工夫をするといいでしょう。
この“少しの休息”を惜しむと、疲れがたまります。放置していると、最悪の場合、長期間の療養を余儀なくされることだってあるでしょう。だからこそ、
「“疲労感度”を上げて、へとへとに疲れる前に早めに休む」
こと。
それを「休息の作法」として心得ることが、人生を快適なものにすることにつながるのです。
■日本の「有給取得率」は世界ワースト
まず、休むことへの
「罪悪感」を手放しましょう。
「働き方改革」のおかげもあってか、いまは会社のほうから「きちんと有給休暇を取りなさい」と指導することが増えてきたようです。
それでも、世界で比較すると、残念ながら日本の有給休暇取得率はかなり低いのが現実。エクスペディアというオンライン旅行会社が毎年行なっている「有給休暇の取得調査」によると、日本は世界11カ国・地域のなかで最下位だそうです。
具体的には、「2023年の日本の有給休暇日数は平均19日間で、取得率は63%」という数字が出ています。
これを見て、「思ったよりは低くないな」と感じる方も、いらっしゃるかもしれませんね。
しかし、世界一位の香港は取得率108%と、取得率が支給日数を上回っていますし、続くフランスは94%、ドイツとイギリスは93%と、低い国でも軽く80%を超えています。
そうした世界の各国と比べれば、日本の有給休暇取得率は、比較にならないほど低いといっていいでしょう。
ただふしぎなことに、日本人はそれほど有給休暇の取得率が低いにもかかわらず、「休みが少ない」と感じている人が意外と少ないようです。
調査結果を見ると、日本は休み不足を「感じていない」と回答した人の割合が47%で、なんと世界トップ。
この結果からも、前項でお話しした「疲労感度が鈍い日本人」の姿が浮かび上がってくるようです。
■「心の重荷」をこんなふうに手放してみる
この問題を解決するには、「疲労感度を高める」ことはもちろん、有給休暇に対する意識を根本的に変える必要があると、私は思います。
日本人の多くは、「自分が休むと、同僚に迷惑がかかる」といった思いから、有給休暇の取得をためらう傾向があります。また、「緊急時のために取っておこう」と考え、有給休暇を温存する人も少なくないようです。
こうした考え方は日本人の“美徳”ともいえますが、その結果十分な休息を取ることができず、仕事のパフォーマンスを下げてしまうようでは、本末転倒でしょう。
「下載清風」という禅語があります。
荷物をいっぱいに載せて進んでいた船が、港ですべての荷物を降ろし、軽やかになって風を受けながら出港していく―そんな様子を表した言葉です。
仕事に限らず、私たちはついつい、必要以上にいろいろなことを抱えこんでしまいがちです。
そうした「重荷」を手放し、心身をリセットする時間を持つことができれば、心に清々しい風が吹いて、気持ちが軽やかになります。
さすれば、新たな活力がわき、仕事のパフォーマンスもぐっと高まることでしょう。
この禅語を深く心に刻めば、休暇を取ることへの罪悪感も、自ずと消えていくはずです。
■休みを取るときは「お互いさま」の精神で
もちろん、「そうはいっても、やはり仕事のことが気がかり……」と感じる人もいるでしょう。休むことで仕事が滞ってしまえば、「休み明けの自分」が大変な思いをする可能性が高いからです。
そうした場合は、部署やチームのみんなで話し合い、誰かが休んだときに備えて、「サポート体制」を整えておくというのはどうでしょうか。
各自、自分が取り組んでいる仕事を可能な範囲でオープンにし、「自分が休んだときは、この仕事、あなたにお願いするね」というふうに“ピンチヒッター”を指名しておくのです。
休みを取るときは、お互いさま。こんなふうに、みんなで融通し合う体制を整えておけば、仕事を抱えこんだり、疲労をためこむことは避けられます。
みなさんも経験があるかと思いますが、人は疲れがたまると、些細なことでイライラしてしまったり、やたら他人に厳しく当たってしまったりするものです。
そうした人が一人でも職場にいると、重苦しい空気が立ちこめ、周囲の人たちにも悪影響を及ぼしかねません。
自分がそんな「不機嫌な人」にならないためにも、上手に休暇を取得し、定期的に心身をリフレッシュさせることは、とても大事。
チームの「和」を乱さないよう心を配ることも、「休息の作法」のうちなのです。
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枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー
1953年、神奈川県横浜市生まれ。禅僧、庭園デザイナー、教育者、文筆家。曹洞宗徳雄山建功寺住職。多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺にて修行。以降、禅の教えと日本の伝統文化を融合させた「禅の庭」の創作を続け、国内外で数多くの作品を手がけている。芸術選奨文部大臣賞(1998年度)を庭園デザイナーとして初受賞。カナダ総督褒章(2005年)、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章(2006年)なども受賞している。2006年、『ニューズウィーク(日本版)』にて「世界が尊敬する日本人100人」に選出。主な作品はカナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル庭園「閑坐庭」、ベルリン日本庭園「融水苑」など多数。2024年には最新作品集『禅の庭IV 枡野俊明作品集2018~2023』(毎日新聞出版)を刊行。禅の精神と現代人の悩みをつなぐ語り口に、世代を問わず共感の声が寄せられている。教育の現場では、長年にわたり多摩美術大学で後進の指導にあたり、2023年、名誉教授の称号を受ける。
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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)

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